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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
波紋

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90話 良い影響

花火が終わる。


人波がゆっくりほどけていく。


遥と高槻悠真は、神社の石段を降りていた。


途中まで並んで歩いて。


どちらからともなく別れる。


「じゃあな」


「おう」


短い。


それだけ。


でも。


どこか前より重い。


良い意味で。


遥は去っていく。


高槻はその背中を少しだけ見ていた。


三段になった背中。


前より遠く見える。


なのに。


追える気もする。


「……くそ」


小さく笑う。


悔しい時の顔じゃない。


面白くなってきた時の顔。



夜更け。


帰り道。


高槻は一人で歩いている。


屋台の灯りも消えかけている。


風だけが残る。


さっきの言葉が頭に残っている。


まだや。


遥はそう言った。


三段に上がって。


四段とも互角にやって。


それでも。


まだと言った。


高槻は少し立ち止まる。


「……ああいうとこやな」


自分にはない。


上がったら満足しかける。


勝ったら安心する。


でもあいつは違う。


まだ先を見る。


だから伸びる。


そう思う。


少し悔しい。


少し嬉しい。


混ざる。


「負けたくないな」


ぽつり。


誰もいない道で漏れる。


自分でも少し驚く。


負けたくない。


その感情が。


前よりずっと鮮明だった。



翌朝。


道場。


誰もいない時間。


高槻がいる。


珍しい。


いつもより早い。


盤を出す。


並べる。


遥との昔の対局。


負けたやつ。


パチ。


パチ。


再現する。


途中で止まる。


「……違うな」


崩す。


別の手。


試す。


また崩す。


また試す。


時間が過ぎる。


でもやめない。


努力している顔じゃない。


夢中の顔。


そして。


ふと笑う。


「感染るんか、こういうの」


遥の悪影響。


いや。


良い影響。



数日後。


研究会。


高槻の将棋が少し変わっている。


受け一辺倒じゃない。


少し仕掛ける。


相手が戸惑う。


「……珍しいな」


言われる。


高槻は肩をすくめる。


「たまにはな」


でも本当は違う。


変わったのだ。


静かに。


遥に触発されて。



その夜。


一人でノートを開く。


研究メモ。


端に名前を書く。


水瀬遥


少し考えて。


その横に書き足す。


まだ負けへん。


高槻はその字を見て笑う。


子どもみたいだ。


でも。


悪くない。

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