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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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閑話:シーナの暗躍――お兄ちゃんの妻となるために

お兄ちゃんが好きだ。

 物心ついた時から、ずっと。私の世界の中心には、いつも優しくて、不思議な知識をたくさん持っているケントお兄ちゃんがいた。


 だから、お兄ちゃんが貴族の家に引き取られると聞いた時は、目の前が真っ暗になった。

 平民の私と貴族のお兄ちゃんでは、住む世界が違いすぎる。身分差という絶対的な壁に阻まれ、会うこともままならなくなるだろう。

そもそも兄妹なのだから、諦めなければいけないのだが、この恋はやはり叶わないのだと、一度は絶望して諦めかけた。


 でも。

『お兄ちゃんと私には、血の繋がりがない』。


 その事実を知った瞬間、私の中で燻っていた未練の炎が、爆発的な勢いで燃え上がった。

 血が繋がっていないのなら、結婚できる。ただ「身分」が足りないというのなら、私が貴族になればいいだけの話だ。

 王都へ旅立つ前、挨拶に来てくれたお兄ちゃんとニナおばさんに会ったことで、私の決心は揺るぎないものになった。


「待っていてね、お兄ちゃん。私、絶対にあなたの隣に立つから」


 ただ待っているだけの可憐な妹でいるつもりはない。

 私は私の戦い方で、お兄ちゃんの隣という『特等席』を物理的かつ合法的に奪い取ってみせる。

 こうして、私のたった一人のための暗躍が始まった。





「……シーナ、本当に本気なの?」


 海沿いの街。領主の館の控室で、お母さん――セリーナは額に汗を浮かべながら私に問いかけた。

 火魔法の能力値が『10』という桁外れの実力を持つお母さんは、この領地を治めるバロッサ子爵から非常時の最高戦力として頼りにされている。私はその立場を利用し、子爵への面会を取り付けてもらったのだ。


「ええ、本気よ、お母さん。私をお母さんのツテで、領主様の養女にしてもらうわ」

「お母さんが言うのもなんだけど、いくらあなたの魔法と剣が一級品でも、平民の娘がいきなり貴族の養女だなんて……」

「大丈夫。交渉の準備と勝算は完璧だから」


 私はふわりと微笑み、領主の執務室へと足を踏み入れた。


 魔物海域に面した領地を治めるバロッサ子爵は、実利と武力を重んじる男だった。

 彼は執務机越しに私とお母さんを交互に見ると、興味深そうに口を開いた。


「我が領の最高戦力であるセリーナの頼みならば無下にはできん。それに、お前の義兄があのバルガス伯爵家の嫡男であり、ルミナス侯爵家とも深いつながりを持つケント・バルガスであることは、すでに調べがついていてな」


 さすがは領主、情報が早い。お母さんがこの領に戻ってきた時点で、すでにある程度の身辺調査は済ませていたらしい。


「あわよくばバルガス伯爵家、さらにはルミナス侯爵家との縁ができるなら、当家にとっても悪い話ではない。……だが、いくらセリーナが『才能がある』と太鼓判を押す娘でも、平民をいきなり養女にするには、領内を納得させるだけの明確な実力と『利益』が必要だぞ」

「ご心配には及びません、子爵閣下。私は彼と結婚して、確実に閣下とルミナス派閥を繋ぐパイプになります。……それに、仮に結婚に失敗したとしても、母のお墨付きの魔法と剣の腕を持つ私を、自由に『政略結婚の駒』として使っていただいて構いません」


 私の言葉に、子爵の目がスッと細められた。


「ほう。自分を担保にするか」

「はい。閣下にとって、悪くない取引だと思いますが?」

「……口が回るな。よかろう、ならば中庭でその『実力』とやらを見せてもらおうか」


 私は子爵とお母さんを伴い、広い中庭へと出た。

 木剣を手に取り、目を閉じる。お兄ちゃんが教えてくれた、この世界の誰も知らない現代知識。

 私は魔力を練り上げ、剣身に『青い炎』を纏わせた。


「なっ……青色だと!? 火魔法の温度をそこまで上げているのか!?」


 驚愕する子爵の前で、私はそのまま地を蹴り、訓練用に置かれていた分厚い鋼の鎧へと剣を振り下ろした。

 超高温の青い炎を纏った一閃は、鋼の鎧をバターのように溶かし、容易く両断してみせる。

 だが、これで終わりではない。


 私はすかさず、能力値2程度の初級魔法である『ファイアボール』を放った。

 そこに酸素を混ぜ合わせて青い炎へと変え、さらに着弾の瞬間、相手に悟られないように極小の『爆鳴気』を発生させて威力をブーストさせる。


 ――ドゴォォォォンッ!!


 初級魔法とは到底思えない凄まじい爆音と共に、標的の岩が跡形もなく粉砕された。

 土煙が晴れた後、私は何事もなかったかのように木剣を下ろし、唖然としている子爵に向かってカーテシー(淑女の礼)をしてみせた。


「いかがでしょう。これほどの魔法と剣の腕を持つ娘であれば、政略結婚の駒として十分に『高く売れる』と思いませんか?」

「…………素晴らしい。ただのファイアボールの温度を極限まで上げ、あのような高威力の爆発魔法にするとは。おまけにあの剣技……」


 子爵は、私の『爆鳴気』という隠し玉に気づくことなく、完全に誤認してくれた。この本当の切り札は、後の侯爵との交渉の場まで隠しておかなければならないからだ。

 欲望と興奮を瞳に浮かべた子爵は、震える声で私の養子縁組を承諾した。

 これで第一段階はクリア。私は『バロッサ子爵家の令嬢』という、お兄ちゃんの隣に立つための最低限の切符を手に入れたのだ。





 それからの1年間は、文字通り地獄だった。

 歩き方、扇子の使い方、言葉遣い、歴史、政治、貴族間の派閥関係、ダンス、そして教養。本来なら十数年かけて叩き込まれる貴族の知識を、私はお兄ちゃんと結婚したい一心で、たった1年で頭と体に詰め込んだ。


 そして私が14歳になり、完璧な令嬢としての立ち振る舞いを身につけた日。

 私は養父となったバロッサ子爵を通じ、ルミナス領の領主の館へ赴き、ルミナス侯爵への面会を要求した。





 ルミナス領の侯爵邸、その執務室。

 王国でも指折りの権力者である侯爵は、ソファーに優雅に腰掛け、値踏みするように私を見ていた。


「……バロッサ子爵の養女が、私に直接の面会とは。何の用かな?」

「お初にお目にかかります、ルミナス侯爵閣下。シーナ・フォン・バロッサと申します。本日は、私の婚約の許可をいただきに参りました」


 私が迷いなく告げると、侯爵は鼻で笑った。


「婚約? 縁談なら親同士でやるものだ。子供が直接しゃしゃり出てくる場ではないぞ」

「いいえ、私から直接お話ししなければならない理由があるのです。――なぜなら私は、ケント・バルガスの『元妹』であり、幼い頃から彼の手ほどきを受けていた者ですから」


 ケント・バルガス。

 その名前を出した瞬間、侯爵の目の色が変わった。あの闘技場での事件以降、ルミナス派閥にとってケントは最大のジョーカーであり、最重要人物となっている。


「……ほう。ケントの元妹だと?」

「はい。私とお兄様が血が繋がっていなかったのは教会の鑑定で明らかとなりましたので『元妹』なのです。そして私はバロッサ領に移る七歳まで、あの『他属性の魔法』を撃ち出す理屈と方法を教わっております。もちろん、秘匿魔法であると理解しておりますので、これまで他人に教えたことも、それとわかるような使い方も一切しておりません」


 私の言葉に、執務室の空気が氷のように冷たく張り詰めた。

 国家の最高機密を知っていると、自ら明かしたのだ。消されても文句は言えない。

 だが、私は微笑みを崩さなかった。


「侯爵閣下。お兄様が王都に行く前に、この魔法は口外しないように言われました。おそらくですが、ルミナス家とバルガス家の『家人』のみで留めておくべきとなったのではありませんか? であれば、すでに秘密を知ってしまっている私を他家に嫁がせてリスクを冒すより……お兄様の『妻』としてバルガス家の内部に取り込んでしまうのが、最も安全で確実な方法ではないでしょうか?」

「っ……!」


 侯爵は目を見開き、そして――次の瞬間、腹を抱えて大爆笑し始めた。


「あっはっはっはっはっ!! 傑作だ! いや、恐れ入った!!」


 涙を浮かべるほど笑い転げた後、侯爵は面白くてたまらないという顔で私を指さした。


「なるほど、見事だ! 自分が機密を知っているという事実を人質に取り、私に『お前をケントに嫁がせるしかない』という状況を作ったわけか! あのケント君の妹らしい、恐るべき執念と手回しだな!」

「お褒めにあずかり光栄です」

「しかし、ケントがガブリエラ・ベルンハイトと決闘した件は聞いてるのか?君にとっては《《本当》》の姉だろう?」

「幼少より殆ど言葉も交わさずにベルンハイト家の養女となったので身内の意識はありません。聞いたときはお兄様が怪我も無くて良かったとしか……」

「うむ。それが確認できれば良い。誰かギデオンを呼べ。」


 侯爵はすぐさま、このルミナス領で共に領地経営にあたっているケントの義父、ギデオンさんを執務室に呼び出した。

 令嬢の姿になった私を見て目を丸くしたギデオンさんだったが、侯爵から提案されると、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「ああ、シーナちゃんなら大歓迎です。ケントの母であるニナからも、彼女がどれほどケントを慕い、真面目で良い子かは聞いていますからね」


 ギデオンさんの快諾により、私の婚約は正式に決定した。

 同席していた義父のバロッサ子爵も、念願だったルミナス侯爵との強固なコネクションを得て、顔を真っ赤にして歓喜に打ち震えている。

 こうして、王都から遠く離れたこのルミナス領で、大人たちの利害が完全に一致し、すべてが丸く収まった。

 ――ちなみに、この場に私の最愛の婚約者であるお兄様本人の意見は、ただの一片も介在していない。





 そして季節は巡り、私は14歳になった。


 バロッサ子爵家の馬車に揺られながら、私は王立魔法学院の巨大な門を見上げる。

 今日から私も、この学園の生徒だ。


「待っていてね、お兄ちゃん。……ううん、私の愛しい旦那様」


 完璧な貴族の令嬢としての微笑みを浮かべながら、私はそっと自分の唇に指を当てた。

 彼が今、どこかの部室でのんびり平和に過ごしているのだとしたら。

 私が会いに行ったら、一体どんな顔をしてくれるだろうか。今から楽しみで仕方がない。

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