16話
フェリーを降りてバス乗り場に歩く博康、辺りにはほとんど民家もなく、少し傾きだした太陽の光がそれを余計に寂しく思わせる。
バスはフェリーに合わせた時刻なのだろうか、すでにバス停に待っており出発の時刻を待っていた。
それに急いで乗り込み座席に座る。
博康が座席に座るのを確認した後、バスの運転手は出発の合図を送り、エンジンを吹かし発信する。
恐らくもうこの時間からだと民雄の指定した場所にたどり着くのは日が暮れた後だろう。
博康はそう思った、取りあえず宿泊施設のある町まで行き、そこで最後の宿を探そう、そう思っていた。
バスはいくつかの停留所で止まり、乗っていた乗客を降ろし走り続ける。
海沿いを走るバス。
バスの中は海から反射した光で常に明るく照らされていた。
いくつかの停留所を過ぎたところでこの島で恐らく一番大きいと思われる町に到着した。
博康はそのバス停で降りる。
民雄には悪いが恐らく今日の到着は無理だろう、バスもそれ程便があるわけでもなさそうだし。
そう思って博康は町の観光案内所に歩き出す。
観光案内所に到着した博康は今日の宿を紹介してもらい宿に歩く。
途中いくつかの店があり、その中の一つで晩御飯を済ませる。
店をでて少し歩き今日の宿に到着する。
チェックインを済まし部屋に入る。
その部屋は最上階の部屋で海とは反対側の部屋だ、最上階とは言っても四階建ての建物なのでそれほどの高さは無い。
しかし周りの建物はこのホテルよりももっと低い建物ばかりなので視界を遮る物は何もない。
窓からは山が見える、その山はおそらくその島での最高峰の山なのだろう、他にその山より高い山は見当たらない。
時折山から光が漏れて見える、恐らくそこには道路がありそこを通る車が放つ光なのだろう。
光はとても力強く見え、どんな心の奥底までも照らし出すようにも見えた。
まるでその光はフェリーの中で見せた綾芽の笑顔のような、そんな力強さを感じた。
時折光るそれをしばらく眺め、博康は明日行く場所の事を考えた。
そう、その場所は、博康が最後の場所となるであろう場所だ。
しかし博康は自分が死に場所として考えている場所かどうかはまだ解らない、なぜなら博康は自分の死のうとしている場所がどこなのか、はっきりと覚えていないからだ。
昔家族と旅行に出かけた時の思い出なので、その場所がどこなのかと言う事が本当の所はよく解らなかった。
しかしそんな事は今の博康には関係なかった。
その場所で明日、自分でこの命を絶つ事を今の生きる糧に今日一日を乗り切る、そういう歪んだ目的のみで、博康は今日を生きることができたのだから。
そう思いながらも博康はまだどこか迷いがあるようにも感じている。
恐らく心のどこかで会いたいと思っていた綾芽に偶然にも今日再開し、その笑顔を見てしまったからだろう。
その笑顔の力強さは博康の心の闇を照らした、その時に自分もこんな生き方ができたかもしれないと思った気持ちに嘘はなかった。
しかしそれができなかった現実に余計に悲しくなり、それはますます博康の心の闇を深くしてしまったのかもしれない。
博康はベッドに倒れ込み今日の日を振り返っていた、そして急激に眠りの中に落ちていく……
突然の電話で眼が覚める博康、電話番号は公衆電話を表示している。
不審に思いながらも電話に出る博康。
「もしもし」
『博康か?俺だよ、民雄だよ』
そう言われて博康は驚いた、電話番号を教えた記憶はなかったが……
「なんで僕の電話番号知ってるんですか!?っていうかこんな時間になんですか?」
『昨日お前が寝てる間に電話を見させてもらって電話番号メモっといた』
いつもながら驚かされる事をサラッと言ってのける民雄。
「それってほとんど犯罪じゃないですか、まぁ良いですけど。で、なんですか?」
『どうして今日これなかったんだ?』
問いかける民雄、それに答える博康。
「僕に言わせれば民雄さんの方がおかしいですよ、昨日あんなに飲んでどうして僕より早く起きて先に出発してるんですか?」
『なんだ、二日酔いでバスでも乗り過ごしたのか?“酒は飲んでも飲まれるな”だぞ。まぁいい、もう島には渡ってるのか?』
なぜこの人はこんなに僕の事が解るんだろう。
博康はいつもながら不思議に思えた、しかしそれを口にすることは無く民雄の質問に答える博康。
「今日の夕方の便で島に渡ってきましたよ、まだ少し距離があるから明日の夕方までには着けると思います」
『そうか、ならいいんだ。気を付けて来いよ』
そう言って民雄は電話を切る。
わざわざこんな時間に電話してくるような事なのだろうか?そんな事を寝ぼけた頭で考えながらまた眠りに落ちて行く博康。




