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世界はこんなにも  作者: 流民
旅立ち
10/25

10話

博康が行ってしまった後しばらく海を見続ける綾芽。

うだる様な暑さに流石に疲れてきたのか、うとうとしだした時、ようやくどこかで聞き覚えのある声が聞こえた。

「おはよう、綾芽ちゃん!」

起きているつもりだった綾芽は少しびっくりして、その声がする方を寝ぼけたような目で見返す。

「ごめんね遅くなって。なんせ人が来るのなんか久しぶりだから、方付けに時間掛かっちゃって」

「瑞恵さん?あれ?ここ何処ですか?あれ、あれ?」

「何?寝ぼけてるの?」

少し笑ったように、答える瑞恵。

「今、ここに誰かいませんでした?」

そう言われて辺りを見回してみる瑞恵、さっきから誰も他の人の姿を見ていないので、少しおどけたように答える。

「誰も居なかったわよ?幸せそうな顔をして、大きな口を開けて寝てる女の子しかね」

そう聞いた綾芽は顔を真赤にして、恥ずかしそうに両手で顔を覆う。

「そんな間抜けな顔して寝てたんですか私……恥ずかし~」

「可愛かったよ~」

そう言われて、更に顔を真赤にする綾芽。

そして、話をそらすように話題を変える。

「それより、本当にここに誰も居ませんでした?」

さっきと同じ質問に、瑞恵はさっきと同じ答えを返す。

「本当に誰もいなかったわよ。疲れて夢でも見てたんじゃない?」

「そうかな……確かに誰かと話をしてたような気がするんだけど……」

なんとなく、納得いかないと言う様子で答える綾芽。

「それよりまだ夕飯の時間には早いから、ドライブがてらどこか見に行かない?色々と町の名所とか穴場に連れて行ってあげるよ」

そう言われた綾芽は、もうさっきの事も忘れたかのように満面の笑顔で瑞恵に返事をする。

「はい、お願いおします!」

「じゃあ、車に乗って出発しましょうか」

そう言って車の方を指さす瑞恵。

それに吊られるように立ち上がる綾芽。

そして、二人は車に乗って移動を始める。

車の中には、いかにも夏らしい軽快な音楽。

音楽の趣味も似ているようだ。

しばらく、音楽と瑞恵との会話を楽しんだ。

そうしている間にも、車は目的地に向け走っていく。

そして海はいつの間にか見えなくなり、樹の間からこぼれる光が何とも美しい山道を走っていた。

その山道を少し走った所が、どうやら瑞恵がいう一つ目の穴場スポットのようだ。

「さあ、着いたわよ!ここが私の一番お気に入りの場所」

そう言って、車から降りる瑞恵、そしてその後に続いて車から降りてくる綾芽。

その景色を見て、綾芽は言葉を失う。

そこに広がる景色は、言葉では言い表せない美しさがある。

樹木からこぼれ落ちる光は、せせらぎを輝かせ、その流れは優しく、しかしどこか力強さのようなものも感じる。

その景色は、今まで色々な所を旅していた綾芽でもこれ以上の景色が広がる所を探すのが難しい位の美しい景色だった。

「ほんとに良い所でしょ?」

そう言う瑞恵も、この景色に見とれながら綾芽に話しかけてきた。

「はい……とっても……」

その言葉を返すのがやっとの綾芽の横を、瑞恵はせせらぎに向かって歩き出す。

そして綾芽に向かって声を掛ける瑞恵。

「綾芽ちゃん、早くこっちにおいで!水が冷たくて気持ち良いよ!」

その言葉で、ようやく綾芽は我に返る綾芽。

「あっ、今行きます!」

そう言って、急いで瑞恵の方に歩き出す。

そして、せせらぎを感じるために足を水面に下ろす。

そこに突然水しぶきがかかる。

「冷たい!?」

突然水を掛けられた綾芽は、驚き瑞恵の方を見返す。

その顔を見た瑞恵は、笑って綾芽の方を悪戯っぽく笑っている。

「気持ちいいでしょ?」

そう言いながらも、また水を掛けてくる瑞恵。

そして綾芽も瑞恵に水を掛ける。

突然水を掛けられて驚く瑞恵、その表情がおかしく笑ってしまう綾芽。

それからしばらく、二人はお互いに水を掛けあった。

それは本当に楽しく、思い出に残る時間だった。

しばらく水を掛けあった二人は、疲れたのかようやく川辺にある石に腰を掛ける。

「ビチャビチャになっちゃいましたね」

「本当に、綾芽ちゃんが水なんか掛けてくるから」

そう言って、自分の事を棚上げする瑞恵。

「あ、それ酷くないですか?最初に水掛けてきたの瑞恵さんですよ?」

「そうだっけ?」

惚ける瑞恵。

「そうですよ!」

その言葉を聞いて笑い出す瑞恵、その笑いに吊られる様に綾芽も笑い出す。

「あー、よく笑った。ほんとに綾芽ちゃんといると楽しい。こんなに笑ったの久しぶりかも」

「そうなんですか?私なんか、いつもこんな感じで笑い転げてますよ!」

その言葉を聞いて、羨ましそうに言葉を返す瑞恵。

「そうなんだ。いいね。私も昔はそうだったのかな……」

少し悲しそうな顔をする瑞恵を見て、綾芽も少し悲しそうな顔をする。

「そんな顔しないで。大人になるといろいろ難しい事もあるのよ」

「そうなんですね……でも、今日は本当に楽しかったです!ありがとうございました」

「こちらこそ!さぁ、そろそろ行きましょうか。日もだんだん傾いてきたし、さすがに少し寒くなってきたから」

そう言われて気づくと、日はもうかなり傾き辺りは黄昏が降りていた。

「もうこんな時間なんですね。すっかり時間を忘れてました」

そして二人は車に乗りこみ、来た道を引き返す車。

その間も二人の会話は止まらない。

それは、その二人を知らない人から見れば、昔からの友達のように見える位だった。

その後、綾芽と瑞恵は温泉に行き水にびしょ濡れになった体を温め、その後マンションに帰る途中のファミレスに入り食事を済ませた。

それから二人は瑞恵のマンションに向かった。

「さぁ遠慮失せずに入って、あんまり綺麗な所でもないけど」

そう言って招かれた部屋は1Kでそれなりに広い部屋だった、玄関には少し大きめの下駄箱、そして部屋の中は綺麗に片付けられており昼間の努力が伺えた。

瑞恵の趣味の物が所狭しと、しかし整然と並べられていた。

「どこかその辺適当に座ってて、今お茶でも入れるから」

キッチンの方から瑞恵の声が聞こえる、その声に綾芽は答える。

「あっ、お構いなく」

そろそろ時間は九時に近づいていた、その時綾芽の携帯が鳴った。

「すいません、ちょっと電話してきます」

そう言い残して部屋を出る、そして数回の着信音の後電話に出る綾芽。

『もしもし?綾芽?』

「はいはい、なにお母さん」

『なにお母さんじゃないでしょ?もう九時なのにまだ電話掛けてこないからまたお父さんが心配しちゃって、電話掛けろってうるさいのよ』

あくまでお父さんのせいにするお母さんに綾芽は少し笑って答えてしまう。

「そう、お父さんがねぇ、じゃあ、お父さんに大丈夫って言っておいてね、仕事から帰ってきたら」

『そうね、伝えてお……』

簡単に引っ掛かるお母さん、こんな簡単な引っ掛けに掛かるなんて、流行の詐欺なんかにあったらすぐに騙されてしまうんじゃないだろうかと思わず心配になる。

それから急に話を変えるお母さん。

『ところであんた、今日はどこにいるの?』

「今日はね旅の途中で知り合った人のお家に泊めてもらってる」

それもいつもの事なのであろうお母さんは殆ど気にも留めていない。

『ほんとにあんたは昔からすぐに誰とでも仲良くなるわね……あんたの事だから変な人ではないと思うけど……』

やはり親なのだろう少しは心配しているようだ、いやかなり心配はしているのだろうが、そういうところに関してはあまり心配はしていないのだろう。

それでもやはりちゃんと説明はしておいた方がいいだろう、そう思った綾芽は事の成り行きを説明した、それを聞いたお母さんは安心したように話しかける。

『そう、ちゃんとお礼を言うのよ』

「はーい、ちゃんとわかってますよー、じゃあそろそろ電話切るね」

『そうね、あんまり遅くまで起きてないで早く寝るのよ、それとくれぐれもその人にお礼を言うのよ、わかったわね?』

「わかってるよ、じゃあ切るね、お休み!」

そう言って電話を切る綾芽、そして携帯を玄関に置き瑞恵の部屋に戻っていく。

「お帰りー!長かったわね、もしかして彼氏?」

そうやって冷かしてくる瑞恵、その言葉を聞いて顔を赤くして必死に話す綾芽。

「ち、ち、ち、違いますよ!お、お母さんです!お母さん昨日私が電話し忘れたから今日は早めに掛けてきたみたいです」

かなり動揺している綾芽を見て、面白がっている瑞恵。

「ホントかなー?まぁそういう事にしといてあげる!」

「ほんとに違うんですよ~」

「まぁ、親と仲がいいのは良い事ね。なんか綾芽ちゃんのお母さんに一度会ってみたいな……」

「そうなんですか?何でですか?私のお母さんなんてかなりおっちょこちょいで、まぁその分退屈はしないですけどね」

「あぁ、なんとなくそれは解る気がする!」

「どういう意味ですか?」

少しむくれる綾芽。

「さぁー」

そう言って惚ける瑞恵。

「でも本当に一度会ってみたいな、なんていうか……良い意味で親の顔が見てみたいって言うの?そんな感じ」

「じゃあ今度一度家に遊びに来てくださいよ!家族みんなで大歓迎しますよ!」

「そうね、いつか遊びに行くわね!その時はよろしくね」

そんな他愛もない話をしながら綾芽と、瑞恵の夜は更けていく。

いつしか瑞恵のお茶はビールになり、それを瑞恵は何本か飲んでだんだんと酔っぱらってきたようだ。

そして気づくと時間は十二時を回っていた。

「そろそろ寝ましょうか」

そう言う瑞恵、それに答える綾芽も眠そうに答える。

「そうですね……もう……寝ましょう……」

そう言いながら眠りに落ちて行く綾芽、そんな姿を見ながらも瑞恵も眠りに落ちて行ってしまう。


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