第107話:不可視の死角と、崩壊する玉座
王城へと続く道は、先ほど俺が放った広域の指向性爆鳴気によって、完全に更地と化していた。
石造りの堅牢な建築物は原形を留めず、細かく砕かれた瓦礫の山へと変わり、超高温の熱波によって一部の砂はガラス化して鈍い光を放っている。周囲には黒焦げになった肉塊が散乱し、かろうじて息のある者たちの呻き声と、肺を焼かれたことによる特有の湿った咳が至る所から漏れ聞こえていた。
ひどく血生臭い、硝煙と水蒸気が混ざり合った泥濘の中を、俺とセリーナは周囲の惨状に気にする様子もなく、歩みを進めていた。
「やっぱり王城に近づいたら狙撃とかされるのかしらね?」
瓦礫をブーツで踏み砕きながら、セリーナが周囲を見回して口を開いた。その声に緊張感はない。
「いや、シーナを狙ったようなのはこの混乱じゃ出来ないだろ。ただ、帝国の銃より射程は長そうだし、威力もありそうだ」
俺は周囲を警戒しながら答える。
「そのくせ魔法の痕跡や波長は、あの転移装置周りくらいしか見当たらない。シンってのは、武力は銃などの物理兵器偏重なのかもなあ」
そう言いながらも、俺は百メートル進むごとに歩みを緩めず、魔眼のサーモグラフィ機能で熱源を探り、同時に魔力波長の有無を確認していく。望遠機能で進行方向の空間をスキャンし、伏兵の存在を洗い出す。
そして、王城の正門跡――ひしゃげた鉄門が転がっている広場へと足を踏み入れた瞬間だった。
王城の窓という窓の奥に、複数の強烈な熱源反応が点灯した。
直後、空気を切り裂くような乾いた破裂音が連続して響き渡り、銃撃が加えられる。
ダダダダダダダダッ!!
俺とセリーナは即座に瓦礫の陰に滑り込み、様子を窺う。何箇所からか激しい連射を受ける。シンでは、前世の地球でWW1に使われたような機関銃が実戦配備されているようだ。圧倒的な質量を持った鉛玉の雨が、音速を超えて俺たちに殺到する。
「鬱陶しいわね」
セリーナが瓦礫の陰から、王城に向かって超高温の火魔法を放つ。
しかし、炎の槍は窓に到達する数メートル手前で、見えない壁に衝突して受け付けられなかった。
「……防がれたか」
俺も指向性爆鳴気を放つが、それすらも弾き返される。
どうやら、ハーンの元王たちが使っていた絶対防壁を大型化して展開しているようだ。さらに、攻守で切り替えられるように発動も早く、自分たちが攻撃した後に素早く障壁を張って、装填をした後に任意で解除したり張ったりできるようだ。
その時、ある窓から太い砲身――バズーカに似た兵器が突き出され、それが俺たちに向けて火を噴く。
ズガァァァァンッ!!
俺たちが隠れていた瓦礫が、着弾の衝撃と爆発で完全に吹き飛んだ。
しかし、土煙が晴れた後、そこには障壁で守られた俺たちの姿があった。
ハーンの大王から分捕った『絶対防壁』の腕輪。物理現象も魔法も完全に遮断する琥珀の障壁だ。ロケット弾の爆風も破片も、俺とセリーナには傷一つつけられない。俺たちも当然、障壁の魔道具は持っている。
こうなると両者打ち手が無く膠着状態と思われるが、障壁内から攻撃できないことを知っているシンは、城壁の障壁を解除して、俺たちが障壁解除した瞬間に攻撃できるように狙いをつけている。
そして、城内から多数の工兵たちが出てきて、俺たちの障壁の下を掘って爆薬を仕掛けようとし始めた。障壁ごと打ち上げたり吹き飛ばして、障壁は壊せなくとも内部の人間を殺す。俺がハーンの大王たちにやった攻撃方法をやろうとしているのだ。
仕掛けに来た兵を殺すために俺が障壁を外せば、城内から狙い撃ちにされる。
これで俺たちは詰んだと、シン側が思った時だった。
次々と、工兵たちの頭が吹き飛んでいく。
障壁内では、俺がじっと王城を見据えていた。
「なあセリーナ、やっぱり王様ってあのバルコニーのある階あたりにいるのかね?」
俺は足元で死んでいく工兵たちを見下ろしながら、セリーナに話しかけた。
「うーん、さっきから見てると、兵の装備が結構バラバラなのがいるから、貴族連中もいるんじゃないかしら? だから謁見の間か大広間にいると思うから、あの三階あたりじゃないかしらねえ?」
そう言ってる間も、俺たちの周りの工兵たちは、有るものは頭部が破裂し、あるものは胸部が吹き飛び、あるものは胸や喉を掻き毟りながら事切れていき、いつしか全員死んでいた。
実は障壁は「魔法攻撃」の現象は外からも中からも防ぐが、魔力そのものは通す。そのため、俺のように体から離して魔法を構築できる人間は、自身が障壁内に居ながら、相手の体内など死角に直接魔法を構築して攻撃できるのだ。
「さて、と」
俺は腕輪の障壁を維持したまま、再度王城に向けて爆鳴気を放つ。
しかし、やはりシンの大型障壁で受けられる。王城では安堵の声が上がるが、次の瞬間、こちらに機関銃を向けていた窓の付近がすべて吹き飛んだ。
障壁内から魔法構築できるということは、相手の障壁内にも「魔力だけを透過させて」魔法を構築できるということだ。俺は、王城の障壁内にある銃眼で直接水素と酸素を充満させ、爆鳴気を構築して爆破したのだ。
障壁に閉鎖された空間での爆発は、逃げ場を失った衝撃波となって銃兵たちをミンチに変えた。王城から激しい動揺が伝わってくる。
俺はその隙に、魔眼で一階と地下を重点的に探り、魔力が集中している場所を見つけた。
「これかな?」
地下の魔力炉――大型障壁の発生装置の中心座標。そこに座標指定で爆鳴気を作り、吹き飛ばす。
王城の地下から地響きが鳴り、王城の障壁がステンドグラスが割れるように消滅した。
「よし、これで入れるなあ」
俺は自身の腕輪の障壁を解除し、首を鳴らした。
「じゃあ掃除しながらクソ王をさがしましょうか」
セリーナが双剣を抜き放つ。
「銃に気をつけろよ?」
「フッ、開けた場所や軍同士ならともかく、室内戦で魔法剣士が銃を持ったからって負けないわよ?」
そう言いながら、俺たちは城内へと突入し、目に付くものをすべて斬り捨て、焼き、吹き飛ばしていく。
曲がり角などでは、俺が通路沿いに指向性爆鳴気で爆破してクリアリングした後、セリーナが低い姿勢で踊りこんで残敵を掃討していく。
一階から二階、そして三階へ。
大広間の前には、重装近衛騎士たちが分厚い肉壁を作っていた。
「……火魔法相手に金属鎧とかバカなのかしら?」
セリーナが冷笑し、腕を振るって騎士たちを焼く。肉が焼ける匂いが立ち込め、前列の騎士が倒れたが、後ろの半分ほどは小型のボール状の障壁の魔道具を展開して無事だった。
「ふーん、障壁好きならずっといろよ」
俺は彼らが展開しているボール状の障壁の『下方』から、爆鳴気で吹き飛ばす。
障壁自体は壊れていないが、吹き飛んだ衝撃で大広間に飛び込んだボール状の障壁は、中のホールで壁や天井に何度も跳ね返る。激突のたびに強烈なGが加わり、中の人間は半死半生となる。
そして、魔道具の限界が来て障壁が消えた途端、セリーナが容赦なく彼らを燃やす。
悲鳴と肉が焼ける嫌な匂いが充満する中、俺は血と灰で汚れた靴を鳴らしながら広間を見渡した。
「さて、俺達の身内に手を出したバカな王はどいつだ?」




