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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第63話:全権大使の特訓と、サイコな愛の形

 鉄と炎の街『クニトモ』でのスカウト任務を大成功で終えた俺たちは、異種族の天才職人である二代目『鬼重』の椿と、エルフの鉄砲鍛冶『豊和』の移住手配を済ませると、再び港町『海府』へと戻ってきた。


 海府の巨大な港には、俺たちの到着とほぼ同じタイミングで、ノキア王国から派遣された『第二陣』を乗せた大型船が停泊していた。

 続々と下船してくるのは、武装した兵士たちではない。パリッとした礼服に身を包んだ外務官僚たち、大量の公文書を抱えた文官、そして今後の国交樹立に向けた実務を取り仕切る実務官たちだ。


「お待ちしておりました、ヴォルガン伯爵閣下」


 船から降りてきた外務の筆頭官僚が、俺の姿を認めるなり、周囲の目を気にするように深く、恭しく頭を下げた。

 そう、今回の俺のアマテラス訪問は、単なる職人探しや武者修行のお忍び旅行ではない。

 この東の島国『アマテラス』と、ノキア王国との正式な国交樹立。そして、海府に領事館、王都であるトキに大使館を開設するための特命を帯びた『全権大使』としての公式な任務なのだ。


「ご苦労だったな。航海の長旅、疲れただろう」

「とんでもございません。閣下がすでに下交渉と根回しを進めてくださっているおかげで、我々も安心して任に就けます」


 俺は十四歳の少年の顔から、完全に「交渉を制する大人の為政者」の顔へと切り替えていた。

 官僚たちに指示を出し、海府の一等地に領事館の拠点となる巨大な屋敷を借り上げる。資金はルミナス侯爵から預かっている国家予算も潤沢にあるため、値切り交渉すらせずに札束で頬を叩いて最上級の物件を押さえた。


 そして、アマテラスの王都『トキ』の政庁へ向けて、ノキア王国全権大使の到着を知らせる「先触れ」を早馬で出す。

 相手国からの正式な入京許可と護衛の迎えが来るまでの約一週間、俺たちは海府の屋敷で待機することになった。


「さて、と。堅苦しい仕事は文官たちに任せるとして……みんな、ちょっと裏庭に集合な」


 到着した翌日。

 俺は屋敷の裏庭に、ザラ、セリーナさん、そしてメイドのレナの三人を呼び出した。


「どうしたんだい、ケント。王都へ向けての護衛の打ち合わせかい?」

「いや、特訓だ。この一週間で、お前たちに『新しい戦い方』を叩き込む」


 俺の言葉に、セリーナさんが小首を傾げた。


「新しい戦い方……。櫻師範の道場でも見たけど、この国の人たちはインナーバフと魔法の射出を当たり前のように使ってくるわ。それに対抗するための技術かしら?」

「その通り。アマテラスの武力はノキアの常識を超えてる。いくらお前たちが強くても、純粋な身体能力の強化と遠距離からの魔法射出を同時にやられたら、遅れを取る可能性があるからな」


 俺は地面に木の枝で、簡単な図を描いた。


「まず、俺が使ってる『爆鳴気』の仕組みから教えようとしたんだが……」


 俺は前世の化学知識を総動員して、「水は水素と酸素でできている」「それを分離して混ぜ合わせ、断熱圧縮で起爆する」という理論を、できるだけ噛み砕いて三人に説明してみた。

 だが、十分後。


「……すまない、ケント君。水の中に燃える気体と、燃やす気体が同居しているという概念が、どうしても頭で理解できないわ……。水は水を消すものでしょう?」

「アタシもさっぱりだ。水が爆発するって、酒の飲み過ぎで頭が痛くなるのとは違うんだろ?」

「ケント様が賢すぎるのですわ……私にはお茶を淹れる水しか想像できません……」


 見事に全滅だった。

 分子や元素といった基礎的な科学知識がない異世界人に、水素と酸素の概念を理解してイメージさせるのは、やはり不可能に近かった。魔法は明確な「イメージ」がなければ発動しないため、原理が理解できなければ爆鳴気は使えない。

 逆に無条件に俺の言ったことを心から信じられる、シーナやシャルがおかしいのだ。


「まあ、これは想定内だ。だから、もっとシンプルで、物理的で、かつ『えげつない』戦い方を教える」


 俺は木の枝を放り捨て、ニヤリと悪どい笑みを浮かべた。


「アマテラスでも土や水は塊にしてぶつける。風は刃にして斬るか、吹き飛ばす。それが魔法の常識だろ? でも、殺し合いにおいて大事なのは威力じゃない。『相手の嫌がることをする』ことだ」


 俺はザラを相手に立たせ、実演を始めた。


「たとえば土魔法。大きな岩を出す必要はない。相手の顔の周辺の座標に、微細な『土埃』をフワッと発生させるだけでいい」

「んっ……けほっ!?」


 ザラが突然咳き込み、目を擦った。


「このように、視覚と呼吸を阻害するだけで、どんな達人でも絶対に隙ができる。水魔法も同じだ。相手の足元の地面の水分を操作して、踏み込む瞬間に薄い氷や泥濘を作って『滑らせる』。あるいは、靴底と地面の間に水を挟んで摩擦をゼロにする」


 俺が指を鳴らすと、ザラが踏み込もうとした足がツルンと滑り、バランスを崩して尻餅をついた。


「いてっ! ……なるほど、直接攻撃しなくても、こりゃあ嫌な戦法だね」

「だろ? 風魔法なら、相手が息を吸い込む瞬間に、口元の空気を吸い出してしまうとか、逆に強風を喉に叩き込むのも有効だ」


 俺が次々と披露する、極小の魔力で最大のデバフ(嫌がらせ)を与える戦術。

 それを真剣な顔で聞いていたザラだったが、ふと、その隻眼の瞳が遠くを見るように細められた。


「……うわぁ」


 ザラが、しみじみとした声で呟く。


「ケントに初めて会った時を思い出すわぁ……」

「初めて会った時?」


 セリーナさんとレナが、不思議そうにザラと俺を交互に見る。

 ザラは立ち上がり、苦笑しながら服の土を払った。


「ああ。ノースギルドでアタシがこいつに喧嘩売った時さ。アタシが全力で踏み込もうとした瞬間、こいつ、アタシの頭の周りの空気を完全に無くしやがったんだ。気づいたら気絶しててさ」


 ザラの言葉に、セリーナさんとレナの顔がサッと引き攣った。


「えっ……真空? それって、一歩間違えたら……」

「そうさ。気がついた時には、こいつの剣がアタシの首筋にピタリと当たってた。あの時、完全に殺されかけたんだよねー」


 ザラはケラケラと笑いながら、俺の肩をバンバンと叩いた。


「いやー、あの時はごめんごめん。俺も結構頭に血が上ってたからさ、つい本気で首落とそうとしちゃって」

「はははっ! 全く、とんでもないクソガキが来たと思ったよ! 殺されかけた男と、今じゃ夜のベッドでこうなるのがまた……笑えるよねぇ、w」

「えー、俺もあの時、殺すには惜しいイイ女だなぁって思ってたからさあ。結果オーライじゃん?(笑)」


 俺とザラが、「あの時はマジで殺し合いだったよねー!」「アハハハハ!」と、まるで昔の部活の失敗談でも語るようなテンションでキャッキャと盛り上がっていると。


「…………」

「…………」


 セリーナさんとレナが、完全に言葉を失い、ドン引きしていた。


「な、なんなのこの二人。首に剣を突きつけられた相手と、よくそんな……それって良かったりするのかしら…」

「セリーナ様、私はケント様たちの愛の形が少しだけ理解の範疇を超えてまいりましたが、有りっちゃ有りな気もします……」


 大人の色気と愛情で俺を包み込もうとしていた常識人(?)の二人は、殺意から始まる戦闘狂サイコカップルのイチャイチャを目の当たりにし、本気で後ずさっていた。


「おいおい、そんな引かないでくれよ。ほら、特訓の続きやるぞ!」


 俺の言葉に、二人は「えぇ……」と多少引きながらも、渋々木刀を構えるのだった。

 一週間の滞在で、大人女子会メンバーの戦術はよりエグく、より実戦的に磨き上げられていった。




 そして、一週間後。

 アマテラスの王都『トキ』の政庁から、正式な入京許可と護衛の役人たちが海府へと到着した。


 ここからは、国家間の正式な外交使節団としての移動となる。

 用意されたのは、豪奢な装飾が施された何台もの馬車と、アマテラスの正規の装束を纏った数十人の武士たちによる、お堅く、そして息が詰まるような大名行列だった。


「これより、ノキア王国全権大使・ヴォルガン伯爵閣下を、王都トキへとご案内仕る!」


 先導する役人の声が響き、行列がゆっくりと進み始める。

 俺は、最も豪華な作りの馬車の中で、窮屈な最高級の礼服に身を包み、深く、深いため息を吐き出していた。


「だりぃ……。マジでだりぃ……。なんでこんなにゆっくり進むんだよ……」


 馬車の窓から見える景色は、歩くのと変わらない速度でしか流れていかない。

 沿道には珍しい異国の使節団を見ようと見物人が集まっており、俺は常に「全権大使としての威厳ある態度」を保っていなければならなかった。


「我慢してくださいませ、ケント様。これも国を背負う立派なお仕事ですわ」


 向かいの席で、完璧なメイドの所作で微笑むレナ。

 護衛として外を歩くザラとセリーナさんも、緊張感を持って周囲を警戒している。


「わかってるけどさ。俺、どっちかというと裏から爆弾仕掛ける方が性に合ってるんだよなぁ」


 前世でも、こういう形式ばった接待や行事は大嫌いだった。

 俺は死んだ魚のような目で、馬車の天井を仰ぎ見た。


 アマテラスの王都『トキ』。

 そこでは、すでに一足先に到着している朧の姐さんが、俺たちのためにどんな裏工作(根回し)を完了させて待っているのだろうか。

 退屈な大名行列に揺られながら、俺はまだ見ぬ和の国の王都に思いを馳せていた。

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