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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第83話:戦女神の誓いと、言葉を紡ぐ妖精

突き抜けるような青空と、どこまでも広がる赤茶けた大渓谷。

 完全に未知の大地へ放り出された俺たちは、強烈な乾燥した風に吹かれながら、しばらくの間、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「……ほら、だから言ったじゃないか! 報告に戻ろうって!」

「お、俺のせいか!? ザラだって『少しだけなら』ってノリ気だっただろうが!」

「私はお前が我が儘を言うから付き合ってやっただけだ!」


 最初に沈黙を破ったのは、そんな締まらない言い合いだった。

 お互いに指を差して責任をなすりつけ合った後、どちらからともなくふっと肩の力が抜け、渇いた笑いが漏れた。


「ははっ……違いない。俺の我が儘だ」

「まったく……。あの息の詰まる空気を何とかしたかったのは、私も同じだからな。同罪だ」


 笑い合うザラの顔には、フェナブから帰還して以来ずっと張り付いていた、あの暗い自責の翳りは見えなかった。

 ザラは呆れたようにため息をつきながらも、その瞳の奥にはほんの少しだけ、弾むような感情が見え隠れしている。彼女は根っからの冒険者だ。こんな得体の知れない状況下で、しかも二人きりの探索行儀というシチュエーションに、どこか血が騒いでいるのだろう。

 だが、俺には彼女のように現状を楽しむ余裕はなかった。


「さて、どうすっかねえ……」

 俺は頭を掻きながら、背後にある遺跡の金属扉を振り返った。

 扉は完全に沈黙しており、押しても引いても、魔力を流し込んでも開く気配はない。転移装置として再び起動させるための条件が全く分からない以上、ここに留まり続けるのは得策ではなかった。



 それから、二日。

 俺たちは扉の前を拠点とし、周囲の安全を確認しながら遺跡が再起動するのを待ったが、状況は何も変わらなかった。

 最も深刻なのは『水』だ。

 数時間程度のダンジョン調査のつもりだったため、俺たちの水筒には最低限の水分しか入っていない。この乾燥した荒野で、インナーバフを使って体温を調節しているとはいえ、二日も経てば水は完全に底を突く。


「……駄目だな。動こう」

 俺は決断した。

「このまま待っていても干からびるだけだ。まずは水場を確保する。遥か下の方に見えるあの川まで降りよう」

「分かった。念のため、扉の前にメッセージを残しておこう」


 俺たちは手持ちの羊皮紙に『水を求めて谷底へ向かう。安全を確保次第、ここへ戻る』と共通語で書き記し、石で飛ばないように固定した。

 そして、急勾配の岩肌を慎重に下り、遥か下方に見える蛇行した大河を目指して歩き出した。



 渓谷の底へ降りる道程は、想像以上に過酷だった。

 崩れやすい赤土と、容赦なく体力を奪う直射日光。俺とザラは無言で歩き続け、半日かけてようやく谷底の川辺へと辿り着いた。

 水は赤土が混じって濁っていたが、この際贅沢は言っていられない。俺は水筒に水を汲み、魔力で簡易的な濾過を行ってから、互いに喉を潤した。


「……生き返るな」

「ああ。だが、周囲が開けすぎている。長居は無用だ」


 ザラが鋭い視線を周囲に向けた、その時だった。


 ドドドドドドッ!


 地響きのような足音が、川の上流から急速に近づいてくる。

 俺とザラが弾かれたように立ち上がり、武器に手を掛けると、土煙の向こうから三つの影が姿を現した。


「馬……じゃないな」


 それは、前世の記憶にある『ヴェラキラプトル』のような、二足歩行の巨大な爬虫類だった。

 そして、その恐竜のような獣の背には、手綱を握る『人間』が跨っていた。


「人族か……! だが、見慣れない装束だな」

 ザラが低く唸る。

 ノキア王国の人間は、北欧とラテンが混ざったような彫りの深い顔立ちが多い。アマテラスからの移民は日本人に近い。だが、目の前に現れた三人組は、赤褐色の肌に独特の文様をペイントし、鳥の羽をあしらった革の防具を身に纏っていた。まるで地球のネイティブアメリカンのような風貌だ。


 彼らは俺たちを見つけると、騎獣の速度を緩め、扇状に展開してこちらを包囲するような陣形を取った。

 明らかな警戒態勢だ。だが、いきなり攻撃してこないということは、意思疎通の余地があるかもしれない。


「待ってくれ! 俺たちは敵じゃない! 道に迷っただけだ!」

 俺は両手を上げ、敵意がないことを示しながら『共通語』で叫んだ。

 だが、彼らは怪訝な顔を見合わせるだけだ。


「通じないのか……? じゃあ、これでどうだ」

 俺は言語を切り替え、『アマテラス語(日本語)』、さらには魔導書などに使われる『古代語(ラテン語)』で次々に語りかけた。

 しかし、どれだけ言葉を尽くしても、彼らの表情は険しくなるばかりだった。


 やがて、三人組の一人が、俺の隣に立つザラを指差し、ひどく攻撃的な、あるいは侮蔑を含んだような声で何かを叫んだ。

 その視線は、異物を見るような明らかな『殺意』に満ちていた。


「来るぞ、ケント!」

 ザラが背中の大剣を引き抜く。

 三人組が一斉に奇声を上げ、騎獣の腹を蹴った。恐竜のような獣が強靭な脚力で跳躍し、鋭い槍を構えた賊たちが頭上から襲いかかってくる。


「っ……!」

 俺は腰の剣に手を掛け、インナーバフの魔力を練り上げた。

 相手の速度は速いが、俺の反応速度なら造作もなく迎撃できる。槍の軌道を読み、すれ違いざまに首を刎ねるか、あるいは『爆鳴気』で騎獣ごと消し炭にするか。

 迎撃のシミュレーションは完璧だった。


 だが。

 剣を抜こうとした俺の手に、ゾクリと、ひんやりとした感触が走った。


『一生、こびりつくわね』


 脳裏にフラッシュバックしたのは、血に染まったコーレルの唇と、俺の首筋に押し付けられた生温かい体温だった。


(……待て。本当に、殺していいのか?)


 剣を抜く直前、俺の思考に致命的な『躊躇い』が生じた。

 彼らは言葉が通じないだけで、この土地のルールに従って動いているだけかもしれない。俺たちが彼らのテリトリーを侵犯したせいで、彼らは家族や仲間を守るために戦っているのではないか。

 コーレルのように、俺の知らない『悲しい理由』があって、武器を取っているのではないか。


 自分が振るう暴力の正当性に、疑いを持ってしまった。

 かつてなら、「俺に殺意を向けたから」という一点だけで、息をするように命を刈り取っていたはずの俺の身体が、金縛りに遭ったようにピタリと硬直した。


「ケントッ!?」


 俺の異常に気づいたザラが、悲痛な声を上げた。

 迫り来る槍の穂先が、俺の眼前に迫る。動けない。体が、どうしても剣を抜くことを拒否している。


 次の瞬間、轟音と共に、突風が俺の横を駆け抜けた。

 凄まじい踏み込みで俺の前に割り込んだザラが、大剣を下段から跳ね上げるように振り抜いた。

 刃が空気を切り裂く音。

 それと同時に、俺を串刺しにしようとしていた賊の身体が、騎獣の首ごと真っ二つに両断され、鮮血を撒き散らしながら地面に叩きつけられた。


「グギャァァァッ!」

「ナ、アォッ!?」


 残る二人が仲間の死に驚愕し、体勢を崩す。

 歴戦の冒険者であるザラが、その隙を見逃すはずがなかった。

「ハァッ!!」

 流れるようなステップで二人目の懐に潜り込み、大剣の腹で槍を弾き飛ばすと同時に、逆刃で胴体を一刀両断する。そのままの勢いで独楽のように反転し、三人目の胸ぐらを掴んで引きずり下ろすと、何の躊躇いもなくその喉元に剣を突き立てた。


 瞬きをする間の、一方的な惨劇。

 血だまりの中で、三人の賊と騎獣は完全に息絶えていた。


「……ケント。無事か」

 血糊を振り払いながら、ザラが静かに振り返った。

 その瞳に非難の色はなかった。ただ、深く、張り裂けそうなほどの悲哀が満ちていた。


 ザラは理解したのだ。

 自分がフェナブでコーレルを背後から刺した結果、ケントの心にどれほど深く、そして致命的な『呪い』を刻み込んでしまったのかを。

 どんな絶望的な状況でも決して揺るがず、敵を排除してきたあの『狂犬』が、見知らぬ賊の一人も殺せなくなってしまった。他人の痛みを想像しすぎた結果、生きるための暴力すら振るえなくなってしまった。


 呆然と立ち尽くす俺を見て、ザラは強く奥歯を噛み締めた。


(私が、彼を壊してしまった。……なら)


 彼女は血塗られた大剣を背に収め、一歩踏み出して、震える俺の肩を力強く抱き寄せた。


(私が、必ずお前を生かして帰す。どんな手を使っても、私がすべての血を被ってでも、お前をノキアに帰してみせる)


 戦女神としての、静かで、しかし絶対的な誓いだった。

 俺はザラの温もりに触れて、ようやくハッと我に返った。


「……すまない、ザラ。俺は……」

「何も言うな。お前は少し疲れているだけだ」

 ザラは優しく俺を突き放すと、手早く周囲の警戒を再開した。


 己の不甲斐なさと、ザラにこれ以上の重荷を背負わせてしまったことに、猛烈な自己嫌悪が込み上げてくる。

 俺は気を紛らわせるように、主を失ってパニックを起こしている生き残りの騎獣《恐竜》へと近づいた。インナーバフの魔力を極限まで落とし、敵意がないことを伝えながら首筋を撫でると、恐竜は次第に落ち着きを取り戻し、低い声で喉を鳴らした。


「よし、いい子だ。……ん?」


 恐竜の背に固定された荷物の中に、奇妙なものがあるのに気づいた。

 木と蔦を編んで作られた、鳥かごのような小さな入れ物。

 その中を覗き込んだ俺は、思わず目を見張った。


「ザラ、これを見ろ。人が……いや、違うな」


 かごの中で気絶していたのは、体長十センチほどの、美しい少女の姿をした『何か』だった。

 背中には透明な羽が生えているが、その羽は刃物で残酷に半分ほど切り落とされていた。

 妖精だ。御伽噺の中でしか聞いたことがない存在が、無惨な姿で捕らえられていた。


「ひどい熱だ。衰弱している」

 ザラが駆け寄り、顔をしかめた。

 俺たちは賊の持ち物から革袋に入った水筒を見つけ出し、かごから取り出した妖精の顔に、慎重に少量の水を垂らした。


 数秒後。

 ピクリ、と妖精の長い睫毛が震え、その目がゆっくりと開かれた。

 彼女は俺たちの顔を見ると、ビクッと身体を震わせ、本能的に逃げようと背中の羽を羽ばたかせた。だが、切り取られた羽では飛ぶことができず、不格好に地面へ転がり落ちてしまう。


 怯える妖精を見て、ザラが膝をつき、極めて穏やかな声で語りかけた。


「大丈夫。誰も傷つけないよ」


 それは、言葉が通じなくとも伝わるようにと願った、ザラなりの最大限の優しさだった。

 だが、その『共通語』を聞いた瞬間、妖精の動きがピタリと止まった。

 怯えていたはずの表情が、どこかポカンとした、拍子抜けしたようなものに変わる。


 彼女は首を傾げ、高く澄んだ声で、はっきりとこう言った。


「貴方達は、ヤーマン族ではないの?」


 俺とザラは、雷に打たれたように固まった。

 今、この妖精は俺たちの言葉を理解し、そして俺たちが使っている『共通語』で返答してきたのだ。

 言葉が通じた。その奇跡のような事実に、俺たちが安堵と驚愕で言葉を失っていると、妖精は俺たちの切実なテンションなどお構いなしに、のほほんとした口調で付け加えた。


「……ヴェレツケール語?」

【おしらせ:唐突に新連載始めました!】




いつも本作を応援いただき、本当にありがとうございます!


このたび、箸休めな新作を立ち上げてしまいました!




『おっさん、異世界で魔法を覚える。そして嫁連れて帰ってきちゃった。昭和に…』


https://ncode.syosetu.com/n5921mi/




100年分の魔法と最愛の嫁を抱えたおっさんが、1980年代の日本や世界をのんびり(時に過激に)謳歌する、気ままな逆転帰還ファンタジーです!


本作の更新の合間に、ぜひこちらの夫婦漫才も覗きに来てやってください!

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