9話
電車に揺られる博康、海沿いを走る電車は何処か懐かしくも感じた。
海の見える側に座り、さっき会った女の子の事を思い出し、何かを考えるような博康。
その時どこかで聞き覚えのある声がした。
「よぉ、博康じゃないか?久しぶりだな!元気してたか?」
突然声を掛けられ驚く博康。まさか、また今日もこの人に会うとは思ってもいなかったので驚き思わず大きな声を出す博康。
「る、流川さん!?どうしてここに?」
「そりゃお前、同じ方向に向かって電車乗ってれば、たまたま同じ電車に乗っててもおかしくないだろ?」
「それはそうかもしれませんけど……」
あからさまに嫌そうな顔をする博康を無視して、民雄は博康の向いの席に腰掛ける。
「なんだなんだ?また辛気臭い顔して。女の子にでも振られたか?それとも腹でも減ってるのか?しゃーねーな、俺のパン……」
「大丈夫です!ちゃんとご飯食べましたから」
民雄が言葉を言い終わる前に、博康は民雄の言葉に自分の言葉を被せる。
このペースに呑まれてしまうとまた面倒な事になってしまうので、ここで断ち切っていた方がよいだろう、そう判断して博康は民雄の言葉を遮った。
「そ、そうか?なら良いんだが……」
少し残念そうな民雄を他所に、博康は窓の外の景色に目を移す。それを見た民雄は話し掛けてくる。
「ここの海は綺麗だろ?海には行ってみたか?」
そう言われた博康はうなずいた。
「なら、なんかおかしいと思はなかったか?」
その言葉の意味が分からずに聞き返す博康。
「何がです?」
「人が全然いなかっただろ?」
そう言われてみれば不思議だ。全然気にしていなかったが、綺麗な海岸でこの季節になぜあんなに人がいなかったんだろう。
改めて、博康は疑問に思った。
その疑問に思う表情をみて、民雄は話を続けた。
「この海岸な、ちょっと前に不法投棄が問題になったんだ。その当時俺も行ったことがあるけど、本当に酷いもんだった」
その言葉を聞いて、博康は綾芽がなんであんなにも怒ったのかの理由が分かった。
「そうか……それであの子、あんなに怒ってたんだな……」
そう一人呟く博康、それが聞こえたのか聞こえなかったのか、民雄は更に話を続ける。
「博康も見たと思うが、今では地元の人が頑張って砂浜を掃除して綺麗な頃の砂浜に戻りつつある。しかし酷い話だと思わないか?あんなに綺麗な砂浜に、ゴミを捨てていくやつがいるなんて」
民雄はそう言って博康に同意を求めてきたが、博康はその言葉を無視するかのように窓の外を流れる景色に視線を送っていた。
それからしばらく流川の話しかけてくる言葉を聞き流しながら、博康は昨日流川にあった事を思い出し先に話しかけることにした。
「流川さん、今日はどこまで行かれるんですか?」
そう問いかけられた民雄は答える。
「博康と同じところだよ」
「は?どういう事ですか」
まさかそんな風に言われるとは思ってもいなかった博康は思わず聞き返してしまう。
「いや、だから博康と同じところまで行くって言ってるじゃないか」
「どういう事ですか?」
「だってお前、二日も連続で会うんだぜ?もうこれは運命だろ!違うか?」
博康は民雄のいう事の意味がもう理解できないというような表情で民雄を見返す。
「いやそれは無いです。確率的に言ったら二人が同じ方向に向かっていれば同じ電車に乗る確率はかなり高いはずです」
つい最近何処かの誰かが言ったようなセリフで返して、事を収めようとする博康。
「そうかもしれんな、だけど博康に着いていきたい理由は実は二つある」
もったいぶったような言い方をする民雄。
その言葉になぜか反応してしまう博康、どうやらその言葉に博康は少し興味を持ってしまったようだ。
「いったいなんですか?しかも二つって……」
「そうだな……所で博康、今日はどの辺まで行くつもりだ?」
何気なく問われた言葉に博康は思わず素直に答えてしまう。
「今日はこの電車の終点まで行って宿を……」
しまったと思いながらも口を滑らせてしまった博康、しかしこうなってしまってはもう後の祭りだ、そう思ってあきらめた博康は最後まで言葉をつなぐ。
「宿を探すつもりですよ。民雄さんはどこまで行かれるんですか?」
博康はとぼけてもう一度民雄に問いかけてみるが無駄な結果に終わった。
「博康がそこで泊まるなら俺もそこの町にするよ、ちょうど俺が博康に着いていきたい理由の一つもその町からでも十分に目的が果たせるからな、いや二つともかな……」
「さっきから僕に着いてきたい理由が全く見えないんですけど……いったいなんなんですか?」
「仕方無いな、少しだけ教えてやるよ、一つは博康が今、最も求めている場所を教えてやる、そしてもう一つは博康に合わせたい人物がいる、今言えるのはそれだけだ」
その言葉を聞いて博康は顔には出さなかったが少し動揺した。
この人には僕の旅の目的は話していないのに、まるでそれを知っているかのような話かただ、そう心の中で呟く博康。
恐らく適当に言っているのだろう、そう思いながらも、もう一つの合わせたい人物と言うのが誰の事かが気になった。
「その合わせたい人っていうのは誰なんですか?」
「それはまだ言わない。でも今の博康が必要としている人物であることは間違いないさ」
さらに謎の言葉を残す民雄、ますますこんな訳のわからない人と一緒にいたくない、という思いを募らせていく博康、だが恐らくこの人はどうしても着いてくるだろう、何故だか離れることができないように思える。
そんな事を考えている間にも民雄は一人でなんだか楽しそうに旅について語っている、その語り口調からは本当に旅が好きなんだという事がありありと伝わってくる。
それはもしかしたら自分も成り得た姿なのかもしれない、そんな事を博康は思いながらも博康は民雄の言葉を聞くともなく窓の景色に視線を移していた。
「なあ、おい、博康!聞いてるか?」
突然話しかけられる博康、意識がほとんど外の景色に行っていたためほとんど聞いていなかった。
「何ですか?」
「何ですかじゃないよ!人がせっかく旅の醍醐味をいろいろと説明してやってるって言うのに全く聞いてなかったのか?」
ここで素直に聞いてなかったと答えると、もう一度話を繰り返されそうなので適当な言葉でその話題をそらす博康。
「民雄さんは本当に旅行が好きなんですね」
「そうだな……厳密に言えばちょっと違う、俺は人生を楽しんでるんだ」
「人生……ですか?」
言っている言葉の意味がよく解らずに聞き返す博康。
「そう、人生だ」
「生きていく事ってつらい事ばかりで、何も楽しい事なんてないじゃないですか」
「博康の言わんとすることも解る、でもなそれは考え方一つで何とでもなるもんだ、でも重要な事は考え方だけじゃない」
さらに博康には理解できない言葉が続く。
「じゃあ、いったいどうすれば人生が楽しめるんですか!」
少し強い口調になってしまった博康、しかしそんな事は気にも留めない民雄は話を続ける。
「そうだな……あえて言葉にするなら……知識と経験かな」
「知識と経験……言ってることの意味がさっぱり解りません!いったいどういう事ですか?知識なら僕だって学校では一、二を争う位の成績ですし、経験だって人並み以上に色々な事をやってますよ」
むきになって答える博康、しかしそんな博康の言葉も民雄にはほとんど意味がない。
「そうか、博康は頭が良いんだな~、でもな本当の知識っていうのは学校で習えるもんじゃない、経験ってやつもそうだ」
「じゃあいったいなんだって言うんですか?民雄さんの言っていることはさっぱり意味が解りませんよ」
何を言っているのかがさっぱりわからない博康はだんだんとイライラしていく、それでも民雄は全くそんな事は意に介さないでさらに話を続けた。
「じゃあ博康もこのままちゃんと旅を続けてみろ、余計な事を考えずに」
まるで博康の考えを見透かしているような発言に、博康の言葉は詰まる。
「博康が何を考えて旅に出たのかは俺には解らない、でもな旅は人の気持ちをどんどん変えていってしまう、それはほとんどの場合が良い方向にだ、だから博康もこれからの時間もっと旅を楽しめよ!」
民雄はそう言って博康の方を真剣な眼差しで見ている、しかしそれも少しの間だけで、すぐにいつもの冗談交じりの話し方に変わる。
「だからな、俺の旅の極意をちゃんと聞くんだぞ!いいか?まず旅の極意その1だ……」
面白くもない旅の話が始まったのをきっかけに博康はまた窓の外を流れる景色に眼を移す、その間も民雄の旅の極意は続いている。
その話を聞きながら意識はほとんど外を流れる景色の方に集中していた、窓の外を流れる景色はいつの間にか黄昏、だんだんと夏の日差しを弱めていた、少し離れてしまった海を黄金色の光で彩りながら。




