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     ■準備2(6)

後半は依琉の心の呟きです。



私の恐怖なんて知りもしないでのんきにまだドレスを見回っていた魔王。



「・・・ぁ、これ依琉に似合うかも・・・」



それは無意識にでた小さな呟き。

依琉でさえ聞こえなかったので普通だったらそれで終わりなのだが、王が恋人に関わることを聞き逃すはずもなく。



「ふざけるなっ!」



さっきまでの魔王に対する怒りをここぞとばかりにでぶつけ始めた。

依琉としては何に対して怒り始めたのかいまいちよく分からないのだが、魔王が一瞬びくっ怯えたのをみてかなり哀れに思った。よっぽど吏一くんが恐ろしいみたいだ。

でもね魔王。吏一くんは本当はいい人なんだよ?

確かに目はつりあがってて怖いし声にも威圧感があって、ちょっと鈍くて融通がきかない人だけど、私には優しいもん!・・・たまにだけど。愛の鞭ってやつだよね、うん。



「依琉のは俺が選ぶ。お前の役目じゃない」

「ごご、ごごごめん・・・なさい・・・!」

「吏一くん・・・!」

「・・・これだ」



吏一くんが選んだのは淡い黄色の可愛らしいタイプのドレスひらひらしたシフォンが妖精みたいですっごく可愛い。

・・・こんな可愛いのがあったなんて知らなかった。吏一くん、知らない間に追加してたな。

でも可愛いからいっか!


さっそく着てみようと別室に向かう扉へ歩いている途中で、珍しくも二人の会話が聞こえてくる。

そういえば魔王だったらどれを選ぶんだろう。ここで採寸はしてもらえないけど、私と同い年で同じ体格なので測らなくてもよさそうだし。気軽に選んで・・・・・・。


「えっと、私は」

「お前は自分で用意しろ。なんで依琉のを渡さなくちゃならないんだ」

「はい・・・・・・」


さすが冷たくない、吏一くん?

せめてもう少し優しくしてあげてもいいのに・・・。



「百万歩譲って新しくドレスを新調したとしよう。少しでも汚したら利子付き慰謝料付きの十倍払いで弁償しろ」



何この雲泥の差。

本当に依琉の幼馴染なんでしょうか?



・・・そんな魔王の心の声が聞こえてきたような気がした。












魔王には、「『魔王』なんて呼ぶ機会はもうないだろうから、そう呼ぶね?」とは言ったけど、それは半分ほんとで半分うそ。確かに呼ぶことなんて一生のうちにこの時だけだろうから、御伽噺が大好きな私としては嬉しいことこの上ない。

本当は様付けで「魔王様!」って呼びたかったのに、すごい慌てた勢いで止められちゃった。・・・・・・・・・なんで?

まぁ、というわけで冗談めいて「あ、魔王!」って気軽に呼んでいるけど何も気にせずに呼んでいるわけじゃない。


・・・本心としては名前で呼びたいよ?

向こうは「依琉」ってかなり親しく呼んでくれてるんだから、私も「未緒」って呼んでしまえたらいいのに。




だって、私にとっては生まれて初めての「お友達」だから。



地球の頃にも私には友達は一人もいなかった。あの頃、私には大切な人は吏一くんしかいなかったから。

だから、友達がいることにすごく憧れていたし、魔王という友達ができてすごく嬉しかった。


一緒にお茶を飲んだりお喋りしたりして遊びたい。

一緒にお買い物したりお泊りしてみたい。


給仕さんの中には気軽にお喋りしてくれる人は一応何人かいるんだけど、王の婚約者って肩書きのせいでみんな『依琉様』としか呼ばないし、お近づきになれるかと思ったら下心丸出し令嬢やらが来たりするだけで『ステキなお友達』はさっぱりいない。

だから私にとっての魔王は「初めてのお友達」。ちょっと恥ずかしいから照れ隠しに「魔王」って言ってるけど、・・・いつか、いつか絶対に「未緒」と呼ぶためにこっそり練習中。こんな練習、人に見られたら恥ずかしいし・・・吏一くんが知ったら大変なことになる、魔王が。

でも絶対に女の子同士でキャッキャッウフフな時間を過ごして見せるんだから!


友と遊ぶこと。それが私の小さいころからの夢!!






・・・・・・・・・な・の・に!!この前魔王の好きな相手を知って、その夢は再修復できないほど粉々に砕け散った。

というか私が望んで自らの手でハンマーを使って砕かせた。だって壊しといたほうがいい気がするし。


というか好きな人がいたなら初めッから教えてよ!なんで上げておいて落とすの!

あぁ・・・・・・せっかくの夢のような憧れのガールズトークがぁ・・・。

あの子の恋のためだったら、このくらい何でもないんだけどね・・・。気にしてない!気にしてなもんね!!



・・・まぁ、そんな私の悲しみは今は置いとくとして、ぐすん。

好きな相手を知って私が夢をあきらめたのには理由がある。

結論だけ言うとすれば、魔王の名前呼ぶのは勇者一人だけでいいから。ただそれだけ。




私と吏一くんは婚約者、つまり恋人同士。

私たちの場合は幼馴染だったから、こういう関係になるのにはそう難しくはなかった。

というか昔から私が一方的に吏一くんにへばりついていただけのような気もするけど。

それに比べて魔王と勇者の間にあるのは難関の山、山、山!

二人には問題が山積みで、くっつく確率が低すぎるじゃない!


勇者と魔王。世間的には、ヒーローと悪者。しかも悪者がヒーローに片思いときたもんだ。

勇者のほうは魔王のことをどう思っているのかしら?名前で呼ぶくらいなんだから好意的?いやでも魔王の話では彼女持ちらしいし・・・。


それにしてもまさか本当に名前で呼んでくれる日が来るとはね。しかもこんなにも早く。「話しかけろ!」とは言ったけど、心持ち当たって砕け散るとばかり思っていたのに。

客観的に聞くかぎりだと憎からず思っているような気がしないでもないんだけど・・・。

二人で話すことは禁止されたからパーティーの日に遠くから見てみようかな。めんどくさがりらしいから魔王と1対1に仕向けてもいきなり切りかかったりはしないだろう。


魔王が告白したとして、勇者はその想いに答えてくれるのかな。

世間体や魔の者、将来性や珠と二人には様々な問題はあるけれど、もっとも重要なのはここだと思うのよね。イエスかノーか。それでこれからの「ファグアラネル」の未来が決まるといえる。




あの魔王は世界の脅威でもない。ちょっと運がないだけのただの恋する女の子なのに。

誰も気付かない。人狼はわかんないけど、人も魔の者も、みんな彼女一人だけに全てを強いる。

・・・・・・だからこそ私は、勇者だけは彼女に振り向いてほしいと思っている。


友達といっても私の立場は次期王妃。民の前に出たときは絶対に魔王を否定し拒絶しなきゃいけない。

私は吏一くんが大好きで、吏一くんは私にとっての『お家』だから。

私は家のそばを離れるつもりはないもの。

だからこそ勇者にはすべてを捨てて魔王を守る決意ができるくらいに骨抜きにさせないとね!!



さて、そうなると邪魔なのはその勇者の恋人とやら。

聞くと金髪美人らしいけど、実際に見てないとよくわからない。

それも含めて観察してみようっと。





希望の少ない彼女の恋。


好きな人にだけ名前を呼ばれる嬉しさは私が1番良く知っている。



勇者に名前を呼ばれて喜ぶ少女。


この子がただ純粋に幸せになるだけの毎日がつづけばいいのに・・・。




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