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完結!他サイトで350万PV! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第117話:見えない質量と、血塗られた狂宴

 ノクテス要塞が地図から消滅し、ただの巨大なクレーターへと変わった直後。

 その先にある広大な平野には、シン帝国の正規軍、およそ五万という大軍勢が陣形を敷き、俺たちを待ち構えていた。

 マスケット銃を構えた歩兵の列が地平線を埋め、後方には旧式の大筒がずらりと並んでいる。第89基地のようなシンの最前線や極秘部隊の兵装と比べれば、確かに一世代前の型落ちと言えるだろう。

 だが、それはあくまで軍事大国シンの中での話だ。ノキア王国やウルなどの他国から見れば、火薬と鉛玉で武装したこの五万の軍勢は、十分に国を滅ぼし得るほどの脅威であり、堂々たる主力標準装備である。通常ならば、どんな強力な魔導士であろうと、この物量と弾幕の前に魔力をすり減らして圧殺されるのがオチだ。


「さて、セリーナ。派手にいこうか」

「ええ、ケント。全部、ぐちゃぐちゃにしてあげる」


 俺とセリーナは顔を見合わせ、同時にインナーバフの脚力と風魔法による加速を全開にして、空高くへと跳躍した。

 数十メートルの上空。重力に引かれて落下を始めるその頂点で、俺とセリーナは携帯用の『絶対障壁』を展開した。

 発動者を中心にして、半径五メートル。直径にして十メートルの完全な球形の空間が、俺とセリーナの周囲に一つずつ、空中でバキリと固定化される。

 そのまま自由落下を始めた俺たちは、空中に浮かび上がった巨大な透明の球体の『一番下の内壁(底)』に、タンッと軽い足音を立てて着地した。


「ふふっ、これ面白いわね。空中に浮かぶ透明な部屋が二つ」

「ああ。だが、ただの部屋じゃない。こいつは……最高の乗り物だ」


 俺たちは球体の底面を強く蹴り、前方へと猛烈なダッシュを開始した。

 俺の障壁と、セリーナの障壁。二つの巨大な絶対障壁の球体が、内側から走る俺たちの推進力によって、ゴロゴロと強烈な勢いで前転を始める。

 重力に従って地上へと落下した直径十メートルの透明な球体は、地面に弾むことなく大地を抉り、五万の軍勢が待ち構える陣形のど真ん中へと、時速百キロに迫るスピードで並走しながら突入していった。


「撃てぇぇぇっ!!」

 シン軍の指揮官の絶叫と共に、数万のマスケット銃が一斉に火を吹き、大筒の砲弾が雨霰と降り注ぐ。

 だが、それらはすべて、俺たちを覆う絶対障壁の表面でカンッ、キンッと甲高い音を立てて弾き返された。傷一つ付かない。

 代わりに起きたのは、一方的で理不尽な蹂躙だった。


「ぎゃあああああっ!?」

「な、なんだ!? 壁が、見えない壁が迫って――ッ!」


 彼らから見れば、何もない空間が突然迫ってきたかのように錯覚しただろう。

 五万の兵士たちが密集する陣形の中を、二つの見えない絶対質量の球体が、爆走するロードローラーのように突き進む。

 逃げる間も、防ぐ手段もない。

 球体の軌道上にいた兵士たちは、次々と見えない壁に激突し、骨を砕かれ、そのまま巨大な質量の下敷きとなって地面に擦り潰されていく。

 グチャリ、メチャリという湿った破裂音が足元から響き続ける。透明な障壁の表面は、あっという間に巻き込んだ兵士たちの赤黒い血と肉片でコーティングされ、さながら血塗られた巨大なボーリングの球と化していた。


「あはははははっ! もっとよケント! もっと速く!」

 血まみれの視界の中で、セリーナは極上の笑い声を上げながら、球体の内側から魔法による絨毯爆撃を開始した。

 絶対障壁の内側から魔法を放てば、当然そのエネルギーは内壁で反射し、自滅してしまう。だから俺たちは、猛スピードで球体を走らせながら、魔法の顕現座標を『自分たちの障壁の外側』へと精密に指定し続けていた。


 セリーナの能力値10の火魔法は、まさに災害だった。

 彼女の周囲に次々と現出する火魔法は、太陽のフレアのように敵陣を薙ぎ払い、達人級の風魔法が生み出す巨大な真空刃が、人間も大筒もまとめて両断していく。さらに土魔法の巨大な砲弾が降り注ぎ、水魔法の槍が逃げ惑う兵士たちを串刺しにする。

 猛スピードで回転する球体の中で走りながら、セリーナは全く姿勢を崩すことなく、文字通り七色の死を外へと撒き散らしていた。


 俺も負けじと、腕に嵌めたオリヴィア特製のアーティファクトを作動させる。

 魔石を動力源とし、他の属性の腕輪を発動させている間でも、半日は収納状態から中身が漏れ出ないように改造された最高傑作。俺はその収納腕輪から土魔法の腕輪を取り出して起動し、ガトリング砲のように無数の石弾を障壁の外に顕現させてばら撒きながら、同時に得意の爆鳴気を発動する。

 俺の最大魔力は約一万で、さらに一秒に10の魔力が回復するのだから、実質無限の弾幕である。

 

「吹き飛べ」

 俺が視線を向けるたびに、敵陣のあちこちに座標指定で作成した爆鳴気が一斉に起爆する。

 ドガァァァァァァァァンッ!! という鼓膜を破る爆音と共に、数百人の兵士がまとめて肉片となって宙を舞う。

 威力は申し分ない。殺傷能力なら、俺の無限・爆鳴気もセリーナの魔法に引けを取らないはずだ。


(……でも、地味なんだよなぁ)

 俺は走りながら、内心で少しだけ溜め息をついた。

 隣で爆走するセリーナの球体の周りには、大輪の華のような美しい炎や、風が描く鋭利な緑の軌跡が乱舞している。

 それに比べて、俺の爆鳴気は発動するまで完全に透明で、爆発の瞬間もただの無色の衝撃波しか見えない。ガトリングのように撃ち出している土魔法も、所詮はただの石ころの連射だ。

 楽しそうに極彩色の地獄を現出させている愛する女を見ながら、俺は能力値10の派手な魔法に、少しだけ嫉妬を覚えていた。


 ---


 巨大な血の球体で陣形を物理的に滅茶苦茶にし、数千の兵を轢き殺しながら、俺たちはついに敵陣の最も奥深く――指揮官や本隊が密集する中心部へと到達した。

「……ここだな」

 俺とセリーナが、同時に障壁をパッと解除した瞬間。

 突如として敵陣のど真ん中に姿を現した二人の悪魔に、周囲を取り囲んでいたシン軍の兵士たちは凍りついたように動きを止めた。


「ふふっ。ここからは直接、命が消えるのを感じるわ」

 セリーナは恍惚とした笑みを浮かべ、足元に転がっていた『馬車の車軸』を拾い上げた。太い鉄で補強された、大人が両手で抱えるほどの巨大な樫の木の塊。

「あら、これしっくりくるわねぇ」

 彼女はそれをまるで軽い棒切れのように片手で持ち上げると、フルスイングで近くの兵士の胴体を薙ぎ払った。

 ゴシャァッ! という骨と肉がペースト状に砕ける嫌な音が響き、兵士の上半身が彼方へと吹き飛んでいく。大剣ですらない、ただの質量の暴力。セリーナは車軸を両手で構え、鼻歌交じりに次々と兵士たちを叩き潰していく。


「ひぃぃっ! ば、化け物……ッ!」

 絶望した一人の兵士が、壊れた大筒の陰に隠れて震えていた。

 だが、セリーナはそれを見逃さない。彼女は優雅な足取りで近づくと、隠れていた兵士の顔面を鷲掴みにし、強引に引きずり出した。

「だ、出せ……ッ、助け……ゴボォッ!?」

 命乞いをする兵士の顔面を掴んだまま、セリーナは掌から最大出力の水魔法をゼロ距離で発動させた。

 凄まじい水圧が兵士の口と鼻から強制的に体内へと注ぎ込まれ、行き場を失った水が、直後に目と耳から血の混じった噴水のように噴き出す。

 パンッ! という水風船が割れるような音と共に、限界まで水で膨張した兵士の頭部が粉々に破裂した。

 首から上を失った死体を放り捨て、セリーナは己の顔に撥ねた返り血を舐め取って妖艶に微笑む。


 一方、俺もまた蹂躙を楽しんでいた。

 残存兵力の中には、防衛用の障壁を展開して、亀のように縮こまる部隊がいくつもあった。

 俺は戦場を散歩するように歩き回り、コツコツと障壁をノックする。

「ヒィッ! 逃げろ、障壁を解除して散開しろ!」

 俺の接近に恐れをなし、障壁を解いて逃げ出そうとした部隊は、背後からインナーバフの剣技でまとめて両断し、爆鳴気で木っ端微塵に吹き飛ばす。


 だが、ある一つの部隊は、恐怖のあまり障壁を解除できず、その中に数十人が閉じ籠ったままガタガタと震えていた。

「……出てこないなら、いいさ」

 俺はその障壁に手のひらをピタリと当て、俺の魔力……つまり、能力値1のショボい水魔法を、彼らの障壁の『内側』に座標を指定して発動させた。

 バシャッ。

 障壁の中に、バケツをひっくり返したような水がこぼれ落ちる。

「……な、なんだ? 水?」

 シン兵たちは戸惑い、顔を見合わせた。絶対の盾であるはずの障壁の中に魔法を通されたことへの驚きよりも、そのあまりにもショボい威力への困惑が勝っていた。


 だが、俺はとめどなく障壁内に水を注ぎ込み続けた。

 ジョボジョボという音は、瞬く間に滝のような轟音へと変わり、障壁の中の水位が尋常ではない速度で上昇していく。

「お、おい! 水が増えてるぞ!」

「馬鹿な、息が……ッ! 早く障壁を解除しろ!」

「だ、駄目だ! 外のあいつに殺される!」


 膝下だった水は腰へ、胸へ、そしてあっという間に彼らの首元まで到達した。

 俺はそこで注水を止め、障壁の最上部に、ちょうど『一人が顔を出せる程度の隙間』だけを残してやった。

「さあ、出て来いよ」

 俺が嗤うと、障壁の中の数十人は、そのたった一つの『空気を吸える空間』を求めて発狂した。

 仲間を引きずり下ろし、水中でナイフを突き立て合い、互いの顔を踏みつけてまで、自分だけがその隙間に顔を出そうと醜い争いを始める。

 透明だった水槽の中の水は、彼らが流す血によって、瞬く間に濃密な赤色へと染まっていった。


 数分後。

 ついに障壁を発動していた魔導士が水中で刺し殺されたのか、ドーム状の障壁がフッと消失し、大量の赤い水と死体が周囲にぶち撒けられた。

 生き残ったのは、全身血まみれになって荒い息を吐く、わずか数人の兵士だけだった。


「ゲホッ、ガハッ……! た、助かっ……」

 這いつくばる兵士たちの前に、俺はゆっくりと歩み寄り、冷たく見下ろした。

「おめでとう。君たちは同胞を殺してまで生き残った勇者だ。素晴らしい」

 俺の言葉に、兵士たちは涙を流して安堵の笑みを浮かべかけた。

「……そしてクソ野郎だ。死ね」

 直後、俺は彼らの『肺の中』に直接、水を生成した。

「ガ、ガボォッ!? ギィッ、ア……ッ!!」

 兵士たちは自らの首を掻きむしり、陸上にいながら溺死の苦しみを味わい、数秒間もがき苦しんだ末に絶命した。


 その血も凍るような処刑ショーを見ていた周囲の兵士たちは、もはや絶望で腰を抜かし、武器を構えることすらできなくなっていた。

「さあ、君たちはどうする? まあ、待ってたら彼女が殺してくれるぞ」

 俺が親指で背後を指し示すと、ちょうど車軸で敵の頭をスイカのように叩き割っていたセリーナが、こちらに気づいて振り返った。

 彼女は血塗れの顔で、恐怖に硬直するシン兵たちに向かって、器用にパチッとウィンクをして、愛らしい投げキッスを送った。


 それは、兵士たちの心を完全にへし折る、紛れもない死の宣告だった。

「あ、あああ……悪魔だ……狂ってる……ッ」

 戦意を喪失し、ただ震えるだけの肉の壁を前に、俺とセリーナの、流れ作業のような蹂躙が再開された。


 ---


 およそ、三時間後。

 大地を埋め尽くしていた五万の軍勢は、完全に崩壊していた。

 見渡す限りの死体と、赤く染まった泥。生きて立っているのは、返り血で真っ赤に染まった俺とセリーナだけだ。


「ふう、いい運動になったわね」

 セリーナが満足げに伸びをしながら、血まみれの車軸を投げ捨てる。

「ああ。だが、一万人位は散り散りに逃げたな。追うか?」

 俺の問いに、セリーナはつまらなそうに首を振った。

「放っておきましょうよ。あんなの、探して殺すのも面倒だわ」

「違いない。それに、逃げた連中のおかげで、これからバルゲン港までの間に、待ち受けて攻撃しようとか、一緒に籠城しようとかで、もっと大きな群れが集まってくれるだろうしな」


 恐怖を煽れば煽るほど、獲物は勝手に一箇所に固まってくれる。

「それをまとめて叩く方が、いい暇つぶしになる」

 俺がそう言って笑うと、セリーナも楽しそうに同意して俺の腕に抱きついてきた。


 西日に照らされた数万の死体の海を背に、俺たちは次の絶望を届けるため、東の港街へとゆっくりと歩き出した。

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