↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最終章突入】職業「勇者」って言われたのですが、一緒に転移した同級生いわく違うらしい ~正しい職業を知りたい今日この頃~  作者: 有馬 茶
最終部 ~灯の帰る場所~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/90

第82話「王都の灯」

第82話「王都の灯」



北の砦の門が見えた時。

城壁の上で、誰かが叫んだ。


「――帰ってきたっすよおおおッ!」


堂島だった。


城壁の上から。

身を乗り出して。

両腕をぶんぶんと振り回して。


次の瞬間。

門が内側から開け放たれた。


兵士たちが、溢れ出してきた。

歓声と一緒に。


その先頭を。

堂島が全力で走ってきた。


そして。

剛に体当たりするように抱きついた。


「――剛さんッ!

剛さんッ!

生きてるっすねッ!」


「――おう。

……生きてる」


剛は、堂島の背中をばしばしと叩いた。

二人とも泣いていた。

二人とも、それを隠そうとはしなかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガルドさんは。

門の前に立ったまま。

動かなかった。


僕が目の前まで歩いていくと。

太い腕を組んだまま。

僕の顔をじっと見下ろした。


「――……坊主」


「――ただいま、戻りました」


「――全員か」


「――全員です。

……それと一人、増えました」


僕は、後ろを振り返った。


肩までの黒い髪の青年が。

志賀の隣で、少し、緊張した顔で立っていた。


ガルドさんは。

遥さんを見た。


長い間。


それから。

ふっと息を吐いた。


「――……アルベルト殿下が、最後に言っておられた」


ガルドさんの声が、低くなった。


「――『魔王も、元は、誰かの息子だったのだろうな』と。

……三年前、この門を出る前の晩にな」


遥さんの肩が。

震えた。


ガルドさんは。

組んでいた、腕をほどいた。


そして。

遥さんの前まで歩いていって。

その痩せた肩を、一度だけ叩いた。


「――……よく、帰ってきたな坊主」


遥さんは。

三百年、年上のはずの遥さんは。

ガルドさんの前で。

子供のように、頭を下げた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


砦で二日、休んだ。


ヴェルダさんが、山ほどの料理を作ってくれた。

シロガネの首の赤い布を見て。

「――ほら、やっぱり似合ってるねぇ」と目を細めた。


ローデリヒさんが、砦の兵士たちを整列させて。

僕たちに剣を捧げた。


僕は慌てて、それをやめてもらった。


そして。

三日目の朝。


王都から早馬が来た。


国王陛下の親書だった。


『勇者一行、ならびに北の砦の全将兵に告ぐ。

王都へ帰還せよ。

民が待っている』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆






王都の門を、くぐった瞬間。


音が降ってきた。


歓声。

拍手。

鐘の音。


大通りの両側を。

人が埋め尽くしていた。


窓から。

屋根の上から。

街路樹の枝の上から。


花びらが降っていた。


赤い花。

白い花。

黄色い花。


「――勇者様ーッ!」

「――お帰りなさいーッ!」

「――北の空、見ましたよーッ!」


僕は。

馬の上で。

どうしていいか、分からなかった。


「――……手を振ってくださいまし」


隣の馬から。

エレオノーラさんが、小さく言った。


「――勇者様が固まっていては、民が困りますわ」


「――……はい」


僕は、ぎこちなく手を上げた。


歓声が一段と大きくなった。


剛は、もっとぎこちなく、手を振っていた。

古賀は、なぜか、ものすごく、慣れた仕草で手を振っていた。

「――お約束ですぞ。凱旋パレードは」と、呟きながら。

澪さんは、外套のフードを、深く被っていた。

三枝さんは、真っ赤になって、桐生の背中に隠れていた。

桐生は、無表情のまま、三枝さんを隠していた。


志賀は。

一番、後ろで。

俯いていた。


大通りの人々の中には。

志賀の顔を、知っている者も、いるはずだった。


ドルマン侯爵の手先として。

王都で何をしていたのか。


けれど。

誰も、志賀に石を、投げたりはしなかった。


ただ。

人々は、志賀の隣の青年を。

肩までの黒い、髪の痩せた青年を。

不思議そうに見ていた。


あれは、誰だろうと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


王城の前庭に。

懐かしい顔が並んでいた。


「――白峰ッ!」


宇佐美が駆け寄ってきた。

いつもの冷静さは、どこにもなかった。

眼鏡がずれて。

息を切らせて。


「――……論理的に言って」


宇佐美は、僕の両肩を掴んだ。


「――……お前は、無茶をしすぎだ」


「――ごめん」


「――謝るな。

……帰ってきたから許す」


その後ろから。


「――白峰くん!」


美咲さんが、僕の手を取った。


「――ちゃんと食べてた!?

ちゃんと寝てた!?

……痩せてる!

絶対、痩せてる!

今夜は、わたしがちゃんと作るからね!」


「――いいね、それ。

歌になる」


奏さんが竪琴を抱えて笑っていた。


「――『北の空が光った日』。

もう、王都中の酒場で歌ってるよ。

……本物が帰ってきたなら、二番を書き足さなきゃ」


「――まあまあ、白峰」


吉岡が大きな、包みを差し出した。


「――おにぎり。

峠で落としたんだって?

……今度は落とすなよ」


そして。

少し離れたところに。

小田切が立っていた。


馬の手綱を握って。

そっぽを向いて。


シロガネが。

小田切の足元に歩いていった。


そして。

小田切の手に。

鼻先を押しつけた。


小田切は。

しゃがみ込んで。

シロガネの首を抱きしめた。


「――……お帰り」


小さな声だった。


「――……お前も、ちゃんと帰ってきたな」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


謁見の間。


国王レオンハルト陛下が、玉座から立ち上がって。

僕たちを迎えた。


その隣に。

宰相の、バルトロさん。


そして、大広間の両側には。

王国の貴族たちが、ずらりと並んでいた。


「――勇者、白峰陽翔殿」


陛下が言った。


優しい声だった。

エレオノーラさんに、よく似た目をしていた。


「――よくぞ、戻られた。

王国のすべての民に代わって。

……心からの感謝を」


陛下は。

玉座の段を下りてきて。

僕の手を取った。


大広間がざわめいた。


国王が自ら、段を下りる。

それがどれほど、異例のことなのか。

僕にも分かった。


「――陛下、僕一人の力ではありません」


僕は言った。


「――ここにいる仲間たちと。

砦の皆さんと。

王都の皆さんと。

……すべての人の灯が、あったからです」


陛下は、目を細めた。


「――エレオノーラから、手紙で聞いていた通りの方だ」


それから。

陛下の目が。

僕の後ろに移った。


肩までの黒い、髪の青年の上に。


「――そちらの方は」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕は。

一瞬、迷った。


ここで本当のことを言えば。

大広間は、どうなるだろう。


三百年。

この国の人々は、魔王を恐れてきた。

夜の明けぬ谷を恐れてきた。

アルベルト殿下も。

数えきれない兵士たちも。

魔王軍との戦いで、命を落とした。


けれど。


潮の印。

真実を分かち合え。


僕は、遥さんを振り返った。


遥さんは。

僕を見て。

小さく頷いた。


――大丈夫。

自分で言うよ。


遥さんが前に出た。


そして。

陛下の前に、膝をついた。


「――結城、遥と申します」


その声は。

掠れていたけれど。

大広間の隅々まで届いた。


「――三百年前。

この国に勇者として、召喚されました。

……そして」


遥さんは。

顔を上げた。


「――昨日まで。

魔王と呼ばれていた者です」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


大広間が。

凍りついた。


一瞬の完全な沈黙。


それから。


悲鳴が上がった。


貴族の誰かが後ずさった。

衛兵たちが、一斉に槍を構えた。

近衛の騎士たちが、陛下の前に飛び出した。


「――陛下をお守りしろッ!」

「――魔王だと!?」

「――勇者殿は、魔王を王城に連れてきたのか!?」


剛が遥さんの前に出た。

志賀が遥さんの隣に立った。

エレオノーラさんが、声を張り上げた。


「――静まりなさいッ!

この方は、もう、魔王ではありませんッ!

わたくしがこの目で――」


その時。


大広間の右側。

貴族たちの列の先頭から。


一人の男が進み出た。


背の高い。

銀灰色の髪を、きっちりと撫でつけた。

五十がらみの男。


深い紺色の礼服の胸に。

金の天秤の紋章が光っていた。


「――殿下」


男が言った。


低くよく通る声。

大広間のざわめきが、その一言で、すっと引いた。


「――殿下のお言葉は、ありがたく、拝聴いたしました。

しかし」


男は。

遥さんを見下ろした。


冷たい灰色の目で。


「――この者が魔王であったことは。

この者、自身が認めたことです」


男は、陛下に向き直って。

深く一礼した。


「――陛下。

王国法、第一条に基づき。

貴族院議長、グレゴール・ヴァイスハイトが、申し上げます」


男は、顔を上げた。


「――この者を裁判にかけるべきです。

三百年の罪を問うために」


大広間が。

再び、ざわめいた。


けれど、今度のざわめきは。

恐怖ではなかった。


同意のざわめきだった。


僕は。

グレゴールという、男の胸の天秤の紋章を見ていた。


その紋章の下に。

ちらりと職業札が覗いていた。


【職業:法官】


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その夜。


美咲さんの作ってくれた夕食を。

十人以上で囲んだ。


城の厨房の隣の小さな食堂。


けれど。

誰も、あまり箸が進まなかった。


遥さんは。

食堂の隅で。

窓の外を見ていた。


「――……ごめんね」


遥さんが言った。


「――僕が来なければ。

みんなもっと、素直に喜べたのに」


「――そんなことないです」


三枝さんが言った。


「――遥さんが自分で言ったの。

……す、すごかったです」


「――そうだ」


志賀が言った。


「――隠してたら、もっとひどいことになってた。

……俺がそうだったから分かる」


遥さんは。

少しだけ笑った。


宇佐美が眼鏡を押し上げた。


「――論理的に言って。

裁判はむしろ、好機だ」


全員が宇佐美を見た。


「――椎名蒼の手記がある。

オルガ殿の証言も取れる。

三百年前に、何があったのか。

遥さんが何をしてきたのか。

……公の場ですべてを明らかにできる」


宇佐美は、僕を見た。


「――白峰。

お前の誓約にあっただろう。

真実を分かち合え」


僕は頷いた。


「――うん」


それから。

窓の外を見た。


王都の夜。

家々の窓に、灯りが灯っていた。


このたくさんの灯りの一つ一つが。

四日前、北の空に光を送ってくれた。


その人たちに。

本当のことを伝えたい。


「――遥さん」


僕は言った。


「――一緒に話しましょう。

三百年分の本当のことを。

この国の全員に」


遥さんは。

窓の外の灯りを見つめて。


それから。

ゆっくりと頷いた。


「――……隣にいてくれる?」


「――はい」


「――俺もだ」


志賀が言った。


剛も。

エレオノーラさんも。

澪さんも。

古賀も。

宇佐美も。


一人ずつ頷いた。


遥さんは。

もう、何も言わなかった。


ただ。

窓の外の灯りに向かって。

小さく頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。