第27話:無慈悲な決闘と無能の怪物
決闘前夜。
俺はルミナス侯爵の執務室で、最終的なすり合わせを行っていた。
「見届け人として、王家の人間が立ち会う手筈が整った。相手の親どもも同席する。これで奴らは、どんな無様な負け方をしようとも逃げることはできん」
「ありがとうございます、侯爵」
侯爵はワイングラスを傾けながら、面白そうに目を細めている。
「それにしても、刃引きの剣を使う学園の決闘で、火属性を持たない君がどうやって奴らを『やる』つもりなのか。見物だな」
「大したことじゃありませんよ。ただ力任せに振るだけです」
「ふっ、謙遜するな。……で、本題はここからだろう?」
侯爵の視線が鋭くなる。俺は深く頷いた。
「ええ。今回相手にする三人を片付けた後、あの教室で俺の家族を嗤った外野の連中にも落とし前をつけさせます。謝罪がない場合は、順次決闘を申し込むと宣言するつもりです」
「……徹底しているな。あのクラスには、中立派や我が派閥に近い家の者もいるが?」
「俺の家族を侮辱してヘラヘラ笑っていた時点で、俺にとっては全員敵です」
俺が淡々と告げると、侯爵はしばらく俺の目を見つめ返し――やがて、肩を揺らして笑い出した。
「よかろう。ルミナスに連なる者として、その程度の気概がなくては困る。存分に暴れてこい」
◆
そして、決闘当日。
王立魔法学院の広大な闘技場は、異様な熱気に包まれていた。
Aクラスの生徒たちだけでなく、噂を聞きつけた他学年の生徒、教師陣、さらには貴賓席には王家の人間と、青ざめた顔で座る対立派閥の貴族たち(対戦相手の親)の姿がある。
闘技場の中央。
俺と向かい合う形で立っているのは、ガブリエラ、王都騎士団の息子、宰相派の息子の三人だ。
「ふふっ、わざわざ公開処刑されにくるなんて、馬鹿な平民ね!」
ガブリエラが、高笑いと共に扇子を広げた。
取り巻きの男子二人が、それに追従して下品な笑い声を上げる。
「まったくだ。火属性も持たない無能が、決闘で俺たちに勝てるわけがないだろうが」
「あの阿呆な義父に、汚らしい母親にして、この息子ありってやつだな!」
観客席からも、クスクスという嘲笑が漏れ聞こえてくる。
学院の決闘ルールでは『刃引きの武器』を使用する。そのため、致命傷になり得る『火魔法』以外で死人が出ることは基本的にはない。
さらに、火属性を持たない者は魔法を「撃ち出す(射出する)」ことができないというのが、この世界の絶対的な常識だ。
つまり、奴らからすれば、俺は「相手を殺す手段を一切持たないサンドバッグ」に等しい。だからこそ、王家が立ち会うこの場で、俺をいたぶって派閥の力を誇示しようとしているのだろう。
三人がひとしきり俺と家族への侮辱を喚き散らし、満足そうに息をつくのを待ってから、俺はポツリと口を開いた。
「……それが遺言で良いな」
俺の静かな声に、三人が眉をひそめる。
「さて、死ね」
「はっ、強がりを――」
騎士団の息子が鼻で笑いながら、刃引きの剣を構えて一歩前に出た。
次の瞬間。
俺は『身体強化』の自己暗示を全開にして地を蹴った。
無詠唱、無発光。
誰の目にも魔法を使ったとは認識できない異常な踏み込みで、俺は騎士団の息子の懐に潜り込んだ。
そして気道の内部で極小爆鳴気を爆発させる。
同時にすれ違いざま、手にした刃引きの剣を、野球のフルスイングの要領で首に向かい横薙ぎに一閃する。
――グチュッ!!
骨や筋肉の大部分は爆鳴気で壊してある、残った肉が千切れる鈍い音。
刃が引いてあるなら、それでも叩き斬れるようにすればいいだけだ。
「……え?」
ガブリエラが間の抜けた声を上げた時、騎士団の息子の首は、すでに闘技場の地面をボールのようにバウンドして転がっていた。
首を失った胴体から血柱が吹き上がり、ドサリと崩れ落ちる。
「ひ、ヒィッ!?」
次に悲鳴を上げたのは、宰相派の息子だ。
奴は慌てて距離を取り、震える手で火魔法の詠唱を始めようと大きく口を開いた。
遅すぎる。
俺は少量の水を、奴の気管に直接出す。
「ゴホッ、ゲホッ! あ、ぐっ……!」
肺にまともに水を吸い込み、奴の詠唱が激しい咳によって強制キャンセルされる。
俺はその隙だらけの胸ぐらを掴んで引き寄せ、引き倒す。
四つん這いに倒れた所に一切の躊躇なく、その首筋に刃引きの剣を叩き込んだ。
メチャッ、という嫌な感触と共に首が折れる。
そこを土魔法で作った尖った粒子を混ぜた水魔法で切断していき二つ目の頭部が転がる。
これで二人。
「あ、ああ、ああっ……!」
残るはガブリエラだけだ。
彼女は完全に腰を抜かし、地面に尻餅をついたまま、後ずさっていた。ドレスが小水と土で汚れ、顔は恐怖で歪みきっている。
「い、いや! くるな、来ないでぇっ!!」
泣き叫びながら、それでも必死に火魔法を放とうと杖を突き出してくる。
だが、その先端に火の粉が灯るよりも早く、俺は冷たい目で見下ろしながら、無慈悲に口内に剣を突き刺す。
そして口に剣を咥えたままの首を魔法で切断していく。
首が咥えたままの剣を振ると、派手な巻き髪の頭部が、ゴロン、と俺の足元に転がった。
闘技場は、水を打ったような静寂に包まれていた。
歓声も、嘲笑も、悲鳴すらない。ただ、三つの死体から流れ出る血の匂いだけが立ち込めている。
火魔法を持たない平民上がりが、手も足も出さずに三人の首を刎ね飛ばしたという現実に、全員の思考がフリーズしていた。
俺は剣についた血糊を払い、観客席で青ざめているAクラスの連中を見上げた。
「あの教室で、俺の家族を侮辱して嗤った奴らに告ぐ」
俺の声だけが、静寂の闘技場によく響いた。
「明日までに直接俺のところへ謝罪に来い。来なかった奴には、順番に決闘を申し込む。……逃げられると思うなよ」
貴賓席で顔面蒼白になっている対立派閥の貴族たちを一瞥し、俺はそのまま踵を返して闘技場を後にした。
これで、俺の学園での人間関係は終わりだな。
明るく楽しく、新たな魔法を広めるなんてのは諦めた。
そもそも俺って陽キャじゃないのに無理があったんだよ。
明日からはどこかに隠れ家的な場所でも見つけて、そこで引籠ってるとしよう。




