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魔導特許のハッカー 〜書類係の元弁理士、チートプログラムと王国法で無能ギルドを敵対的買収する〜  作者: 樹


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第4話:全王都が泣いた日

「――多重魔術回線、接続リンク。プログラム、同期完了」

 王都中央広場。夕暮れの影が長く伸びる時刻、僕は丸眼鏡を指で押し上げ、静かに呟いた。

 僕の視界には、チート能力『万物監査(鑑定)』によって、王都全域に広がる魔力の流れがすべて視覚化されている。さらに、もう一つのチート能力『魔導電算プログラム』を展開し、ステフの削り出した人形たちの脳へ、極上の演出コードを直接流し込んでいく。

 クミコの特許を完全に回避した、超微細・多重並列制御の2体の人形。

 鈍い光を放つ黒銀の鎧の【騎士】と、どこかあどけない顔立ちに【大きな帽子】をかぶった女の子。

 だが、前回までと明確に違うのは、僕の隣にいる銀髪の少女――クミコにすべてを奪われた天才令嬢マルタの存在だった。

「……マルタの多重魔法陣、出力安定。王都全域の『魔導端末』へ、音響と光の同期、開始する」

 マルタがジト目のまま水晶球に触れると、彼女が構築したネットワークが一気に起動した。僕ひとりの処理能力では不可能だった、王都の空間そのものをハッキングするような超広域の魔術ストリーミングが、ついに実現したのだ。

「いい、エイト? 私の作った完璧な身体ハードと、マルタの最高級の回線インフラを使ったのよ。アンタの数式ソフトが負けたら承知しないわ。その眼鏡を粉々に砕いて、私のブーツの裏を舐めさせてあげるから」

 ステフが腕を組んで不敵なドSの笑みを浮かべている。だが、その指先が興奮で微かに震えているのを、僕は見逃さなかった。

「僕たちのプログラムにバグはありませんよ。……さあ、開演ローンチです」

 僕が指をパチンと鳴らす。

 次の瞬間、広場の木箱の上で、2体の人形がパチリと瞳に魔力の光を宿した。

 ――瞬間、王都全体の空間が震えた。

 マルタの魔法陣を通じて、最高に切なく美しい旋律が、王都にいるすべての住民の脳内にある『魔導端末』へ直接響き渡ったのだ。それだけではない。人形たちの動きに合わせて、夕暮れの光がまるでスポットライトのように2体を劇的に照らし出す。

 物語は、身分違いの恋ゆえに、世界から追われる騎士と少女の悲恋。

 エイトの『魔導電算』によって組まれたモーションは、人間の役者すら凌駕する繊細さだった。少女が悲しげに大きな帽子に手を添えてうつむく仕草、騎士が命を懸けて彼女を庇う太刀筋――その一挙手一投足が、王都中の住民の『魔導端末』に鮮明な映像として強制同期されていく。

「……なぁ、この頭の中に直接響く素晴らしい音と光はなんだ!?」

「嘘だろ、あの広場の人形劇……本当に泣いてるように見えるぞ……っ」

 王都を支配したのは、圧倒的な「静寂」と、やがてあちこちから聞こえ始めた「すすり泣き」の声だった。

 前世の映画の『感情の黄金比』を詰め込んだプログラムだ。娯楽に飢えた異世界人が、マルタの最高級の演出を浴びて耐えられるはずがない。

 劇のクライマックス、騎士が少女を守り抜いて崩れ落ち、少女が彼の鎧に縋り付いて大号泣するシーンでは、王都中の平民、そしてお忍びで端末を覗いていた貴族の令嬢までもが、ボロボロと涙を流してその場に崩れ落ちていた。

 完全に、観客たちの感情のバッファ(許容量)がバグを起こしている。

 ――そしてその瞬間、僕の『万物監査』の視界に、見たこともない黄金の通知ポップアップが狂ったように点滅を始めた。

『天界通信:最高神オーレン・バファメントより、新規の精神エネルギー(信仰配当)を検知』

『神託メッセージ:【ううっ、最高だよエイトくん! 騎士が死ぬシーンで全天界が泣いた! クミコに意地悪されてたマルタちゃんがこんなに輝いてるの尊すぎる! コーラが止まらないよ! 】』

『神殿口座:経験値+100,000トークン、+500,000トークン――複利による爆発的増殖を開始します!』

 やれやれ、神様自ら「推し活(投資)」を始めるとは。

 神殿の中央銀行から、一般の狩りの数万倍という天文学的な経験値が、僕たちの口座にチャリンチャリンと恐ろしい勢いで流れ込んでくる。いつでも金貨に等価交換できる莫大な富が、一瞬で構築されていく。

「……信じられない」

 隣でステフが、唖然とした声を漏らした。

 広場では、大号泣した民衆が「あの帽子をかぶった女の子の人形はどこで買えるんだ!」「騎士の人形を我が家に飾りたい!」と、僕たちが横に並べておいたミニチュアグッズ(立体商標)に狂ったように殺到し、銅貨や銀貨が瞬く間に山を成していく。

 高慢だったドS職人のステフが、今や見たこともないほど潤んだ瞳で、ゾクゾクと身体を震わせながら僕を見つめている。

「入場料は無料。なのに、キャラクターの『概念』を全員が喜んで買っていく……。エイト、アンタの言った通りだわ。私の技術と、アンタのプログラムが合わされば、本当に世界を買い取れる……!」

「エイト、すごい……。マルタの回線、こんなに綺麗に使われたの初めて。クミコの汚いコードとは大違い。……マルタ、エイトの脳内、もっと覗いてみたい」

 銀髪の天才令嬢マルタも、フードの隙間から頬を紅潮させ、じっと僕の袖を掴んで離さなくなっていた。プライド最高のドSヒロインたちが、僕の合理性の前に、早くも陥落し始めている。

「言ったでしょう、これはただの合理的な最適化です」

 僕は静かにメガネをクイと上げた。

 だが、この大バズりを、広場の影から忌々しげに睨みつける蛇のような視線があった。元親友であり、僕たちの仇――クミコである。

(釣れましたね。さあ、他人の才能を貪るだけの無能な2代目さん。僕たちのビジネスを、お望み通り綺麗にパクってみせてください。合法的に破産させてあげますから)

 エイトの冷徹なカウントダウンが、静かに始まった。


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