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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第42話:海上の新兵器と、十年前の面影

 アマテラス最大の港町『海府』を出航したウル帝国行きの大型交易船は、順調に波を切り裂いて進んでいた。

 船内は、大きく二つの区画に分けられていた。一つは、破格の料金を積んで個室二つと大部屋を貸し切った『紅屋』の商人一行のエリア。もう一つは、この船を事実上徴用しているウル帝国の軍人たち――副官や護衛小隊を含めた四十名ほどのエリアだ。


 俺とシャルは、同乗しているウル軍との無用なトラブルを避けるため、早々に割り当てられた個室へと引っ込んでいた。

 だが、出航して半日も経たないうちに、廊下から怒鳴り声が響いてきた。


「ええい、たかが商人の分際で逆らうか! こちらは帝国軍だぞ! すぐにこの個室を一つ明け渡せ!」

「冗談じゃないよ。アタシらは正規の手数料と船賃を払ってここを借りてるんだ。あんたら軍隊が偉いのは帝国内での話であって、紅屋の客の部屋を奪う権利はないはずだね」


 激しくドアを叩く音と共に聞こえてきたのは、高圧的な軍人の声と、それに一歩も引かずに抗議する朧の声だった。

 俺とシャルが顔を見合わせ、ドアを開けて廊下に出ると、ウルの軍服を着た恰幅の良い副官が、朧に向かって青筋を立てていた。


「口の減らん女狐め! おい、こいつを黙らせろ!」

「っ、おやめ!」


 副官の命令で、二人の帝国兵が朧の両腕を乱暴に掴もうと手を伸ばす。

 その光景を見た瞬間、俺の頭に血が上り、「さて、海に捨ててやるか」と一歩踏み出そうとした――その前だった。


 ドンッ!!!


 鈍い破裂音と共に、朧に手を伸ばしていた帝国兵の一人が、廊下の壁まで一直線に吹き飛ばされた。

 鼻柱を完全に叩き割られ、白目を剥いて壁にめり込んでいる兵士。その前に立っていたのは、金髪を揺らしたシャルだった。


「……金払って乗ってる客に、随分な態度じゃないか」


 シャルの声は、氷のように冷たかった。

 こいつは道場を出てからずっと、櫻との別れの痛みを隠して無理に明るく振る舞っていた。だが、その恩人であり楽しい時間を作ってくれた朧に対して無遠慮な暴力を振るおうとした連中を見て、ついに感情の糸が切れたのだ。


「貴様ら! 何をしているか分かっているのか!?」

 残った兵士たちが慌てて剣を抜こうとする。

 俺は首の骨をポキポキと鳴らしながら、口角を限界まで吊り上げた。


「……えー、俺は温厚で優しいから、揉め事とかとってもイヤなんだけど、シャルがやるなら仕方ないなぁ」

「ちょっとあんた達! ここで暴れたら……ああもう、この二人じゃ止まらないよねぇ」

 呆れ顔で頭を抱える朧の前で、俺がウォーターカッターの照準を副官の首に合わせた、その時だ。


「待て! 剣を収めろ!」


 凛とした、だが威厳のある声が廊下に響いた。

 現れたのは、ウルの佐官の軍服を隙なく着こなした、まだ二十代前半の若い軍人だった。銀色の髪と、理知的な深い青の瞳。その姿を見た瞬間、傲慢だった副官が顔面を蒼白にして直立不動の姿勢をとった。


「な、何をしているのだお前たちは! 民間人に対して剣を抜くなど、帝国の誇りを何だと心得ている!」

「は、ハッ! 申し訳ありません!」

「怪我人を医務室へ運べ。そして頭を冷やしてこい!」


 若い軍人は副官を一喝して追い払うと、俺たちに向き直り、深く頭を下げた。


「小職は、ウル帝国軍需局・外事課のナザル・アル・ウルと申します。我が副官が多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳なかった。事情は後ほど、船長を交えて聞かせていただきたい」

「……ええ、アタシもそうさせてもらうよ」


 朧が煙管を握り直して答える。

 アル・ウル。そのミドルネームは、帝国において『皇族』であることを示していた。ナザルは謝罪の言葉を口にしながら、俺の隣で警戒を解かないシャルの顔を、どこか探るように、だが微かな驚きを含んだ目で見つめていた。



 数時間後。個室に戻った俺たちは、車座になって密談を始めていた。


「おい、あいつ皇族だぞ。夜中に攫うか、ここで首獲ったら戦争止まんないかな?」

「待ってよケント。いくら皇族でも、軍需局の外事課なんて完全に後方支援の部署だ。帝国がこれから俺達の国(ノキア)に侵攻するっていう重要な場面で、手柄を立てづらい後方にいる皇族なんて、暗殺したところで切り捨てられて終わりじゃないかな」


 俺の過激な提案を、シャルが冷静なロジックで即座に却下する。


「いや、どうかね…。ウルの皇帝は、末の皇子をことのほか可愛がってるって噂ですよ? それなのに手柄も立てさせずにずっと後方に置いておくのはちいと不自然でしょう。そもそも、火薬の材料になる硝石なら中継地で積めばいい。末の皇子がわざわざあんなシケた人数で、このアマテラスに直接来ていた理由が怪しいね。……そういえば」


 朧がふと思いついたように口を開いた。


「最近、アマテラスの侍たちの一部しか持てない『新しい鉄砲』が極秘で出回ってるって噂を聞いたねぇ」

「鉄砲? なんだいそれ?」

 平和な魔法国家で育ったシャルが首を傾げる。だが、俺の背筋には冷たい汗が伝っていた。


「……マジか。俺としたことが、アマテラスの技術を甘く見ていた、火縄銃くらい考えとくべきだったのに」

「ケント、知ってるのか?」

「ああ。筒の先から火薬を詰めて鉄の礫を放つ兵器さ。火縄銃って奴なら、ノキアの属性魔法の防壁で何とか止められるかもしれん。……だが朧、その鉄砲ってのは、後ろから弾を込めて、魔法の力で着火するような代物か?」

「おや、よく知ってるね。火も要らず、雨の日でも連射できる恐ろしい武器だと聞いたよ」


 スナイドル銃クラスの後装式単発ライフル、ひょっとするとスペンサー銃レベルの連発式、しかも魔法着火式。

 それが帝国軍の歩兵の標準装備になれば、ノキアの様に遠距離攻撃は火魔法のみしかない国相手なら、密集陣形を遠距離から容易く攻撃できる最悪の脅威となる。


「……調べてくる」


 その夜、俺は密かに個室を抜け出し、船底の貨物庫へと向かった。

 扉の前には二人の帝国兵が立っていたが、風魔法と水魔法を精密に操作し、彼らの周囲の空気の成分(酸素濃度)を一気に下げてやる。二人は声を発する間もなく、酸欠でその場に崩れ落ちた。


 鍵を破壊して貨物庫へ潜入し、厳重に封印された木箱をこじ開ける。

 そこにあったのは、油紙に包まれた見慣れぬ形状の『新型小銃』と、大量の弾薬の山だった。ざっと見積もっても千丁はある。


 なるほど、全て繋がった。

 ウルの皇帝は、ノキア侵攻の最終局面でこの新型銃を投入し、その調達と輸送の決定的な功績を、可愛がっている末の皇子(ナザル)のものにしようとしているのだ。ウルはアマテラスとの交易を独占しており、航路も安全。だからこそ、他の皇族からの妨害を防ぐため、少人数の護衛のみで極秘裏に動いていたのだ。


 俺は木箱を元通りに封印し、静かに貨物庫を後にした。



「……つまり、この新型銃がウル本国に到着するまでは、ノキアへの決定的な会戦は行われないってことだね」


 深夜の甲板。

 潮風に吹かれながら俺の報告を聞いたシャルが、月明かりの下で鋭い目つきになった。


「ああ。他ならぬウルの皇帝が望んでるんだからな。他の皇子が突っかけなけりゃあ、総攻撃を仕掛けるなら、コイツが届くのを待ってからになるんだろうさ」

「なら、やることは一つだね」

「違いない。この船がウル帝国に到着する直前に、貨物庫ごと全部吹き飛ばして海のもくずにしてやる」


 マセック国民という偽装を利用して、中継港ではなく帰国の為にウルの港までいくことにする。そして目的地に着く直前に新兵器をすべて破壊して逃走する。俺たちの意見が完全に一致し、悪どい笑みを浮かべ合った、その時だった。


「……夜風が冷えますね。マセック国の方々」


 背後から響いた静かな声に、俺とシャルは同時に振り返った。

 そこに立っていたのは、軍服のコートを羽織ったナザル皇子だった。護衛も連れず、ただ一人。


 俺は即座に指先に魔力を練り上げたが、ナザルに戦意は全く感じられなかった。

 彼は俺を素通りし、真っ直ぐにシャルを見つめた。その青い瞳には、敵意ではなく、どこか懐かしむような、深い感情が揺らいでいた。


「失礼を承知で伺いたい。……貴方は本当に、マセックの国民ですか?」

「ええ、そうですが?」

 シャルが完璧な愛想笑いで応じる。だが、ナザルは小さく首を振った。


「十数年前。第8次ウル・ノキア紛争の、停戦祝賀パーティーの夜。……大広間を無邪気に走り回り、一人で退屈していた私のところにぶつかってきた、金髪の小さな子供によく似ている」


 その言葉に、シャルの笑顔がピクリと凍りついた。

 帝国の皇子が、なぜノキアの第一王子の幼き日の記憶を、それほどまでに鮮明に覚えているのか。


 暗雲立ち込める海上で、十年の時を超えた二人の後継者候補の視線が、静かに交錯した。

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