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魔導特許のハッカー 〜書類係の元弁理士、チートプログラムと王国法で無能ギルドを敵対的買収する〜  作者: 樹


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第3話:裏切りの親友クミコと、時計塔の天才令嬢

広場で行った最初の無料人形劇は、小さな、だが確かな成功を収めた。

 黒銀騎士と、大きな帽子をかぶった女の子の人形。その愛らしい掛け合いに足を止めた平民たちが、劇が終わると同時に、僕たちが足元に置いておいた木箱へ次々とコインを投げ入れていく。

「――ねぇエイト。集まったのは銅貨や銀貨の小銭ばかり、完全に路上パフォーマンスの投げ銭レベルじゃない! こんなコスパの悪いカンパ(小銭稼ぎ)のために、徹夜で人形を仕上げさせただなんて言わないでしょうね?」

 ボロ宿の机にジャラジャラと投げ銭をぶちまけながら、ステフがフンと鼻を鳴らしてドSな女王様スマイルを向けてくる。職人としての欲とプライドが高い彼女にとって、この程度の額は不満らしい。

 だが、僕は冷徹に首を振った。

「いいえステフ。目先の小銭に釣られてビジネスモデルの検証テストを止めるのは愚策です。これしきの結果で満足していては、大商業ギルドの2代目クミコを合法的に破産させることなどできません」

「次の段階(第2フェーズ)に進みます。……現在の問題は、僕の処理能力(魔力リソース)の限界です」

 僕は丸眼鏡をクイと上げ、チート能力『万物監査(鑑定)』と『魔導電算プログラム』のログを空間に表示した。

 この世界では、すべての人間が生まれた時に神から『魔導端末スマホ』と呼ばれる目に見えない紋章を与えられている。日々の労働や戦闘で得た『経験値』を神殿に奉納(課金)することで、端末のスペックが上がり、神からより強力な魔法がダウンロードできる仕組みだ。

「クミコの特許を回避するために、僕たちはあのバッテリーの出力を絞り、人形に【超微細・多重並列の精密制御術式】を組み込みました。魔法とは、本質的に『魔術数式を編み込むプログラム』。僕ひとりの魔導電算では、あの細かすぎる関節制御を走らせるだけで脳のバッファが限界キャパシティオーバーです。今回は広場の狭い空間で短時間動かすのが限界でした。人形劇に映画のような光や音響魔法エフェクトを纏わせ、全王都の『魔導端末』へ向けて同時に劇をストリーミング配信するには、数万人規模の空間魔力を同時に並列処理できる、世界最強の『多重重合・魔術回線ネットワーク』を組める、天才が必要です」

「そんな規格外の魔導プログラマー、この王都にいるわけ――あ」

 ステフが何かを思い出したように、苦い顔をした。

「……まさかアンタ、あの『時計塔の引きこもり』をスカウトする気? 自分の創った魔導リンク(ネットワーク)の権利をクミコに丸ごと奪われて、地下に引きこもったっていう、あの偏屈令嬢を?」

「ええ。王立魔法研究所の最高栄誉賞を最年少で受賞しながら、地下の魔導書庫に引きこもっている、変わり者の上位貴族のお嬢さんです」

 ――数時間後。

 僕とステフは、王立中央図書館の最深部、怪しく明滅する巨大な魔導水晶メインサーバーが並ぶ地下室の前に立っていた。

 鉄の扉を開けると、そこは光魔法の残滓が回路のように部屋中に這い回る、異様な空間だった。

 部屋の隅、ダボダボの大きな魔導法衣のフードを深く被り、ジト目でポテチを齧っている銀髪の少女がいた。彼女こそ、のちに世界最大の魔導リンク(SNS)の基盤を創り出す大貴族の令嬢、マルタだった。

「……誰。マルタの書庫、立ち入り禁止。王宮法違反。排除する」

 マルタはポテチを咥えたまま、感情の消えた声で僕たちを睨みつけた。彼女は全人類の魔導端末を繋ぐ画期的な相互通信術式『魔導リンク』を開発した天才だった。しかし、その利権とソースコードを、かつて「親友」だと信じていた大商業ギルドの2代目クミコに丸ごと盗まれ、公式の記録から自分の名前を抹消されて追放されたという、深く昏い過去バックボーンを持っていた。

「はじめまして、マルタ様。僕はエイト。あなたの『空間の魔力を繋ぐ多重回線技術』を買い取りにきました」

「断る。人間、嫌い。親友だと思ってたクミコすら、マルタの数式コードを盗んで裏切った。数式の方が、嘘つかないから綺麗」

 冷たくあしらおうとするマルタの前に、僕はステフの作った【大きな帽子をかぶった女の子の人形】をコトリと置いた。

「マルタ様。クミコは今、僕たちからもステフの職人技術(新型バッテリー)を奪い、僕たちをギルドから追放しました。あいつは他人の才能を盗み、自分の端末のスペックを上げることしか脳のない、ただの不完全なバグ(劣化コピー)です。……僕と組みませんか? あなたの多重回線を僕の『魔導電算』で一般向けに最適化すれば、この人形劇を、全王都の人間が持つ魔導端末へ向けて完璧なBGMと特殊効果を纏わせて同時多発ストリーミングさせることができる。……世界中の人間をあなたの魔術回路の虜にして、あいつの持っている偽物の利権を、合法的にすべて奪い返して(デバッグして)やりましょう」

「……っ」

 マルタのジト目が、初めて大きく見開かれた。ポテチが口からポロリと落ちる。

 エイトの提示した美しい圧縮術式と、クミコへの完璧なリベンジロジック(リーガルハック)。それを聞いた瞬間、天才令嬢の脳に、稲妻のような復讐とイノベーションのビジョンが走ったのだ。

「……エイトの数式、綺麗。バグがない。マルタのコードを盗んだクミコより、何倍もスマート。……私の多重魔法陣サーバーを使えば、全王都の奴らの魔導端末スマホに、人形劇の音響魔法も、光の特殊効果エフェクトも、一瞬で同期できる。……やる。マルタ、エイトの手伝い、する。その代わり、クミコを一文無しにして、マルタの足元で泣き叫ばせて」

 マルタはフード of 隙間から、ゾクゾクとした純粋な狂気の笑みを浮かべ、エイトの袖をきゅっと掴んだ。

「――交渉成立ホールドです。さあステフ、マルタ。僕たちの本物の『魔導人形劇プラットフォーム』を、世界にローンチ(公開)しましょう」

 エイト(プロデューサー)、ステフ(ハードウェア)、マルタ(高級インフラ)。

 共通の敵「クミコ」を潰すため、この世界の魔導システムをハッキングする最強の3人組が、ついに時計塔の地下室で結成された。

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