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点火

さて、言うまでもないことだが周囲に迷惑をかける行動というものは大抵の場合、法律で禁止されている。

つまりは犯罪行為だ。

最近では、家の前で花火をするのも禁止だと聞いている。

まったくもって、世知辛い世の中になったものだ。

まあ、花火で楽しむのも禁止というこの時代において、こともあろうか本物の爆発事件を起こそうとしている俺の言えたことではないのだが。

ポケットの中でライターを弄びながら、俺は歩き続ける。

視線の先には、男物のスニーカーとハイヒール。

先ほどのカップルの履いていたものだ。

……いや、別に靴に興奮するなんていうフェティシズムを持っているわけではなく。

つまり、俺は尾行中なのだ。

尾行というものは、対象に気づかれてしまっては意味がない。

当然のことだ。

いくら後ろから歩いているとは言え、ジロジロ見ていてはふとした拍子に気づかれてしまうかもしれない。

だからこそ、尾行というものは対象の足元を見て行うことが大切である。

という文章をどこかで読んだ記憶がある。

おそらくは何年も前に読んだものだろうから記憶も曖昧なものだが、まあいい。

気づかれていないのであれば万々歳だ。

周囲のカップルどもに苛立ちを感じながらも、歩みを進める。

数十分歩いて到着したのは駅。

イルミネーションの光が目の前をチラチラと横切って鬱陶しい。

言うまでもないことだが、俺はイルミネーションも以下略。

ポケットの中からライターを取り出し、周りに見えないように隠し持つ。

先程から追いかけていた若い男女は、一際大きいイルミネーションの真下で立ち止まった。

俺はさりげなくイルミネーションの近くに近寄る。

視線を靴から徐々に上にあげていく。

視線が胸元くらいまで上がった時に、急に男女が抱きついた。

思わず舌打ちが漏れる。

視線を逸らすと、イルミネーションの周りにはカップルしかいないようで、一人の俺は微妙に目立っているようだ。

とっとと終わらせるべきだと判断し、ライターの火をつける。

更に、その火を左手に近づける――爆発物。

その火が導火線につきそうになったところで、視界に男の顔が映る。

それは子供が泣き出しそうな顔によく似ていた。

思わず手が止まる。

理由がわからない。

先程まで周りが見えないほどに浮かれていたはずなのになぜあんな顔をしている?

男が口を開く。

耳をすませても、周りの喧騒で言葉は全く聞こえない。

自分でも気づかないうちに、男女のすぐ近くまで接近していた。


「――これでお別れだね」


足を滑らせた女の声。

しっかりと声が聞こえることを確認し、男女に背を向ける形で立ち止まる。


「そう、だな」


「あはは、そんな顔しないでよ。向こうに就職が決まったんでしょ?いいことじゃない。こんな片田舎よりもよっぽどいい仕事ができるわよ」


それはどうだろうな、と心中で呟く。

向こう、というのがどこを指し示しているのかは分からないが、どこに行ったところで嫌な仕事は存在している。

むしろ、人が集まる分、都市地域は悪意が集中しやすい。

いわゆるブラック企業というものに引っかかりやすいのも都市が多いらしい。

俺も都会に行ったことがあるがあそこは嫌いだ。

俺は不便なことは嫌いだが、それよりも人ごみというのが嫌いだ。

名前もしれない赤の他人が歩き回っている場所ほど怖いものもないだろう。


そんな事を考えているうちに男の目から涙がこぼれた。

女々しいやつだ。

こんな奴に彼女がいるというのだから、いわゆる非リアという奴らの言うこともわからないでもない。

決して好きにはなれないだろうが。

とは言え、女の方に慰められている男を見て少しばかり苛立ちを感じ始めた。

もう一度ライターを点火し、左手の導火線に近づけ――







――ためらいなく火をつけた。



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