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【戦国時代 ー人の難 衆の狂ー】  作者: ヒデキ


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【寛正の大飢饉―祭りと怪異―】

一四六一年正月、大和・迎福寺で、経覚が、近所の乞食たちに餅施しを行った。集まり過ぎを恐れ、この年は近所の百人限定で、実施している。飢饉の第二派がすぐそこまで迫っていた。これで三年目ではないか。春頃、「寛正の大飢饉」と呼ばれる第二派が、京を襲った。

『天下大きに飢饉し又疾疫悉くはやり』(長禄寛正記)

”天下で大きな飢饉が起こり、疫病が広まっている”

『世上三分二餓死ニ及』

”世間の三分の二が餓死に及んだ”

京の路地には骸骨が満ち、不作・飢饉・疫病で。この年、八万二千人の餓死者が出たという。

二月、自衆の僧・願阿弥が餓死者を救おうと大慈悲心をもって努力(碧山日録)。十四日、幕府の一直臣に過ぎない鞍智高春が、銅銭数百枚を飢人に恵み、「草舎」を作って飢人らを養い、京で評判となった(碧山日録)。これまで、飢饉に苦しむ人を助けるのは、将軍・諸大名・諸権門であったが、それほど豊かではない人達も、飢人を助け始めたのである。

 こうした行動に感動したのか、戦国時代、京では節分の日に「雑事銭」という風習が行われた。これは「京の庶民が、近所の乞食に“年齢の数だけ銭を恵む”」という風習で。現代に聞いても、心が温まる。大飢饉や戦乱が起きた時、奪い合うどころか、いつのまにか助け合いが始まり、みんなが真似して風習にまでしてしまう、我々日本人のご先祖様達(しかも、大半が一般庶民)もやるもんだと思う。


 四月十八日、天龍寺が、渡月橋で施行を行った。その席で、庭掃と河原者の間で、供物のおこぼれをめぐる紛争が起きた。やむなく、河原者統括者の善阿弥が、相国寺蔭凉軒に訴訟を持ち込んだ(蔭凉軒日録)。当時、京の人達が、あまりに祭が好きなため、「供物」はおろか、「花」・「小幡」・「食糧」を対象に、しばし喧嘩が起きた。大飢饉の中にあって、この手の喧嘩は気楽で、殺し合いになる前に、善阿弥らが仲介に出て、訴訟で落着させるのが常であった。祭りの喧嘩はその場限り。引きずるなら訴訟で。大飢饉の中でも、人々は理性を保った。


 五月十四日、将軍義政は、関東の岩松家純(岩松礼部家、義政に抜擢)に御内書を発した。

「岩松右京大夫(持国)父子が、足利成氏に内通したのを、“沙汰”してくれたと、上杉兵部少輔(房顕・関東管領)から聞いた。神妙である」

京方に転じた岩松持国(岩松京兆家)であったが、前年の羽継原合戦での上杉敗北勢に、再び古河公方・足利成氏と意を通じ始めてていた。岩松家純にこれを察知され、持国・次郎父子(宮内少輔)は討伐を受けている。家純は、岩松京兆家に代わり、「新田荘」を我が物とした。だが、岩松成兼(三郎)という一子が難を逃れ、足利成氏の下についたため、家督は奪えなかった。

 七月、東持寺(下総国結城)の景蒲壽睦が相国寺の周鳳を訪ねた。

『関東ト子河出怪物、面女人、身鯉魚、足似鳥、口能言』(臥雲日件録抜尤)

“関東の利根川に怪物が出ました。顔が女性で、体は鯉。足は鳥に似て、言葉を話します』

人魚でも現れたと言いたいのだろうか。

『里落相送、今在伊豆三島、其形爲画畫』

“里に送られ、今は伊豆三島におり、その姿を画にしております”

人魚伝説の原型であろう。よく分からないが、骨肉の家督争いが繰り広げられる岩松一族の周り(関東利根川近く)では、魑魅魍魎の類が出現したとの噂が流れた。周鳳は、京でも六条の後家屋倉の妻が、腰より下が蛇だと噂が流れていますと応じた。このところの雨のせいか。

『又聞、山婆生四子、一曰春好、二曰夏雨、三曰秋好、四曰冬雨、此依今夏多雨也』

“山姥が四人子を生んだそうです。春好と夏雨と秋好と冬雨。それで、この夏雨が多いのです”

この妖異の長雨が、何か深刻な変乱を生む、土壌とならぬことを祈る他なかった。

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