第122話:焦土の朝と、もたらされた劇薬
翌朝。完全に燃え尽きたバルゲンの跡地を、俺たちは静かに歩いていた。
見渡す限りの白い灰と、黒く燻る瓦礫の山。かつて数万の人間がひしめき合っていた巨大な要塞都市の面影は、もはや欠片も残されていない。大地からは未だにじりじりとした熱気が立ち上り、焦げた匂いが鼻をつく。
「やっぱり、火災旋風の火力って凄いよね」
足元の灰を軽く蹴りながら、セリーナが感心したような声を上げた。
「普通に火魔法で焼いたらどうしても骨が残っちゃうけど、これならほとんど残らないもの」
「全くだねぇ。掃除の手間が省けていいや」
ザラも同意するように頷き、俺と妖精のスーも瓦礫の山から真っ青な海を見渡した。
「ここまで綺麗に更地になれば、あとでアマテラスの連中が入植してきてもやりやすいんじゃね?」
「そうだねー。基礎工事からすぐに始められそう!」
その会話だけを聞けば、海辺でリラックスしている普通の男女の談笑にしか聞こえない。だが、彼らが立っているのは、数万の命を自らの手で焼き尽くした直後の焦土なのだ。
少し離れた場所からその背中を見つめながら、デックスは底知れない戦慄を抱いていた。
(この三人は、今は味方として同じ側に立っている。だが、見ている景色も、抱えている倫理も、我々とは全く違う『別の何か』だ)
デックスの掌には、昨日クダーの漁村で無抵抗な市民たちを斬り捨てた時の、ひどく生々しい感触がまだこびりついている。
自国を守るためとはいえ、戦う術を持たない非戦闘員まで鏖殺することには、どうしても強い抵抗と嫌悪感が拭いきれない。
だがその一方で、昨日のケントの言葉が、デックスの脳裏に重くのしかかっていた。
『自国の子供が一人死ぬくらいなら、敵国の子供は全員殺す』
ハーンという国を、そして敬愛するルダ女王を守り抜き、背負っていく上で。あの冷酷極まる覚悟は、自分たちにも必要なものなのだろうか。正解の出ない葛藤に、デックスはただ奥歯を噛み締める。
『あ、船に残ってる子と連絡ついたよ! もうすぐこっちに回ってくるって!』
通信を終えたスーの声が響き、やがて沖合から迎えのスクーナー船が姿を現す。
こうして俺たちは、完全なる死の土地となったシン大陸からの帰還を果たしたのだった。
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波を掻き分けて進んできたスクーナー船が、東の島国アマテラスの港に接岸する。
タラップを下りて真っ先に俺を出迎えたのは、猛烈な勢いで飛びついてきた桃色のつむじ風だった。
「ケント様ぁっ!」
ドンッ、と勢いよく抱きつかれ、そのまま強烈な口付けで唇を塞がれる。
いつもなら発情した獣のように舌を絡めてくるレナだが、今日の彼女は違った。ただ俺が無事に帰ってきた喜びを全身で確かめるかのように、強く、深く唇を押し当ててくるだけの純粋なキス。
そっと彼女の背中に腕を回すと、俺の胸元に顔を埋めたレナの瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出しているのが見えた。
「……おかえりなさい、ケント様」
震える声で告げる彼女の頭を、俺は優しく撫でる。
「ただいま、レナ」
「ちょっとレナ。私もいるんだけど?」
感動的な再会を邪魔するように、後ろからセリーナがジト目で声をかけた。
すると、レナは俺の腕の中から離れずに、涙声のまま言い返す。
「どうせあっちでケント様とHなことしてたセリーナさんと違って、私はケント様成分が圧倒的に足りてないんですぅ! 絶対に離しません!」
「もう、いい加減に離しな」
見かねたザラが、呆れたようにため息をつく。
「いくら旦那やセリーナだってね、戦しに行ったシンのど真ん中で、そんなHしてる暇なんかあるわけないだろ。バカ言ってないで――」
そこで、ふとザラが俺たちの方を見た。
俺とセリーナは、スッと無言でザラから目を逸らし、明後日の方向の空を見上げる。
沈黙が流れた。
「……アンタらさぁ」
ザラはひどく疲れた顔で、眉間を深く揉みほぐしている。
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港での合流を終えた俺たちは、そのまま難民受け入れの責任者となっている役人、カツナリの元へと案内された。
アマテラスが用意した巨大な仮設収容区画には、バルゲンが灰になる前に海を渡って逃げてきたシンの難民たちがひしめいている。
「ケント殿。シンからの難民は、ひとまずこちらで管理しておりますが……」
カツナリは、俺たちを訝しむような視線で見つめていた。
彼らアマテラスの人間からすれば、俺たちはたった数人で大国を滅ぼした『理不尽な魔王』だ。だが同時に、その脅威の度合いを本当の意味で理解しきれていない様子でもある。海を隔てたシンの軍事力がどれほどのものだったか、平和な島国の彼らには実感がないのだ。
「カツナリ。お前たちアマテラスは、俺がシンを潰したことでどれだけ命拾いしたか、まだ分かっていないようだな」
俺はそう告げると、腕輪の収納空間から鹵獲してきた『重機関銃』を取り出し、陣地に置かれていた大きな岩に向けて構えた。
「見せてやるよ」
引き金を引く。
鼓膜を突き破るような爆音と共に、一分間に数百発という異常な速度で吐き出された銃弾の雨が、巨大な岩を瞬く間に粉砕していく。
「な、なんだあの魔導具は……!?」
「詠唱もなしに、あのような威力を連続で……!」
カツナリと、護衛に就いていたアマテラスの侍たちが、顔面を蒼白にして腰を抜かした。
だが、見世物はこれだけではない。
俺はさらに収納空間を展開し、広場の中央に巨大な鉄の塊――シンの軍事技術の結晶である『戦車』をドスンと出現させた。
魔法の障壁を弾き返す分厚い装甲。そして、どんな堅牢な城門をも容易く粉砕するであろう巨大な砲身。その暴力的な質量は、見ているだけで人間の本能的な恐怖を煽り立てる。
「これが、シンの持つ兵器だ。もし俺たちがシンを潰さず、こいつらが何十、何百と船に乗ってアマテラスに本格的な侵攻をしてきたら……お前たちの刀や弓で、どうやって防ぐつもりだった?」
俺の冷酷な問いに、カツナリはガクガクと震えながら戦車を見上げる。
彼にも、ようやく理解できたのだ。もしあのままシンの技術が発展し、侵略の矛先がこの島国に向けられていれば、自分たちの国など数日で地図から消し飛んでいたという、残酷な事実が。
「そこで、お前に一つ指示を出しておく」
絶句するカツナリの肩をポンと叩き、俺は耳元で低く囁いた。
「ここにいる数万の捕虜の中から、元軍人と、少しでも機械や兵器に関わっていた民間技術者を見つけ出し、必ず別々の場所に隔離しろ」
「隔離して……彼らを、どうするおつもりで?」
「危険な思想と技術は、根絶やしにする必要がある。そいつらは全員、一生陽の当たらない鉱山へ送り込んで使い潰せ。解放は一切なしだ」
平和な国に、他国の軍事技術という劇薬は必要ない。
恐怖と戦慄で身を強張らせるカツナリを見下ろしながら、俺はただ淡々と、この世界からシンの残滓を消し去るための処断を下した。
『嘘告のおかげで、最期に彼氏ができました。』夏休み明けに死ぬ予定の私と、嘘だったと泣き崩れる君~さよならのためのアオハルを、君と。
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今までの作品と毛色が違うのですが、
魔法も無いチートも無い現実の高校生の切ない夏を書いてみました
作者初の恋愛ものです
良ければ読んでやってください




