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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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閑話:女王の短剣と影の忠臣

ハーン王国王城、大広間。

 そこは本来、王が臣下を労い、あるいは華やかな宴が催される場所であるが、今の空気は凍りつくように冷たく、重苦しかった。

 広間の中央には、粗末な罪人用の麻の服を着せられた初老の男が、静かに両膝をついている。

 長くハーン王宮の要職を務めてきた名門、ダーマー子爵その人である。


 彼を取り囲むように並ぶ、文官や武官たち――これからハーン国の新たな中枢を担うであろう宰相予定の者たちの顔には、一様に深い苦悩と疲労の色が色濃く浮かんでいた。

 無理もない。彼らは昨日から徹夜で、この前代未聞の「反逆罪」に対する裁きをどうすべきか、議論を戦わせてきたのだから。


「……法は法です。いかに国を想っての行動であったとはいえ、建国の時代より千年以上もの間、他国へ情報を流し続けていたという事実は覆りません。これを不問に付せば、ハーン国の法と秩序は根底から崩れ去ります」

 一人の厳格な文官が、血を吐くような思いで進言する。その目には、ダーマー子爵への同情と、国家の根幹を揺るがす危機感がないまぜになっていた。

「しかし! 彼らが泥をすすり、我が身を切り売りしてまで情報を統制してくれなければ、我がハーン国はとうの昔に、あの『シン』という化け物のような国家に飲み込まれ、滅ぼされていたのですよ!? 己の命を懸けて国を守り抜いた英雄を、反逆者として処刑しろと言うのですか!」

 別の文官が激昂して叫ぶ。


 どちらの言い分も正しい。

 法に照らし合わせれば、ダーマー家は一族郎党ことごとく斬首の上、お取り潰しという極刑は免れない。

 だが、彼らが何世代にもわたり、見返りを求めることもなく、いつか来る処刑の日に怯えながらも、孤独に国を守り続けてきた事実を前にして、誰が冷酷に刑を執行できるというのか。


 軍のトップとしてこの場に立ち会っているデックスもまた、固く目を閉じ、眉間を指で揉みほぐしていた。

 彼が確保した千年に及ぶダーマー家の記録。それは、この国の歴史そのものであり、決して表に出ることのない血塗られた忠誠の証だった。有能な将軍であり、これから家宰として国を支えるデックスにとって、有能極まりないこのダーマー家を失うことは、国家にとってあまりにも巨大な損失に他ならない。

 だが、決断を下すのは自分ではない。


「女王陛下、御成り――!」


 近衛騎士のよく通る声が大広間に響き渡ると、議論を交わしていた文官たちも、目を閉じていたデックスも、一斉にその場に平伏した。

 静かな、しかし確かな足音を響かせ、玉座へと歩みを進めるのは、新女王ルダ。

 かつての、ノキアの軍勢を前に恐怖で泣き叫び、失禁すらしていた気弱な少女の面影は、そこにはもう無い。数々の修羅場をくぐり抜け、祖国の滅亡と再生をその目で見てきた彼女は、今や真なる王としての威厳と覇気を全身から放っていた。


 玉座に腰を下ろしたルダは、冷ややかな視線を広間の中央に跪くダーマー子爵へと向けた。

「面を上げよ、子爵」

 凛とした声が響く。ダーマー子爵は静かに顔を上げ、女王の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。その顔に恐怖はない。ただ、千年の重荷をやっと下ろすことができるという、静かな安堵だけがあった。


「そなたの家の千年に及ぶ行い、そして我が国に迫る『シン』の脅威、全てデックス将軍より報告を受けた。……長きにわたり、我が国を陰から支えてくれたこと、まずは王として礼を言う」

「もったいないお言葉でございます、陛下。しかし、我が家が国法を犯し、国を欺き続けてきた事実は消えません。全ては私の代で終わらせます。どうか、私を極刑に処し、我が家を取り潰すことで、法の威信をお示しください。……ただ一つ、何も知らされずに働いていた家人たちと、私が記した元間者の家々にだけは、どうか御慈悲を……」

 涙ながらに懇願する子爵の姿に、周囲の文官たちがたまらず顔を伏せ、すすり泣く声が漏れた。


 ルダは目を伏せ、深いため息をついた。

「……法を曲げることはできぬ。そなたの罪は、万死に値する反逆だ」

 その言葉に、広間の空気が絶望に沈んだ。やはり、処刑するしかないのか。デックスでさえも、奥歯を強く噛み締めた。

 ルダは立ち上がると、自らの手で一つの細長い木箱を持ち、ゆっくりと階段を下りてダーマー子爵の目の前まで歩み寄った。


「これを、卿に与えます」


 ルダの手によって木箱が開かれる。

 そこに納められていたのは、王家の紋章が刻まれた、豪奢で美しい意匠の『短剣』だった。

 それを見た瞬間、デックスも、文官たちも、そしてダーマー子爵自身も息を呑んだ。


 ハーン国において、王や尊き身分の者から直接『刃』を賜るということは、特別な意味を持つ。

 それは、ただの斬首や絞首といった罪人としての処刑ではなく、自らの手で命を絶つことで、その魂の気高さと名誉を永遠に守ることを許されたという、最大級の恩情――日本でいうところの「切腹」にも等しい、名誉ある死の宣告であった。


「陛下……っ」

 ダーマー子爵の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。

 処刑は免れない。しかし、反逆者として歴史の闇に葬られるのではなく、王はダーマー家の千年の忠義を認め、名誉を守ってくださったのだ。これほどの救いがあるだろうか。

「どう使うかは、わかりますね?」

 ルダの問いかけに、子爵は震える手で短剣を箱から取り出し、深く、深く平伏した。

「ははっ……! このような身に余る名誉をいただけるとは……! 我がダーマー家、千年分の忠誠の果てに、これほどの幸福はございませんっ……!」

 子爵は涙で顔を濡らしながらも、どこか晴れやかな表情で短剣の鞘を払った。

 美しく磨き上げられた刃が、冷たい光を放つ。

「陛下。どうか、これからのハーン国を、若き御身で導きくださいませ……!」


 子爵が短剣を逆手に持ち、己の胸へと力強く突き立てようとした、その瞬間。

 それを止めようとデックスが反射的に一歩を踏み出した時だった。


「――違うであろう、子爵!!」


 広間を震わせるほどの、ルダの鋭い一喝が響き渡った。

 子爵の手が、胸の寸前でピタリと止まる。驚きに見開かれた目が、ルダを見上げた。

 ルダは真っ直ぐに子爵を見据え、王としての凄絶な覇気を放ちながら言い放った。


「卿の罰は、そんな名誉な死に方ではない!」

「は……?」

「そなたは、その短剣の使い道を間違えていると言ったのだ。自らの胸に突き立てるなど、許さぬ」

 ルダは一歩前に出ると、子爵が握る短剣の刃を、自らの胸元へと指差した。


「余が、前王のように国のためにならない考えを持った時、あるいは己の権力に溺れ、民を苦しめるような愚王に成り下がった時……その短剣で、余を殺すのが卿の罰だ」

「なっ……!?」

「何百年もの間、我が国の王たちを最も厳しい目で見つめ、影から国を操ってきたのは卿らであろう。ならば、これからもその冷徹な目で、余を監視し続けよ。そして、余が道を違えた時は、卿が自らの手でハーンの王を殺せ」

 あまりの言葉に、広間にいた全員が言葉を失い、石像のように固まった。


 王を殺せ。

 それはつまり、これからも王の最も身近に仕え、国の命運を握る「影の重鎮」として生き続けろという、これ以上ないほどの絶対的な信頼の証であった。

 命を奪うことよりも遥かに重い、国家の業を背負わせるという『罰』。


「……まあ、曲がりなりにも王を殺すのだから、楽には死ねまいが」

 呆然とする子爵を見下ろし、ルダは少しだけ口元を綻ばせて、不器用な笑みを浮かべた。

「罰だからな。そこは許せ」

「あ……あぁ……っ!!」


 短剣を取り落としたダーマー子爵は、床に両手をつき、子供のように声を上げて号泣し始めた。

 千年の孤独が、本当の意味で報われた瞬間だった。彼らを縛っていた呪いは、今、新女王の器によって、ハーン国を未来へと導く最強の剣として生まれ変わったのだ。


 その光景を横で見つめていた文官たちは、ルダの『王の器』に感服し、次々と床に膝をついて平伏していく。

 軍と内政を束ねるデックスもまた、深々と頭を下げていた。

(……見事だ。この若さで、あれほどの重圧と政治的判断をやってのけるとは)

 デックスの胸の奥底から、熱いものが込み上げてくる。

 かつての気弱な少女はもういない。彼女は今、真にハーン国を背負う孤高の女王として覚醒したのだ。

 自分は、この女王に一生を捧げよう。剣として、盾として、いかなる困難が待ち受けようとも、彼女の覇道を支え抜いてみせる――。


 臣下としての絶対の忠誠を胸に誓い、デックスは静かにルダを見上げた。

 冷徹に国政を裁く、その美しくも威厳に満ちた横顔。

 誰が見ても、完璧な女王の姿であった。


(……でも、夜はあんなに可愛いんだよなぁ)


 デックスの脳裏に、ふと昨夜の光景がフラッシュバックする。

 二人きりになった自宅の寝室。分厚い執務書類の束から解放されたルダは、「もう疲れちゃったぁ……」と涙目でデックスの胸に飛び込んでくると、彼の大きな体にすり寄りながら、甘ったるい声で延々とその日の愚痴をこぼしていたのだ。

 公の場で見せる冷徹な女王の顔と、夜、自分にだけ見せる無防備で甘えん坊な少女の顔。


(あのギャップが、たまらなく可愛いんだ……俺だけの女王様、って感じで)

 広間が感動の涙に包まれる中、デックスは一人、臣下としての顔を完璧に保ちながらも、内心で盛大にデレデレと顔を綻ばせていた。

 この壮絶なギャップ萌えを噛み締めているのが世界で自分一人だけだという事実が、彼の忠誠心(と愛情)をさらに強固なものにしていた。


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 数日後。

 王都での憂いを完全に断ち切り、後顧の憂いをなくしたデックスは、数名の精鋭と共に早馬を駆り、熱砂の砂漠を疾走していた。

 懐には、ダーマー家から押収した「シン」に関する膨大な機密資料と、確かな希望を抱いて。

 目指すは、ギーク人の都を占領し、次なる一手を待ちわびているであろう『規格外の男』、ケントが待つ最前線である。


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次回更新は来週の水曜予定です。

20日からは以前の投稿ペースに戻す予定です。

よろしくお願いいたします

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