12話
すごく綺麗な景色……ここどこだろう……
遠くで誰かの呼ぶ声が聞こえる、知っているような懐かしいような……
綾……綾芽………綾芽ちゃん…………
突然夢の世界から現実世界に戻される綾芽、まだ現実か夢か解らない様子で辺りを見渡す。
「み、瑞恵さん?どうしたんですか?あれ?ここ……」
寝ぼけた様子の綾芽に笑いが込み上げ笑いながら答える瑞恵。
「ここは私の家よ、綾芽ちゃん」
ようやく頭が覚めてきて理解しだした綾芽、今見ていたものが夢だったのにすごく残念な思いでいっぱいだった。
「そうか……夢だったのか……」
そう呟く綾芽、それが聞こえたのか瑞恵は話しかけてくる。
「何か楽しい夢でも見てたの?」
「そうなんです、すっごい綺麗な場所にいたんです!」
そう言ってその場所がどんなところかを説明する綾芽、それを聞いて少しびっくりしたような表情になる瑞恵。
「綾芽ちゃん……その場所に行ったことがあるの?」
「行くも何も夢の中の話ですよ、そんな場所があったらぜひ行ってみたいですよ、それくらい綺麗な所でしたから」
「そう、そうよね!あまりにも私のたまに行くおすすめの場所に似てたからびっくりしちゃって……」
その言葉を聞いた綾芽は思わず声を上げる。
「ほ、本当ですかぁぁぁぁぁ!」
「あ、綾芽ちゃん、声が大きい声が」
「す、すいません。そんな所が実際にあるなんて思ってもいなかったからびっくりしちゃって!」
「ちょっと待ってね、確かこの辺に……」
そう言ってごそごそと何かを探す瑞恵、そしてお目当ての物が見つかったのかそれを綾芽に見せてくる。
「あったあった、これ見て」
そう言われて見せてくれたアルバムを何ページかめくっていくと、そこには夢で見た景色と全く同じの景色が映し出された写真が一枚閉じられていた。
「み、瑞恵さん、こ、ここです、ここですよ!夢で出て来た景色と全く同じです!」
やはり驚いたような表情で瑞恵はその場所について話す。
「少し遠いから私もそんなに頻繁にはいけないんだけど、本当に良い所よ!それも今の季節が一番いいと思うよ」
その写真は何とも幻想的で、その日その時を忠実に映し出していた。
「瑞恵さん、この場所どうやったら行けますか?」
少し興奮気味に話す綾芽、快くその質問に答える瑞恵。
「その島にはこの町からもフェリーが出てるから、そこから島に渡れるよ」
「この場所島なんですね、船なんてほとんど乗ったことがないからちょっと楽しみです」
「ちょっと待ってね、今フェリーの時刻表見てみるわね……」
そう言ってパソコンの電源を入れフェリーの時刻を調べてくれる瑞恵。
「大変、ちょっと急がないと次の便夕方までないわね、後一時間後くらいに出航するみたいだから急いで支度しましょ!」
そう言って瑞恵も綾芽も大急ぎで支度を始める、瑞恵の家からフェリー乗り場までは車で十五分ほど、ぎりぎり間に合う時間だろう。
「じゃあ行きましょう!忘れ物は無い?」
「はい、大丈夫です。行きましょう」
それから車に乗り込みフェリー乗り場に向かう二人、途中で綾芽が何かを探すようにポケットやバックパックの中を弄る。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと探し物を……」
「何か忘れ物でもした?」
「う~ん……どうもそうみたいです……」
泣きそうな顔で瑞恵を見る綾芽、それを見て急いでUターンをする瑞恵。
「ちょっと飛ばすわよ!」
「そんな、危ないから良いですよ!ゆっくり戻りましょう」
「だめ!それじゃあ夕方までにあの場所に辿り着けなくなる!綾芽ちゃんが夕方までにあの場所に辿り着いて、あの景色を見てほしいから!」
そこまで考えて動いてくれている瑞恵に綾芽は感謝した。
そして自分のミスで迷惑を掛けている瑞恵に本当に申し訳ないと思った。
「ところで何を忘れたの?」
そう問いかける瑞恵、それに申し訳なさそうに答える綾芽。
「携帯を忘れたみたいです……本当にごめんなさい」
「いいよ、そんな事謝らないで、誰だって忘れ物の一つや二つ位する物よ」
そう言って笑いかける瑞恵、さらに言葉をつなぐ。
「出たばっかりだったからまだ今なら急げば間に合うはず」
そう言って車を更に加速させる瑞恵、そのスピードに少し怖くなりながらもなんとか間に合わせようと必死の瑞恵に綾芽は更に感謝する。
そしてすぐに瑞恵の家に到着して部屋に駆け上がる、二人して部屋の中を探して回る二人、すると瑞恵の声が玄関の方で聞こえる。
「あった!」
「本当ですか?」
そう言って瑞恵の方に駆け寄る綾芽。
「これそうでしょ?」
「そうです!よかった~あって……」
安堵する綾芽、その表情を見て瑞恵もほっとしているようだが、すぐに表情を変えて話す。
「さあ、行きましょ!もう時間ぎりぎり。あ、でもその前にもう一度忘れ物がないか確認して!」
そう言って辺りを見回す二人。
「今度は大丈夫みたいね」
そういう瑞恵に綾芽も返事をする。
「はい!大丈夫です、ありがとうございます!」
「じゃあ行きましょ」
そしてまた車に乗り込む二人、そろそろ本当に間に合うかどうかぎりぎりの時間、瑞恵はまたしてもかなりのスピードで車を走らせる。
「警察に捕まらないように隣でお祈りしててね」
そう明るい声で話しかける瑞恵、実はかなりスピード狂だったのだと思う綾芽。
しかしそれは綾芽の為にしてくれているのだろうとも思い、助手席で瑞恵に言われた通りお祈りをする綾芽。
そうこうしているうちにフェリー乗り場に到着する。
「綾芽ちゃん早く、急がないと間に合わないかも!」
せかされて車を降りる二人、そして乗船券売り場に到着した二人は呆然とした。
そう船はもうすでに乗船が終わっており出航準備を整えて今にも出発しそうだったからだ。
「間に合いませんでしたね……すいません私のせいで……」
眼に涙を溜めて今にも泣きそうな顔で話しかける綾芽、それを聞いて笑顔で答える瑞恵。
「そんな顔しないで、間に合わなかったのは仕方ないわよ、私がもっと早くにフェリーの時間を調べておけばよかったのもあるし。だから綾芽ちゃんそんなに悲しそうな顔をしないで、もっと笑って!」
そう言って綾芽を慰める。
しかし綾芽は自分の失敗を心底悔いた、それにフェリーの時間を調べなかったのは瑞恵の責任ではない、その言葉を口にしようとした時、瑞恵は更に話しかけて来た。
「でもまだ大丈夫、このフェリー乗り場は次の便が夕方までないけど、違うフェリー乗り場に行けば二時間に一本位のペースで出ているところもあるから」
その言葉を聞いて綾芽は驚いた、まだこの人はこんなに余裕があって次のプランを持っているなんて……本当に凄い人だ、いつか私も瑞恵さんみたいな人になりたいと、この時強く綾芽は思った。
「じゃあ行きましょう!そこのフェリー乗り場はこの街からかなり離れてるからちょっと時間がかかるのよ」
そう言って綾芽を車の方に連れて行く、そして車に乗り込む二人。
そこからはまたスピード狂瑞恵に変身して車を走らせる、その隣ではまた綾芽はお祈りをしている、しかし今度のお祈りは警察に捕まらないように、というお祈りよりは事故らないで無事に目的地に着けますように、と言う事を神様にお祈りしている方が強かった。
そしてかなりのスピードで飛ばしていたので本来なら二時間はかかる道のりを一時間半位の時間で目的地のフェリー乗り場についてしまった。
しかしフェリーはまだ到着しておらず、しばらくの間瑞恵と綾芽は待合室で話をしていた。
「瑞恵さん、本当にありがとうございました」
「いいのいいの!こちらこそ本当に楽しかったよ、本当の事を言うと私も綾芽ちゃんに着いて行こうかとも思ったくらいだけど……でも綾芽ちゃんには綾芽ちゃんの旅があるもんね、だからここでお別れ、でもまたいつでも遊びに来てね!私も綾芽ちゃんに会いに行くから!」
そう言って少し悲しそうな顔をする瑞恵、それと同じように悲しげな表情の綾芽。
その気持ちは綾芽も一緒だ、だから綾芽も瑞恵に同じ言葉をかける。
「私も本当に楽しかったです!できれば私もこのまま瑞恵さんと一緒に旅行をしたかったです……でもこれも旅の一つなんですよね……本当にありがとうございました、また今度一緒に旅行しましょう!その時は山登りに連れて行ってくださいね!」
そう言われた瑞恵は笑顔で頷く。
そしてフェリーが到着したという放送が流れ乗船時間が迫ってきた。
乗船手続きを済ませ二階の乗船口に移動する二人、もうその頃には悲しそうな顔を辞め、笑顔で別れの挨拶をしていた。
「じゃあ瑞恵さん、また必ず会いましょうね!いえ、必ず会いに行きますね!」
「そうね、必ずまた会いましょうね!私も必ず会いに行くから」
そう言ってどちらともなくお互い手を差し出して固く手を握る。
そしてフェリー乗船開始のアナウンスが流れる。
「じゃあ」
そう挨拶をする綾芽、そしてそれに瑞恵も答える。
「じゃあね」
二人は精一杯の笑顔でお互いの事を見送る、綾芽は瑞恵を、そして瑞恵は綾芽を。
そして綾芽の一人旅は続く




