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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第67話:少年の覚悟と、憂国の真実

血と汚物の入り混じった生臭い匂いが漂う、アマテラスの政庁前。

無惨に転がる姫の護衛たちの死体と、恐怖のあまり失禁して泣き崩れるツキヒメ。そんな地獄のような光景の中心で、十歳の少年トキマルは、深々と土下座をして俺の前に命を差し出した。


「今回の件、全てはこのトキマルの責任でござれば! 咎は、私が受けるべきものでございます!」


細い肩をガタガタと震わせながらも、必死に声を張り上げる次期当主。

俺は、セリーナさんが振り下ろそうとしていた刀を手で制止すると、自身の腰から静かにミスリルの剣を抜き放った。

チャキ、と金属質の冷たい音が響く。


「……お前が罪を負うということは、こうして『死ぬ』ということだが?」


俺は無感情な声と共に、抜いたミスリル剣の切っ先を、土下座するトキマルの細い首筋にピタリと当てた。

冷ややかな刃の感触に、トキマルの体がビクッと跳ねる。


「な、何卒ご容赦をっ! トキマル様はまだ十歳の幼子!」

「代わりに、代わりにこの拙者が腹を切りますゆえ!」


アマテラス側の家老カツナリや武士たちが、血相を変えて叫び声を上げる。

ノキア側の文官たちも、予想外の事態に慌てふためいていた。


「閣下! いくら何でも、あんな幼子が土下座して命乞いをしているのです!」

「しかし、使節団が襲撃された以上、国としては責任を問わない訳にも……!」


周囲が騒然とする中、俺の後方に立つザラ、セリーナさん、そして馬車から顔を覗かせたレナの三人だけは、「あーあ」とでも言いたげな、ひどく呆れたような顔を見合わせていた。

彼女たちは、俺がこのガキを『試している』ことを完全に見抜いているのだ。

そして同時に、この少年の言葉がその場しのぎの安い自己犠牲だったなら、俺が年齢など関係なく、一切の躊躇いなしに本当にその首を刎ね飛ばす人間であることも。


冷たい剣先を押し当てられたまま、トキマルは顔を真っ青にし、歯の根を合わしてガチガチと震えていた。

だが、彼は逃げなかった。

ゆっくりと顔を上げ、俺の右半分の仮面の奥にある瞳を、真っ直ぐに見据えた。


「……拙者の首で、刺客の件は納めていただけるなら、一向に構いませぬ」

「ほう?」

「ただ、どうか……我が国との国交を結んでいただけますよう、伏してお願いいたしまするっ!」


涙目で鼻水を垂らしながら、それでも一国の未来を背負おうとする小さな覚悟。

俺はふっと息を吐き、トキマルの首からスッと剣を外した。


「よし、良い覚悟だ。お前の首は、ひとまず預けとく。……それに、あのバカな姫も、まずは殺さないでおいてやる」

「あ……っ」


呆然とするトキマルの腕を掴んで強引に立ち上がらせると、俺は生活魔法の『クリーン』を発動させた。

淡い光が少年の体を包み込み、土下座で汚れた衣服や、顔についた泥と涙が一瞬にして綺麗に拭い去られる。


(……あー、あれは完全に気に入ったわね)


背後から、ザラたちのそんな呆れ混じりの心の声が聞こえた気がしたが、俺は無視して剣を鞘に納めた。


「立て、家老殿。まずは中で話をしよう。ノキアはアマテラスとの国交樹立の正式な手続きに同意する」




政庁の奥、重厚な造りの広間。

外の死体や血溜まりはアマテラスの武士たちが急いで片付け、場には一応の落ち着きが戻っていた。

長机を挟んで、ノキア側の外交官と、アマテラス側の実務官たちが向かい合う。国交の手続き自体は、互いの利益が一致していることもあり、トントン拍子で進んでいった。


問題は、俺に対する『刺客問題』の落としどころだ。


「我が国の全権大使に対し、王族が暗殺を企てた事実は極めて重い。莫大な賠償金と、海府の港の租借権を要求する!」

「そ、それはあんまりな……っ! 港の租借など呑めるはずがござらん!」


ノキアの文官が強気に出ると、アマテラス側が顔を真っ赤にして反発する。

そんな堂々巡りの外交カードの切り合いを、俺は机を軽く叩いて制止した。


「双方、一旦落ち着け。賠償だの租借だのといった話は後だ。家老殿、俺はまず、そっちの当主の病状について詳しく聞かせて欲しい」

「……当主様のご病状、ですか?」


家老カツナリが怪訝な顔をする。

俺は文官たちをその場に残し、カツナリと、当主の弟であるヨシモリ、そしてトキマルと、綺麗に着替えさせられたがすっかり魂が抜けているツキヒメの四人を連れて、別室へと場所を移した。




人払いがされた静かな和室。

俺が座布団に胡座をかいて促すと、家老カツナリは重い口を開いた。


「当主であるヨシハル様が倒れられたのは、今から一年ほど前のことになります。政務の最中、急に胸を強く押さえて、その場に崩れ落ちられました」

「胸を押さえて……。その後は?」

「はい。一命は取り留めたものの、それ以来、少し動いただけで激しい息切れが起こり、体を起こすのも辛い状態が続きました。……そして最近では、ほぼ昏睡状態に陥られており、いつ亡くなられてもおかしくない状況でございます」


なるほど。俺は前世の知識を脳内で検索し、おおよその見当をつけていた。

俺は次に、カツナリと、横で沈痛な面持ちで座っている大柄な武士――伯父のヨシモリに向き直った。


「なあ、お前たち。さっき表で見た限り、あのトキマルってガキは、年齢の割に随分と肚が据わってるじゃないか。なんでお前たちは、あいつをそのまま当主に据えずに、わざわざヨシモリを後見人にしようと揉めてるんだ?」


俺の率直な問いに、カツナリとヨシモリは顔を見合わせた。

やがて、ヨシモリが低く、覚悟の決まった声で答えた。


「大使殿。我らとて、トキマルの器は微塵も疑っておりませぬ。通常の状態であれば、喜んでこの子を当主として支えました。……だが、今は状況が違います」

「状況?」

「兄上が倒れられてから、海を隔てた仮想敵国である『シン』の工作が、あまりにも激しくなっているのです」


ヨシモリの視線が、部屋の隅で小さく縮こまっているツキヒメへと向けられる。


「現に、ツキヒメの周辺にはシンの工作員の影がちらついておりました。国内の有力な国人たちも浮き足立っており、この引き締めを行うには、まだ十歳のトキマルには荷が重すぎるのです」


カツナリが、ヨシモリの言葉を引き継ぐ。


「シンの工作員を炙り出し、これに内通する者たちを容赦なく処刑せねば、アマテラスは内側から崩壊します。しかし、幼いトキマル様にそのような血塗られた決断を下させ、国内の憎しみを集めさせるわけにはいかぬのです」

「……なるほどな」


俺は合点がいった。

ヨシモリが後見人として権力を握ろうとしていたのは、野心などではない。

自らがすべての泥を被り、反対派を粛清する『悪役』を引き受けるためだ。国をまとめるためのヘイトを、一身に背負うつもりだったのだ。


「実際に、ツキヒメ様はシンの工作員と密会し、恐ろしい約定を交わそうとされておりました。……アマテラスの領内にシンの治外法権を認める『租界』を与える代わりに、トキマル様を当主にし、自分たちを支援しろ、と」


租界。つまりは、他国に自国の領土の一部を切り売りする完全な売国行為だ。

その事実を知ったカツナリたちは、国を守るために泣いて馬謖を斬る覚悟で、海府へ向かった姫の暗殺を試みたのだ。それを俺とシャルが偶然吹き飛ばしてしまった


「もし、シンとの間で本格的な戦になれば、残念ながら現在のアマテラスでは勝てぬと見ております」

「……だから、戦になった時は後見人であるあんたが総大将として前線で盾になり、その間にトキマルを逃がす算段だったってわけか」


俺の言葉に、ヨシモリは静かに首肯した。

どこまでも不器用で、哀しい忠義だった。


俺は部屋の隅でガタガタと震えているツキヒメを冷たい目で見下ろした。


「おい、お前。シンに租界なんてものを与えたら、そこを軍事的な橋頭保にされて、最終的にアマテラス全体が植民地にされると思わなかったのか?」

「…………っ」


ツキヒメはビクッと肩を跳ねさせ、顔を伏せた。

そして、政庁の前でザラとセリーナに一方的に蹂躙され、自分たちの誇る武士たちが赤子のように殺されていった凄惨な光景を思い出したのか、消え入るような小さな声で呟いた。


「……もしシンが裏切っても……我らが誇る、侍が負けるわけなかろうと、思ったのじゃ……」


典型的な、井の中の蛙。自分たちの武力が絶対だと信じて疑わない、無知ゆえのお花畑思考だった。

だが、その幻想は俺たちノキアの使節団によって、たった数分で粉々に打ち砕かれたのだ。


重苦しい沈黙が落ちた部屋の中で、静かに顔を上げたのはトキマルだった。


「姉上。……私を当主にするために動いてくださったお気持ちは、嬉しいです。ですが、我らが国を内から乱して、他国に売り渡しては本末転倒でございます」

「トキ、マル……」

「カツナリ、伯父上。ここは伯父上に正式に家督を継いでいただきましょう。そして、我ら姉弟の身は、大使殿の預かりとしてお任せいたします」


自ら人質になると言い出したトキマルの言葉に、カツナリもヨシモリも慌てて身を乗り出した。


「な、なりませぬトキマル様! あなた様ほどの器を持った方を、他国へ追いやるなど!」


必死に引き止めようとする大人たちを、俺はパンッと手を叩いて制止した。


「まあ、待て。誰が当主になるか、誰が人質になるか……そんな悲壮な決断を下すのは、まだ早い」


俺は立ち上がり、呆然とするカツナリたちに向かって、口角を吊り上げた。


「よし、とりあえず今の当主に会わせてくれ。――ひょっとしたら、俺が治療できるかもしれん」

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