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【最終章突入】職業「勇者」って言われたのですが、一緒に転移した同級生いわく違うらしい ~正しい職業を知りたい今日この頃~  作者: 有馬 茶
最終部 ~灯の帰る場所~

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第83話「十五人」

裁判は、十日後と、決まった。


貴族院の、決議だった。

国王陛下は、最後まで、渋っておられたという。

けれど、王国法は、王の、上にある。

それが、この国の、決まりだった。


その、十日の、間に。

王都に、二台の、馬車が、着いた。


一台目は、南の、川の街、リンドールから。


馬車の、扉が、開くと。

一人の、女の子が、転がるように、降りてきた。


明るい、茶色の、髪を、後ろで、ひとつに、束ねて。

薬草の、染みが、ついた、前掛けを、したまま。


「――ゆ、柚木ッ!」


姫野さんは。

澪の、名前を、呼んで。

そのまま、澪に、抱きついた。


澪は。

一瞬、固まって。

それから、ぎこちなく、姫野さんの、背中に、手を、回した。


「――……久しぶり」


「――久しぶりじゃないよッ!

魔王城に、行ったって、聞いて……ッ!

あたし、毎晩、眠れなくて……ッ!

柚木に、教わった、気付け薬、自分で、飲んでたんだからね……ッ!」


「――……あれ、眠れなくなる、薬」


「――知ってるよッ!」


姫野さんは、泣きながら、怒っていた。

澪は、ほんの、少しだけ、笑っていた。


姫野さんの、前掛けの、ポケットから。

職業札が、覗いていた。


【職業:調合見習い】


その、「見習い」の、三文字が。

ほんの、少しだけ。

薄くなっているように、見えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二台目の、馬車は。

西の、港町、ミレアから。


馬車の、扉を、開けたのは。

金髪の、背の高い、青年だった。


ルーカスさん。


北の砦の、戦いの、後。

メフィラの、呪縛から、解き放たれて。

花菱さんに、手紙を、書くと、言っていた。


ルーカスさんは。

馬車の、中に、手を、差し伸べた。


その手を。

小さな、手が、取った。


花菱さんが、降りてきた。


髪は、短く、切られていた。

派手な、巻き髪も。

きらきらした、髪飾りも。

もう、なかった。


質素な、灰色の、服。

胸元に、職業札。


【職業:術師見習い】


花菱さんは。

馬車を、降りて。

王城の、前庭に、並んだ、僕たちを、見た。


そして。

エレオノーラさんの、姿を、見つけて。


その場に、膝を、ついた。


「――……殿下」


花菱さんの、声が、震えた。


「――……莉愛は。

ミレアで、ずっと、考えてました。

殿下に、言ったこと。

魔女、って、言ったこと。

……莉愛は、殿下に、会う、資格なんて、ない。

でも」


花菱さんは。

顔を、上げなかった。


「――遥さんの、裁判で。

莉愛も、証言、したいんです。

……ドルマン侯爵が、何を、していたか。

メフィラが、何を、していたか。

莉愛が、知ってること、全部」


エレオノーラさんは。

花菱さんの、前に、歩み寄った。


そして。

膝を、ついた。


花菱さんと、同じ、高さに。


「――顔を、上げなさい、花菱殿」


花菱さんが、おずおずと、顔を、上げた。


「――あなたの、罪は、消えません。

志賀殿に、申し上げたのと、同じことを、あなたにも、申し上げます」


エレオノーラさんは。

花菱さんの、手を、取った。


「――けれど。

真実を、語るために、ここまで、来たことを。

わたくしは、ちゃんと、見ていますわ」


花菱さんの、目から。

涙が、溢れた。


ルーカスさんが。

花菱さんの、肩に、そっと、手を、置いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆






その夜。


王城の、東の、塔の、一室に。

十五人が、集まった。


召喚されてから。

初めて。


全員が。


大きな、長机を、囲んで。

十五の、椅子に。


僕。

剛。

澪。

古賀くん。

宇佐美くん。

陽菜さん。

美咲さん。

奏さん。

志賀。

堂島くん。

桐生くん。

小田切くん。

吉岡くん。

姫野さん。

花菱さん。


壁際には。

エレオノーラさんと、遥さんが、立っていた。

「――これは、皆さんの、ゼミですもの」と、エレオノーラさんは、言った。

遥さんは、黙って、頷いていた。


誰も、何も、言わなかった。


十五人が、揃って。

互いの、顔を、見て。


それぞれの、胸の、職業札を、見て。


【勇者】。

【重騎士】。

【薬師】。

【鑑定士】。

【物知り】。

【結界師】。

【料理人】。

【吟遊詩人】。

【なし】。

【狂戦士】。

【暗殺者】。

【なし】。

【弓兵】。

【調合見習い】。

【術師見習い】。


鑑定の儀の、あの日。

誰が、こんな、並びを、想像しただろう。


「――……なんか」


吉岡くんが、ぽつりと、言った。


「――合宿の、初日の、自己紹介、思い出すね」


誰かが、小さく、笑った。


それで。

空気が、少しだけ、緩んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕は、立ち上がった。


「――それじゃあ」


僕は、言った。


ノートを、開いて。

合宿用の、ノート。

召喚された、あの日から、ずっと、持っていた、ノート。


「――ゼミを、始めます」


古賀くんが、吹き出した。


「――白峰氏、それ、本気で、言ってますか」


「――本気だよ」


僕は、笑った。


「――今日の、議題は、二つ。

一つ目は、遥さんの、裁判のこと。

二つ目は」


僕は、一度、息を、吸った。


「――古代の、門のこと」


部屋が、静まった。


「――門が、見つかった。

元の、世界に、帰れる、門だ」


ざわめきが、起きた。


堂島くんが、立ち上がりかけた。

姫野さんが、口を、両手で、覆った。

美咲さんが、目を、見開いた。

小田切くんが、顔を、上げた。


「――ほ、本当っすか!?」


「――本当だよ。

この目で、見てきた。

……門の、向こうから、蝉の、声が、聞こえた」


美咲さんが、泣き出した。


「――帰れる……。

帰れるんだ……。

お父さんと、お母さんの、定食屋……」


奏さんが、美咲さんの、肩を、抱いた。


けれど。

宇佐美くんだけは。

黙って、手元の、紙を、見ていた。


そして。

志賀も。

剛も。

澪も。

谷に、行った、全員が。

黙っていた。


その、沈黙に。

最初に、気づいたのは、桐生くんだった。


「――……白峰」


桐生くんが、言った。


「――続きが、あるんだろ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕は、頷いた。


真実を、分かち合え。


隠すことは、できた。

「門が、見つかった、みんなで、帰ろう」と。

それだけ、言って。

最後の、一行は、黙っていることも。


けれど。

それは、遥さんが、三百年前に、したことと、同じだった。


独りで、背負うこと。


「――門には、条件が、ある」


僕は、言った。


宇佐美くんが、紙を、読み上げた。


一つ。

四つの、誓約を、刻んだ、灯の主が、門に、触れること。

二つ。

通れるのは、灯を、持つ者と、その灯を、分かたれし者。

三つ。

門は、開いてから、満月、三つの、間だけ、在る。


そして。


「――四つ」


宇佐美くんの、声が、かすれた。


「――門を、開きし、灯の主は、門の、此方に、留まる」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最初は。

誰も、意味が、分からなかったようだった。


それから。

一人ずつ。

顔色が、変わっていった。


「――……え」


姫野さんが、言った。


「――灯の、主って。

……白峰、だよね。

四つの、誓約、持ってるの、白峰だけ、だよね」


「――うん」


「――じゃあ。

白峰が、門を、開けたら。

……白峰だけ、帰れない、ってこと?」


僕は、頷いた。


部屋が。

爆発した。


「――ふざけんなよッ!」


小田切くんが、机を、叩いた。


「――なんで、白峰が、残らなきゃ、いけねえんだよッ!

一番、頑張ったの、白峰だろッ!」


「――そ、そうっすよッ!

そんなの、絶対、おかしいっすッ!」


堂島くんが、叫んだ。


「――じゃ、じゃあ、莉愛たちが、帰るために、白峰くんが……?」


花菱さんが、青ざめた。


「――論理的に、言って、別の、方法を――」


「――そんなもの、あるの!?」


美咲さんが、宇佐美くんに、詰め寄った。


「――今、探している」


「――探してるって、三か月しか、ないんでしょ!?」


吉岡くんが、両手を、上げた。


「――まあまあ、まあまあ、落ち着こう、みんな――」


「――落ち着けるかよッ!」


声が、重なる。

椅子が、倒れる。

誰かが、泣いている。


僕は。

それを、黙って、見ていた。


そして。

不思議と。

胸の、奥が、温かかった。


半年前。

この十五人は、ばらばらだった。


志賀たちと、僕たち。

テンプレを、信じる者と、信じない者。

城を、出て、行った者と、残った者。


その、十五人が。

今。

僕、一人の、ために。

本気で、怒っている。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――みんな」


僕は、言った。


大きな、声では、なかった。

けれど。

部屋が、静かに、なった。


「――ありがとう」


全員が、僕を、見た。


「――怒って、くれて。

……ありがとう」


僕は、ノートを、閉じた。


「――最初に、言っておきたいことが、ある。

僕は、まだ、何も、決めてない。

帰るとも。

残るとも」


僕は、十五人の、顔を、一人ずつ、見た。


「――門は、まだ、開けてない。

開けたら、三か月で、閉じる。

だから、みんなが、それぞれ、決めてから、開ける。

帰りたい人。

残りたい人。

……それを、一人ずつ、ちゃんと、聞いてから」


「――残りたい、人?」


姫野さんが、言った。


「――うん」


僕は、頷いた。


「――この世界で、大事な、ものが、できた人も、いると思う。

大事な、人が、できた人も。

……帰るのが、正しいとは、限らない。

残るのが、間違いとも、限らない」


花菱さんが。

隣の、ルーカスさんの、ことを、思ったのか。

目を、伏せた。


小田切くんが。

窓の、外の、厩舎の、方を、ちらりと、見た。


「――だから」


僕は、言った。


「――僕のことは、最後で、いい。

みんなが、決めて。

それから、僕が、決める。

……それが、ゼミ長の、仕事だと、思うから」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


長い、沈黙が、あった。


最初に、口を、開いたのは。

志賀だった。


「――……白峰」


「――うん」


「――お前、そういうところ、本当に、むかつくな」


部屋の、何人かが、ぎょっとした。


志賀は。

頭を、がしがしと、掻いた。


「――最後で、いい、じゃねえよ。

そういうのを、独りで、背負うって、言うんだろ。

……谷で、さんざん、聞いたぞ」


僕は、言葉に、詰まった。


「――俺は、もう、言ったからな。

お前を、置いて、帰るなら、俺も、残る」


志賀は、腕を、組んで、椅子に、ふんぞり返った。


「――だから、お前が、決めるのを、待つ、とか、ねえ。

みんなで、決めるんだろ。

お前も、入れて、全員で」


壁際で。

遥さんが、小さく、笑った。


「――……誠が、言いそうな、ことだ」


剛が、頷いた。


「――難しいことは分からんが。

志賀が、正しい」


澪が、言った。


「――……白峰の、悪い、癖」


古賀くんが、眼鏡を、押し上げた。


「――ゼミ長、ゼミ長と、言いますがな、白峰氏。

ゼミ長は、議事進行役であって、生贄役では、ありませんぞ」


宇佐美くんが、紙を、机に、置いた。


「――議題の、修正を、提案する。

『白峰陽翔が、門の、此方に、留まらずに、済む、方法の、検討』。

……十日後の、裁判と、並行して、全員で、取り組む」


「――賛成っす!」


堂島くんが、手を、挙げた。


「――賛成」

「――賛成っしょ」

「――まあまあ、賛成」

「――い、いいね、それ」

「――賛成ッ!」

「――……莉愛も」


十四の、手が、挙がった。


僕は。

しばらく、何も、言えなかった。


それから。

自分も、手を、挙げた。


「――……賛成、です」


美咲さんが、泣き笑いの、顔で、言った。


「――全会一致!

……ちゃんと、議事録に、書いといてね、ゼミ長!」


僕は、ノートを、開いて。

震える、手で、書いた。


『議題:白峰が残らずに済む方法 全会一致』


その、隣に。

十五人分の、名前を。

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