第13話:世界政府へのアップデートと、最後の欠陥(セキュリティホール)
「――報告。現在、大陸全土の国家、商業ギルド、および王室の9割が、我が社の『エイトボックス新中央銀行決済』との完全同期に同意。……旧時代の金貨はすべて鋳潰され、世界中の人間が、生きているだけで我が社に月極魔力税を納めるシステムへの移行、完了した」
ガルバニア帝国の巨大要塞をそのまま居抜きで改修した、我が社の『世界統括CEO室』。
銀髪の天才プログラマー・マルタが、ダボダボの法衣の裾から白い素足をブラブラと揺らし、僕のデスクの隣で手元の魔導端末のログを流し読みしていた。そのジト目は相変わらず感情が読めないが、僕の視線と交わった瞬間、耳まで真っ赤にして嬉しそうにポテチを口に放り込む。完全に、僕の「お気に入りユーザー(寵愛)」であることに依存していた。
「やれやれ。これでようやく、大陸中の非論理的な関税や、前時代的な奴隷労働という『バグ』のデバッグが一通り終わりましたね」
僕は丸眼鏡のブリッジを中指でクイと押し上げ、温かい紅茶をマルタの前に置いた。
ステフの超精密ハードウェア技術、マルタの世界標準インフラ(魔導リンク)、そしてジェシカ率いるスラムの最速キックボード流通網。これらを僕のプログラム(ソフト)と法律知識で繋ぎ合わせた結果、僕たちは剣の一振りも交えず、世界を「合法的に敵対的買収(M&A)」してしまったのだ。
「ちょっとエイト! 何よこの新しい『全大陸同時パッチ(利用規約改定)』の書類は! 世界中の人間の端末に一斉に自動インストールさせるなんて、魔術回路の最終デバッグにどれだけ精密な加工が必要かわかってんの!?」
バタン! と勢いよく扉を開けて入ってきたのは、漆黒の髪を雑に結わえたトップ職人のステフだった。豊かな胸を激しく上下させ、いつものようにドSな女王様ツラで怒鳴り散らしているが、その実、僕に認められたくてたまらない潤んだ瞳で僕の出方を伺っている。
「世界中で、数億の端末を同時にアップデートする術式を刻めるのは、あなただけですからね、ステフ」
「っ……! も、もう、アンタはいつも私を特別扱いするんだから……っ。責任取って、今夜のシステム監査(ベッドの上の打ち合わせ)は、私の言う通りに動きなさいよね!」
どんなにプライドが高い猛獣のような美女たちも、僕の圧倒的な有能さと冷徹な知略の前には、今や完全に蕩かされてチョロイン化している。
だが、僕たちのスタートアップは、この「地上」を支配しただけで満足するつもりはなかった。
僕がチート能力『万物監査(鑑定)』を頭上の「天界(空)」へと向けると、そこには、世界中の端末から巻き上げた天文学的な「サブスク経験値」が神殿を通じて逆流し、天界の基幹サーバーそのものを圧迫し始めている『巨大なシステムエラー』の赤文字が点滅していた。
「――皆さん、のんびりイチャついている時間はありません。最終段階のイノベーションを開始します」
僕が指をパチンと鳴らすと、マルタの多重回線が天井へ巨大な『世界の設計図』を投影した。
「現在の問題は、最高神オーレン・バファメント様を含めた『天界の神々』という、世界最大のセキュリティホール(脆弱性)です」
「神様が……セキュリティホールだってぇ?」
ソファーで革の鞭を手入れしていたスラムの女傑ジェシカが、肉食獣のような艶やかなドSスマイルを浮かべて僕を見つめる。
「ええ。ジェシカ、第一原理から考えましょう。全人類が生きているだけで僕たちに納めるこの『月極魔力税』。これがあまりにも巨額すぎて、天界が管理している神殿のデータベース(口座)が処理落ち(エラー)を起こしかけている。……つまり、神々という存在は、システム的に非常に燃費が悪く、費用対効果が最悪なんです」
「……マルタの監査でも、神様たち、毎日コーラ飲んでエイトの劇を見て泣いてるだけ。生産性、ゼロ。……世界のシステムを維持するのに、神様、もういらない」
マルタがジト目のまま、身も蓋もない正論を淡々と告げた。
「その通り。そこで我がエイトボックスは明日、天界の神々に対し、【世界管理業務のアウトソーシング(外注化)】を提案します。神々には天界の利権(特許)をすべて我が社へ無償譲渡してもらい、代わりに彼らを我が社の『終身名誉顧問(ただの窓際族)』として雇用、コーラと人形劇を永久に支給(無料サブスク)してあげるのです」
ステフとジェシカが、呆気にとられたように声を失った。
世界をハッキングした書類係の元弁理士は、ついに、世界を創った『神』すらも合法的にハシゴを外し、窓際族へと左遷する規約を完成させたのだ。
「あはっ……! 本当に、人間の皮を被った本物の悪魔(魔王)ね、アンタ……!」
「エイト、格好いい。マルタ、神様よりエイトを信仰する」
「ふふ、世界を創った神様までサブスクの会員にしちまうんだ。アタシ、もう一生アンタに首輪を握られてるよ、総支配人」
3人のドS天才美女たちの、熱く、狂おしいほどの依存の視線を浴びながら、僕は丸眼鏡を静かに押し上げた。
「さあ、天界の神々を全員、僕たちのシステムのパトロン(養分)にしてあげましょう」




