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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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閑話:異世界の神社と、ストライクゾーン高めの伯爵様

アマテラスとノキアの正式な国交樹立、そして軍事・技術交流という歴史的な合意がなされた翌日。

政庁の内部は、実務を取り仕切る両国の文官たちによって、まさに戦場のような忙しさとなっていた。条約の細かな文言の調整、関税の取り決め、派遣する暗部や教導部隊の人数とスケジュールのすり合わせなど、山積する課題を前に怒号に近い議論が飛び交っている。


「……よし。俺の仕事は完全に終わったな」


書類の山と格闘する文官たちを尻目に、俺は早々に政庁を抜け出すことにした。

大枠の交渉という一番面倒な泥被りは終わらせたのだ。あとの細々とした実務は、専門家である彼らに任せておけばいい。


「ザラ、セリーナさん、レナ。少し外の空気を吸いに行こうぜ。気晴らしだ」


俺が声をかけると、退屈そうに壁際で待機していた三人の顔がパッと明るくなった。

護衛としてアマテラス側が何人かの武士をつけてくれたが、彼らには行き先だけを告げて、少し離れた位置をついてこさせることにした。


向かった先は、以前この街を訪れた際に立ち寄った『神社』である。


血生臭い陰謀が渦巻いていた政庁周辺とは打って変わって、神社の周囲には静寂と澄んだ空気が満ちていた。

石造りの大きな鳥居の前で立ち止まり、俺は背後をついてきていたアマテラスの武士たちに声をかける。


「あんたたちはここで待っていてくれ。神域に大人数で踏み込んで、物々しい空気を持ち込みたくないんでね」

「ハッ。承知いたしました。我らはこの鳥居の外にて警護にあたります」


武士たちが深く頭を下げるのを確認し、俺は三人だけを連れて境内へと足を踏み入れた。


玉砂利を踏む音が、静かな空間に心地よく響く。

風に揺れる木々のざわめきと、どこからか漂ってくる線香のような清浄な香り。以前と変わらぬその雰囲気に、俺は自然と肩の力が抜けるのを感じていた。


「へえ……。ノキアの教会とは、随分と造りが違うんだねえ。なんだか木組みが独特というか……」

「ええ。それに、とても静かで心が落ち着く場所ね。不思議な空気だわ」

「あそこにいる白と赤の服を着た女の人たち、すごく綺麗な衣装ですね!」


ザラ、セリーナさん、レナの三人は、珍しそうに周囲の建築物や、境内を歩く巫女たちの姿を眺めている。

俺は以前面会したことのある初老の宮司と、顔見知りの巫女たちに軽く挨拶を交わし、ノキアの金貨でたっぷりと寄進を済ませた。宮司は深々と頭を下げて感謝の言葉を述べていた。


そのまま拝殿の前に進み出ると、俺は三人を振り返って手招きした。


「せっかく来たんだ。お前らも神様に挨拶していけよ」

「えっ? でも旦那、アタシらここのお祈りのやり方なんて知らないよ?」

「私が教える。見様見真似でいいから、合わせてやってみな」


俺は拝殿の前に立ち、賽銭箱に硬貨を投げ入れると、姿勢を正した。

深いお辞儀を二回。

胸の前で両手を合わせ、パン、パンと二回、柏手を打つ。

そのまま静かに目を閉じて祈りを捧げ、最後に深く一回お辞儀をする。

――二礼二拍手一礼。日本の神社の、最も基本的な作法だ。


三人は俺の動きを不思議そうに見つめながらも、隣に並んで不器用にお辞儀をし、ペチ、ペチと小さな音で手を叩いて、見様見真似で祈りを捧げていた。


お参りを済ませて拝殿から離れると、レナが小首を傾げて尋ねてきた。


「……ねえ、ケント様。どうしてケント様は、こんな遠く離れた異国の宗教の、あんなに複雑な作法を完璧に知っているんですか?」


その純粋な疑問に、俺は少しだけ足を止めた。

見上げた空はどこまでも青く、木漏れ日が眩しい。

俺は少しだけ空を見て考えた後、無言で微笑みながら、境内の端にある大きな御神木の木陰――そこに置かれていた縁台へと三人を誘った。


「まあ、座れよ。……ちょうどいい機会だ。お前たちには、ちゃんと話しておきたかったしな」


縁台に腰を下ろし、俺は三人の顔を順番に見渡した。


「なあ、お前たち。今、首や耳に『翻訳の魔導具』をつけてるだろ?」


俺の言葉に、三人は自分たちの首元や耳元を触った。


「ええ。ノキアを出発する前に支給された、帝国製のネックレスね」

「帝国は現在進行形でアマテラスとガッツリ交易してて、新型銃の生産までさせてるからな。帝国の商人たちの間じゃ、この『大陸共通語』と『アマテラス語』の二カ国語だけを翻訳する魔導具がかなり普及してる。今回の国交樹立のために、ノキアが帝国からまとまった数を買い上げてお前たちに配ったわけだ」

「はい。これのおかげで、アマテラスの人たちの言葉が私たちの言葉として聞こえますし、こちらの言葉も向こうに通じています」


レナが頷くのを確認し、俺は自分の首元を開き、両耳を指差して見せた。


「だが、見ての通り、俺はそんな魔導具を一切つけていない。」

「えっ……? じゃあ、なんで旦那は普通にアマテラスの連中と会話できてるんだい?」


ザラが目を丸くする。俺は軽く息を吐き、静かに真実を口にした。


「このアマテラスという国は、今から三百五十年ほど前に、別の世界にある『日本』という国から飛ばされてきた人間たちが作った国だそうだ。……そして俺は、前世でその『日本』という国で生きていたんだよ」


風が吹き抜け、御神木の葉がザワザワと揺れた。

ザラとレナは、あまりの衝撃に口を半開きにして固まっている。

俺が前世の記憶を持っていることを以前から知っていたセリーナさんも、その具体的なルーツを聞くのは初めてであり、真剣な眼差しで俺の言葉に聞き入っていた。


「俺がいた『地球』っていう世界には、魔法なんて便利なものは一切なかった。その代わり、人間が自らの頭脳で発展させた『科学』という技術があったんだ。……レナ、お前に教えた『爆鳴気』の魔法の作り方。あれに使った水素や酸素という概念も、前世の科学の知識だ」

「あ……っ! あの、とんでもない威力の魔法の……!」

「そうだ。それから、昨日当主のオッサンを治療しただろ? あれも前世の医学の知識だ。俺のいた日本じゃ『心筋梗塞』っていう病気は割とメジャーでな。働きすぎのストレスや食生活の乱れなんかで、心臓の血管が詰まって死にかける人間がごまんといた。だから、症状を見ればすぐに原因が分かったんだよ」


俺は懐かしむように、前世にあった様々なものを三人に語って聞かせた。

空を飛ぶ巨大な鉄の塊、遠く離れた人間と一瞬で会話できる小さな板、夜でも昼間のように明るい街並み。魔法がなくても、人間が知恵と工夫で築き上げた途方もない文明の話。


三人は時折感嘆の声を上げながら、俺の荒唐無稽な話を、一切疑うことなく聞いてくれた。

これまでの俺の『常識外れの知識』のすべての辻褄が合ったからだろう。


だが、話が一段落したところで、ザラがふと俯いた。

いつもの豪快で自信に満ちた彼女らしくない、ひどく弱々しく、何かを恐れているような声だった。


「……旦那は」

「ん?」

「旦那は……本当は、その『日本』って所に、帰りたいのかい……?」


ギュッと拳を握りしめ、不安そうに俺を見つめるザラの瞳。

セリーナさんもレナも、同じように不安げな表情を浮かべていた。別世界から来た得体の知れない存在である俺が、いつか自分たちの前から消えてしまうのではないかという恐怖。


俺は以前、この神社を一人で訪れた時に思ったことを、そのまま素直に言葉にした。


「帰りたいわけないだろ。俺は確かに前世の記憶を持ってるが、間違いなくこの世界で生まれ育った『ノキアのケント』だ」


俺は笑って、三人の顔を見渡した。


「それに、こんなにいい女たちが俺のそばにいてくれるのに、今更、仕事しすぎて過労死したバツイチの社畜になんて戻りたくないしな」


俺の言葉に、ザラの顔にパッと安堵の笑みが広がり、セリーナさんも嬉しそうに目元を和ませた。


「なんだい、驚かせやがって……。アタシはまた、旦那が遠くに行っちまうのかと思ったじゃないか」

「ふふっ。私たちというものがありながら、よその世界に帰るなんて絶対に許さないわよ、ケント君」


和やかな空気が流れ、一件落着……と思ったその時。

レナが、ハッとしたように顔を上げ、俺を指差した。


「……あの、いい感じの所を本当に申し訳ないんですけど」

「なんだ、レナ?」

「さっきケント様、『バツイチ』って言ってましたよね? バツイチって、奥さんと別れたって意味ですよね? まさか、前世でお子さんがいたりとかは……」


ギクッ。

俺の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。

冷や汗がドッと吹き出し、視線が泳ぐ。


「そ、そういえば……かれこれ十五年くらい会えてない、可愛い娘が……」

「えっ」


ザラが、真顔になった。

そして、空中で指を折りながら、ぶつぶつと恐ろしい計算を始めた。


「待てよ……。旦那、前世で過労死した時は『四十三歳』だったって言ってたよね?」

「あ、ああ」

「で、今は十五歳だ。……ってことは、中身の精神年齢を足したら、旦那は今『五十八歳』ってことか!?」


ザラの絶叫が、静かな境内に響き渡る。

その瞬間、レナがポンッと手を打って、全てを納得したように明るい声を上げた。


「あーっ! なるほど! どおりでケント様が、そちらの三十路のお二方に魅力を感じるわけですね! 五十八歳のお爺ちゃんから見たら、三十代なんてまだまだ若いピチピチのギャルですも――」


ガシィッ!!


「――――ぎゃあああああああああああああっ!?」


レナの無邪気な推察は、凄まじい悲鳴によって途中で遮られた。

見れば、一切の表情を消したセリーナさんが、レナの頭蓋骨を片手で鷲掴みにし、ギリギリと恐ろしい音を立てて『アイアンクロー』を決めているではないか。


「あら? 今、何か言ったかしら、レナ? 『三十路のお二方』? 『お爺ちゃんから見たら若い』?」

「ひぃぃぃぃぃっ! イエっ! 何も言ってません! 今後も考えもしませ……イタイイタイイタイ! 頭蓋骨が割れますぅぅぅぅぅぅっ!!」


ゴリゴリと音を立てて締め上げられ、涙と鼻水を撒き散らしてジタバタと暴れるレナ。


「……あの娘も、本当にバカだねえ」


ザラが呆れたようにため息をつきながら、カラカラと笑った。

俺は苦笑しながら立ち上がり、レナの頭を砕こうとしているセリーナさんと、笑っているザラ、そして半泣きのレナを、まとめてドンッと抱きしめた。


「まあ、中身が五十八歳だろうが十五歳だろうが、俺はお前ら全員を愛してるから安心しろ」

「ちょっと旦那、苦しいよ!」

「ふふっ……もう、ケント君ったら……」

「ケント様ぁぁぁ……死ぬかと思いましたぁ……」


異世界の神社の境内で、少しだけ賑やかすぎる悲鳴と笑い声が響く。

前世の未練など、今の俺には微塵もなかった。

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