俺の嫌いなもの
俺には嫌いなものが数百とある。
例えば今日みたいな日に降る雪とか、むやみやたらと光るイルミネーションとかだ。
忌々しくて、思わず舌打ちをしてしまう。
俺は舌打ちをするやつも嫌いだ。
何か嫌なことがあればそれをしておけばいいと思っている。
全く馬鹿げたことだ。
そんな行為をしてしまった自分にもむかっ腹が立つ。
そのくせ、俺は怒ることも嫌いなのだから悪循環も甚だしい。
もう一度しそうになった舌打ちを抑え、ついでにため息も飲み込む。
道端でホームレスのおっさんがぼんやりと空を見上げていた。
雪が降るほどだ。
今日の夜はかなり冷え込むだろう。
見たところ暖房は愚か、外套ももってなさそうなこいつは朝が来る頃には冷たい銅像にでもなってしまっているかもしれない。
「……ふん」
知ったことじゃない。
見ず知らずの他人に何かをくれてやるほど俺は暇じゃない。
見なかったふりをして、視線を前に向ける。
若い男女が突然降り始めた雪に歓声を上げている。
言うまでもないことだが、俺は若い男女も嫌いだ。
道端で騒いでいるカップルなんてもってのほかだ。
まったくもって忌々しいと思いながら、何気なくホームレスのおっさんの方に視線を向ける。
俺はむやみやたらと他人に何かを求める奴が嫌いだが、ホームレスは嫌いじゃないし、おっさんだって嫌いではない。
少なくともやかましく騒いでいるカップルを見ているよりかは、よっぽどましだ。
俺の視線に気付いたのか空を見ていたおっさんがこちらをちらりと見る。
バサリ、と音がした。
おっさんの服とも言えないようなボロ切れの上に雪がかかっていた。
視界を前に向けると、歩いているカップルの足元の雪が少しばかり少なくなっていた。
女の方はこの雪の中ハイヒールを履いていたらしい。
当然の如く雪に足を取られ、転びかけた。
男のほうが大丈夫か、なんて女に声をかけているが女のほうが滑った勢いでどこかへ飛んでいった雪の影響なんてまったく気にしてはいない。
女に怪我がないとわかると、男女は楽しげに話をしながら俺の横を通り過ぎていった。
「おい、おっさん」
服の上から適当に雪を払うホームレスに俺は何故か声をかけた。
「ん、なんだい?」
見た目よりも若い声でおっさんは答えた。
もしかしたら見た目よりも若いのかもしれない。
ヒゲもボサボサだし髪の毛もすき放題に生えている。
「寒くないのか?」
「寒いに決まっているさ。こんな日なのに財布の中もすっからかんだ」
まったくもって厳しい寒さだよ、とおっさんは苦笑した。
「こんな日、か」
俺は、祝日だなんだと浮かれる人間が嫌いだ。
祝日だからといって自分たちの何が変わるわけでもないのに、ただ騒ぐ奴らなど見たくもない。
「おっと」
ポケットからモノがこぼれ落ちる。
一つはライター。
もう一つは……。
「これは……」
「……雪の上に落ちたんだ、使えないかもしれない。俺にはもういらない物だ」
俺は、芸術家気取りで犯罪を犯す奴らが嫌いだ。
爆発が芸術だというのならば、自分の家でも爆破していればいい。
このおっさんの気持ちの半分でも思い知ればいい。
キザな犯罪予告を送りつけるやつなんかも同じだ。
俺から言わせてもらえば、犯罪を遊び半分で行う奴らはどこか大切なネジが飛んでいる。
最後に、俺は口だけのやつらが嫌いだ。
リア充爆発しろなどというのならば、自分たちの手でやればいいのだ。
だから、俺はいつもライターをいくつか持ち歩いている。
何のためか?決まっている。
――他人に迷惑をかけることを厭わないクソッタレなリア充どもを爆発させるためだ。




