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他サイトで330万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第102話:盤上の情報戦と、神を騙る亡霊

 三万のギーク軍が文字通り「蒸発」してから数日後。ハーン王都の城門は、かつてないほどの熱狂と歓声に包まれていた。

 威風堂々たるノキア王国の軍旗を掲げ、整然と行進してくる精鋭部隊。その先頭で白馬に跨り、涼しげな流し目で群衆の歓声に応えているのは、我が国の次期国王たるシャルム王太子であった。


 正使としての威厳を完璧に纏ったシャルムは、城門前で出迎えた俺たちを一瞥すると、馬を降りて静かに歩み寄ってきた。彼の視線は、俺たちの背後に広がる、不自然なほど綺麗に更地と化した荒野――かつて三万の軍勢が布陣していた場所――へと向けられた。


「なるほど、ご苦労だった」

 シャルムはいつものように涼しい顔で頷くと、俺にしか聞こえないような小声でボソリと付け加えた。

「……えー。少し残しといてくれても良かったのに。私にも実戦の場が必要だと言っただろう?」

「いや、残すも何も、親父さんたちがヒャッハーしちゃったし、俺たちも手加減する余裕なんてなかったんだよ」

 俺が苦笑交じりに返すと、シャルムは「まあよい」と小さく肩をすくめた。相変わらず、この男は常軌を逸している。


 その後、ハーン城の最奥にある豪奢な応接室にて、極秘の会談が開かれた。

 参加者はノキア側からシャルム王太子、護衛の櫻、そして俺たち家族と親父ギデオン。ハーン側からは新女王ルダと、家宰であり将軍のデックス。

 シャルムはまず、マセックやウルといった旧ヴェレツケールを起源とする国々との「ヴェレツケール連合」構想を正式にルダへと打診した。滅亡の淵から救われたばかりのハーンにとって、これは願ってもない提案であり、ルダとデックスは深い感謝と共に即座に連合への参加と協力を約束した。


 だが、問題はここからだった。

 俺とデックスから、先日の戦闘の裏に潜む「不自然な情報操作」と、ルダが語った「砂の向こうへ消えた王族の一派」についての推測が共有されると、室内の空気は一気に張り詰めた。


「……なるほど。ニューヴェ大陸の情勢は、我々が外から見ていた以上に不安定で、かつ根深い闇が潜んでいるというわけか」

 シャルは鋭い思案の目を向けた。

「連合構想を急ぐ必要があるな。この大陸の背後に未知の勢力が暗躍しているとなれば、もはやハーン一国の問題ではない。私は一度ノキアへ戻り、マセックやウルとの交渉を急ピッチで進め、連合としての強固な防衛網を敷く」

 シャルの決断は早かった。トップ自らが長期間国を空け、得体の知れない黒幕が潜む地帯に留まるのはリスクが高すぎる。


「ギデオン。お前は私の直属の護衛としてノキアへ同行しろ。ニューヴェの情勢が不透明な以上、道中の守りは万全を期す」

「御意に。……ケントよ、暴れ足りん時はいつでも呼べ。すぐ飛んできてやるわい」

 ギデオンはニヤリと凶悪な笑みを浮かべて頷いた。


 武力と外交の分担が決まる中、部屋の隅に控えていた商人たちにも沙汰が下された。

「クロエ、それに『アンバー商会』の連中は、シャルム王太子の部隊と共にノキアへ戻れ。戦闘力のないお前たちが残るには、ここは危険すぎる」

 俺がそう告げると、クロエは少しだけ悔しそうに唇を噛んだが、すぐに優秀な商人としての顔を取り戻して深く頭を下げた。

「……分かりました。ハーン国との特産品の取引ルート、必ずノキア側で受け入れ態勢を整えておきます。ケント様、どうかご無事で」

 彼女の決断は賢明だった。これから先は、完全に血の匂いしかしない戦場になる。


 一方で、ニィッと口角を上げて一歩前に出たのは、『紅屋』を取り仕切る朧だった。

「アンバー商会が引くなら、独占の商機だねえ。アタシら紅屋は、このままハーンに残り、商会の基盤作りに命を懸けさせてもらうよ」

「おいおい、死ぬかもしれないぞ?」

「ふふっ。莫大な利益の裏には、常に死の影が付き纏うもの。それに、ケント殿たちがいる限り、そう簡単に死なせてはくれないでしょう?」

 したたかで強欲な商人魂を見せつける朧に、俺は呆れながらも頼もしさを感じていた。


 ---


 シャルム王太子とクロエたちが王都を出発した翌日。

 俺たち居残り組は、ハーン国の真の安定を図るため、次なる作戦へと移行していた。


「逆侵攻、ですか」

 作戦会議室の巨大な地図を前に、デックスが顎を撫でた。

「ああ。ギークの主力三万は消滅した。今、奴らの本拠地は間違いなくもぬけの殻さ。叩くなら今しかないだろう」

 俺の提案に、デックスは頷きながらも一つの懸念を口にした。

「しかし、我々ハーンの兵力は、王都防衛に残った五千のみ。攻め入るにしても、道中の補給線が維持できません」


「それなら心配いらないわよ」

 会議室の扉が開き、セリーナが優雅な足取りで入ってきた。その後ろから、シーナが分厚い羊皮紙の束を抱えてやってくる。

「報告があったわ……ギークの連中、王都包囲の陣から少し離れた所に、大規模な輜重隊を待機させていたみたいね。でもあわてて逃げたんでしょうね、物資はそのままだったわ」

「三万人分の食糧と物資。丸ごと残ってました!」

 シーナが元気よく羊皮紙をテーブルに広げる。それを見たデックスの目が驚愕に見開かれた。


「さ、三万人分の物資が、無傷で……!? これほどの量があれば、五千の兵を動かしても数ヶ月は戦線を維持できる……!」

「そういうことだ。これで逆侵攻の足掛かりはできた」

 俺は地図上のギークの本拠地を指差した。


「ですが、ケント殿。一つ提案があります」

 デックスは地図を鋭い目で見つめながら、持ち前の知略を巡らせ始めた。

「私は、この五千の兵と共に王都に残ります。そして、軍を五つの部隊に分け、それぞれ別のルートから逆侵攻を行うという『偽の軍議』を開きます」

「偽の、軍議?」

「はい。黒幕に情報を流している内通者が、必ずこの王城内の要職に潜んでいるはずです。五つのルートそれぞれに、別々の侵攻作戦の情報を流します。そして、各ルートに極秘裏に斥候を放つのです」


 なるほど、と俺は舌を巻いた。

「敵国の物見がどのルートに現れるかを確認すれば、どの『偽情報』が流出したかが分かり、内通者を確実に炙り出せるってわけか」

「その通りです。王都の浄化は私にお任せください。ケント殿、セリーナ殿、シーナ殿には、我が国の精鋭少数と共に、本命のルートからギークの都を急襲していただきたい」

「上等だ。派手にやってやるよ」

 こうして、デックスの緻密な情報戦と、俺たちによる電撃的な逆侵攻作戦が幕を開けた。


 ---


 ギーク人の本拠地たる砂漠の都。

 そこは、拍子抜けするほどあっけなく陥落した。


 俺たちが接収した莫大な物資を活用し、砂漠を強行軍で突破して都に辿り着いた時、抵抗らしい抵抗は全く起きなかったのだ。

 無理もない。血気盛んな主戦派の男たち三万人は、すでに俺たちの手によって文字通り「溶かされて」いたのだから。都に残っていたのは、最低限の衛兵と、老人、女子供、そして「他国とは不干渉を貫くべきだ」と主張していた少数の穏健派だけであった。


 無血開城に等しい形で都を占領した俺たちは、すぐさま軍部を扇動した指導層――長老や族長たちを拘束し、尋問を開始した。

 だが、事態は思わぬ方向へと膠着した。


「神のお告げなのだ……! 全ては、大いなる神の意志! ヴェレツケールの血を根絶やしにせよとの、神の御声を聞いたのだ!!」


 薄暗い天幕の中で縛り上げられた長老たちは、一様に目を血走らせ、狂ったように同じ言葉を繰り返していた。

 セリーナが『優しい尋問』の気配を漂わせても、彼らの瞳に恐怖はなかった。あるのは、狂信的なまでの恍惚感のみ。

 彼らは嘘をついているわけでも、情報を隠しているわけでもない。「何者か」によってもたらされた知識や魔道具、そして治癒魔法の奇跡を、本気で「神の御業」だと信じ込んでいるのだ。何世代にもわたって、完全に洗脳され、手駒として飼い慣らされてきた結果である。


「こりゃダメだ。完全にイカれてる。拷問しようが何しようが、これ以上有益な情報は出てこないぞ」

 俺は頭を掻き毟りながら、深いため息をついた。黒幕は、末端のギーク人たちに自らの正体を一切明かさず、ただ「神」として君臨していたのだ。これでは尻尾の掴みようがない。


 手詰まりを感じていたその時。

 天幕の外から、ハーンの斥候が駆け込んできた。


「伝令! 王都のデックス将軍より、緊急の早馬です!!」

 差し出された封書を受け取り、俺は素早く封を切った。

 そこには、デックスが内通者を炙り出し、尋問の末に引きずり出した「真の黒幕」の正体が、簡潔かつ衝撃的な事実と共に記されていた。


『ケント殿へ。内通者の確保に成功しました。敵の正体が判明。

 黒幕は、かつてヴェレツケールからニューヴェに降り立ち、ハーン王家と袂を分かった王族の一派。驚くべきことに、彼らは独自の魔導技術で転移装置を完成させ、すでに別の大陸へと渡り、新たな巨大国家を建国していました。

 その国家の名は――「シン」。』


「……!」

「お兄ちゃん? どうしたの、そんな怖い顔して……」

 心配そうに覗き込んでくるシーナ《《》》


 点と点が、一本の巨大な線として繋がった瞬間だった。

 アマテラスを執拗に狙う、別大陸の強大な国家「シン」。

 その正体が、数千年の怨念を抱き、ニューヴェ大陸の魔導技術を受け継いだハーン王家の亡霊だったとは。

 彼らがアマテラスを狙う理由。それは単なる領土的野心などではない。アマテラスを足がかりにして、いつか必ず、ノキアやウルのある大陸へと侵攻するための巨大な橋頭堡を築くためだったのだ。


「……セリーナさん、シーナ。厄介なことになった」

 俺は書状を握り潰すようにして、二人を見た。

「俺たちが相手は、ただの砂漠の部族じゃなかった。アマテラスの隣に本拠地を構える、巨大国家『シン』だ」


 事態はもはや、ニューヴェ大陸という局地的な紛争の枠を遥かに超えていた。

 見えざる敵の巨大な影が、俺たちの背後に音もなく忍び寄っていた。

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次回の投稿は、8日の予定です

宜しくお願いします

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