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【最終章突入】職業「勇者」って言われたのですが、一緒に転移した同級生いわく違うらしい ~正しい職業を知りたい今日この頃~  作者: 有馬 茶
第3部 ~裏切りの華~

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第60話「夜の明けぬ谷」

※今回は志賀拓真の視点でお届けします。

※時間は満月の夜会の直後に遡ります。

第60話「夜の明けぬ谷」





落ちていく、感覚だけがあった。


上も、下もなかった。

光も、音もなかった。


ただ、黒い冷たい底のない闇の中を。

どこまでも。

どこまでも。

落ちていく。


口の中に。

鼻の中に。

目の中に。

黒い霧が流れ込んでくる。


冷たい。

重い。


その冷たさが。

頭の中の何かを。

一つずつ。

塗り潰していく。


――志賀。一人じゃ、ないよ。


塗り潰されていく。


――偽物、でも、いいんだよ。


塗り潰されていく。


――桐生の隣に立った、高校の頃の志賀は。ちゃんと、本物だったよ。


塗り潰されて――。


――いかなかった。


その言葉だけが。

黒い霧の中で。

小さく。

小さく。

光っていた。


金色の。

針の先ほどの。


肩に。

誰かの手の感触が、残っていた。


焼け爛れた手のひら。

黒い炎を素手で掴んだ手。


――白峰。


最後に。

闇の中に沈んでいくその最後に。

俺は。

あいつの名前を。

呼んだ。


声は、出なかった。


唇だけが。

動いた。


――たすけて。


なんで。

そんなことを。


あいつに。

エセ勇者に。

委員長に。


――たすけてなんて。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




足の裏に。

硬いものが、触れた。


石、だった。


冷たい黒い石の床。


目を開けた。


暗かった。


闇の中を落ちていたときと、同じくらい。

いや。

もっと深く。

もっと濃く。


けれど、その闇の中に。

かすかに。

光があった。


青白い。

燐のような。

蝋燭の炎とも、月の光とも違う。

冷たい死者の光。


その光が。

周りの輪郭を。

ぼんやりと。

浮かび上がらせていた。


広間だった。


巨大な。

天井が見えないほど高い。

黒い石の柱が、何十本も、闇の中へと伸びていた。

壁も、床も柱も。

すべてが黒い、艶のない石でできていた。


窓があった。


巨大な縦長の窓。

硝子は、嵌まっていなかった。

ただ、黒い石の壁に、縦に切り裂いたような穴が開いていた。


その穴の向こうに。

外が見えた。


空がなかった。


いや。

空は、あった。

けれど、それは。

黒かった。


星も、月もない。

ただ、黒い。

墨を流し込んだような。

闇の天蓋。


「――永遠に夜の明けぬ谷へようこそ」


甘い声が。

背後から響いた。


振り返った。


メフィラが、立っていた。


黒いヴェール。

漆黒のドレス。

赤い唇。


その背後に。

二つの影が、従っていた。


ドルマン侯爵と。

その息子、ルーカス。


二人とも。

とろんと濁った目で。

人形のように。

何もない空間を、見つめていた。


「――ここは魔王城。

……北の山脈のさらに向こうの。

三百年、一度も日の光が、差したことのない谷の底」


メフィラの赤い唇が。

艶やかに。

弧を描いた。


「――そして、あの方のお住まい」


「……あの方」


俺の声が。

掠れていた。


自分の声じゃ、ないみたいだった。

喉の奥に。

黒い霧がまだ絡みついていた。


「――ええ」


メフィラが。

俺の頬に。

白い指先を、這わせた。


冷たかった。


「――魔王様、よ」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




広間の奥へと。

メフィラに、導かれて。

歩いた。


黒い石の柱の林の中を。

青白い燐の光だけを頼りに。


足音が。

広間の高い天井に。

反響していた。


コツ。

コツ。

コツ。


その足音以外に。

何の音も、なかった。


いや。


かすかに。

本当にかすかに。


何かが。

聞こえていた。


広間の奥のさらに奥から。


――歌、だった。


掠れた。

途切れ途切れの。

誰かが口ずさんでいる。


聞き覚えのある。


――夕焼けの空と。

――帰り道と。

――家族の待つ家を、歌った。


日本の。

誰もが知っている。

古い童謡。


足が。

止まった。


「……なんで」


声が漏れた。


「……なんであの歌が」


メフィラは。

何も、答えなかった。


ただ。

ヴェールの奥で。

冷たく。

笑っていた。


広間の一番奥に。

玉座があった。


黒い石の玉座。

巨大な。

人の背丈の三倍はある。

その背もたれは。

天井の闇の中へと。

溶け込むように、伸びていた。


その玉座の。

足元に。


一人の男が。

座っていた。


玉座の上では、なかった。


玉座の足元の。

冷たい黒い石の床の上に。

膝を抱えて。


――歌っていた。


掠れた声で。

途切れ途切れに。


夕焼けの空と。

帰り道と。

家族の待つ家の歌を。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




男は。

若かった。


俺と同じくらいの。

二十歳を少し過ぎたくらいの。


黒い髪。

長く伸び放題で。

肩の下まで、垂れていた。


その身に纏っているのは。

ボロボロの。

色褪せた。

紺色の。


詰め襟の。


――学生服。


男の周りに。

黒い霧が渦を巻いていた。


男の体から。

滲み出すように。

男の体を。

包み込むように。


その霧の中に。

無数の赤い目が。

蠢いていた。


けれど。

男自身の目は。


赤くは、なかった。


黒い。

ただ、黒い。

深い、深い井戸の底のような。


その黒い目が。

膝を抱えたまま。

ゆっくりと。


俺を。

見上げた。


歌が。

止まった。


「――……誰」


男の唇から。

掠れた声が、漏れた。


日本語、だった。


「――……君、誰」


「――魔王様」


メフィラが。

男の前に。

恭しく。

膝をついた。


「――お連れいたしましたわ。灯の候補と、同じ世界から来た若者を」


男の黒い目が。

俺をじっと見つめていた。


その胸の。

学生服の胸の真ん中に。


穴が開いていた。


傷では、なかった。

血も、流れていなかった。


ただ。

胸の真ん中に。

暗い空洞が。

ぽっかりと。

口を開けていた。


その空洞の縁に。


金色の。

小さな。

小さな。

光の欠片が。


かろうじて。

燃え残っていた。


――灯。


あいつの札の。

あの、金色の炎と同じ色の。


「……同じ世界」


男が。

掠れた声で、繰り返した。


「……日本から来たの」


俺は。

答えられなかった。


喉の奥の黒い霧が。

声を塞いでいた。


男は。

膝を抱えたまま。

ゆっくりと。

立ち上がった。


ふらりと。

よろめきながら。


背が高かった。

けれど、痩せていた。

学生服の袖から、覗く手首が。

骨と皮だけのように細かった。


男が。

俺の前に。

立った。


黒い霧が。

男の周りで。

渦を巻いていた。


けれど。

男の黒い目は。

ただ。

静かに。

俺を見ていた。


「――僕は結城遥」


男が言った。


「――三百年前に、この世界に、来た。……高校三年生の夏だった」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




結城遥。


その名前を。

俺は、知らなかった。


けれど。

その名前の響きに。

何かが。

胸の奥で。

引っかかった。


――はるか。


――はると。


「……君の札」


遥の黒い目が。

俺の腰の黒い職業札へと。

移った。


細い骨のような指が。

その札を。

指さした。


「……見せてくれる?」


手が。

勝手に動いていた。


腰から。

黒い札を外して。

遥の前に。

差し出していた。


遥は。

札を受け取らなかった。


ただ。

覗き込んだ。


黒い札の表面に。

闇の色で浮かび上がった文字を。


【職業:勇者(偽)】


遥の黒い目が。

その括弧の中の二文字を。

じっと。

見つめていた。


長い。

長い。

沈黙だった。


それから。


遥は。

小さく。

笑った。


寂しそうな。

けれど、どこか。

懐かしそうな。


「……偽物、か」


遥が掠れた声で言った。


「……僕と同じだね」


俺の息が。

止まった。


「……僕も、偽物だったよ」


遥は。

自分の胸の空洞を。

骨のような指で、そっとなぞった。


「……勇者の職業を、授かって。

みんなに勇者様って呼ばれて。

……でも、本当は何も分かってなかった。

灯の使い方も。

仲間の信じ方も」


遥の黒い目が。

遠くを見ていた。


「……一人で全部、抱え込んで。

仲間に本当のことを言えなくて。

……勇者のふりを、してただけだった」


遥の唇が。

歪んだ。


「……誠も。

詩織も。

蒼も。

……みんな僕の隣に立ちたいって、言ってくれてたのに。

……僕は、誰も隣に立たせなかった」


遥は。

俺を。

まっすぐに。

見た。


その黒い深い、井戸の底のような目が。

俺の目の奥を。

覗き込んでいた。


「――君は」


遥が言った。


「――誰の隣に立ちたかったの?」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




その問いが。

胸の奥に。

突き刺さった。


――誰の隣に。


高校の頃。

サッカー部のエースだった。

クラスの中心だった。

誰もが俺の名前を知っていた。


みんなが俺の隣に立ちたがった。


でも。

俺は。

誰の隣に。


――校舎の裏で。

――三人に囲まれて。

――一回も、泣かなかった根暗な、前髪の長いあいつ。


――お前根性あるな。


あいつに手を差し伸べたとき。


俺は。

初めて。

誰かの隣に、立った気がした。


みんなに囲まれるんじゃなくて。

誰かを守る側に。


――ゼミの最初の飲み会で。

――一人で隅っこに座ってた巻き髪のあいつ。


――お前こっち来いよ。


あいつを輪の中に入れたとき。


――合宿の場所を、探してたとき。

――ゼミ長の委員長が、しおりを徹夜で作ってたのを知ってたから。

――せめて、場所くらいは、俺が見つけてやろうって。


――あれは。


――あれは、委員長の隣に、立ちたかったんじゃ、ないのか。


ゼミ長の選挙で、負けたとき。

悔しかった。

本当に悔しかった。


でも。

その悔しさの奥に。


――あいつに認められたかった。


――あいつの隣に、対等に立ちたかった。


そんな気持ちが。

なかったと、言えるか。


「……っ、あ……」


声が漏れた。


喉の奥の黒い霧が。

揺らいでいた。


胸の奥の。

針の先ほどの。

金色の光が。


ほんのわずかに。

大きくなった。


――志賀。一人じゃ、ないよ。


「……俺、は……」


遥の黒い目が。

俺を見ていた。


静かに。

待っていた。


「……俺は……」


――白峰の。


その名前が。

喉の奥まで。

込み上げてきた。


――白峰の隣に。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「――魔王様」


甘い声が。

その名前を。

遮った。


メフィラが。

いつの間にか。

遥と俺の間に。

立っていた。


「――お戯れは、そのくらいに」


メフィラの白い指先が。

遥の胸の空洞の縁に。

そっと。

触れた。


その金色の灯の欠片に。


遥の体が。

びくりと。

跳ねた。


「――ッ、あ……」


遥の周りの黒い霧が。

一気に。

濃くなった。


霧の中の無数の赤い目が。

一斉に。

見開かれた。


遥の黒い目が。

苦しげに。

歪んだ。


「――魔王様は、お疲れなのです。

三百年も、灯の欠片で、古き魔を抑え込んでいらしたのですもの」


メフィラの赤い唇が。

遥の耳元に。

近づいた。


「――でも、もうすぐ。

灯の候補が、ここに来ますわ。

……あの子の灯を、喰らえば。

魔王様の胸の空洞は、埋まる。

……もう、苦しまなくていいのですよ」


「……灯は……奪え……ない……」


遥の唇から。

掠れた声が、漏れた。


「……黄昏の神殿で……思い知った……。

……灯は……奪えない……ただ……」


「――あれは、あの学者の小僧が、儀式を誤ったからですわ」


メフィラの声が。

冷たくなった。


「――正しい儀式を行えば、灯は奪える。

……三百年、そう、申し上げてきたでしょう?」


メフィラの指先から。

黒い霧が。

遥の胸の空洞の中へと。

流れ込んでいった。


遥の体が。

弓のように。

反り返った。


「――ア、ア、アアアアアアッ……!」


遥の黒い目が。

一瞬。

赤く。

染まりかけた。


けれど。


胸の空洞の縁の。

金色の灯の欠片が。


かろうじて。

燃え残っていた。


赤い色が。

遥の目から。

引いていった。


遥は。

床の上に。

崩れ落ちた。


膝を抱えて。

肩で息をしていた。


「……っ、は……っ、は……」


メフィラは。

床に崩れ落ちた遥を。

冷たく。

見下ろしていた。


「――……まだ、抗われるのですね。三百年経っても」


メフィラの赤い唇が。

苛立たしげに。

歪んだ。


それから。


メフィラは。

俺を。

振り返った。


ヴェールの奥の。

赤い瞳が。

俺を捉えた。


「――だから、あなたを連れてきたのよ。本物の、勇者様」


メフィラの白い指先が。

俺の頬に。

触れた。


冷たかった。


「――魔王様が灯の候補の灯を喰らえば。

古き魔は、魔王様の中で、完全に目覚める」


メフィラの声が。

耳元で。

囁いた。


「――もし、魔王様が最後まで抗われたら。

……そのときは、あなたの中に、古き魔を移し替える」


――花菱が言っていた。


――もし、あの方が最後の最後で、灯を喰らうことを拒んだら。

――そのときは、黒き勇者を、器にすればいい。


「――どちらに転んでも。この世界は、古き魔のものになる」


メフィラの指先から。

黒い霧が。

俺の頬に。

口の中に。

流れ込んできた。


冷たい。

重い。


胸の奥の。

金色の針の先ほどの光が。


押し潰されていく。


「――あなたは黒き勇者。

……灯の候補を、ここまで連れてくるのが、あなたのお役目」


――志賀。一人じゃ、ないよ。


押し潰されていく。


――偽物、でも、いいんだよ。


押し潰されて――。


「――さあ。

次の新月に、北の砦へ。

……あの子を迎えに行きましょう?」


最後に。

見えたのは。


床の上に崩れ落ちたまま。

膝を抱えて。

こちらを見上げている。


遥の。

黒い目だった。


その目が。

何かを。

言っていた。


声は、なかった。


けれど。


――君は、まだ間に合う。


そう、言っているように。

見えた。


黒い霧が。

俺の目を。

塗り潰した。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆








それから、何日が過ぎたのか。


分からなかった。


夜の明けぬ谷では。

昼も、夜もなかった。


ただ。

黒い霧の中で。

メフィラの声だけが。

繰り返し。

繰り返し。

囁いていた。


――あなたは、本物の勇者。

――あの、灯の候補なんかじゃない。

――あの子をここまで連れてくるの。


いつの間にか。

俺は。

黒い飛竜の背に、乗っていた。


ザハルとかいう、魔将の飛竜だったらしい。

主を失って。

新しい主として。

俺を。

背に乗せていた。


眼下に。

灰色の平原が、広がっていた。


二万の魔王軍が。

黒い波となって。

南へ。

南へと。

押し寄せていた。


その先頭で。


俺は。

黒い飛竜の背の上から。

南の平原の果てを。

見つめていた。


北の砦。


三年前に魔王軍が落とした。

黒い石の砦。


その城壁の上に。


青い旗が。

翻っていた。


アルセリアの旗。


――取り戻されたのか。


その城壁の上に。

小さな影が並んでいた。


夕日に照らされて。


金の髪の。

銀の鎧の。

黒い髪の。

眼鏡の。

銀色の狼の。


そして。


その真ん中に。


黒い髪の。

包帯を左手に巻いた。


――白峰。


夕日が。

沈んでいった。


灰色の平原が。

闇に包まれた。


その闇の中で。


俺の目に。

赤い光が。

灯った。


メフィラの、黒い霧の光。


けれど。


その赤い光の。

さらに奥の奥で。


胸の奥の。

針の先ほどの。

金色の光が。


まだ。


かろうじて。


燃え残っていた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆








同じ夜。

永遠に夜の明けぬ谷の底の。

魔王城の黒い玉座の足元で。


結城遥は。

膝を抱えて。

座っていた。


周りの黒い霧の中で。

無数の赤い目が。

蠢いていた。


その黒い霧が。

三百年前より。

ずっと。

ずっと。

濃くなっていた。


胸の空洞の縁の。

金色の灯の欠片が。

三百年前より。

ずっと。

ずっと。

小さくなっていた。


遥は。

その灯の欠片を。

骨のような指で。

そっと。

包み込んでいた。


消えないように。


三百年。

ずっと。


この欠片で。

古き魔を抑え込んできた。


この欠片で。

凍えた鴉の雛を、温めた。

群れを追われた、オーガの子を温めた。

氷の巨人の、迷い子を温めた。


グラズ。

ザハル。

ヴォルグ。


みんな。

逝ってしまった。


――灯の候補に、屠られて。


けれど。


遥は。

彼らの最期を。

知っていた。


胸の灯の欠片を、通して。

感じていた。


グラズが最後に、「灯を持つ者、三百年ぶりだ」と言ったこと。

ザハルが最後に、「あの方に分けてやってくれ」と言ったこと。

ヴォルグが、最後に、「あたたかい」と言ったこと。


――みんな。


最期に。

温かいものに、触れて。

逝った。


遥の黒い目から。

涙が。

一筋。

こぼれた。


「……灯の候補」


遥の唇が。

掠れた声で。

つぶやいた。


胸の灯の欠片が。


ふと。


震えた。


遠くから。

遥か、遠く。

南の平原の果ての。

北の砦の城壁の上から。


何かが。

届いていた。


温かい。

大きな。

大陸じゅうの、たくさんの、たくさんの、人の想いを、重ね合わせたような。


――灯。


遥の胸の灯の欠片が。

その遠い灯に。

呼応するように。


ほんのわずかに。


大きくなった。


「……来たんだね」


遥は。

膝を抱えたまま。

南の闇の向こうを。

見つめた。


「……ハルト、っていうんだっけ」


遥の唇が。

寂しそうに。

けれど、どこか。

懐かしそうに。

笑った。


「……僕と似た名前だね」


黒い霧の中で。

赤い目が。

一斉に。

ざわめいた。


遥は。

その霧を。

見ないふりをした。


ただ。

胸の灯の欠片を。

両手で。

そっと。

包み込んで。


小さく。

掠れた声で。


歌い始めた。


夕焼けの空と。

帰り道と。

家族の待つ家の。


あの、古い童謡を。


三百年前に。

誠と詩織と蒼と。

四人で。

旅の途中の、焚き火を囲んで。

歌った。


あの歌を。

第60話までお読みいただき、ありがとうございます。

この回は、第1話から、ずっと、書きたかった場面の一つでした。


次回からはいよいよ北の砦の攻防戦。

二万の魔王軍と、黒き勇者・志賀。

そして、その先の夜の明けぬ谷へ。

物語は、最終局面へと進んでいきます。

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