第十三話 少女の髪は色を変える
もう、男だとか女だとかそういうことは気にしないことにした。
というかアイリスの方も気にしていないようだから元から気にする必要はなさそうだった。
パウロナさんとミュリエルさんは気にしているようだったけど、僕たち張本人が気にしていないんだからそのまま放っておいてほしい。
アイリスは裸だし僕も上の服を脱いでいるけど、本当に僕もこの子も何も思ってないんだから。
「それじゃあ頭を流すから水出してくれる?」
「わかり、ました」
彼女が答えてすぐ、目の前に大きめの水球が出現した。
その水でせっけんの泡を流していく。
このせっけんはパウロナさんから借りたものだ。
いつでも水が使えるからと小さなせっけんをいつも持ち歩いているらしい。
「きゅ、きゅ」
近くでソラも輝く石を洗っていた。
僕に洗ってもらいたいらしく、石を磨きながら順番待ちをしている。
「どう、強いかな?」
「だいじょうぶ、です」
わしわしわしっと根元の方から汚れを落としていく。
後で髪も整えるけど、今はまず奥にまで絡みついた汚れを落とさないといけない。
「気持ち、いいです」
「それは良かった……あれ?」
汚れを落としたアイリスの髪はその目と同じきれいな水色だった。
お昼に見たときには薄い緑色に見えたんだけど、汚れてたから見間違えたかな。
「今度はあかりを出せるかな」
「わかり、ました」
丁度もっとしっかりと洗いたかったから魔術で明かりも出してもらった。
アイリスが何属性の魔術を使えるかは本人も知らないらしいけど、どちらも簡単に使えているから水と光の二属性には適性があるらしい。
また今度しっかり調べないと。
そうしてアイリスに出してもらった光の下で見ると、彼女の髪は白色だった。
「これは?……」
また見間違えたとかそういうことはない……はず。
光の当たり方で白が水色に見えてたということ?
「あ、あの、なにか、してしまいましたか」
気づけば考え込んで頭を洗う手が止まってしまっていたようだ。
アイリスを不安にさせてしまっている。
「ううん、考え事をしちゃってただけ。もっとしっかり洗っていくから痛かったら言ってね」
僕は再びせっけんを手に取った。
思ったよりも使っちゃってるし、パウロナさんには今度新しいのを買って返そうかな。
しばらくして頭を洗い終えて、次は体となったわけだけど。
「「じーー」」
パウロナさんとミュリエルさんの視線が痛いから口で教えるだけにしたかった。
そう、したかった。
だけど多分今までまともに生活を送れていなかったんだと思う。
こすればこするほど汚れが落ちてくる状態だった。
いや忌子なんだし、だと思うじゃなくてまともな生活を送れていなかったんだ。
そんな状態を非力な少女が一人で綺麗にするのは大変そうだし、背中や手足とかの比較的問題ないところは僕が洗ってあげることにした。
「それくらいならいい?」
「……許すわ」
「まあー、しょうがないよねー」
少し声を張り上げて聞いたら二人からのお許しも出た。
なくても洗えるけどこうすれば余計な視線を気にせずに済む。
そうして体を洗い始めてふと思った。
「そうだ、寒くない?」
近くで火を焚いていて風よけもあるけど、そもそもが夜の屋外だ。
今は春頃ではあるけど夜は変わらず寒い。
ずっと濡れていては体温を持っていかれる。
「あ、えっと、それなら、こうします」
アイリスがまだ浮かべ続けている水の中に火がともった。
「へぇ」
魔術で作った火だから水の中で消えないことは不思議じゃない。
でも水と光を出したままで火も出せるなんて、しかもそれを詠唱も知識もなしにやってしまうなんてそう簡単なことではない。
まるで熟練者の業だ。
しかし制御面と知識面ではまるで初心者。
うん、ちぐはぐな部分はあるけど本当に想像以上。
魔力量と適性と、色々見るつもりで魔術を使ってもらっていたんだけどかなり予想外だ。
「……うん、すごいね。ありがとう」
「どう、いたし、まして?」
視線を戻し――アイリスに気づかれないように平静を保ちきった。
大きく驚けば不安にさせてしまう。
ちらりと見れば物陰から監視しているパウロナさんとミュリエルさんも息をのんでいる。
目の前で嬉しそうにしているアイリスの白かった髪色。
それが今の一瞬できれいな赤へと変化していた。
昼に髪色が緑に見えたのも、さっき洗っている時に青に見えたのもきっと見間違いではなかったんだ。
どうしてかは分からないけどこれだけは予想できる。
アイリスの髪の色は魔術を使うたびに変化しているらしい。




