4話
あまりの暑さに目覚める博康。
もう日は十分に昇り切り、夏の太陽は容赦なくテントの中の温度を上げていく。
「あっち~」
そう言ってテントの中から這い出してくる博康。
「今日もまた暑いな」
そう言って携帯を取り出し時間を確認する、もう辺りには海水浴目的の人が徐々に集まりだしている。
それを見て博康は目的地に行くための準備を始める。
テントを手早くたたみ、バックパックの中にしまい込む。
そしてそれを背負い、海岸を後にする。
海沿いには対向一車線の道が続いており、そこの交通量はかなり多い。
しかしヒッチハイクをするには、交通量が多いことはあまり条件にはならない。
それを博康は今までの旅の中で十分すぎる位よく理解していた。
ヒッチハイクをするにあたっての条件は、交通量がある程度多い事、しかし多すぎるといけない、それと車をすぐに止めれるくらいの道幅の広さがある事。
それがヒッチハイクをするにあたっての条件だ。
そしてその道は二つの条件を満たしていた。
「この道ならすぐに拾ってくれる人がいそうだな」
そう言って昨日用意していたスケッチブックを取り出す。
まずは最初の目的地の書いた地名を走ってくる車に向かって見せる。
それを何台かの車に見せながら歩いていく、すると案の定何台かめの車が博康を少し通り過ぎたところでハザードを点灯させ止まってくれた。
それを見た博康は止まってくれた車に走って行き、助手席の側に立つ、すると助手席側の窓が開いて博康に声を掛けてくる。
「どこまで行くの?」
そこで博康は最終的な目的地を告げるように、スケッチブックを何枚かめくりそれを車の持ち主に見せる。
「ここまで行きたいんですけど、途中まででも良いので乗せてもらえませんか?」
それを見て快く返事をしてくれる。
「良いよ、どうせ暇だからそこまで乗せていってあげる」
まさか一車目で目的地まで行けるなんて思ってもいなかった博康は喜んで車に乗せてもらう。
「ありがとうございます」
車に乗り込んだ博康は改めてお礼を言った、車の持ち主は博康よりもちょっと年上の女の人だった。
「いいのいいの、どうせ私も暇でドライブしてただけだから、それに誰か一緒にいた方が楽しいでしょ?だからゆっくり乗っててね」
そう言って車を走らせる。
少し走った所で女の人が話しかけてくる。
「今日は何処まで行くの?」
その質問に答える博康。
「今日は街まで行って、フェリーで島まで行こうと思ってます」
「そうなの?じゃあちょっと急がないと間に合わないかもね、じゃあ少し急いで行くわね」
そう言ってアクセルを踏み込む、その踏み込み方は少し急ぐといったような踏み込み方ではなく、すごいスピードで辺りの景色を後方へ押しやる。
さすがにそのスピードに驚いた博康は、女の人に話しかける。
「だ、大丈夫ですよそんなに急がなくても、乗り遅れたら次の便に乗ればいいだけですから」
「そう?でも間に合わないと便が明日になっちゃうといけないでしょ?」
そう言ってスピードを落とそうとせずに走り続ける女の人。
さらに言葉を続ける女の人。
「昔、おんなじように旅をしてる子が、フェリーの時間に間に合わなくなったことがあるから……」
そう言って、少し昔の事を思い出しているようだった。
「そうなんですか?それでどその人どうしたんですか?」
女の人に話しかける博康。
「今みたいに、この道を走って今から行くフェリー乗り場に送って行ったよ、その時はもっととばしてたけどね!」
笑顔で答える女の人、このスピードでもかなりとばしているのに、これよりもさらにスピードを出している事を想像すると、その隣に乗っていた人はかなり怖かっただろうな、と思う博康。
「所で、あの島のどこに行くの?」
女の人は博康に質問してくる。
「昔、初めて旅行に行ったときに行った場所に行こうと思ってます」
博康の話を聞いてその女の人は更に聞き返す。
「そうなんだ、そんなに良い所なの?」
質問に答える博康。
「そうですね……今の時期は凄く良い所だと思いますよ、最初に行った時もこれくらいの時期でしたけど、本当に今でもその景色が目蓋の裏に焼き付いて、忘れる事が出来ないですね」
「へ~、そんな所を私も知ってるけど、もしかしたら私も知ってるところかな~」
女の人の言葉に博康は返事をする。
「そうなんですか?もしかしたら同じ所かもしれませんね、そこってどんな所なんですか?」
博康の質問に女の人はその場所を細かく説明してくれた、そしてその場所はまさしく博康が目指すところと同じ場所だった。
女の人が話し終わると、博康は少し驚いたように話す。
「そうです!まさしくその場所ですよ!あそこってそんなに有名な場所なんですか?」
その言葉にその女の人は答える。
「う~ん……どうなんだろ、雑誌とかには載ってないから、地元の人しか知らないんじゃないかな……」
博康はその言葉を聞いて少し安心した、昔から変わらず博康は人の多い所が苦手だった事もあるが、あの場所は博康にとってとても大事な場所になっているので、あまり他の人にいてほしくないという思いが強かったからだ。
「そうですか、よかったです!あんまり人ごみが好きじゃないから……」
博康の言葉に女の人は何かを思い出したように少し笑う、それを見た博康はなぜその女の人が笑っているのか解らずに話しかける。
「俺なんか変な事言いました?」
そう話し掛けられた女の人は返事をする。
「ごめんごめん、なんか昔知り合った女の子、さっきの話した子の事なんだけど。その子も同じ様な事言ってたから、なんか可笑しくって。ごめんね、あなたの事を笑った訳じゃないのよ」
そしてその女の人は更に言葉を続ける。
「そう言えば、その子二日前に私の所に来て、その場所に行くって言ってたから、もしかしたら会えるかもね」
女の人はそう話、その言葉に博康は答えた。
「そうなんですか?その人に会ってみたいですね」
「たぶん会えるんじゃないかな、今日は島をいろいろ見て、明日その場所に行くって言ってたから……会ったらよろしく言っておいて」
「そうですね。そう言えばお姉さんの名前、まだ聞いてなかたです。俺の名前は博康っていいます」
そう言って自己紹介をする博康。
博康の名前を聞いて少し考えているような表情をするが、すぐにその女の人は自己紹介をする。
「そうだったわね、私は瑞恵って言うの、よろしくね」
お互い自己紹介して、また二人は話し出す、そしてかなりのスピードで走っていた車は、博康の考えていた時間よりも早い時間にフェリー乗り場に着く。
フェリーはもう到着しており、すでに乗船が開始されていた。
それを見た二人は急いで車を降り、乗船受付に行く。
「まだ乗れますか?」
慌てた様子で受付の人に話しかける博康。
「はい、まだ大丈夫です。お二人様ですか?」
「いえ、一人です」
「それでは、この用紙に記入して下さい」
受付の人は記入用紙を博康に手渡す。それに記入して再び受付に行き、お金を渡して乗船券をもらう。
出航はまでは後三十分ほどあるようだ、その時間を確認して瑞恵はほっとしたように話しかけてきた。
「よかった、間に合って」
瑞恵の言葉に返事を返す博康。
「ありがとうございます。おかげで予定していたのよりも早い時間のフェリーに乗ることができました」
瑞恵にお礼を言う博康。
そして乗船手続が終わった事に安心した博康は、自分が朝から何も食べていないことに気付き、瑞恵に話しかける。
「お腹すきましたね、何か食べませんか?」
その提案に答える瑞恵。
「そうね、私もちょうどお腹が空いてきたし、まだ出航まで時間があるみたいだからご飯でも食べようか」
二人は待合の横にある食堂に行き昼ご飯を食べる。
そして昼ご飯を食べ終わる頃にアナウンスがかかり、フェリーが出航する事を伝えた。
「もう出航するみたいね……」
少し悲しそうな感じで話しかける瑞恵。
「そうですね、本当にありがとうございます」
そう答える博康も、少し悲しそうに答える。
その言葉に続ける瑞恵。
「いつも思うけど、誰かを見送るのは、なんだかすごく寂しいものね……」
「ですね……出会って別れて、悲しい所もありますけど、これが旅だし、それ以上にそれが人生なんだと思います。だから……一つ一つの出会いに、俺は凄く意味を感じます」
笑って答える博康。
博康の顔を見て、瑞恵も笑って答える。
「そうね、またどこかで会いましょう」
瑞恵はそう言って手を差し出す瑞恵、そしてそれに答えるように博康も手を差し出す。
「そうですね、また会いましょうね!」
博康はそう言ってフェリーまで繋がる桟橋に向かう。
桟橋を渡る手前で振り返りまた瑞恵にお礼を言う博康。
「本当にありがとうございました」
博康の姿に笑顔で手を振る瑞恵。
そしてお互いが、お互いの事を見送る。
しばらくしてフェリーは汽笛を鳴らし、船着き場から水飛沫を上げながら島に向かって進んで行く。




