11話
日も完全に海に沈み、辺りは夜の光が目立つようになった頃、ようやく博康と民雄は街に到着した。
そして宿を探すべく、博康は観光案内所に向かおうとする所を民雄に呼び止められる。
「博康、何処に行こうとしてるんだ?」
「どこって、観光案内所ですよ」
「またお前は……海が近くにあるんだ、なにもホテルなんかに泊まらなくても良いだろ?」
また訳のわからない事言い出した民雄。
「お前電車の中で俺の話聞いてなかっただろ?」
もちろん聞いていなかった博康だが、ここで素直に答えるとまた《旅の極意》が始まってしまいそうだったので適当に嘘をついて誤魔化す。
「そんな事ないですよ、とても良いお話でした」
「なら俺が言いたかった事くらい理解できるだろう?」
なんとなく想像はできるが体が拒否反応を示している博康、そんな事に付き合うつもりは無いが、どうしてもこの流れだと博康が最もしたくない結果になりそうなので博康も必死に抵抗する。
「民雄さんが立派な旅人だという事は十分に理解できました、しかし僕はまだ初心者なんです……いきなり野宿なんていうのはちょっと……だからホテルに泊まりましょうよ」
もっともらしく抵抗してみる博康だがあまり聞いていない様子の民雄、さっそく地図を取り出してきて何やら調べ物をしているようだが、恐らく今夜の野営場所を探しているのだろう。
「民雄さん?僕の話聞いてました?」
「ん?あぁ……ちゃんと聞いてるよ……」
そう言いながらも上の空な民雄、そして目的地が決まったのか博康に話しかけてくる。
「よしじゃあ今日はこの辺りでどうだ?」
民雄の持つ旅行用の地図にはキャンプ場が示されていた。
一瞬絶望しかけた博康だったが、そのキャンプ場の横に記された“YH”の文字を見逃さなかった。
「民雄さんやっぱり僕の話聞いてなかったんですよね?お願いですからキャンプ場はまた次の機会という事で、今日はここのユースホステルにしましょうよ?」
昔本で読んだ本の知識が幸いした、一度もユースホステルに泊まった事が無い博康だったが、その存在は知っていたので民雄でもここなら何とか泊まる気になるだろう、との願いを込めての提案だった。
暫くの攻防戦の末
博康のユースホステルと言う提案が功を奏したのか、民雄も渋々ながらもその提案に賛成した。
「ほんとはキャンプの方がよかったんだがな……」
「民雄さん男らしくないですね、いくらなんでも初心者の僕に野宿はまだ早すぎます」
まださらにぶつぶつ言い続けている民雄を無視しながら歩いていく博康、そうすると民雄が話しかけて来た。
「ちょっとコンビニよってから行くから先に行っててくれ、後から追いかけるから」
そう言って民雄はコンビニを探して街の中に一人で歩いて行った。
一人でユースホステルに歩いて行く博康、どこかに逃げてしまおうかとも思ったがまたどこかで会う可能性を考えると素直に一緒に泊まった方がよさそうだ。
そんな事を考えてるうちにユースホステルにたどり着いた。
そしてチェックインを行い辺りを見回してみるが、夏休み真只中だというのにあまり人がいない、その方が落ち着くのだが、恐らくそんなにも評判は良くないのだろう、でなければこんなにこの時期にすいているところは恐らくないはずなのだが。
そう博康は思いながらも人との接触はもう民雄だけで十分だと思っていたので少しほっとした。
しかし初めて泊まる博康にはそんな事も本の中での知識でしかないので、実際のところはこんなものなのかもしれないとも思い部屋に入っていく。
部屋は四人部屋で二段ベッドが二つ置いてある、それ以外には荷物を置いて置くようなスペースも殆どなく自分のベッドに置いて置くしかなさそうだ、だがおそらく部屋には博康と民雄以外には誰も居そうにない、であれば荷物は床に置いていていてもおそらく大丈夫だろう、そう思った博康は二段ベットの下に陣取りそこで寝る用意を整えた。
「しかし民雄さん遅いな……どこ行ってるんだろ……」
そんな事を思いながらも昼間の疲れが出たのかウトウトとしてベッドの中に倒れこみ、急激に意識を失っていった。
どれくらい寝ていたのだろう、時計は予想に反してまだ早い時間を指していた。
ふと気づくとそこにはいつの間にか民雄が来ており、一人で缶ビールを飲んでいた。
「おう、起こしちまったか?どうだ?お前も飲むか?」
「一応僕は未成年と言う事になっているんですが……」
「なに、気にするな!どうせ誰もこの部屋には来やしないよ!」
「じゃあ一本だけ」
そう言いながら飲んだ一本は一時間後には十本になっていた。
その頃には博康も民雄も随分と酔っぱらってはいたがまだまだ正気を保っていた。
「博康、お前強いな、高校生でこんなに飲めるなんてなかなか立派な酒飲みになるな」
「民雄さんこそまだまだいけそうじゃないですか、僕はもうそろそろ限界ですよ……」
そう言って更に空き缶を一本追加する博康、それとほぼ同時に民雄も空き缶を一本追加する。
そして新しい缶を開けて民雄が話しかける。
「ところで博康、お前なんで旅に出ようとしたんだ?」
そう言われた博康は少し言葉に詰まりながらも答える。
「ただ夏休みだし旅行してみたかっただけです。それが何か?」
「嘘ついてるだろう?」
その言葉で更に顔色を変える博康、慌てて取り繕うとするが恐らくその顔色の変化はもう民雄にはばれているだろう、それでも博康は嘘を吐き通す。
「そんな訳ないじゃないですか!なんでそう思うんです?」
「俺だって伊達にお前よりも長く生きている訳じゃない、それに普通旅行に行く奴はもっと旅行自体を楽しんでいるもんだ、だけど博康、お前はその辺が何か違う。うまく言えないが何かが違うんだ……よかったら俺に話してみないか?」
そう言って言葉を促す民雄、しかし博康には全く話す気はなかった。
確かに酒を一緒に呑んで、同じ所に一泊する事になり、少しは打ち解けて来た事は間違いない、しかしこんな事を話そうと思える間柄ではない。
それはまだ博康は民雄の事を信用出来ずにいるからだ、いや恐らくこれから先も人を信用して生きていく事は博康には無縁だろうと思っていた。
「そんな事ないですよ、それより民雄さんお酒なくなってますよ、買ってきましょうか?」
そう言って話題をそらそうとする博康、それが解ったのか民雄もそれ以上その話に触れようとはしなかった。
「そうだな、よし俺が買って来よう、ちょっと待ってろよ」
そう言って民雄は部屋を出ていった、それを見送って博康は安堵した。
しばらく経って民雄が戻りそして再び酒盛りが続いた、時間はもう日付変更線を越していた。
当然ユースは消灯時間になっており、部屋の中はかなり暗く、窓の外から漏れる光だけで二人は話、酒を飲み続けていた。
「ちゃみおしゃん……もうそろそろねまひぇんきゃ……」
いい加減ぐでんぐでんに酔っぱらっている博康、それに負けず劣らず民雄もぐでんぐでんの様子。
「そうだにゃ……みょうそろそろねるか……」
もうお互い自分が何を言っているかもわからなくなってきていた、そして最初に博康が意識を失った、そしてそれに続くように民雄も意識が飛びそうになったが最後に民雄は博康に話しかけた。
「博康、お前が今日話してくれなかった事、いつか話したくなったらいつでも聞いてやるからな、俺はいつでもお前の中にいるからな……」
そう民雄は呟いた。
次の日、博康が眼が覚めた時には民雄はもう部屋に居なかった。
「昨日あんなに飲んだのにもうどこかに行ったのか……しかし頭が痛い……」
博康は二日酔いの頭で辺りを見渡すと置手紙のようなものと地図がバックパックの上に載っていた。
〝先に行ってる、この場所に来いそこが博康の求めていた場所のはずだ〟
そう手紙には書かれていた、そして地図のほかには時刻表のようなものも一緒に挟まれていた、そして地図にはその場所に付箋が貼り付けられていた。
「あの人何で先に行ったんだろう?そういえば本当に不思議な人だな……」
博康はそんな事を考えていたが、二日酔いの頭ではそれ以上深く考える事も出来ず、とりあえずチェックアウトの準備を整えた。
まだ頭がくらくらするが何とかユースを出て地図に書かれた場所に向か博康。
その場所は海沿いではあったが厄介なことに海を渡った島だった、島に渡る為のフェリーは後一時間後に出向の予定だ、それまでには十分に間に合うだろう。
「なんでまた船にまで乗って行く所に一人で行ったんだ……」
そんな事を考えながらも博康はバスに乗り込みフェリー乗り場に向かった。
バスに揺られてるうちにまた眠気が襲ってきた、そして博康はゆっくりと意識を夢の中へと落としていった。




