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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第98話:新たなる同盟への旅路と、岩山の視線

 ヴェレツケール連合国構想という、大陸の歴史を根本から覆すような巨大な風呂敷が広げられてから数日後。

 俺たちは、連合の最初の足がかりを築くべく、隣国であるハーン国――かつてヴェレツケールの民が病魔から逃れて新天地とし、独自の進化を遂げた大渓谷の国へ向けて、ノキア王都を出発していた。


 今回の使節団は、二国間の歴史的な外交の第一歩ということもあり、本来なら大軍で行動してもいい位だが、王太子と伯爵がいるのに驚くほどの小さな所帯となっていた。


 正使として赴くのは、次期王であるシャルムだ。彼を護衛するため個人護衛の櫻に加え精鋭の親衛隊が五十名。

 そして、親衛隊の人数を補うため、普段から親衛隊の騎士が通うアマテラス式剣術道場、その師範とその道場生五十名である。  

 

 更にルミナス騎士団長であるギデオンが率いる三十名の精鋭騎士たちが同行する。


「いくらなんでも、他国へ出向く特命全権補佐のヴォルガン伯爵が、身内の女連れだけでは格好がつかんだろう」


 というルミナス侯爵の配慮(という名目の圧力)により、ギデオン率いる三十名は急遽『ヴォルガン伯爵騎士団』という名目で俺の直属護衛として貸し出されることになったのだ。

 ……こりゃ俺がやりすぎないように義父をつけたんだろう


 さらに、外交交渉や実務を担うための文官たちが数名随伴している。ハーン国側からは、特命大使としてノキアに駐在することになったガゼブ王子と、その補佐の文官二名が道案内として同行していた。


 そして、俺の個人的な同行者たちだ。

 今回、ザラは女性陣から「ザラばかりずるい」といわれ、ノキアの防衛と留守番のために置いてきた。代わりに俺の傍らにいるのは、婚約者であるシーナと、義母であり絶対的な『女王』であるセリーナ、そして専属メイドのニナの三人だ。

 さらに、ヴェレツケール連合がどう転ぼうが「商機は逃さない」と鼻息を荒くしているクロエが、大量の交易品を積んだ馬車と共に商人枠としてちゃっかり食い込んでいる。彼女の護衛も兼ねて、朧たち一行も一緒だ。


 

 総勢百五十名を超える大行軍。

 馬車や荷車の車輪の音が、薄暗い地下ダンジョンに反響する。


 かつて俺とザラが命がけで突破した遺跡のダンジョンは、今やノキアとハーンを繋ぐ恒久的な『大動脈』へと姿を変えていた。

 ルミナス侯爵の手回しにより、ダンジョン内の魔物は定期的に掃討され、道幅は広げられ、一定間隔で魔導ランタンが設置されている。そして、その道の最奥、遺跡のゲートの前には、両国の兵士が駐留する厳重な『関』が構築されていた。


 ゲートを挟んで、ノキア側の関所と、ハーン側の関所が向かい合っている。

 俺たち使節団は、まずはノキア側の関所を通過した。こちらはノキア王城から事前に通達が出回っており、何よりシャルム王子や俺、ギデオンといった顔の知られた人間が先頭に立っていたため、書類の確認だけであっさりと通過することができた。


 だが、そのまま恒久的に開かれた光のゲートをくぐり抜け、ハーン側の関所に入ったところで、一行の足がピタリと止められた。


「無礼であろう!!」


 前方の検問所で、ノキア側の文官が顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げていた。その後ろでは、シャルムの親衛隊の一部が、剣の柄に手をかけてハーン国の兵士たちを威圧するように睨みつけている。

 俺はため息をつき、馬から降りて前線へと向かった。シャルムも怪訝な顔をして俺の後に続く。


「どうした。こんな所で何をもめてるんだ」

 俺が声をかけると、ノキアの文官が憤慨した様子で振り返った。


「ヴォルガン伯! 聞いてください、この者たちの無礼を! たった今、ノキア側の関所で正式な手続きを終え、王城からの先触れも出しているというのに、改めて人員の数と荷を一つ一つ検めると言うのです! シャルム殿下や貴方様がご同道されているというのに、我らを疑うとはあまりに無礼千万!」

 文官の言葉に、親衛隊の若手たちも「そうだ!」と同意するように頷いている。


 俺は文官の言葉をスルーし、槍を構えて立ちはだかっているハーン側の守備兵に向き直った。

 兵士たちは、シャルムや俺という大物を前にして明らかに緊張し、額に汗を浮かべていたが、それでも決して道を開けようとはしなかった。


「お前ら、上からなんて言われてここに立ってる?」

 俺が静かな声で問いかけると、守備兵の隊長らしき男が、姿勢を正して答えた。


「は、はい! この関所の最高責任者であるデックス将軍閣下より、厳命を受けております! 『こちらから行く者であれ、あちらから来る者であれ、決して特別扱いはするな。相手の身分に気圧され、不審な物を通してしまうことこそが、国に対する最大の不義理である』と!」

「……将軍、ねえ」


 王配(女王の夫)という立場になり、軍のトップである将軍職に就いたというデックス。

 だが、その指示の出し方は、彼が王都の防衛隊で百人長として胃を痛めていた頃と何一つ変わっていない、現場を熟知した極めて実務的で堅実なものだった。権力に胡坐をかかず、現場の兵士に『絶対に例外を作るな』と明確な基準を与えているのだ。


「フフッ、アイツらしいわ」

 俺は思わず吹き出し、口元に笑みを浮かべた。


「ヴォ、ヴォルガン伯? 何を笑っておられるのです!」

 ノキアの文官が不満げに声を荒げるが、俺は冷ややかな視線を彼へと向けた。


「おい、勘違いするなよ。俺たちはノキアの関所に先触れを出しただけで、ハーンの王城に直接事前の通過許可を取り付けたわけじゃない。まだ正式な外交条約すら結んでない段階なんだから、向こうの規則に従ってチェックされるのは当たり前のことだ」

「し、しかし、我々はノキアの正使として――」


「だからこそだ」

 俺は文官の言葉をピシャリと遮った。

「相手の国に入り込むのに、自国のルールや権威を押し付けて特別扱いしろと騒ぐのは、外交でもなんでもない。ただの横暴だ。むしろ、上からの命令を忠実に守り、王太子や伯爵を前にしても一歩も引かない彼らの仕事ぶりに敬意を払うべきだろうが」


 俺の正論に、文官はぐうの音も出ずに押し黙った。

 俺はさらに、後ろで殺気立っていた親衛隊の若手たちを指差した。


「それから、お前ら親衛隊。主であるシャルが動けと命じていないのに、勝手に剣に手をかけるな。『先んじる』ことと『勝手に行動する』ことは似てるようで全く違うんだよ。お前らの身勝手な威圧で衝突が起きたら、シャルの顔に泥を塗ることになるのが分からねえのか」


 親衛隊の兵士たちはハッとして青ざめ、慌てて剣から手を離して深く頭を下げた。

 俺はハーン側の兵士たちに「好きに検めてくれ」と告げ、手続きを進めさせた。その後ろで、セリーナやシーナが「さすがケント君(お兄ちゃん)ね」と微笑ましく見守っているのを感じながら、俺は小さくため息をついた。


「……こういうくだらねえいざこざを無くすためにも、さっさと連合国作って関税や通行のルールを統一しなきゃな。その時はアンタら文官の出番だ。実務は頼むわ」

「は、ははっ! 肝に銘じます!」

 先ほどまで憤慨していた文官も、俺の言葉に憑き物が落ちたように真剣な表情で頷いた。


 ---


 そんな些細なトラブルはあったものの、一行は無事に関所を抜け、ハーン国の赤茶けた荒野へと足を踏み入れた。

 ゲートを抜けてすぐの場所に設けられた厩舎で、俺は懐かしい顔(?)と再会を果たした。


「グルルゥッ!」

「おーおー、元気にしてたか。ちゃんと飯は食わせてもらってたみたいだな」


 俺が首筋を撫でてやると、ハーン国特有の『騎獣』――巨大な鳥と爬虫類を掛け合わせたような二足歩行の魔獣が、嬉しそうに喉を鳴らして俺の顔にすり寄ってきた。

 以前、大王の特殊部隊を壊滅させた際に分捕り、そのまま俺の足として活躍してくれた個体だ。ノキアへ帰還する際、ゲートの大きさと検疫の問題からハーン側の厩舎に預けていたのだが、しっかりと手入れをされていたらしい。


「ひゃあ……っ! お、お兄ちゃん、その大きな魔物はなに!?」

「ケント様、危険ですわ! 離れてください!」

 初めて見る巨大な騎獣に、シーナがセリーナの背中に隠れ、ニナが慌てて魔法の準備をしようとする。ノキアの兵士たちや櫻師範の道場生たちも、一斉に警戒態勢をとった。


「落ち着け、ただの馬代わりだ。ハーン国じゃあこれが一般的な乗り物なんだよ」

 俺はニナを制止し、ヒョイッと騎獣の背に跨った。

「ほら、ちょっと走ってみろ」


 俺が手綱を軽く叩くと、騎獣は爆発的な脚力で荒野を蹴り出した。

 馬とは比較にならないスピード。岩が転がる足場の悪い荒野をものともせず、器用に跳躍を交えながら滑るように疾走する。さらに、いざとなればその太い脚にある鋭い蹴爪が、強力な近接武器にもなるのだ。

 少しだけ荒野を駆け回り、ドリフトするように急停止して皆の元へ戻ると、ノキアの面々は呆然と口を開けていた。


「すごいわね……。あんな速度で荒野を走れるなんて。しかも、あの脚力と爪なら普通の兵士はひとたまりもないわ」

 セリーナが、純粋な感嘆の声を漏らす。


「……なるほどな」

 シャルが馬を俺の隣に寄せ、真剣な眼差しで騎獣の動きを分析していた。


「こんな機動力を持つ騎獣を操り、あの遠距離攻撃を可能にする腕輪の魔法、さらには絶対防壁のアーティファクトまである。……たまたま、規格外の爆鳴気を使うケントや、戦闘能力が異常に高いザラが相手だったから容易く落とせたように見えたが、ハーン国という国家そのものの軍事力は、決して侮れないな」

 シャルムの冷徹な分析に、俺は静かに頷いた。


「ああ。俺たちも今回は、あえて自分たちの手の内や魔法の原理を知られないように、力押しで圧倒して殺した。だが、同盟となればいずれノキアの戦い方や魔法の仕組みも、ハーン側に知られることになる。銃だって、あの障壁や腕輪とこの騎獣組み合わせた運用されたら、まだそこまでの効果も無い」

 

 俺は騎獣の首をポンと叩く。

「そうなって、互いの『未知』という優位性がなくなった状態で行き当たれば……この過酷な荒野で生き抜き、魔獣と戦い続けてきたここの兵士たちは強いだろうな」


「……それも含めて、今回の連合国構想は責任重大だね。彼らを敵に回さず、いかに強固な味方として取り込むか」

 シャルムが、胃の辺りを押さえるようにして苦笑した。


「まあ、気を楽に持てよ。ここの新女王は少々ポンコツだが、肚は据わってる。それに、さっき関所の指示を出してた王配……デックスは本当に良い男だ。きっと良い方向に行くさ」

「ふふっ。ケントが他国の人間をそこまで手放しで褒めるなんて、珍しいね?」

 シャルムが意外そうに目を丸くする。


「本当はなぁ、無理やりノキアに連れて帰って、ヴォルガン家の家宰にしたかったくらいなんだよ。あいつなら、俺の書類仕事を完璧に押し付けられそうだったからな」

「あはは、そりゃあ大した評価だね。彼に会うのがますます楽しみになってきたよ」


 俺たちの談笑に、周囲の緊張も少しずつ解け、使節団の巨大な列は再びハーンの王都へと向けてゆっくりと歩みを進め始めた。


 ――しかし。

 そんな穏やかな空気に包まれながら進む一行を、遥か上空の岩山の頂から、じっと見下ろしている『目』があった。


「……来たか。ヴェレツケールの末裔どもめ」

 赤茶けた岩陰に身を潜めたその人影は、忌々しげに呟き、手にした長弓の弦をギリリ、と引き絞る。

 その矢の先が狙うのは、紛れもなく、悠然と騎獣を進める俺の心臓だった。

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