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【最終章突入】職業「勇者」って言われたのですが、一緒に転移した同級生いわく違うらしい ~正しい職業を知りたい今日この頃~  作者: 有馬 茶
最終部 ~灯の帰る場所~

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第86話「それぞれの選択」

裁判の、翌日。

エレオノーラさんが、志賀を、呼んだ。


王城の、東の、庭。

アルベルト殿下が、子供の頃に、植えたという、一本の、樫の木の、下。


僕も、そこに、いた。

エレオノーラさんが、「立ち会ってくださいまし」と、言ったから。


志賀は。

樫の木の、前で。

膝を、ついていた。


「――志賀拓真」


エレオノーラさんが、言った。


「――北の、砦で、申し上げましたわね。

あなたへの、裁きは、戦が、終わってから、と」


「――……はい」


「――戦は、終わりました」


エレオノーラさんは。

樫の木を、見上げた。


「――兄上は、この木の、下で、よく、本を、読んでおられました。

わたくしは、その、隣で、木剣を、振っていた。

……兄上は、いつも、言っておられた。

『裁きとは、罰を、与えることではない。

その者が、どう、生きるべきかを、示すことだ』と」


エレオノーラさんは。

志賀に、向き直った。


「――裁きを、言い渡します」


志賀が、顔を、上げた。


「――元の、世界へ、帰りなさい」


志賀の、目が。

見開かれた。


「――そして。

白峰様の、隣で。

まっとうに、生きなさい。

誰かを、見下さず。

誰かを、踏み台に、せず。

……隣に、立つ者として」


エレオノーラさんは、続けた。


「――それが、わたくしの、裁きです。

一生、かけて、果たしなさい」


志賀は。

何か、言おうとして。

言えなかった。


ただ。

地面に、額を、押しつけた。


「――……はい」


声が、震えていた。


「――……一生、かけて」


エレオノーラさんは。

小さく、微笑んだ。


「――それと」


エレオノーラさんは、僕を、ちらりと、見た。


「――白峰様が、もし、帰らないと、おっしゃっても。

あなたは、帰りなさい。

……白峰様の、隣は、向こうの、世界にも、ありますもの」


志賀が。

顔を、上げて。

僕を、見た。


僕は。

何も、言えなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日から。

僕は、一人ずつ、話を、聞いて、回った。


合宿の、前に、ゼミ長として、やっていた、ことと、同じ。

一人ずつ。

時間を、取って。


「――面談、ですかな」


古賀くんが、笑った。


「――うん。

面談」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最初は。

花菱さんだった。


王城の、客間の、窓辺で。

花菱さんは、ルーカスさんと、並んで、座っていた。


「――……莉愛、残る」


花菱さんは。

僕が、何か、聞く、前に、言った。


「――ルーカス様が、ね。

昨日の、夜。

言ってくれたの」


花菱さんは。

左手の、薬指を、見せた。


指輪は、なかった。

代わりに。

細い、薔薇の、茎が、一本、巻きつけてあった。


「――『指輪を、買う、お金は、侯爵家と一緒に、なくなってしまった。

だから、これで、許してほしい。

……君が、教えてくれた、薔薇の、名前を、全部、覚えている、僕と。

結婚してくれないか』って」


花菱さんの、目から。

涙が、こぼれた。


「――莉愛、最初は、ルーカス様の、お金が、目当てだったんだよ。

お姫様に、なりたくて。

……なのに、お金も、身分も、なくなった、ルーカス様に、言われて。

今、一番、嬉しい」


ルーカスさんが。

花菱さんの、手を、握った。


「――白峰殿。

彼女は、ミレアで、術師見習いとして、子供たちに、文字を、教えている。

……私も、その、手伝いを、している。

二人で、小さな、学び舎を、開こうと、思うのです」


僕は、頷いた。


「――おめでとう、花菱さん」


花菱さんは。

泣き笑いの、顔で。

小さく、言った。


「――……莉愛ね、向こうの、世界の、お母さんに、手紙、書くね。

白峰くん、持って、帰ってくれる?」


「――うん。

必ず、届ける」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


小田切くんは。

厩舎に、いた。


馬の、背に、ブラシを、かけながら。

僕の、方を、見ずに、言った。


「――……俺も、残るっしょ」


「――うん」


「――驚かねえのかよ」


「――なんとなく、そんな気が、してた」


小田切くんは。

ブラシを、止めた。


「――……向こうに、帰っても、俺、何も、ねえんだよ。

大学も、なんとなく、入っただけだし。

やりたいことも、ねえし」


小田切くんは。

馬の、首を、撫でた。


「――でも、こっちに、来て。

馬の、世話、してたら。

……初めて、毎朝、起きるのが、楽しみに、なった」


小田切くんは。

厩舎の、隅で、寝そべっている、シロガネを、見た。


「――それに。

こいつにも、まだ、ちゃんと、謝りきれて、ねえし」


シロガネが。

片目を、開けて。

ふん、と、鼻を、鳴らした。


小田切くんは、苦笑した。


「――バルトロの、爺さんがさ。

王都の、厩舎長に、ならないかって。

……【職業:なし】の、俺に」


「――いいと、思う」


「――……そうか」


小田切くんは。

また、ブラシを、動かし始めた。


「――……白峰」


「――うん」


「――お前は、どうすんだよ」


僕は。

答えられなかった。


小田切くんは。

それ以上、聞かなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


宇佐美くんは。

王立学院の、書庫に、いた。


山のような、本に、囲まれて。


「――帰る」


宇佐美くんは、本から、目を、上げずに、言った。


「――……迷った。

正直に、言えば、かなり、迷った」


宇佐美くんは、本を、閉じた。


「――この世界の、魔力は、面白い。

物理法則と、矛盾しない、形で、存在している。

論理的に、解明できる。

……一生、かけても、いい、研究対象だ」


「――うん」


「――でも」


宇佐美くんは。

眼鏡を、外した。


「――椎名蒼の、手記を、読んで、思った。

蒼は、この世界で、一生、研究を、続けた。

けれど、最後の、日誌に、書いていた。

『あっちの、世界の、物理学の、教科書が、読みたい』と」


宇佐美くんは、眼鏡を、拭いた。


「――僕は、向こうで、物理学を、やり直す。

そして、いつか。

こっちの、世界の、魔力を、向こうの、言葉で、説明できる、論文を、書く。

……それが、蒼への、返事だと、思う」


宇佐美くんは、眼鏡を、かけ直した。


「――論理的に、言って。

最も、合理的な、選択だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一人ずつ。

話を、聞いた。


美咲さんは。

「――帰る!

お父さんと、お母さんの、定食屋、継ぐの。

こっちで、覚えた、料理も、ちゃんと、メニューに、入れるからね!」


奏さんは。

「――帰るよ。

この一年の、歌、全部、向こうで、歌う。

……いいね、それ。

歌になる」


姫野さんは。

「――あたし、帰って、薬学部、受け直す。

柚木みたいな、ちゃんとした、薬師に、なりたいの」


堂島くんは。

「――帰るっす。

消防士に、なりたいっす。

……今度は、ちゃんと、帰る、場所を、守る、側に」


吉岡くんは。

「――まあまあ、帰るよ。

でも、もう、長いものには、巻かれない。

……おにぎり屋、やろうかな。

皿洗いから、始めた、男の、おにぎり屋」


古賀くんは。

「――帰りますぞ。

そして、この、一年を、小説に、しますぞ。

なろうに、投稿しますぞ。

タイトルは、もう、決めてありますぞ」


「――……なんて、タイトル?」


「――秘密ですぞ」


古賀くんは、にやりと、笑った。


剛は。

「――難しいことは分からんが。

帰る。

……お袋に、ちゃんと、ただいまって、言う」


陽菜さんと、桐生くんは。

二人で、並んで、座っていた。


「――わ、わたしたち、帰ります。

……ふ、二人で」


陽菜さんが、真っ赤に、なって、言った。

桐生くんが、隣で、無表情のまま、頷いた。


「――……向こうでも、三枝の、後ろに、いる」


陽菜さんは。

もっと、真っ赤に、なった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最後に。

遥さんに、会いに、行った。


王城の、地下の、牢から、出された、遥さんは。

今は、東の、塔の、小さな、部屋に、いた。


窓辺で。

オルガさんと、並んで。

王都の、街並みを、眺めていた。


「――遥さんは」


僕が、聞く、前に。

遥さんは、言った。


「――僕は、残るよ」


「――……はい」


「――陛下の、判決だから、じゃないよ。

……判決が、なくても、残ってた」


遥さんは。

窓の、外を、見ていた。


ずっと、遠く。

北の、空を。


「――三百年、経っちゃったからね。

向こうに、帰っても。

父さんも、母さんも、もう、いない。

あの、ゼミ室も、たぶん、もう、ない」


遥さんは。

オルガさんの、皺だらけの、手を、握った。


「――でも、こっちには。

灯ノ里が、ある。

誠と、蒼と、詩織の、お墓が、ある。

オルガが、いる。

……僕の、帰る、場所は、もう、こっちなんだ」


オルガさんが。

遥さんの、手を、握り返した。


遥さんは。

僕を、見た。


「――白峰くん」


「――はい」


「――君は、どうするの」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その夜。

僕は、一人で、王城の、屋上に、いた。


王都の、灯りが。

足元に、広がっていた。


十三人。

帰る。


二人。

残る。


それから、遥さん。


そして。

僕。


門を、開いた、者は。

此方に、留まる。


開けるのは、僕だ。

四つの、誓約を、持っているのは、僕だけだ。


僕が、開ければ。

十三人は、帰れる。

僕は、残る。


僕が、開けなければ。

誰も、帰れない。


それなら。

答えは、決まっている。


――本当に?


胸の、奥で。

誰かが、言った。


母さんの、声だった。


『陽翔は、いつも、そう。

自分の、ことは、最後』


小学生の、頃。

運動会の、リレーで。

転んだ、友達を、助けに、戻って。

ビリに、なった、時。


母さんは、そう、言って、笑った。

少しだけ、寂しそうに。


『それが、陽翔の、いいところだけど。

……たまには、自分の、ことも、考えなさい』


僕は。

札を、取り出した。


【職業:勇者】


――勇者は、何を、するべきなのか。


その時。

屋上の、扉が、開いた。


「――……ここに、いた」


澪だった。

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