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他サイトで330万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第94話:玉座の代償と、二万の塵

処刑の前日。

 王都『大いなる都』の城門外に陣を敷いていた第4王子ガゼブの天幕に、俺はザラを連れて足を踏み入れた。


 天幕の中では、ガゼブが幕僚たちと地図を囲み、深刻そうな顔で軍議のふりをしていた。

 彼らは「敵の接近に備えて王都の外で迎撃の構えをとる」という名目で、王都に入城せずにこの場所に留まっていた。国を憂い、新しい王になろうとしているガゼブだが、やはり腐っても大王は実の父親だ。自らの手で父親を処刑台に引きずり出し、首を刎ねるという「血の責任」から目を背け、すべての泥被りを俺たちという災害に押し付けようとしているのが見え透いていた。


「……よお。随分とのんびりした陣構えじゃねえか」

「ケ、ケント殿……それにザラ殿。いかがなされましたか。我々は明日迫る反乱軍に備え――」


 俺はガゼブの言い訳を最後まで聞かず、卓上にあった作戦地図を無造作に手で払い落とした。


「都合悪い物は見ないですまそうなんて、ふざけるなよ」

「なっ……」

 冷え切った俺の声に、ガゼブの言葉が詰まる。幕僚たちが色めき立つが、俺の後ろでザラが大剣の柄に手をかけただけで、全員が蛙を睨んだ蛇のように硬直した。


「処刑の責任を全部俺たちノキアに押し付けて、自分は綺麗な手のまま玉座に座ろうって魂胆なら、上等だ。その時は、このハーン国はノキアの完全な『属国』として扱う」

 俺はガゼブの胸倉を掴み、その端正な顔を引き寄せた。

「てめえらが自分たちの手で愚かな王家を廃し、自らの責任で処刑し、その上で土下座してノキアと交易したいって言うなら、ノキアの王城に口は利いてやる。だが、そうじゃねえなら、てめえらここで消えちまえ」


「け、ケント殿、我々は決して――」

「そもそもだ」

 俺はガゼブを突き放し、呆れたようにため息をついた。

「俺は明日、王都に向かってくる敵の大軍をまとめて吹き飛ばすって宣言したよな? なのに、お前らがまだ王都の『外』に陣を敷いてるってことは……お前ら、俺の敵として一緒に吹き飛ばされたいってことでいいんだな?」


 その言葉の真意を理解した瞬間、ガゼブと幕僚たちの顔から完全に血の気が引いた。

 俺が本気で、この王都周辺を軍勢ごと更地にする気だと悟ったのだ。


「おい、デックス」

 俺は、ガゼブの陣に連絡係として滞在していた百人長を振り返った。

「こいつがまだ綺麗事抜かして肚が決まらねえなら、お前が軍と国を押さえろ。じゃないと、外にいる連中ごと潰して、この国はノキアに飲み込むぞ」


「ひっ!? ぇ、ええええええええッ!?」

 突然、王子の目の前で「国を盗れ」と指名されたデックスは、胃を抱え込んで悲鳴を上げた。ただでさえ胃に穴が空きそうな中間管理職に、国家元首の重圧まで押し付けられた彼の顔色は、もはや死後数日経過した死体よりも青かった。


「……入城します」

 ガゼブが震える声で、しかし明確な意思を持って絞り出した。

「全軍、直ちに陣を畳め! 王都へ入城し、城門を固めるのだ! 急げ!!」


 死の宣告を受けたガゼブ軍は、凄まじい速度で陣を撤収し、雪崩を打つように王都へと駆け込んだ。王都に到着しつつあった反乱貴族の先行部隊と僅かな小競り合いはあったものの、彼らは無事に堅牢な城壁の内側へと滑り込むことに成功した。


 ---


 そして、処刑の日の朝が来た。


 王都『大いなる都』の城壁は、異様な熱気と絶望に包まれていた。

 城壁の上には、ガゼブ、ルダ、そして顔面蒼白のデックスが立ち、その後ろに俺とザラが控えている。そして周囲には、公開処刑を見届けようと城壁上に集まった王都の市民たちが、城壁の外の光景を見て息を呑んでいた。


 王都の地形は特殊だ。

 背後と左側は険しい岩山に守られ、右手には激流の川が流れている。つまり、大軍が王都を攻めるための進撃路は「正面」しか存在しない。

 城壁はかなり厚く作られており、普段は市民が自由に散策できるほど広く、集会や演劇なども行われるほどだ。


 そして今、その正面の荒野には、ガゼブ軍と入れ替わるように到着したヤーマン軍と反乱貴族軍が合流し、見渡す限りの軍勢――二万人を超える大軍が、足の踏み場もないほど密集して溢れかえっていた。

 各陣営の本陣も、王都がすぐに落ちると踏んだのか、いつ入城しても良いように軍勢の前方へと集中して陣取っている。


 ガゼブは拡声の魔導具を手に取り、城壁の外の大軍と、不安に震える市民たちに向けて、朗々と響き渡る声で呼びかけた。


「我が大いなる王は愚王であった! 自らの政の失政を取り戻すべく、我らがルーツであるヴェレツケールへ行き、そこにあるだろう国も民も富も略奪すべく動いた! しかし、ヴェレツケールはもはや我らの物ではない! そこには新しい国があり、民があり、暮らしがある!」


 ガゼブの声には、迷いはなかった。己の手を血で染める覚悟を決めた、王としての覇気があった。


「それにも関わらず、愚王はあろうことか『焼き、殺し、奪い、犯す』と公言した! それは決して許される暴挙ではない! そもそも、我らがいまヴェレツケールにある国に勝てるわけもないのだ! 我は、民とこの国を潰さぬため、ここに旧王家を廃し、新たな王として立つ!!」


 市民たちの間に、どよめきが広がる。

 だが、その決意の演説を遮るように、城壁外の軍勢の中から、下劣な嘲笑が響き渡った。


『ハッ! 何を血迷ったかと思えば、腰抜けの世迷い言か!!』


 大軍の前方、ひときわ豪奢な鎧を纏った反乱軍の男が、護衛たちを引き連れて前へ進み出てきた。拡声の魔導具を使っているのか、その声は城壁の上までしっかりと届いた。


『ヴェレツケールは元々我らの物よ! 我らがいない間に住み着いた盗人どもの暮らしなど知ったことか! 愚王の失政は腹立たしいが、あそこにある富は別だ! 愚王や腰抜けのお前に代わって、我々がヴェレツケールを焼き、殺し、奪い、犯してやるわ!!』


 男が声高らかに宣言し、二万の軍勢がそれに呼応して槍を突き上げ、地鳴りのような歓声を上げた。


 その瞬間。

 城壁の上にいたガゼブ、ルダ、そしてデックスは、全身の血が凍りつくのを感じた。

 彼らは恐る恐る、背後に立つ二人組へと視線を向ける。


 そこには。

 俺は、怖いほどに獰猛に口角を吊り上げ、顔中の筋肉を歓喜に歪ませて笑っていた。

 隣のザラは、大剣の柄を握りしめ、凄絶なほど妖艶で、狂気に満ちた笑みを浮かべて「嗤って」いた。


 この世で最も踏んではいけない地雷の上で、反乱軍の男はタップダンスを踊り切ったのだ。

 彼らは自分たちが、今、どれほど取り返しのつかない絶対的な死の引き金を引いたのか、理解すらしていなかった。


「……よく言った」


 俺はガゼブの手から拡声の魔導具を無造作に奪い取ると、城壁の縁へと進み出た。

 そして、二万の軍勢に向かって、冷たく、だが魔力を乗せた絶対的な死の宣告を放った。


「よし、上等だ。俺はヴェレツケールから来た、ノキア王国のヴォルガン伯爵だ」


 俺の言葉に、反乱軍の男が鼻で笑おうとした。だが、俺はそれを許さなかった。


「ノキアの名のもとに……死ね」


 俺は両手を前方に突き出し、魔力回路を全開にした。

 この王都の地形は、俺にとってこれ以上ないほどの「完璧なキルゾーン」だった。左右と背後を岩山と川で塞がれ、逃げ場のない正面に密集した二万の軍勢。


 座標指定。

 展開するのは、前方扇状に広がる『広角の指向性爆鳴気』。

 標的は、前方に密集している各陣営の本陣の五千人「以外」の、その後方に続くすべての軍勢だ。


 ――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 世界が、白く染まった。

 轟音などという生易しいものではない。大気が悲鳴を上げ、空間そのものが軋むような、絶望的な破壊の音が王都全体を激震させた。

 城壁にいた市民たちは一斉に悲鳴を上げて耳を塞ぎ、あまりの衝撃波に次々と尻餅をつく。


 白煙が晴れた後。

 そこに残されていたのは、言葉通りの『地獄』だった。

 ほんの数秒前まで、荒野を埋め尽くすように密集していた約一万五千人の軍勢が、跡形もなく消滅していたのだ。

 圧倒的な爆発の熱と圧力により、彼らの肉体は一瞬にして炭化し、あるいは細胞単位で破裂して赤い霧と化した。風に乗って流れるのは、土埃ではなく、焼けた肉の臭いと血の雨。

 綺麗に扇状に抉り取られた大地の真ん中には、俺が意図的に起爆範囲から外した、本陣周辺の約五千人の兵士たちだけが、奇跡のように無傷でポツンと取り残されていた。


「あ……ぁ……?」

 先ほどまで「焼き、殺し、奪い、犯す」と豪語していた反乱軍の男は、背後を振り返り、腰から崩れ落ちた。自分の後ろにいたはずの圧倒的な大軍が、ただの赤いシミと黒い灰に変わっているという現実を、彼の脳が処理しきれていないのだ。

 生き残った五千人の兵士たちも、武器を取り落とし、失禁し、ただその場に座り込んでガタガタと震えることしかできなかった。


「よし」

 俺は満足げに頷き、拡声の魔導具をガゼブの胸に押し付けた。

 そして、隣で嬉しそうに大剣を肩に担いでいるザラに顎で合図をする。


「ガゼブ、城門を開けさせろ」

「あ、開けて……いかがなされるおつもりで……?」

 恐怖で顔を引き攣らせるガゼブに、俺は極上の笑顔を向けた。


「せっかくの公開処刑だ。あの中で威勢の良かった貴族どもも、列に加えてやらなきゃ不公平だろ? ちょっくら、お持ち帰りしてくるわ」


 ギギギギギ……と重い音を立てて城門が開かれる。

 俺とザラは、もはや戦意を完全に喪失し、震え上がって動けない五千人の生存者たちの中へ、ただの狩りを楽しむような軽い足取りで足を踏み入れていった。

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