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他サイトで300万PV突破! 無能と蔑まれた能力値1の転生した元社畜のオッサンが、地球知識で爆鳴魔法を編み出し、常識を変える!  作者: だい


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第90話:暴君の正論と、大いなる都の謁見

 薄暗い宿場町の一室。卓には現地の強い酒と、粗末だが手の込んだ干し肉が置かれている。

 俺とザラの前に座る青年――大王国の第4王子であるガゼブは、その育ちの良さと知性を隠しきれない端正な顔立ちを緊張に強張らせながら、静かに、しかし熱を帯びた声で語りかけてきた。


「……どうか、我々に手を貸していただけないでしょうか。理不尽なる暴君、ケント殿。そして災厄の女帝、ザラ殿」


 ガゼブは俺たちの目を真っ直ぐに見据えていた。


「我が父である大王は、狂気に取り憑かれています。あの者は『渡りの鍵』を用いて、あなた方の故郷であるヴェレツケール――ノキアへと侵攻し、略奪の限りを尽くそうとしている。それは我が国の民にとっても、無用な血を流し、国を疲弊させるだけの愚行です」


 傍らで控えるデックスが、祈るような目で俺を見つめている。

 ガゼブは言葉を続けた。


「私に、父から王権を奪い、国を正すための力をお貸しいただきたい。国を掌握した暁には、必ずや『鍵』を用いてあなた方をヴェレツケールへと丁重にお送りいたします。そして、この愚かな侵略計画を白紙に戻し、改めてノキアとの間に平和的な交易と国交を結びたいと願っているのです」


 国の未来を憂う若き王子の、悲痛にして誠実な願い。

 一般的な物語の主人公であれば、ここで彼の手を固く握り、「分かった、共に戦おう」と頷く場面なのだろう。彼の提案は理路整然としており、国のトップをすげ替えることで血を流さずに平和的解決を図るという、為政者としては満点の回答だった。


 だが。

 俺は手に持っていた酒杯を卓に置き、ひどく冷めた目でガゼブを見返した。


「……いや、なんか国を変えたいだの、手を貸してくれだの、立派なことを言ってるけどな」


 俺は椅子の背もたれに深く寄りかかり、鼻で笑った。


「それ、全部お前らの都合だろ?」

「……え?」


 ガゼブが呆けたような声を漏らし、目を見開いた。


「めんどくせえんだよ。お前らが国をどうしたいかなんて、俺には一ミリも関係ない」


 俺は卓に身を乗り出し、ガゼブを射抜くように睨みつけた。


「いいか? 俺はノキアに帰るための『鍵』が欲しいだけだ。お前らに協力してちまちま王権交代ごっこに付き合わなくても、俺が王都に乗り込んで、お前らの親父とやらをぶっ飛ばして更地にすれば、鍵は俺の手に入る。違うか?」

「そ、それは……っ」

「それに、お前らみたいに一度でもノキアを侵略しようと企てた国に、重要な『鍵』を持たせたままにしておくわけねえだろ。後で平和的に国交を結びたい? 笑わせんな。鍵は俺が没収してノキアで管理するに決まってる」


 圧倒的な暴君の論理。

 だが、俺にとってはこれが揺るぎない正論だ。自分の愛する女たちがいる家を脅かそうとした連中と、対等の立場で握手などできるはずがない。


「そもそも、俺に手を貸せと言うなら、まずはその『鍵』を俺の目の前に差し出してから言え。……まあ、無理だよな。お前ら自分たちじゃ鍵を奪えないから、結局俺たちに頼ってバカ王から奪わせる腹なんだろ? その後で、俺がお前らに手を貸したり、鍵を残してやったりする義理がどこにあるんだよ」


 身も蓋もない事実を突きつけられ、ガゼブの顔から完全に血の気が引いた。隣のデックスに至っては、胃の痛みに耐えかねたように腹を押さえて呻いている。


「そういうこった。お前らは、俺たちが王都で好き勝手暴れた後、残った瓦礫の中で好きに国盗りでも何でもやればいい」


 俺がそう締めくくると、横で酒を飲んでいたザラが「アハハッ」と楽し気に吹き出した。


「ほらね、アタシの旦那に小賢しい理屈は通用しないんだよ。そういうと思ったよ」


 ザラは愛おしそうに俺の肩に顎を乗せ、隻眼を細めて王子たちを嗤った。


「あとな」

 

 俺は絶望に沈みかけるガゼブに、最後の条件を提示した。


「俺たちが知りたい情報――城の構造だの、鍵のありかだの、大王の護衛の規模だのは全部教えろ。そうすりゃ、暴れる時にお前らの派閥の仲間は殺さないでおいてやる。それ以上の温情を期待するな」


 この瞬間、ガゼブとデックスは完全に理解した。

 目の前にいるのは、交渉可能な『人』ではない。自らの都合と感情だけで他国を容易く蹂躙できる、理不尽な『災害』なのだと。

 しかし、ガゼブはただの無能ではなかった。恐怖に戦きながらも、彼の頭脳は即座にこの絶望的な状況を生き残るための計算を始めていた。災害の進路を変えることは不可能でも、どこに、いつ、どれだけの規模で災害が直撃するかを知っている分、自分たちは大王よりも圧倒的に有利なのだ。


「……承知いたしました。情報の提供は惜しみません」


 ガゼブは深く頭を下げた。その目には、国を焼かれる覚悟と、その灰の中から再起を図るという執念が宿っていた。


 ♦


 翌日。

 王都へ向けて出発しようとした俺たちに、デックスが決死の提案をしてきた。


「ケント様! 王都から一日ほどの距離に、古くから湧き出る素晴らしい温泉の保養地がございます! 長旅の疲れを癒やすためにも、ぜひそちらへお立ち寄りになられては!」


 露骨な時間稼ぎである。

 ガゼブたちが王都から味方を避難させ、何らかの準備を整えるための猶予を稼ぐつもりなのだろう。透けて見える意図に、俺は一瞬断ろうとしたが。


「お、温泉……? ザラ、この大陸にも温泉があるらしいぞ」

「本当かい!? 血と砂埃でベタベタしてて気持ち悪かったんだよ! 行こう、旦那!」


 結果として、俺たちはデックスの提案にホイホイと乗った。

 時間稼ぎだと分かっていても、温泉という圧倒的な魅力には抗えなかったのだ。大王をぶち殺すのは数日遅れても逃げるわけではないが、温泉の癒やしは今ここでしか味わえない。


 案内された保養地は、荒野の中のオアシスのような場所だった。

 貸し切られた広大な露天風呂で、俺は首まで湯に浸かり、大きく息を吐き出した。硫黄の匂いが鼻をくすぐり、こびりついていた疲労と血の臭いが溶け出していく。


「あー……極楽だ……」

「アハハ、旦那、だらしない顔になってるよ」


 ザラが湯音を立てて隣に寄ってくる。

 かつてポーション美容法で若返っていた彼女は、少し前にスーの特別なお祝いを受けたことで、今では完全に二十代半ばの、息を呑むような絶世の美女としての姿を保っていた。

 しっとりと濡れた髪が白い肌に張り付き、湯気越しに見るその肢体は、俺でさえ直視するのを躊躇うほどに妖艶だ。


「ザラ、お前……見とれるくらい綺麗だな」

「……ふふっ。アンタにそう言ってもらうためだけに、綺麗でいるんだよ」


 ザラは嬉しそうに目を細め、湯の中で俺の手にそっと自分の手を重ねてきた。

 明日には血の雨を降らせるというのに、俺たちはこの束の間の平穏を、呆れるほど呑気に満喫していた。


 ♦


 俺たちが温泉でイチャイチャと長湯を楽しんでいる頃、大いなる都の王宮では、ガゼブの策が完璧に嵌まっていた。


「父上。ヤーマン族の反乱は想像以上に根深く、辺境の防衛が手薄になっております。方面軍司令官である私自らが、手持ちの部隊を率いてヤーマンとの国境へ向かい、反乱分子の鎮圧にあたります」


 ガゼブが大王の御前でそう進言すると、大王は鼻で笑ってそれをあっさりと許可した。


「ふん。ヴェレツケール侵攻に反対する臆病者どもは、せいぜい荒野の警備でもしているが良い。行け」


 大王とその取り巻きの貴族たちにとって、ガゼブとその配下――つまり侵攻反対派の部隊――が王都からいなくなることは、むしろ好都合だった。目障りな口出しをする者たちが消え、これでいよいよ『鍵』を使ったノキア侵攻の準備に専念できると、彼らは愚かにも祝杯を上げていた。


 こうして、王都周辺からガゼブの息のかかった「殺してはならない良識派の部隊」は、極めて自然な形で綺麗に姿を消したのである。


 ♦


 そして、運命の日。

 大王が上機嫌で玉座に座り、取り巻きの貴族たちとノキアから奪う財宝の分配について下劣な談笑を交わしていた時、謁見の間の扉の向こうから近衛兵の報告が響き渡った。


『申し上げます! 境界線の防衛に赴いておられたルダ王女殿下が、ご帰還なされました!』


「おお、戻ったか。して、ヤーマンの残党は始末したのかの?」


 大王が鷹揚に頷くと、重厚な扉がゆっくりと開かれた。

 だが、入ってきたルダの姿を見て、王宮の空気は凍りつく。


 防衛隊の百人長デックスに付き添われ、 顔面は死人のように蒼白で、虚ろな目で宙を見つめ、ガタガタと小刻みに震え続けている。一言も発することなく、ただビクビクと肩を揺らすだけの、完全に壊れた人形のような姿だった。


「ルダ……? どうしたというのだ、その無惨な有様は。後ろにいる客人とは何者だ?」


 大王の不審げな視線の先。

 震えるルダと付きそうデックスの後ろから、二つの影が悠然と謁見の間へと足を踏み入れた。


 近衛兵の制止など一切意に介さず、ブーツで王宮の豪奢な絨毯を踏みにじる男。その目は大王に対する敬意など微塵もなく、まるで路傍のゴミでも見定めるような、冷たく挑戦的な光を放っていた。当然のように、跪く素振りすら見せない。

 その隣には、己の背丈ほどもある大剣を背負った、隻眼の美女。彼女は腰に手を当て、顎をツンと上げて玉座の大王を見下ろしながら、腹の底から楽しそうに嗤っている。


「さて」

 男――ケントは、王宮の沈黙を切り裂くように、平然とした声で口を開いた。


「俺達の国に喧嘩を売ろうとしたバカの親玉は、てめえで間違いないな?」

【おしらせ:唐突に新連載始めました!

いつも本作を応援いただき、本当にありがとうございます!

このたび、箸休めな新作を立ち上げてしまいました!


『おっさん、異世界で魔法を覚える。そして嫁連れて帰ってきちゃった。昭和に…』

https://ncode.syosetu.com/n5921mi/


100年分の魔法と最愛の嫁を抱えたおっさんが、1980年代の日本や世界をのんびり(時に過激に)謳歌する、気ままな逆転帰還ファンタジーです!

本作の更新の合間に、ぜひこちらの夫婦漫才も覗きに来てやってください!

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