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【最終章突入】職業「勇者」って言われたのですが、一緒に転移した同級生いわく違うらしい ~正しい職業を知りたい今日この頃~  作者: 有馬 茶
第1部 ~新たな出会いと別れ~

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第19話「首輪が千切れる日」

「――罠だな」


作戦室で、 古賀の羊皮紙に目を通したガルドさんは、 開口一番、 そう言った。


「グラズの本陣の守りが手薄だと? 三日間、 一歩も動かずに、 王都を眺めていた奴がか?」

ガルドさんは、 羊皮紙を、 卓の上に置いた。


「あの魔将は、 灰色峡谷で、 橋が落ちる寸前まで、 俺たちを追ってこなかった。

 落ちると分かっていて、 追ってこなかったんだ。

 そういう奴だ。 力任せの化け物に見えて、 頭が回る」


「……では、 遊撃隊は」

「わざと、 突っ込ませる気だろう。

  東の横腹を三日間削らせて、 調子に乗らせて、 本陣まで引き込んで、 袋の鼠にする」


作戦室が、 静まり返った。


「ガルドさん」

僕は、 卓の前に、 一歩、 進み出た。

「遊撃隊を、 助けに行かせてください」

ガルドさんが、 僕を見た。

「遊撃隊は、 騎士団の指揮を受けていない。 自分たちで選んで、 城の外に出た連中だ」

「分かっています」


「その連中を助けるために、 騎士を城の外に出せば、 城の守りが薄くなる。

 城の中には、 十万の民がいる」

「それも、 分かっています」


僕は、 拳を握りしめた。

「だから、 騎士団を動かしてほしいとは、 言いません。 僕一人でも、 行きます。

  遊撃隊の退路を開いて、 城まで連れて帰る。 それだけでいいんです」

「一人で、 一万の魔王軍の中に、 か」

「……一人では、 ありません」


作戦室の扉が、 開いた。


「――わたくしも、 参ります」

エレオノーラさんだった。

その後ろに、 ハンスさんと、 二十人ほどの騎士たちが、 並んでいた。

灰色峡谷で、 石橋の殿を務めた騎士たちだった。

「この者たちは、 志願者です。

 灰色峡谷で、 白峰殿に命を救われた者たち。

 今度は、 自分たちが、 誰かの退路を開く番だと」


ハンスさんが、 胸に拳を当てた。

「団長。 行かせてください」


ガルドさんは、 長い間、 黙っていた。

それから、 深く、 深く、 息を吐いた。

「……北東の通用門を、 夜明け前に、 一度だけ開ける。

 開いていられるのは、 わずかな間だけだ。

 遊撃隊を拾ったら、 何があろうと、 その門に戻れ。 戻れなかったら、 門は、 閉ざす」


ガルドさんは、 僕の肩を、 大きな手でつかんだ。

「坊主。 殿下との約束を、 忘れるなよ」

「はい」

「名のためには、 死ぬな。 志賀とかいう小僧のためにもだ」

「……はい。 誰のためにも、 死にません。 全員で、 帰ってきます」


胸のポケットが、 熱くなった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆








夜明け前の空は、 墨を流したように、 暗かった。


北東の通用門の内側に、 二十二騎が並んでいた。

エレオノーラさんと、 ハンスさんと、 二十人の騎士。

そして、 僕。


「――陽翔」

門の脇の暗がりから、 剛が、 大きな体を、 のそりと現した。

東門の守りを、 ほんの少しだけ抜けてきたのだという。

「俺は、 東門を離れられん。 だから、 これを持っていけ」

剛が差し出したのは、 一枚の、 小ぶりな丸盾だった。

「守備隊の予備だ。 お前の剣は、 両手で振るもんじゃない。 左手が空いてるなら、 盾を持て」

「剛……」

「壁がいないと、 お前は、 すぐに、 自分が壁になろうとするからな」

剛は、 にっと笑った。

「行ってこい。 東門で、 待ってる」


澪さんは、 来なかった。

治療院を離れられないことは、 分かっていた。

けれど、 鞍の脇の革袋の中に、 いつの間にか、 薬草の包みと、 包帯が、 きちんと詰め込まれていた。

その一番上に、 小さな紙切れが、 一枚。


『……怪我したら、 ちゃんと、 私のところに来て』


僕は、 その紙切れを、 職業札の隣に、 しまった。


「開門ッ!」


軋む音とともに、 通用門が、 細く、 開いた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




古賀の羊皮紙のとおり、 遊撃隊は、 東の森を出て、 北東の丘を越えようとしていた。


二十二騎は、 丘の東の、 浅い谷筋を、 息を殺して駆けた。

魔王軍の陣の、 外れの外れ。

夜明け前の、 魔物たちの動きが鈍る時間。

それは、 遊撃隊だけでなく、 僕たちにとっても、 同じだった。


丘の頂に、 たどり着いたとき。


東の空が、 白み始めていた。


丘の向こうに、 グラズの本陣が見えた。

巨大な天幕。

その周りに、 篝火が、 いくつも焚かれていた。

けれど、 魔物の姿は、 驚くほど、 少なかった。

天幕の前に、 オーガが数体。

その周りに、 ゴブリンが数十。

それだけだった。


そして、 その本陣に向かって、 丘の斜面を、 五十騎の一団が、 一直線に、 駆け下りていくところだった。


「――遅かった」

エレオノーラさんが、 唇を噛んだ。


先頭は、 銀色の影だった。

シロガネ。

脇腹の傷から、 血を滴らせながら、 それでも、 首輪に追い立てられるように、 走っていた。

その後ろに、 志賀。

堂島。

宇佐美。

吉岡。

古賀。

小田切。

そして、 ギルドの冒険者たち。


「グラズの首は、 俺がもらうッ!」


志賀の雄叫びが、 夜明けの空に響いた。

青と黒の光を纏った剣が、 天幕の前のオーガを、 一太刀で斬り伏せた。


本陣に、 なだれ込む。

ゴブリンたちが、 悲鳴を上げて、 逃げ惑う。


「いける……! いけるぞッ!」

志賀が、 叫んだ。

「グラズは、 どこだッ! 出てこいッ!」


そのとき。


天幕が、 内側から、 弾け飛んだ。


――オオオオオオオオオッ!


鉄角のグラズが、 そこにいた。


そして、 その咆哮に応えるように。

本陣を取り囲む、 四方の丘の稜線に。

魔物の群れが、 一斉に、 姿を現した。


オーガ。

ホブゴブリン。

黒い狼の群れ。

数百。

いや、 千を超える。


遊撃隊は、 完全に、 包囲されていた。


「――全騎、 駆けよッ!」

エレオノーラさんの声と同時に、 二十二騎が、 丘の斜面を、 駆け下りた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




本陣は、 地獄だった。


四方から押し寄せる魔物の群れに、 遊撃隊は、 なすすべもなく、 呑み込まれていった。

ギルドの冒険者たちが、 次々と、 倒れていく。


「――志賀さんに、 近づくなあああッ!」

堂島が、 狂化の赤い光を全身に纏って、 斧を振り回していた。

その目は、 もう、 敵と味方の区別がついていないように見えた。

斧の刃が、 オーガの腕を斬り飛ばし、 その返す刃が、 すぐ隣にいた冒険者の盾を、 叩き割った。


「……おかしいだろ……! なんで、 魔法が、 効かない……!」

宇佐美の放つ火の魔法が、 グラズの赤銅色の肌の上で、 ただの火の粉となって、 散っていく。


吉岡は、 もう、 いなかった。

包囲が完成する直前に、 誰よりも先に、 馬首を返していた。


そして、 本陣の中心で。


志賀が、 グラズと、 向かい合っていた。


「――うおおおおおッ!」

青と黒の光を纏った剣が、 グラズの胸元に、 叩き込まれた。

決闘で、 僕の剣を弾き飛ばした、 あの一撃。

ワイバーンの首を落とした、 あの一撃。


グラズは、 避けもしなかった。


剣が、 赤銅色の胸板に、 食い込んだ。

食い込んで、 止まった。


鉄角の魔将は、 胸元の剣を見下ろした。

それから、 志賀の顔を見た。

その赤い目に浮かんでいたのは、 怒りでも、 痛みでもなかった。


退屈、 だった。


グラズの左手が、 志賀の剣を、 刃ごと、 つかんだ。

そして、 握りつぶした。


ぱきん、 という、 乾いた音。

柄に宝石をあしらった長剣が、 その中ほどから、 二つに折れた。


「――は?」


志賀の顔から、 血の気が、 引いた。


グラズの右手の、 巨大な鉄の棍棒が、 ゆっくりと、 振り上げられた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




本陣の外れで。


小田切が、 馬から転げ落ちていた。


「ポチ! 前に出ろ! オレを守れ! 盾になれって!」

小田切が、 指を鳴らす。

首輪の紋様が、 赤く光る。

シロガネの体が、 びくりと痙攣する。


けれど、 シロガネは、 動かなかった。

動けなかった。

脇腹の傷から、 血が、 止まらなかった。

四本の脚が、 がくがくと震えていた。

銀色の毛並みは、 もう、 血と泥で、 ほとんど黒く染まっていた。


その周りを、 黒い狼の群れが、 取り囲んでいた。

低い唸り声。

むき出しの牙。

じりじりと、 輪を縮めてくる。


「なんで、 動かねえんだよ……!

 首輪、 嵌めてんだろ……!

 テイマーの従魔は、 主人の命令に、 絶対服従なんだろ……!」


小田切が、 何度も、 何度も、 指を鳴らした。

首輪の赤い光が、 明滅するたびに、 シロガネが、 苦しげに呻く。

それでも、 その脚は、 もう、 一歩も前に出なかった。


黒い狼の一頭が、 地面を蹴った。


「――ひっ」


小田切は、 シロガネを、 見捨てた。


背を向けて、 走り出した。

シロガネを、 狼の群れの中に、 置き去りにして。

自分だけが、 逃げるために。


その瞬間だった。


小田切の腰に下げた職業札が、 鈍い音を立てた。


ぴしり、 と。

まるで、 薄い氷が割れるような音だった。


職業札の表面に、 一筋の亀裂が、 走った。


亀裂は、 みるみるうちに広がり、

札に刻まれた【職業:テイマー】の文字を、 真っ二つに引き裂いていく。


文字が、 黒く、 煤けたように、 曇っていく。

そして、 その曇りの下から、 たった一言の文字が、 浮かび上がった。


【職業:なし】


テイマーの戒律。

 ――従魔との契約は、 互いの信頼で結ばれる。


二か月、 一度も信頼を結ばなかった。

首輪で縛り、 鞭で打ち、 盾として使い続けた。

そして、 最後に、 その従魔を、 見捨てた。


小田切の職業が、 剥奪された。


そして、 職業の力を失ったテイマーの首輪は。

テイマーの魔力で、 その呪いを保っていた、 隷属の首輪は。


シロガネの首で、 赤黒い紋様が、 ひときわ強く、 明滅した。

次の瞬間。


首輪が、 砕け散った。


黒い革の破片が、 夜明けの光の中に、 舞った。


シロガネが、 顔を上げた。


その金色の瞳に、 光が、 戻っていた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「――小田切ッ!」


僕は、 馬から飛び降りて、 走っていた。


小田切は、 地面に、 尻餅をついていた。

逃げようとして、 足がもつれたのだろう。

その目の前に、 黒い狼の群れが、 迫っていた。

そして、 その群れの、 少し手前に。


シロガネが、 立っていた。


首輪の外れた、 銀色の狼。

傷だらけの体で。

震える脚で。

それでも、 まっすぐに、 小田切を、 見下ろしていた。


金色の瞳に、 何が浮かんでいたのか。

怒りだったのか。

憎しみだったのか。

それは、 僕には、 分からなかった。


シロガネが、 低く、 唸った。

牙を、 剥いた。


「ひ……っ、 ひいっ……! や、 やめ……ポチ……! オレ、 お前の、 主人だろ……!」


「――シロガネ!」


僕は、 小田切と、 シロガネの間に、 体ごと、 飛び込んでいた。


剛から借りた丸盾を構える。

シロガネの金色の瞳を、 まっすぐに見る。


「……シロガネ。 待って」


シロガネの牙が、 僕の、 すぐ目の前で、 止まった。


「怒っていい。 憎んでいい。 君には、 その権利がある。

  二か月、 ずっと、 痛かったよね。 怖かったよね」


僕は、 盾を、 ゆっくりと下ろした。

「でも、 お願いだ。 ……殺さないでほしい」

シロガネの瞳が、 揺れた。

「小田切は、 もう、 罰を受けた。

 この人は、 これから、 自分のしたことと、 向き合ってもらわなきゃいけない。

 ここで死んだら、 それも、 できなくなる」


シロガネは、 長い間、 僕を見つめていた。


背後で、 黒い狼の群れが、 唸り声を上げた。

その一頭が、 地面を蹴って、 僕の背中に、 飛びかかってきた。


振り返る、 間もなかった。


銀色の影が、 僕の頭上を、 飛び越えていった。


シロガネだった。


傷だらけの体で、 宙を舞い、 黒い狼の喉笛に、 その牙を、 突き立てていた。

黒い狼が、 悲鳴を上げて、 地面に転がる。

シロガネは、 その上に着地すると、 くるりと振り返り、 残りの狼の群れに向かって、 吠えた。


――ウォオオオオオオオンッ!


夜明けの空に響き渡る、 遠吠えだった。

首輪に縛られていた二か月の間、 一度も、 上げることのできなかった声。

誇り高い、 銀牙狼の、 遠吠えだった。


黒い狼の群れが、 怯んだ。

後ずさった。

そして、 尾を巻いて、 散り散りに、 逃げていった。


シロガネは、 その背中を、 しばらく、 睨みつけていた。

それから、 ゆっくりと、 僕のほうへ、 歩いてきた。

一歩。

また一歩。

傷ついた脚を、 引きずりながら。


そして、 僕の目の前で。

シロガネは、 静かに、 座り込んだ。

銀色の頭を、 深く、 深く、 垂れた。


僕の、 前に。


「……シロガネ」

声が、 震えた。

僕は、 膝をついて、 その頭を、 両腕で、 そっと抱きしめた。

血と、 泥と、 獣の匂いがした。

その奥から、 確かに、 温かい鼓動が、 伝わってきた。

「……ごめん。 遅くなって、 ごめん。 約束、 守れたかな」


シロガネが、 小さく、 鼻を鳴らした。

その鼻先が、 僕の頬に、 そっと、 押しつけられた。


胸のポケットが、 熱くなった。

職業札を、 取り出す必要は、 なかった。

分かっていた。

この子と、 今、 何かが、 結ばれたのだと。


背後で、 かすれた声がした。


「……なんで……」


小田切だった。

地面に座り込んだまま、 呆然と、 僕と、 シロガネを、 見つめていた。

その手には、 亀裂の入った職業札が、 握られていた。

【職業:なし】。


「……なんで……テイマーでもない奴に……オレの従魔が……懐いてんだよ……」


誰も、 答えなかった。

答えは、 もう、 そこにあった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「――白峰殿ッ! 退路が、 閉じかけています!」


ハンスさんの叫び声で、 我に返った。


本陣の中心で、 エレオノーラさんと騎士たちが、 遊撃隊の生き残りを、 必死に、 囲みの外へと押し出していた。

堂島が、 狂化が解けて、 地面に倒れ伏していた。

騎士が二人がかりで、 その巨体を、 馬の背に担ぎ上げていた。

宇佐美が、 古賀に肩を貸されて、 よろよろと走っていた。


そして、 本陣の真ん中で。

志賀が、 折れた剣を握ったまま、 グラズの前に、 立ち尽くしていた。


鉄の棍棒が、 振り下ろされる。


「――志賀ッ!」


走った。

シロガネが、 僕の隣を、 並んで走った。


間に合わない。

距離が、 遠すぎる。


けれど、 胸のポケットが、 爆ぜるように、 熱くなった。


シロガネとの、 誓い。

エレオノーラさんとの、 誓い。

ガルドさんとの、 誓い。

剛との、 澪さんとの、 古賀との。

――全員で、 帰ってくる。


体が、 軽くなった。

地面を蹴る脚に、 金色の光が、 宿った。


志賀と、 鉄の棍棒の間に、 飛び込む。

丸盾を、 掲げる。


衝撃。


盾が、 砕けた。

左腕に、 骨の軋む音が、 響いた。

けれど、 棍棒は、 止まった。

ほんの一瞬だけ。

その一瞬で、 十分だった。


「――はあっ!」

エレオノーラさんの剣が、 グラズの棍棒を握る手首に、 閃いた。

シロガネの牙が、 グラズの足首に、 食らいついた。

グラズが、 わずかに、 体勢を崩した。


「志賀、 走れッ!」

僕は、 志賀の襟首をつかんで、 引きずるようにして、 走り出した。

「は、 離せよ……! エセ勇者が……! 俺は、 まだ……!」

「生きて帰るんだッ! 文句は、 その後で、 いくらでも聞くから!」


背後で、 グラズの咆哮が、 轟いた。

その咆哮には、 怒りよりも、 どこか、 愉しげな響きがあった。


振り返ると、 鉄角の魔将は、 追ってこなかった。

本陣の真ん中に立ったまま、 赤い目で、 じっと、 僕を見ていた。

灰色峡谷の、 あのときと、 同じように。


――まだだ。

――お前とは、 まだ、 だ。


その目が、 そう言っているような気がした。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆








北東の通用門が、 閉じる、 寸前だった。


二十二騎の騎士と、 遊撃隊の生き残りと、 そして、 一頭の銀色の狼が、 門の中へと、 転がり込んだ。


重い扉が、 背後で、 閉ざされた。


僕は、 門の内側の石畳の上に、 仰向けに倒れていた。

左腕が、 燃えるように痛かった。

空が、 朝焼けに染まっていた。

シロガネが、 僕の顔を、 ざらざらとした舌で、 何度も、 何度も、 舐めていた。


「……くすぐったいよ、 シロガネ」

笑った。

笑ったら、 左腕に響いて、 また、 呻いた。


遊撃隊、 五十騎。

城門に戻れたのは、 二十八騎だった。


志賀派の中で、 命を落とした者は、 いなかった。

けれど、 その日、 志賀派から、 一人の「テイマー」が、 永遠に、 失われた。


門の脇の石壁に、 小田切が、 膝を抱えて座り込んでいた。

亀裂の入った職業札を、 両手で握りしめたまま。

誰とも目を合わせず。

誰にも声をかけられず。

ただ、 銀色の狼が、 僕の顔を舐め続けるのを、 虚ろな目で、 見つめていた。

第19話をお読みいただき、 ありがとうございます。

小田切、 脱落です。


ここだけの裏話を一つ。

小田切の職業が剥奪される瞬間を、 「シロガネを見捨てて逃げた瞬間」にするか、 「シロガネに首輪で命令し続けた瞬間」にするか、 かなり迷いましたが……

最終的に、 「見捨てた瞬間」にしました。


そして、 第1話の小田切のテンプレ宣言、 覚えていらっしゃるでしょうか。

皮肉なことに、 最後に職業から「追放」されたのは、 小田切自身でした。

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