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返事の来ない夜に、僕は世界を救うことにした。  作者: 黒木明


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第3話 返信塔

返信塔は、近づくほど大きく見えた。


遠くからは、黒いビルのように見えた。

けれど実際は、建物ではなかった。


無数のスマホが、積み重なってできた塔だった。


画面、画面、画面。


割れた画面。

濡れた画面。

古い機種の小さな画面。

最新型の薄い画面。


それらが、レンガのように積み上げられている。


どの画面にも、誰かの言葉が映っていた。


――また今度ね。


――考えておく。


――ごめん、寝てた。


――忙しくて返せなかった。


――既読。


――未読。


――入力中。


――入力中。


――入力中。


その最後の文字だけが、異様に怖かった。


入力中。


返事が来るかもしれない。

今まさに書いているのかもしれない。

もう少し待てば、何かが届くのかもしれない。


そんな期待だけを、永遠に点滅させている文字。


僕は思わず立ち止まった。


「……あれ、ずっと入力中なのか」


「そう」


リノは前を向いたまま答えた。


「でも、送信はされない」


「なんで」


「期待だけを食べてるから」


「期待を?」


「うん。この世界で一番厄介なのは、絶望じゃない。希望が少しだけ残っている状態」


リノの声は、冷たくはなかった。


ただ、何度も同じものを見てきた人の声だった。


「完全に終われば、人は泣ける。諦められる。別の朝に進める。でも、ほんの少しだけ可能性が残ってると、人はそこから動けなくなる」


僕は返信塔を見上げた。


入力中。


入力中。


入力中。


その三文字が、まるで心臓みたいに脈打っている。


僕の胸の奥でも、同じものが点滅していた。


もしかしたら、まだ。


もしかしたら、いつか。


もしかしたら、本当は。


僕は唇を噛んだ。


「ハル」


リノが呼んだ。


「塔だけ見てると、飲まれるよ」


「飲まれる?」


「うん。あそこは、待っている人間の目を引くようにできてる。自分の答えがある気がするから」


「……僕の答えも、あそこにあるのか」


そう聞いた瞬間、自分でしまったと思った。


リノは少しだけ振り返る。


その目は、やっぱり優しいのに、どこか突き放すようだった。


「彼女の返事なら、ないよ」


胸が、はっきりと痛んだ。


「ここにあるのは、あなたが待っている時間だけ」


僕は何も言えなかった。


リノは再び歩き出す。


「行こう。返信塔に入る前に、見せたい場所がある」


「見せたい場所?」


「既読のない街」



返信塔のふもとには、街が広がっていた。


いや、街というより、待合室に近かった。


駅のホーム。

病院のロビー。

役所の窓口。

ファミレスの二人席。

深夜のコンビニ前。

会社の会議室。

公園のベンチ。


どこかで見たことのある場所が、無理やりつなぎ合わされている。


そこには、人がいた。


人、というより、人の形をした影だった。


みんな、スマホを握っている。


ベンチに座る制服姿の少年。

改札の前で立ち尽くす女性。

会議室の椅子に座ったまま動かないスーツの男。

ファミレスのテーブルで、二つの水だけを前に置いた老人。


誰も話さない。


ただ、画面を見ている。


通知を待っている。


僕は足を止めた。


「この人たちは……」


「まだ戻れる人たち」


リノは言った。


「完全に怪物になったわけじゃない。でも、現実に戻れても、心はここに置きっぱなしになってる」


「心だけ、ここに?」


「そう。体は現実で仕事したり、学校に行ったり、ご飯を食べたりしてる。でも、本当の自分はずっとここで通知を待ってる」


背中が冷たくなった。


それは、僕のことだった。


現実では会社に行く。

編集をする。

ご飯を食べる。

寝るふりをする。


でも心はずっと、トーク画面の前に座っていた。


「……僕も、こうなってたのか」


「なりかけてた」


リノは淡々と言った。


「だから呼ばれた」


「誰に」


「この世界に」


僕は街の中を見回した。


どこかで小さな通知音が鳴った。


ピコン。


その瞬間、影たちが一斉に顔を上げる。


全員が、自分のスマホを見る。


でも、誰の画面にも何も表示されない。


また全員が、ゆっくりと顔を下げた。


その動きが、あまりにも自然で、あまりにも悲しかった。


僕は胸の奥を押さえた。


「……きついな」


「うん」


リノは短く頷いた。


「でも、見ておいた方がいい。あなたは自分だけが特別に苦しいと思ってたでしょ」


否定できなかった。


自分だけがこんなに待っている。

自分だけがこんなに考えている。

自分だけがこんなに、返事ひとつで崩れている。


そう思っていた。


でも、この街には、同じように止まっている人たちがいた。


いや、同じではない。


それぞれ違う誰かを待っていた。


親からの言葉。

友達からの返信。

恋人からの答え。

会社からの評価。

亡くなる前に言えなかった謝罪への返事。


待っているものは違う。


でも、止まっている姿は同じだった。



最初に声をかけてきたのは、制服姿の少年だった。


彼は駅のホームの端に座っていた。


古い学生服を着ている。

中学生くらいに見えた。


手にはスマホではなく、小さなメモ帳を持っている。


「兄ちゃんも、待ってるの?」


急に話しかけられて、僕は少し驚いた。


「……たぶん」


「たぶんって何だよ」


少年は笑った。


でも、その笑い方は乾いていた。


リノが小さく言う。


「気をつけて。ここにいる人たちの言葉は、引っ張るから」


「引っ張る?」


「同じ穴を持ってる人間は、共鳴する」


意味はよくわからなかった。


でも、少年の目を見て、なんとなく理解した。


彼は、僕と似た目をしていた。


誰かに答えをもらえないまま、自分の価値を決められずにいる目。


少年はメモ帳を開いた。


そこには、赤いペンで何度も書き直された作文のようなものがあった。


『お父さんへ』


僕はその文字を見た瞬間、胸がざわついた。


少年は言う。


「父さんさ、仕事ばっかりで全然家にいなくて。最後に会った時、俺、言ったんだ。今度の試合、見に来てって」


少年はメモ帳を撫でた。


「父さん、言ったんだ。行けたら行くって」


行けたら行く。


その言葉が、やけに重く聞こえた。


「それから?」


僕が聞くと、少年は笑った。


「来なかった。連絡もなかった」


風のないホームで、少年の前髪だけが少し揺れた。


「でもさ、行けたらって言ったんだ。行けないとは言ってない。だから次は来るかもって思って、次の試合も、その次の試合も、ずっと待ってた」


僕は何も言えなかった。


少年のメモ帳の文字が、少しずつ黒くにじんでいく。


「で、気づいたら、俺、試合より父さんが来るかどうかしか考えなくなってた。勝っても負けても、客席ばっか見てた」


少年は僕を見上げる。


「兄ちゃんも、そうでしょ?」


喉が詰まった。


仕事をしていても、スマホを気にする。

ご飯を食べていても、通知を待つ。

何をしていても、ユイからの返事が来るかどうかばかり見ている。


僕も、客席ばかり見ていた。


自分の試合を見ていなかった。


「……そうかもしれない」


認めると、少年は少しだけ寂しそうに笑った。


「待つのって、最初は希望なんだよな」


その言葉に、僕は顔を上げた。


少年はメモ帳を閉じる。


「でも、長く待ちすぎるとさ、希望なのか呪いなのか、わかんなくなる」


次の瞬間、ホームにアナウンスが流れた。


音は割れていて、何を言っているのか聞き取れない。


けれど少年は立ち上がった。


「電車、来るから」


線路の向こうに、光が見えた。


でも、電車の音はしなかった。


リノが僕の袖を引く。


「離れて」


「え?」


「来るよ」


光が近づく。


それは電車ではなかった。


長い、黒い蛇だった。


車両のようにいくつもの節が連なり、それぞれの節にスマホ画面が埋め込まれている。


画面には、同じ言葉が何度も表示されていた。


行けたら行く。


行けたら行く。


行けたら行く。


少年の顔から、表情が消えた。


「父さん、来るかもしれないから」


彼は線路へ一歩踏み出そうとする。


「待って!」


僕は思わず少年の腕を掴んだ。


その瞬間、頭の中に映像が流れ込んできた。


夕方のグラウンド。

土の匂い。

白線の引かれたコート。

客席を何度も見る少年。

空席。

空席。

空席。


試合終了の笛。


少年が握りしめたメモ帳。


父親に見せたかった、勝利の報告。


でも、その言葉は届かなかった。


僕の手の中に、光が生まれた。


未返信編集。


けれど今回は、僕の言葉じゃない。


少年の返ってこなかった言葉が、刃になろうとしていた。


「リノ、これ……!」


「他人の未返信に触れたんだよ」


リノが叫ぶ。


「でも気をつけて! 深く入りすぎると、あなたも飲まれる!」


黒い蛇がホームに迫る。


画面の文字が赤く染まる。


行けたら行く。


その曖昧な言葉が、牙のように並んでいた。


少年は呟く。


「来るって、言ったんだ」


「違う」


僕は言った。


少年が僕を見る。


「違わない。行けたら行くって言った。だから、来るかもしれない」


「そうかもしれない」


僕は少年の腕を掴んだまま、声を絞り出した。


「でも、その間に君の試合は終わっていく」


少年の目が揺れた。


それは、自分に言っている言葉でもあった。


返事が来るかもしれない。


そう思っている間に、今日が終わる。

仕事が終わる。

ご飯の味が消える。

眠れない夜が増える。


人生の試合が、僕の見ていないところで終わっていく。


黒い蛇が口を開いた。


リノが前に出ようとする。


でも、僕の右手の光が強くなった。


少年のメモ帳から浮かび上がった言葉が、一本の細い刃になる。


――見に来てほしかった。


それは、まっすぐな言葉だった。


責めるための言葉じゃない。

いい子でいるための言葉でもない。


ただ、少年の中にあった本当の願い。


僕は刃を握った。


「カット」


言葉が自然に出た。


刃が、黒い蛇の最初の画面を切り裂く。


『行けたら行く』という文字が割れる。


でも蛇は止まらない。


次の画面。

その次の画面。

また次の画面。


同じ曖昧な言葉が、何度でも現れる。


僕は歯を食いしばった。


「何回、あるんだよ……!」


「曖昧な言葉は、繰り返すほど強くなる!」


リノが叫んだ。


「期待した回数だけ、節が増える!」


期待した回数だけ。


その言葉が刺さる。


僕の中にも、同じ蛇がいる気がした。


返事が来るかもしれない。

明日は来るかもしれない。

落ち着いたら来るかもしれない。

本当は考えてくれているかもしれない。


かもしれない、かもしれない、かもしれない。


それは希望の顔をした、長い蛇だった。


僕は刃を握り直した。


「リノ!」


「何!」


「これ、全部切らないと駄目なのか?」


「普通はね!」


「普通じゃない方法は?」


リノが一瞬だけこちらを見る。


そして、口元を少しだけ上げた。


「あるよ。根っこを切る」


「根っこ?」


「その人が、本当は何を待ってたのか」


少年が震えている。


黒い蛇は、もう目の前だった。


僕は少年に向き直る。


「君は、父さんに試合を見てほしかったんじゃない」


「何言って……」


「いや、見てほしかったのは本当だ。でも、それだけじゃない」


僕自身の胸も痛んでいた。


これは少年だけの話じゃない。


「君は、ちゃんと自分を見てほしかったんだ」


少年の目から、涙が落ちた。


その瞬間、刃が形を変えた。


細い光のカッターではなく、白いフィルムのような帯になる。


そこには、試合中の少年の姿が映っていた。


走っている。

転んでいる。

立ち上がっている。

声を出している。

最後までボールを追っている。


客席ばかり見ていたはずなのに、そこにはちゃんと、少年自身の姿があった。


「これが……」


僕は呟く。


「君の試合だ」


少年は、フィルムの中の自分を見つめた。


黒い蛇が迫る。


でも少年は、もう線路の方を見ていなかった。


「僕、ちゃんとやってたんだ」


「うん」


僕は頷いた。


「見に来てもらえなくても、君の試合はなかったことにならない」


少年は泣きながら笑った。


「そっか」


黒い蛇の動きが止まる。


画面に映っていた『行けたら行く』の文字が、少しずつ薄れていく。


代わりに、少年のメモ帳に新しい文字が浮かび上がった。


――見てほしかった。でも、僕はちゃんと走った。


その瞬間、黒い蛇は音もなく崩れた。


無数のスマホ画面が、白い花びらのようになって空へ昇っていく。


ホームに、初めて風が吹いた。


少年の身体も、少しずつ透けていく。


「消えるのか?」


僕が言うと、リノが首を振った。


「戻るんだよ。現実に」


少年は僕を見た。


「兄ちゃん」


「何?」


「兄ちゃんも、自分の試合見た方がいいよ」


言葉が、胸の奥に沈んだ。


少年は笑った。


「客席ばっか見てたら、もったいないから」


そう言って、彼は朝焼けみたいな光の中へ消えていった。


ホームには、誰もいなくなった。


ただ、古いメモ帳だけが一冊落ちている。


僕が拾おうとすると、それも光になって消えた。



しばらく、誰も話さなかった。


通知音も、ほんの少しだけ遠くなっていた。


僕は自分の右手を見つめる。


さっきまであった光の刃は消えている。


でも、その感触だけが残っていた。


誰かの未返信に触れる。

その根っこを見る。

余計な言葉を切って、本当の願いを残す。


それが、未返信編集。


僕の仕事と似ているようで、まったく違った。


映像編集なら、間違えても戻せる。


でも、人の心はそう簡単に戻せない。


「今の、僕がやったのか」


「そうだね」


リノは言った。


「初めてにしては、かなり無茶したけど」


「無茶?」


「他人の未返信に深く入りすぎると、自分の未返信と混ざる。さっきの少年の言葉、途中からあなたにも刺さってたでしょ」


僕は黙った。


確かに、その通りだった。


少年の父親を待つ気持ちと、僕がユイを待つ気持ちが、途中から重なっていた。


誰かに見てほしい。

誰かに選んでほしい。

誰かの一言で、自分を認めたい。


待っていた相手は違うのに、穴の形は似ていた。


リノは歩き出す。


「返信塔に近づくほど、こういうのが増える。人の未返信と自分の未返信の境目が曖昧になる」


「それで、怪物になるのか」


「うん。自分の痛みだけならまだ耐えられる。でも、人の痛みまで全部抱えようとすると、壊れる」


その言葉に、僕はリノの横顔を見た。


「リノは?」


「何?」


「リノは、壊れなかったのか」


リノは足を止めなかった。


でも、少しだけ沈黙した。


その沈黙が、答えみたいだった。


「……壊れたから、ここにいるんだよ」


小さな声だった。


僕はそれ以上、聞けなかった。


既読のない街を抜ける。


遠くで、返信塔が鳴動していた。


塔の表面に貼り付いた無数の画面が、一斉に点灯する。


そこに、僕の名前が表示された。


夜瀬ハル。


続いて、白乃ユイの名前。


息が止まった。


画面に、トークルームが開く。


でも、メッセージの内容は黒く塗りつぶされていて読めない。


リノが厳しい声で言った。


「見るな」


「でも、あれ……」


「見たら、今すぐ走り出すよ。塔の中へ」


「中に、ユイの返事があるかもしれない」


言った瞬間、自分でもわかった。


まだ、僕は待っている。


少年を助けたのに。

自分の試合を見ろと言われたのに。


それでも、ユイの名前を見ただけで、身体が勝手に動きそうになる。


リノは僕の前に立った。


「ハル」


その声は、さっきまでより少し強かった。


「この世界は、あなたが一番見たいものの形をして近づいてくる」


「……」


「彼女の返事。彼女の本音。彼女があなたをどう思ってるか。そういうものを見せるふりをして、あなたを塔の奥へ引っ張る」


返信塔の画面で、ユイの名前が点滅する。


白乃ユイ。


白乃ユイ。


白乃ユイ。


僕の足が、一歩前へ出た。


リノが僕の胸を押した。


「行くなら止めない。でも、その先であなたが見るのは、彼女の本心じゃない」


「じゃあ何なんだよ」


「あなたが見たい答え」


胸に冷たいものが落ちた。


あなたが見たい答え。


それは、いちばん危険なものかもしれなかった。


僕が見たい答えなら、たぶん優しい。


待たせてごめん。

本当は嬉しかった。

ちゃんと考えてる。

落ち着いたら会いたい。


そんな言葉を見せられたら、僕はきっと動けなくなる。


たとえそれが偽物でも、すがってしまう。


「……ずるいな」


僕は呟いた。


「うん。ここはずるいよ」


リノは言った。


「人間が一番弱いところに、一番欲しい言葉を置く」


返信塔の画面が揺れる。


ユイの名前の下に、短い文章が表示されかけた。


僕は反射的に目を向けそうになった。


その瞬間、少年の言葉がよみがえった。


――兄ちゃんも、自分の試合見た方がいいよ。


僕は歯を食いしばり、目を伏せた。


「……見ない」


声は震えていた。


でも、言えた。


リノが、ほんの少しだけ笑った気配がした。


「上出来」


返信塔の画面が、悔しそうに明滅する。


そして、ユイの名前が消えた。


代わりに、別の文字が浮かぶ。


保留。


それは、塔全体に広がっていった。


保留。


保留。


保留。


地面が揺れる。


既読のない街の奥、暗い路地の中から、何かが這い出してくる音がした。


ずるり。


ずるり。


湿った、長いものがアスファルトを擦る音。


リノの表情が変わった。


「まずい」


「何が」


「塔があなたを逃がさない気だ」


暗い路地から、それは姿を現した。


蛇だった。


さっきの少年を飲み込もうとした黒い蛇より、もっと大きい。

もっと長い。

もっと重い。


身体の表面には、無数の保留メッセージが浮かんでいる。


少し考えさせて。


今は余裕がない。


落ち着いたら。


また連絡する。


そのうち。


いつか。


蛇の顔には目がなかった。


代わりに、口の中にだけ小さなスマホ画面が光っている。


画面には、たった一文。


――答えがない方が、希望を捨てずに済むだろう?


リノが刃を構える。


「保留蛇」


その名前を聞いた瞬間、僕の胸の奥が強く脈打った。


こいつは、知っている。


姿は初めて見る。


でも、僕はずっと、こいつの中にいた。


答えがない方が、希望を捨てずに済む。


その通りだった。


返事が来ないことに苦しみながら、どこかで安心していた。


まだ終わっていない。

まだ可能性はある。

まだ嫌われたわけじゃない。

まだ、まだ、まだ。


その“まだ”に、僕は三十日間しがみついていた。


保留蛇が、ゆっくりと鎌首をもたげる。


口の中の画面が光った。


――君は本当に、答えが欲しいのか?


僕は、すぐに答えられなかった。

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