18話
綾芽はしばらく海を眺めた後民宿に帰る。
民宿に変えるとまだ大広間では宴会が続いているようだった。
帰ってきた綾芽に気付いたおばさんは声を掛けて来た。
「お帰り、どうだった?綺麗だったでしょ」
「はい!すごく綺麗でした!あの光はなんですか?」
そういう綾芽におばさんは答える。
「あれはね、夜光虫っていうの。私もよく知らないんだけど本当に綺麗でしょ」
自慢げに話すおばさん。
「夜光虫ですか、名前は聞いたことがある様な気がしますけど、見たのは初めてです!本当に綺麗でした」
「そうかい、よかったよ~」
そう言って満足そうに微笑むおばさん。
おばさんの笑顔を見て綾芽も微笑み返す。
「じゃあ、部屋に戻りますね。ありがとうございました!」
「そうかい?じゃあゆっくりしておくれ」
言葉を掛けて仕事に戻るおばさん、そのおばさんに綾芽も言葉を掛ける。
「おやすみなさい」
階段を上がり自分の部屋に入る、するともう布団が用意されておりいつでも眠れるようになっていた。
少し眠くなっていた綾芽だったが、潮風に当たった体は少しべたつく様な感じがしたので風呂に入ることにした。
風呂の用意をして部屋を出る綾芽、さっきとは違う内風呂に向かう。
更衣室に入り、服を脱ぎ浴室に入る綾芽。
内風呂も広く、檜か何かで作られた浴槽で同時に十人位が入っても全然窮屈な感じがしないくらいの大きさだ、そして浴槽の前には大きな窓があり、さっきまで綾芽がいた海が見える。
またもや綾芽以外に人はいなく、貸切だった。
体を流し、浴槽に入る綾芽。
お湯はちょうど良い温度で少し疲れた体を癒してくれるように包み込む。
そしてしばらくお湯につかりだんだん眠くなってきた綾芽は、浴槽を出て濡れた体をタオルで拭き更衣室を出た。
部屋に戻った綾芽は取りあえず家に電話をする。
数回の発信音の後電話に出るお母さんの声。
『はいもしもし』
「お母さん私」
『誰ですか?』
「なに冗談言ってるの?私よ、綾芽」
『ちゃんと名前を聞かないと詐欺に騙されるといけないでしょ』
本気なのか冗談なのかわからない口調で言うお母さん。
「自分の娘の声位わかってよも~」
『気を付けるに越したことないでしょ』
確かにこのお母さんならいつか騙されるかもしれないのでその方がよいと思う綾芽。
『で、あんた今日は何処にいるの?』
「今日はね、昨日泊めてもらったお姉さんに教えられた場所に行くのに島に渡ったの」
『あんた海外にまで行っちゃったの?』
またもや惚けた事を言うお母さん、その言葉に少しあきれる綾芽。
「あのねぇ……ここは日本だよお母さん」
『でも海を渡ったんでしょ?ならそこも立派な海外ね』
よくわからない理屈を言うお母さん、少しめんどうになったので電話を切ろうとする綾芽。
「じゃあ今日はもう疲れたから寝るね」
『はいはい、また明日ちゃんと電話してくるのよ。お父さんが心配するから』
「はいはい、じゃあもう切るね。お休み、お母さん」
母との電話を切り、布団に潜り込み眠りに落ちる綾芽。
その景色は昨日夢で見た所と同じようだ。
景色の中で誰かが微笑んでいる、どこかで見たことがある様な、懐かしい感じがする様な、最近どこかで会った事がある様な……
そんな事を思いながらその場所に近づこうとして歩きだそうとしたその時、急激に意識が覚醒していく綾芽。
眼が覚めた綾芽は寝ぼけた感じで辺りを見渡す。
「そうか、ここ民宿だった……でもあの人誰なんだろう……」
なんとなく博康に似ている気もするが、博康とはどこか雰囲気の違う、暖かい微笑みを浮かべていた。
「いったい誰なんだろう……最近毎日夢に出てきてるような気がする」
そんな事を思いながらも綾芽は布団を出る。
昨日ゆっくりと風呂に入り、早く寝たのがよかったのか体は軽い。
服を着替え、部屋を出て朝食を食べるために大広間に行く。
大広間に行くとまだ時間が早いのか誰もいなかった。
「あら、おはよう。よく眠れた?」
声を掛けてくるおばさん。
「おはようございます!はい、おかげさまでゆっくり寝れました」
「そう、それは良かった。いまご飯の用意するからそこに座ってちょっと待ってて頂戴」
そういっておばさんは厨房の方に入っていく。
しばらくして運ばれてくる料理、それを綾芽は食べ今日の目的地の事を考える。
「今日はどうやって行こうかな……」
そんな事を呟きながら頭の中では今日の目的地の事でいっぱいになっている。
出された朝食をすべてたいらげ部屋に戻る綾芽。
途中おばさんにご馳走様でしたと声を掛ける。
おばさんは笑顔でそれに答え、再び忙しそうに仕事をしだす。
部屋に戻った綾芽は荷物を整え、チェックアウトをするためにまた階段を下りていく。
「すいません」
おばさんに声を掛ける。
「はいはい。あら、もう行くの?もっとゆっくりしていけばいいのに……」
「はい、ありがとうございます。でももうそろそろ出ないと」
そう言って綾芽はおばさんに部屋のカギを渡す。
鍵を受け取るおばさん。
「またいつでもいらっしゃい、また部屋が空いてる時はあの部屋に入れてあげるから」
言われた綾芽は嬉しそうに答える。
「はい、ありがとうございます!また来ます、でもその時はちゃんとお金を払えるようにしますね」
「そうね、じゃあその時を楽しみにしてるわね」
「じゃあ、本当にお世話になりました!」
そう言って民宿を出る綾芽、その後ろ姿に声を掛けるおばさん。
「気を付けてね」
そう声を掛けられた綾芽は微笑んでおばさんに答える。
「はい、ありがとうございます!」
挨拶をして玄関を出る綾芽、しばらく歩くとバス停がありそこで時刻表をみる。
時刻表はほとんどが空白で、バスは後二時間しないと来ないように書かれていた。
「まだまだバスは来そうにないな~。仕方ない、歩いていくか」
綾芽は歩き出す、このスピードで歩いても恐らく昼を回るくらいには目的地に着けるだろう。
綾芽はそう思い海沿いの道をひたすら目的地に向かって歩いていく。
まだ日差しはそれ程強くはないが、天気は良く、今日も暑い一日になるであろうことが容易に予測できるような天気だった。
しばらく海沿いの道を歩き、いくつかの集落を過ぎて、少し大きな町に着いた。
町に着いた時にはもう時間は昼に近づいていた。
町で綾芽は朝から歩き通しだったので休憩も兼ね、少し早い昼食をとる。
そして昼食を食べた綾芽は再び海沿いの道を歩き出す。
時々海鳥は高い声で鳴きながら海の上を飛び回る、そんな景色を見ながら綾芽は時折足を止めながらも目的地に向かって歩く。
綾芽の足取りは軽く、強烈に光を投げかける太陽にさえも綾芽の体力は奪われる事が無いような気がしていた。
この一歩一歩が、目的地に近づいている、そう思うと綾芽はうれしく更に足取りは軽くなるようにさえ思えた。
そしてまたしばらく歩き続ける綾芽。
太陽は少し傾きだしたその時ようやく綾芽は目的地にたどりつく。
そこには昨日はもう会えないと思っていた人物が綾芽の事を待っていた。




