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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第九話 黒い瘴気

 そうして突然アレックスさんとソラと三人行動になったわけだけど。


「あのさ、一ついいかな?」

「いいぞ。どうした?」

「僕、誰かと行動したことがないから。こういう時に何を買えばいいのか全く分からないんだよね」


 大抵のことは一人でできるし一人の方が身軽だ。

 だからこれまでは特に困ったことにはならなかったけど、集団行動の経験が少ないというのはそれだけで困った事態を招くらしい。

 全員別行動と言われていたらどうすればいいのかと苦労していたはずだ。


 だから知っている人と一緒なのはとても楽だ。


「そうか、なら教えてやるよ。と言いたいところなんだがな」


 アレックスさんはポリポリと頭を掻いてパウロナさんたちが進んだ方を見た。


「あいつらが何を買いに行ったのかが分からねぇんだよな。だから手分けのしようがない」

「なるほど」


 それはたしかにどうしようもない。


「つーわけでそれはまた今度だ。なんなら集合場所さえ決めてねぇし、今は話しながらここで待ってようぜ」

「うーん、それならまた戦い方について教えてくれないかな。今度はミュリエルさんの」

「いいぜ。あいつはのんびり屋に見えるが、バリバリの斥候タイプだな。単身で先行して、誰にも見つからずに帰ってこれる。見つかったとしても逃げて帰ってこれる足の速さがある」

「なるほど」


 少し前に街道でミュリエルさんは自分も僕も足が速いしと言っていた。

 そんなこと話してないからもしやとは思っていたけど、やはり彼女は観察眼に優れた斥候だったようだ。


「んであいつは自分の中にマップを作っていて、そのマップと周りを見比べて位置を把握しているらしい。だが行ったことがないなら北と南とかそういう方角が逆になったりする。まぁ軽い方向音痴だな」

「確かに。最初の街でも反対方向に進んでたもんね」


 まぁでも、その分空間把握能力に優れているということなのだろう。

 斥候は先行して情報を集めた後それを持ち帰ってくるのが仕事だ。

 通った道を完璧に覚えていられるのなら、方角が分からなかったところでそこまで支障はない。


 あ、パウロナさんとミュリエルさんだ。

 今奥の人混みの中にちらりと見えた。


「アレックスさん、二人が帰ってきたよ」

「お、まじか。早かったな」


 ただ、なんとなく二人の様子がちょっとおかしい気がした。

 ちゃんと見えたわけではないので分からなかったけど、なんか怒っていたような……


「アレク! どこにいるのよ!」

「うわ、怒ってやがる。おいロナ、こっちだ!」

「そこにいたのね、早くこっちに来なさい!」


 荒々しい様子でパウロナさんさんは歩いてくる。

 その後ろにはミュリエルさんの姿もあって、でもそちらも同じくらい機嫌が悪そうだ。

 巻き込まれてはたまらないと近くを歩いている人たちがそっと距離を取る。


「おいおい、なんだよ。話し合いを忘れたからってそんなに怒ることか?」

「は? 話し合いって何のことよ。そんなことどうだっていいわ」

「どうだっていいって……」

「いいから行くわよ」


 パウロナさんはアレックスさんの手をむんずと掴むと、今来た道を再び戻っていった。

 さらに周りの人たちが避けて行く。


「えっと、ミュリエルさん。何があったの?」

「うーんと、ものすごい不愉快なことかなー。ロウル君たちは行かなくてもいいけどどうするー?」


 ミュリエルさんの表情がものすごい苦々しく歪んでいる。

 ほんの少し離れていた間にいったい何があったのか。


「ソラ、どうする?」

「きゅ」


 どうやら気になるようだ。


「それなら僕たちも行くよ」

「そっかー、ならついてきてー。でもとりあえず何もしちゃだめだからねー」


 いったいこの先に何があったというのか。

 不思議に思いながらついて行くと、やがて人だかりが見えてきた。


「この向こうだよ。んーと、向こうの箱の上から見えるかなー」


 彼女の言う通りに箱の上から人垣の奥を覗いて――見えたそれに驚かないはずがなかった。


「なっ!?」


 思わず言葉を失ってしまった。


 そこにいたのは、一人の傷だらけの少女だった。

 けれどもちろんそれだけだったら驚くことはない。

 貧民街の奥の方へ行けば傷だらけどころか転がっている死体もよく見つかる。


 問題は、彼女の傷跡から真っ赤な血と共に黒い煙のようなものが発生していることだった。


「あれは……」


 それが何なのか、そして何を意味するのか僕はよく知っていた。

 傷口から溢れ出す黒い煙は瘴気。

 ひとたび溢れれば数キロメートル離れている魔物まで一心不乱に向かってくる。


「……忌子だ」


 そんな瘴気を身に宿し人々から忌み嫌われている存在、それが忌子。

 視線の先にいる少女は、間違いなくその忌子であった。

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