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メリークリスマス

ネズミ。

俺はそれを見たことはないが案外と日本人には慣れ親しんだ動物に思える。

犬や猫ほどの知名度はなくとも、それに準ずるくらいには有名な動物。

犬耳や、猫耳のようにネズミ耳と言うのは聞いたことはないが、しかしネズミは耳をかじるイメージがある。

それはきっと俺が昔読んだ猫だがタヌキだかの漫画のせいだろうが、さておき。

しかし、ネズミというものにも犬耳や猫耳のように別の単語と組み合わさった単語があるだろう。


火をつけたそれを若い男女の足元に投げつける。

ネズミ花火。

なんのことはない。

俺のような怒るのさえも厭う人間にとっては、説教さえも面倒だったということだ。

当然のごとく爆弾なんてものを持ち歩くこともせず、持っていたのはしょぼい花火だけ。

足元で音を立てる花火に驚いて、タップダンスでも踊っているかのような男女に、少しだけ口元を歪める。

足元に雪が積もっていることもあって、ネズミ花火は派手に雪を散らしてゆく。

あのホームレスの分くらいは十分にかかっただろう。

しかし、やはりこんな日に降る雪は嫌いだ。

慌てる男女に背を向け、駅前の少し開けたスペースに細長い筒を置く。

ちらりと後ろを見やればネズミ花火も止まっていた。

近くに人がいないことを確認し、火をつける。

と、同時に物陰に隠れながら走り出す。

その場から十数歩離れたか、といったところで音が響く。

降りしきる雪を裂いて、咲いた花火。

ビリビリとこだまする音を聞きながら、俺はアホみたいに上を見上げる人ごみの中に紛れる。

若い男女も口を開けたまま花火を見ていた。



俺には嫌いなものが数百とある。

例えばこんな日に降る雪とか、むやみやたらと光るイルミネーションとかだ。

駅前でイチャつくカップルなど吐き気がする。

だから、俺は憂さ晴らしをする。

どうしようもなくちゃちなネズミ花火と、すこし湿気った打ち上げ花火。

それだけで十分だ。

俺は駅前で泣いている男なんざ見たくないし、それを慰めている女も同様だ。

こんな日くらい、笑顔でいたい。

口から勝手に言葉が漏れた。



「――メリークリスマス」















――End

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