3話
卓と別れ、再び一人旅を続ける博康。
太陽の光は、少し傾いてきているが、まだ夏の太陽はその光の勢いを失っていない。
電車の外を流れる景色は、変わらず山の中を進んでいる。
しばらくは電車の外の景色を見続ける博康だったが、少し疲れたのか眠りについてしまう。
そしてどれくらい眠っていたのだろう、ふと気が付くと、博康の席の向かい側にはどこかで見たことのある人物が座っていた。
「よう、久しぶりだな博康」
思わず目を疑う博康。
「どうした?俺の事なんかもう忘れちまったか?
そういって笑いかける青年。
ようやく言葉を出す博康。
「た、民雄さん!?」
「おー、覚えててくれたか!嬉しいねー」
あの時と変わらない、おどけた調子で話しかける民雄。
「当たり前じゃないですか!もう会えないのかと思ってましたよ!」
その言葉を聞いて少し表情を変える民雄、その表情は悲しそうなようにも見えて、嬉しそうにも見える。
「実は俺も、もう会うことはないだろうと思っていた」
そう言う民雄。
そして、その言葉に悲しくなる博康。
「なんでそんなこと言うんですか?僕は民雄さんにもっといろんな事を教えてもらいたいです」
「俺は博康に何も教えてなんかないよ。今の博康は、いや、最初に出会った頃の博康も自分で決めて、自分で考えていただろ?」
「そんな事……そんな事ないです!俺は民雄さんに色々な事を教えてもらいました。旅の楽しさ、人と出会う事の喜びと悲しみ、そんな物のすべてを民雄さんから俺は教わったと思っています」
それを聞いて嬉しそうにする民雄。
「そうか、でもそれを感じたのは博康で、俺は何もしていないよ。俺はただ博康を見守っていただけだよ」
それを聞いた博康もその言葉の意味を少しだが理解できたかのように話す。
「確かにそうかもしれません、いつも旅に出る時は……いや、旅に出ている時じゃなくても誰かに見守られているような感じはありました。それは民雄さんなのかもしれないって、いつの頃からか思うようにはなっていました」
その言葉で民雄は少し安心した表情になり、また言葉を続ける。
「そうか、そう思っていてくれたんだな……」
博康は言葉を繋ぐ。
「そうですよ、だから、またこれからまた一緒に旅に出ましょうよ」
その言葉に民雄は悲しそうな表情で返事をする。
「いや、もう博康と一緒には行けそうにもないんだ、だから今日で本当にお別れなんだ。だってもう博康は大丈夫だろ?だからもう、博康の元からは本当にさよならなんだ」
その言葉を聞き終えると博康は、今にも泣きだしそうな顔になって民雄に話しかける。
「そんな悲しいこと言わないでください……これからも一緒に旅をしましょうよ……お願いですから……」
「そんな悲しそうな顔をするなよ。博康はもう大丈夫だよ、これからはお前一人で旅を続けるんだよ、いや一人じゃない、俺なんかよりももっと大切にしないといけない人が、これからの旅で待っているさ。だからもう俺の事は忘れて、旅をもっと楽しめ。じゃあ俺はそろそろ行くぞ。だからもうそろそろ眼を覚ませ、電車が終点に着くころだぞ」
そう言って博康の前から立ち去る民雄、言葉をうまく出せない博康を他所に、民雄は立ち去る。
「そうそう、最後になるが、綾芽ちゃんによろしくな。じゃあ、本当にさよならだ。よい旅を博康」
最後にそう言って民雄は博康の前から姿を消す。
電車内にアナウンスが流れる、その音で博康は眼を覚ます。
「あれ、なんで、なんで俺泣いてんだろ……誰か今ここにいたような気が……俺どんな夢を見てたんだろう……」
訳も分からず涙を流す自分に博康自身が驚く、電車のアナウンスは終点に間もなく到着する事を伝えている。もう太陽はずいぶんと傾き、気が付くとその景色はいつの間にか山は消えており、穏やかで、太陽の光を優しく反射する海が広がっていた。
その海に反射された光は何処か懐かしく、忘れてしまっていた大事な何かを思い出させるような、そんな懐かしさをよみがえらせる景色だった。
「あ、もう到着するな、そろそろ降りる準備するか」
さっきまで見ていた夢の事など、覚えていないかのように博康は電車を降りる準備を始める。
そして電車を降りて今日の宿を考える。
宿と言えばかなり聞こえがいいが、いつの頃からか博康は野宿をするようになっていた。
一番の理由は、その方がはるかに安上がりで、その分で更に長く遠くまで旅を続けることができるからだ。
そしてバックパックの中から地図を取り出して、野宿に適した場所を探す博康。
「今日の夜は天気がよさそうだからな……久しぶりに海沿いで野宿でもするか」
そう言って地図で駅から一番近い海岸までの距離を確認する。
駅からそれ程遠くないところ、歩いても十五分位の所に海岸があるようだ。
それを確認した博康は、さっそく駅を出て、海の方に歩みを進める。
そして海に辿り着くと早速テントを広げる博康、すぐにテントを広げ終わるとテントの中に入り、少しの間休憩をする博康。
まだ日は沈みきっておらず、テントの中には熱が籠る、その暑さに耐えかねて博康はテントの外に出る。
目の前には海、そろそろ日が沈みかけているので海に居る人はまばらだ。
そして博康はあまりの暑さに耐えかねるように、服を脱ぎだす。
服を脱いで、下着姿になると、海の中に駆け出して行った。
海の水は、夏の暑さを吸収した肌には心地よく、少し涼しくなってきた海からの風は心地よく、博康は日が沈みきるまで海の中で泳ぎ回っていた。
そして疲れた博康は海から這い出しテントに戻り、少し休憩し近くの海の家のシャワーを借りて海水で少しべたつく体を流した。
その頃にはもう完全に日は沈み、辺りは夜の闇が包んでいた。
そして博康はバックパックの中から固形燃料と飯盒を取り出し、夕飯の支度を始める。
その作業は手慣れたもので、瞬く間に食事の用意は出来上がり、それをたいらげる。
そして方付けをしてテントに中に入って行き、明日の予定を考える。
「さて、今日は大体予定通りにこれたな。明日はフェリーに乗って島に渡らないと……」
そう言って地図と時刻表を交互に眺める博康。
明日の大体の予定を考え、目的の街までの道筋を地図を見ながら考える。
「明日は電車よりも、車の方がよさそうだな……」
そう呟き博康はスケッチブックを取り出す。
そのスケッチブックは絵を描くための物ではなく、地名を書き込むための物だ。
いつの頃からか博康は、電車での旅だけではなく、ヒッチハイクもするようになっていた。
もともとは旅をするのにお金が無くなってきたから、というのが理由で始めたヒッチハイクだったが、いつしかヒッチハイクが旅の目的になっている頃もあった。
今ではその両方を、旅の目的に合わせて併用するような形で、旅をするようになっていた。
そしてスケッチブックには、目的地の街に着くために、通り過ぎる町の名前が書かれていく。
それを書き終わると、博康は旅の疲れが出たのか眠りに落ちていった。




