↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最終章突入】職業「勇者」って言われたのですが、一緒に転移した同級生いわく違うらしい ~正しい職業を知りたい今日この頃~  作者: 有馬 茶
第4部 ~星の神殿~ 開幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/87

第80話「門の前で」

三日、灯ノ里で、休んだ。


誰もが、疲れ切っていた。

灯を、ほとんど、使い果たして。

身体の、芯まで、冷え切って。


けれど。

三日目の、朝には。

胸の、奥の、火が。

少しずつ、戻ってきていた。


不思議だった。

あれだけ、分けたのに。

分けた分だけ、どこかから、また、灯ってくる。


「――分けたものは、巡って、帰ってくるのさ」


オルガさんが、言った。


朝の、光の、中で。

里の、井戸の、水を、汲みながら。


「――遥様が、そう、言っていたよ。

三百年前に。

……あたしは、ずっと、嘘だと、思ってたけどね」


オルガさんは、桶を、置いて。

谷の、東の、空を、見上げた。


「――本当だったねえ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三日目の、昼。

古賀くんの、水晶が、光った。


谷の、闇が、晴れて。

峠の、向こうと、繋がるように、なったのだ。


水晶の、中に。

宇佐美くんの、顔が、浮かんだ。


『――白峰ッ!』


宇佐美くんが、叫んだ。


いつも、冷静な、宇佐美くんが。

眼鏡が、ずれるほど、身を、乗り出して。


『――無事か!?

全員、無事か!?』


「――うん。

全員、無事だよ」


宇佐美くんの、顔が。

くしゃっと、歪んだ。


それから。

眼鏡を、外して。

目元を、押さえて。

しばらく、何も、言わなかった。


『――……論理的に、言って』


やっと、声が、出た。


『――三日前、王都の、空が、光った。

北の、空が。

真昼みたいに。

……学院の、全員が、それを、見た。

いや、王都の、全員が』


宇佐美くんは、息を、吸った。


『――胸の、奥から、何かが、抜けていく、感じがした。

でも、嫌な、感じじゃ、なかった。

……温かい、ものを、誰かに、手渡すような』


「――宇佐美くんの、灯も、届いたよ」


僕は、言った。


「――ありがとう」


宇佐美くんは。

眼鏡を、かけ直した。


『――……礼を、言われる、筋合いは、ない。

合理的な、判断を、しただけだ』


その、耳が。

真っ赤だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


水晶の、向こうに。

次々と、顔が、映った。


砦からの、中継で。


『――白峰さんッ!

剛さんッ!

無事っすかッ!?』


堂島くん。


『――……坊主。

よくやった』


ガルドさん。


『――いやあ、すごい、光だったねぇ。

砦の、みんな、腰、抜かしてたよぉ』


ヴェルダさん。


王都の、厩舎から。


『――……べ、別に、心配とか、してなかったっしょ』


小田切くん。

その、後ろで、馬が、嘶いていた。


厨房から。


『――まあまあ、よかったよかった。

おにぎり、足りた?

……え、食べてない?

峠で、落とした?

……まあ、いいや、帰ってきたら、また、握るから』


吉岡くん。


『――白峰くん!

ちゃんと、食べて、ちゃんと、寝て、ちゃんと、帰ってきなさいよ!』


美咲さん。


『――いいね、それ。

歌になる。

……っていうか、もう、作り始めてる』


奏さん。


一人、一人の、声が。

水晶を、通して。

谷の、底まで、届いた。


僕は。

その、一つ一つに。

「ありがとう」と、返した。


途中から。

声が、震えて。

上手く、言えなくなった。


澪が。

黙って、僕の、背中に、手を、置いてくれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最後に。

宇佐美くんが、もう一度、映った。


その顔は。

さっきとは、違って。

硬かった。


『――白峰。

伝えなければ、ならないことが、ある』


「――……うん」


『――記録の、最後の、一行だ』


水晶の、周りに。

全員が、集まった。


遥さんも。

オルガさんも。


『――三日前、古賀から、椎名蒼の、最後の、手記の、写しが、届いた。

オルガ殿が、預かっていた、本物の、方の。

……学院の、写しで、傷んで、読めなかった、部分。

それと、照らし合わせて。

昨夜、ようやく、読めた』


宇佐美くんが、一枚の、紙を、掲げた。


『――古代の、門の、条件。

これまで、分かっていたのは、二つ。

一つ。

四つの、誓約を、刻みし、灯の主が、門の前に、立つこと。

二つ。

門を、通れるのは、灯を、持つ者、および、その灯を、分かたれし者』


宇佐美くんの、声が。

少し、低く、なった。


『――そして、最後の、一行』


全員が。

息を、止めた。


『――「門を、開きし、灯の主は、門の、此方に、留まる」』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


風が、吹いた。


谷の、底を。

芽吹いたばかりの、緑を、揺らして。


誰も。

何も。

言わなかった。


言えなかった。


門を、開いた、灯の主は。

門の、此方に。

こちら側に。

留まる。


つまり。


「――……白峰は」


志賀が、言った。


掠れた、声で。


「――……白峰は、帰れない、ってことか」


宇佐美くんは。

答えなかった。


ただ。

唇を、噛んで。

眼鏡の、奥の、目を、伏せた。


『――……それと、もう一つ。

蒼の、手記の、余白に、書き込みが、あった。

「門は、開いてより、満月、三つの、間のみ、在る」』


満月、三つ。


三か月。


『――門は、一度、開いたら。

三か月で、閉じる。

……二度と、開かない、かもしれない』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――……そんな」


陽菜さんが、両手で、口を、覆った。


「――そ、そんなの、ひどい……ッ!

白峰くんが、一番、頑張ったのに……ッ!

白峰くんだけ、帰れないなんて……ッ!」


剛が。

拳を、握りしめていた。

何も、言わずに。


古賀くんが、眼鏡を、外して。

額に、手を、当てていた。


桐生くんが。

黙って、谷の、壁を、睨んでいた。


エレオノーラさんは。

僕を、見ていた。


その、青い、瞳が。

大きく、揺れていた。


喜びなのか。

悲しみなのか。

自分でも、分からない、というように。


澪は。

僕の、袖を、掴んでいた。


強く。

指が、白くなるほど。


遥さんが。

小さく、呟いた。


「――……三百年前と、同じ、だ」


その、顔が。

青ざめていた。


「――誰かが、独りで、背負う。

誰かが、残る。

……蒼は、それを、知ってたんだ。

だから、最後の、一行を――」


「――遥さん」


僕は、言った。


自分でも、驚くほど。

静かな、声だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――門を、見に、行きませんか」


全員が、僕を、見た。


「――まだ、開けません。

開けたら、三か月で、閉じちゃうから。

みんなが、揃う、前に、開けるわけには、いかない」


僕は、立ち上がった。


「――でも。

どんな、門なのか。

この目で、見ておきたいんです。

……それから、考えます。

みんなで」


志賀が。

何か、言いかけて。

口を、閉じた。


それから。

立ち上がった。


「――……行くぞ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆






星の、神殿。


その、祭壇の、さらに、奥。

星の、海の、果て。


石の、橋が、もう一本、伸びていた。


前に、来た時には、なかった、橋。

いや。

あったのかもしれない。

闇に、隠れて、見えなかっただけで。


その、橋の、先に。


門が、あった。


大きくは、なかった。


魔王城の、城門の、ように、巨大でも。

北の、砦の、門の、ように、頑丈でも、なかった。


ただ。

石の、柱が、二本。

その上に、弧を、描く、石の、梁。


鳥居に、似ていた。


いや。

鳥居、そのものだった。


石で、できた。

苔むした。

どこかの、神社の、境内に、ありそうな。

日本の、鳥居。


「――……嘘、だろ」


剛が、呟いた。


柱の、間は。

空っぽだった。


向こう側に、何も、見えない。

星の、海の、続きさえ、見えない。

ただ。

白く。

霧のように。

何かが、揺らいでいる。


その、霧の、向こうから。


音が、聞こえた。


かすかに。

ほんの、かすかに。


蝉の、声。


遠くを、走る、電車の、音。


踏切の、警報機の、かんかん、という、音。


誰かが。

自転車の、ベルを、鳴らす、音。


「――……っ」


陽菜さんが、膝から、崩れ落ちた。


剛が、顔を、覆った。


古賀くんが、眼鏡を、外して、泣いていた。


志賀が。

一歩。

門に、向かって、踏み出しかけて。

止まった。


遥さんは。

動かなかった。


ただ。

三百年ぶりに、聞く、蝉の、声に。

目を、閉じて。

立ち尽くしていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕は。

門の、前に、立った。


鳥居の、柱の、表面に。

文字が、刻まれていた。


日本語でも、この世界の、文字でも、なかった。

けれど。

なぜか。

読めた。


『四つの誓約を刻みし灯の主よ』

『汝が手を、この柱に、触れよ』

『門は開かれん』

『されど、開きし者は、此方に留まる』


僕は。

手を、伸ばしかけて。


止めた。


まだ。

今じゃない。


堂島くんも。

小田切くんも。

吉岡くんも。

宇佐美くんも。

美咲さんも。

奏さんも。

姫野さんも。

花菱さんも。


みんなが、揃って。

みんなで、決めて。


それからだ。


僕は。

手を、下ろした。


振り返った。


八人と、一頭と、一人が。

僕を、見ていた。


エレオノーラさん。

剛。

澪。

古賀くん。

陽菜さん。

桐生くん。

志賀。

シロガネ。

遥さん。


誰も。

何も、言わなかった。


ただ。

全員の、目が。

同じことを、言っていた。


――お前を、独りで、残したりしない。


僕は。

少しだけ、笑った。


「――……帰ろう」


僕は、言った。


「――まずは、砦に。

それから、王都に。

みんなに、会いに。

……門のことは、それから、みんなで、考えよう」


「――白峰」


志賀が、言った。


「――俺は、諦めねえぞ」


「――うん」


「――お前を、置いて、帰るとか。

絶対、ねえからな」


「――……うん」


「――誠さんが、遥さんを、置いて、帰らなかったみたいに。

……俺も、お前の、隣に、残る。

最悪、それでもいい」


「――志賀、それは――」


「――うるせえ。

決めた」


志賀は。

そっぽを、向いた。


剛が、その、肩を、叩いた。


「――難しいことは分からんが。

……俺も、同じだ」


「――……わたしも」


澪が、言った。


「――……全部、終わってから、って、言った。

……まだ、終わってない」


エレオノーラさんが。

静かに、言った。


「――白峰様が、此方に、留まるのなら。

……わたくしは、それを、悲しめばいいのか、

喜べばいいのか、分かりません。

けれど。

一つだけ、分かることが、あります」


エレオノーラさんは、僕の、手を、取った。


「――白峰様が、望まない、別れは。

誰一人、望んでいない、ということですわ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


星の、海を、背に。

僕たちは、橋を、戻った。


門の、向こうから。

蝉の、声が、追いかけてくる。


振り返らなかった。


いや。

一度だけ。

振り返った。


白い、霧の、向こうに。

ほんの、一瞬。


見覚えのある、風景が、見えた気がした。


銀杏並木。

三号館の、四階の、窓。


ゼミ室の、灯り。


誰かが。

まだ、残って。

灯りを、つけたままに、しているような。


――帰るなら、みんなで、帰る。


メフィラに、そう、言った。


その、言葉を。

僕は、嘘に、するつもりは、なかった。


開いた者は、此方に、留まる。


それが、門の、決まりなら。


――決まりを、分かち合う、方法を、探せばいい。


灯は、奪えず。

ただ、分かつのみ。


もし、灯を、分けられるなら。

誓約を、分けられるなら。


門を、開く、役目も。

きっと。


僕は。

胸の、札に、手を、当てた。


【職業:勇者】


その、下の、五つの、誓約が。

温かかった。


――正しい、職業を、知りたい。


召喚された、あの日。

ずっと、そう、思っていた。


今は、分かる。

勇者だ。

これが、僕の、正しい、職業だ。


けれど。

勇者が、何を、するべきなのか。


その、答えは。

まだ。

門の、前に、置いたままだった。

これで、第4部「星の神殿」は、完結です。

ここまで、読んでくださって、本当に、ありがとうございます。

最終部も、どうぞ、よろしくお願いいたします。


まもなく 最終部 ~灯の帰る場所~ 開演いたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。