表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導特許のハッカー 〜書類係の元弁理士、チートプログラムと王国法で無能ギルドを敵対的買収する〜  作者: 樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

第11話:無償の軍事支援(セキュリティ・パッチ)

 北の軍事大国、ガルバニア帝国。 王国とは比較にならない広大な領土と、鉄煙を吐き出す超弩級の魔導戦車、そして数万の【軍事用ゴーレム兵団】を擁する、世界最強の武力国家。

 その帝国の最前線基地である巨大要塞の謁見室で、僕たち『エイトボックス』の一行は、鋼鉄の鎧に身を包んだ傲慢な帝国将軍、ガザロフと対峙していた。

「――ふん、風の噂に聞けば、隣国で何やら新興の商会がのし上がっているというが……まさか、ただの小綺麗な書類係の小僧が代表とはな。呆れたものだ」

 ガザロフ将軍は、腰に帯びた巨大な斧をガチャリと鳴らし、僕たちを獰猛に睨みつけた。その背後には、全高3メートルを超える鋼鉄のゴーレムたちが、不気味な魔力の眼を赤く光らせて整列している。

「はじめまして、ガザロフ将軍。エイトボックス中央銀行の最高経営責任者(CEO)、エイトです」

 僕は丸眼鏡のブリッジを中指でクイ、と押し上げ、完全に温度の消えたビジネス用のトーンで一礼した。

「本日は、帝国の皆様に素晴らしい『無償支援ギフティング』の提案に参りました。現在、帝国が莫大な軍事予算を投じて維持しているそのゴーレム兵団ですが――チート能力『万物監査(鑑定)』で拝見したところ、魔力の消費効率(燃費)が最悪、かつ複数体の並列戦術連携のラグが2秒以上あります。非常に非論理的で、コスパが悪い」

「ぬ、何だと……!?」

 ガザロフの額に青筋が浮かぶ。

「我が帝国のゴーレムは世界一ィ! 専用の『帝国軍事魔導OS』で制御された、完璧な兵器だぞ!」

「いいえ、バグだらけです。そこで、我が社の開発した世界標準魔導OS『エイトボックス・コア』を、帝国の全ゴーレムへ【完全無料】でインストール(アップデート)して差し上げます。ステフ、マルタ、性能の実証を」

「フン、帝国の野蛮なハードウェアなんて私の美学に反するけど……まぁ、アンタの頼みだしね。ほら、そこの錆びついたデカブツ、ちょっと貸しなさいよ」

 背後に控えていたステフが腕を組んで前に出る。彼女が手元の魔導端末スマホを操作すると、マルタが構築した超広域通信網(魔導リンク)を経由して、目の前のゴーレムに新しいプログラムが光の速さで流し込まれた。

 ズウウン……!

 次の瞬間、それまで鈍重な駆動音を立てていた帝国のゴーレムが、人間の剣豪すら凌駕する滑らかな動作で、背後の鉄壁を一瞬で十文字に斬り裂いた。それも、以前のわずか10分の1の消費魔力で、だ。

「な、何ぃぃぃぃっ!? 動きのキレが違いすぎる……! それに魔力の残量メーターが全く減っていないだと!?」

 ガザロフ将軍が椅子から転げ落ちんばかりに眼を見開く。

「……マルタの回線ネットワークで、周囲のゴーレム同士の脳内端末を同期させた。……これで、一糸乱れぬ数万規模の『多重並列戦術クラウド・コンバット』が可能。……帝国のおじさん、これ、タダだよ? アップデートしない理由、ないよね?」

 銀髪の天才令嬢マルタが、ジト目のままポテチをサクリと齧り、冷酷な小悪魔スマイルを将軍に向けた。

「む、無料……! 諸外国を圧倒するこの最新システムを、我が帝国に『無償』で提供するというのか!? 素晴らしい! エイトボックス、お前たちは真の愛国者だ! すぐに全軍のゴーレムと魔導戦車のシステムを、その『エイトボックス・コア』に書き換えさせよ!」

 ガザロフ将軍は狂喜乱舞し、勝利を確信して高笑いした。

 彼らからすれば、タダで最強の武力を手に入れたつもりなのだろう。

 ――数時間後。

 帝国のすべての軍事インフラへ、我が社のプログラムが完全にインストール(上書き)されたのを確認し、僕は要塞を後にした。

「――やれやれ。これでガルバニア帝国も、綺麗に僕たちの『手のひらの上』ですね」

 夕日に染まる帰路の魔導馬車の中、僕は丸眼鏡を指で押し上げて静かに笑った。

「ねぇエイト。本当によかったの? あんな野蛮な国に、私の超精密制御コードをタダで明け渡しちゃってさ」

 ステフが少し不安そうに、僕の太ももに自分の豊かな胸を押し付けながら覗き込んでくる。

「ええ。ステフ、現代のITビジネスにおける最大の勝利条件は何だと思います? ……それは、技術を高く売ることではなく、自分の作ったルールを『世界標準デファクトスタンダード』にすることです」

 僕は自分の魔導端末の画面ホログラムを開き、帝国の全兵器のコアと繋がった「管理者権限(ルート権限)」のログを見せた。

「彼らは『無料』という甘い蜜に釣られて、自国の軍事インフラの心臓を、僕たちのプログラムに丸ごと差し替えてしまった。……マルタ、仮に帝国が我が国に攻め込んできたらどうなります?」

「……エイトが手元の画面の『利用規約違反・アカウント停止』のボタンをタップするだけ。……帝国の全ゴーレムのシステムが【強制終了フリーズ】して、ただの巨大な文鎮(鉄くず)になる。……ついでに、内蔵されたバッテリーを遠隔で熱暴走(爆発)させて、帝国を自滅させることも可能」

「ひぇぇ……やっぱりアンタ、底が知れない悪魔(天才経営者)だねぇ」

 ジェシカがゾクゾクとした歓喜の溜め息を漏らし、僕の首筋に妖艶に指先を這わせた。

「武力で世界を脅かす帝国を、1枚のコインも使わず、ただの規約ソースコードひとつで無力化ハックしちまうんだから。アタシ、もうアンタ以外の男じゃ満足できない身体にされちゃったよ」

 世界最強の軍事国家を、戦わずして合法的に奴隷ユーザーへと変えた。

 高慢だった3人のドS美女たちが、僕の冷徹な知略の前に、今や完全にとろけた瞳で僕の身体に縋り付いている。

「ただの合理的な最適化ですよ。さあ皆さん、次は帝国の『通貨』をハッキング(デバッグ)しに行きましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ