第49話:死神の蹂躙と、0への帰還
第一皇子が率いる二万の増援部隊。その最後尾に迫りながら、俺とシャルは手綱を握る手に魔力を込めた。
「シャル! まずは前座だ、結界の『外』からこじ開けるぞ!」
「了解!!」
帝国軍が展開する『魔法封じの魔道具』。その効果範囲である半径百メートルの結界の、文字通り一歩手前。魔法が干渉を受けないギリギリの座標に、俺たちは前方を向いた指向性の『爆鳴気』を生成し、一気に断熱圧縮をかけた。
前世の兵器で例えるなら、二五〇キロ爆弾級の指向性爆薬。
――ドゴォォォォンッ!!
結界の外で起きた爆発の『物理的な衝撃波』が、結界の境界線を容易く突破し、最後尾の帝国兵たちを土砂ごと吹き飛ばした。
魔法そのものではなく、魔法が引き起こした純粋な物理的破壊。それに巻き込まれ、最後尾に設置されていた魔道具が粉々に砕け散る。
「な、なんだ!? 結界の中でなぜ魔法が!?」
「違う! 結界の外から爆風だけが襲ってきているんだ!!」
パニックに陥る帝国兵たち。魔道具が破壊されたことで、魔法を無効化する結界の境界線が、さらに敵陣の奥へと後退していく。
「よし、結界が下がった! シャル、次だ!」
「合わせるよ、ケント!」
後退した新たな結界の境界線。そのギリギリのラインに馬を滑り込ませ、俺とシャルはそれぞれ百二十度の角度に射角を広げ、限界まで魔力を注ぎ込んだ特大の爆鳴気を編み上げた。
デイジーカッター級の、広域殲滅用気化爆弾。
カッ――――!!!
太陽が地上に墜ちたかのような、眼を焼く閃光。
直後、天地が裏返るような絶烈な大爆発が、第一皇子軍の陣形を飲み込んだ。
指向性を持たせた爆風が、前方百二十度の扇状に広がり、逃げ惑う帝国兵たちを衝撃波でバラバラにして行く。このたった一撃で、合流したばかりの二万の増援のうち、およそ半数が消え去った。
「ひぃぃぃっ! ば、化け物だァァッ!」
「逃げろ! 勝てるわけがないッ!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。完全に統制を失い、武器を捨てて逃げ惑う兵士たち。
俺とシャルはその大混乱に乗じ、馬の腹を蹴って一気に敵の本陣へと突撃をかけた。
俺は『インナーバフ』で身体能力を極限まで引き上げ、馬上から前方の障害物に向けて、拳大に圧縮した爆鳴気を次々と撃ち放つ。
前世のオート・メラーラ 76 mm 砲を彷彿とさせる、怒涛の連続爆破。土煙と血飛沫が舞い上がり、本陣を護る近衛兵たちの防衛線が紙屑のように引き裂かれていく。
「道を開けろォッ!!」
シャルの怒号と共に、俺たちはついに第一皇子の本陣天幕へと雪崩れ込んだ。
そこには、豪華な鎧を身に纏い、腰を抜かして震えている二人の男がいた。
第一皇子と、彼に付き従ってきた第二皇子だ。
「な、なぜ貴様らがここにいる!? 魔道具の結界はどうした!!」
「ひぃっ! くるな、近寄るなァッ!」
パニックに陥り、意味不明な命令を叫ぶ皇子たち。
俺は馬から飛び降りると同時、真っ直ぐに第二皇子の懐へと潜り込んだ。
「結界がどうとか、もう考える必要はねえよ」
すれ違いざまの一閃。
ミスリル剣の冷たい刃が、第二皇子の首をあっさりと刎ね飛ばした。
「あ……が……」
隣で首から血柱を吹き上げる弟を見て、第一皇子が絶望に顔を歪めた。
その彼の前には、剣を抜き放ったシャルが静かに立っていた。
「お前たちが奪ったノキアの民の命、ここで清算してもらう」
「ま、待て! 私は帝国の――」
命乞いの言葉が紡ぎ終わるより早く、シャルの剣が第一皇子の首を正確に薙ぎ払った。
ゴトリ、と二つの皇子の首が地面に転がる。
「……終わったな」
「ああ。行こう、ケント」
指揮官を失い、完全に崩壊した帝国軍の本陣。
俺とシャルは、戦意を喪失して逃げ惑う残存兵たちを一瞥もせず、そのまま砦へと向かって駆け抜けた。
硝煙と土煙を抜け、辿り着いた北の砦の城門。
そこには、血と泥にまみれながらも立つ、三人の戦女神の姿があった。
「……遅いよ、馬鹿旦那」
大剣を杖代わりにして、ザラが不敵な笑みを浮かべる。
「ケント君、シャルム殿下……ご無事で何よりです」
セリーナが安堵の息を吐き、そして、金髪の少女が涙を浮かべて飛び出してきた。
「お兄様っ!!」
「おう。よく持ち堪えたな、シーナ。お前たちのおかげで国が繋がった」
俺は抱きついてきたシーナの頭をポンポンと撫で、砦の奥を見渡した。
皇子軍に合流していた残存兵力は、元の包囲軍と合わせておよそ三万人。だが、指揮官である皇子たちを失い、特大の爆撃で完全に戦意を削がれた彼らは、もはや烏合の衆でしかない。
「シャル。残りの敗残兵の掃討と、この砦の防衛は任せていいか?」
俺の言葉に、シャルは力強く頷いた。
「任せてくれ。ザラさん、セリーナ殿、すぐに防衛線の再構築と反撃の指揮を執る! 力を貸してほしい!」
「ハッ! 第一王子の命令とあらば、こき使われてやろうじゃないか!」
ザラたちが力強く応え、砦の兵士たちに活気が戻っていく。
だが、ノキアの危機はここだけではない。
俺は、遥か南――王都の方角の空を見つめた。そこには、うっすらと黒い煙が立ち上っているのが見えた。
「帝国軍の主力は、おそらく王都の防衛線を直接叩きに行ってるはずだ。親父殿と、ルミナス侯爵、それに国王陛下が前線に出ている」
「……お兄様」
シーナが、俺の意図を察して真っ直ぐに俺の目を見た。
「シーナ。まだ魔力は残ってるか?」
「はい。お兄様と一緒なら、いくらでも」
俺はシーナの小さな手を引き、新たな軍馬の元へと向かった。
「シャル! ここは頼んだぞ! 俺たちは王都の防衛線を叩き割ってくる!」
「ああ! 王都を頼む、ケント!」
シャルの力強い声に背中を押され、俺とシーナは馬に跨った。
目指すは、王国最大の激戦地。
「シーナ、お前は親父殿の陣へ向かえ。俺は王と侯爵が包囲されている本陣へ突っ込む」
「了解しました、お兄様。……帝国軍に、私達の魔法の本当の恐ろしさを教えてやりましょう」
馬の腹を蹴り、俺たちは戦火の空へと駆け出した。
これは、鑑定値「1」のただの元社畜が、常識破りの魔法で理不尽な世界を解体する物語。
そのすべての始まりにして、伝説となる『王都防衛戦』へと、役者たちは揃い、時は満ちたのである。




