虎たちは故郷を目指さない
何か忘れてそうですが一応今日は終わります。まだ魔王がでてきてませんが、どうなることやら。
こめ兵さんは帰っていった。英斗君とソリス姫はようやく着いた。歌音さんはやや不満そう。そうよね、血の気の多い人たちだから私たちが方をつけてしまった事が残念なのでしょう。だから私としては、なるべく波風を立てないように立ち回りたい。恐らくはソリスさんがこの地に来たことが発端だったのでしょうから。こめ国さんもメンツというモノがあるでしょうし。どんなに薄っぺらなメンツだとしても。だから私としては、この中では異分子である虎ちゃんたちに言って聞かせる事が重要だ。アリアちゃんの言を借りれば、この春に舞沢高校に襲来した虎ちゃんたちは、北の大国の熊人兵の圧力に負けて、より強い力を持つ謙信神社の助力を得ようとしてこの地に来たとか。まあ、黒の関係者と言えない訳でもないから、私目当てと言えないことも無いのかな。こら、黒、暴れ足りないでしょうけど、いい加減出てきなさい。
もやもやっとしたカスミが周りに立って、その中心にバツの悪そうな黒が姿を現す。何を言うかと思ったら、
「都、すまなかったニャン。都を危険な目にあわせるつもりは無かったニャン。
反省するからごはん抜きは止めてほしいニャン。」
う~ん、殊勝に、と言うよりそっちの方か。まあ、ケガも無かったし、いいと言えばいいんだけれど、でも黒、あなた焚きつけたでしょう?虎の方たちは
一応部外者なのよ。私は周りに虎さんたちを呼びよせた。呼び寄せるまでもなくそばに控えて、私の事を守っているつもりのようだけど。正直言えば、黒だけでも、もちろん私だけでもあれしきの兵力に後れを取ることは無い。物理的に。この舞沢の地においては電子戦等においても、こめ程度に後れを取ることはありえない。まあ、そんな事を言っても聞かないでしょうけど。見た目だけは派手だからなあ、現代兵器。もっとも虎さんたちだって、現代兵器ぐらいなら問題ないのでしょうけれど。半ば精神体だし。私も問題ないからなあ、でもこれは黒が憑依してくれていた影響もあるでしょうけれど。
「黒、判ったわ。意地悪言ってごめんね。それから、虎ちゃんたち。」
虎人達は私や黒の話は畏まって聞く。アリアちゃん曰く、
「黒が猫族の代表で、都さんがお姫様だからよ。」
と言っていたけれど、今一つピンと来ない。私も生まれにはいろいろ曰くはあるけれど、普通の女の子のつもりだ。だから私は、畏まる虎人さん達に、
「今日はご苦労様。でもあなたたちにこんな事をさせるなんて、守られている者、失格ね。だから、いつまでもこんな所にいないで国に帰っていいのよ。」
そういうとざわつき始める虎人たち。中には泣き出す者すらいる。そんな中、
特段に大きな体をした虎人、タイガくんと言ったかな、が進み出て、
「どうぞそのような事は言わないでください。我々はあなた様にお仕えする事こそが望みでございます。言葉もできる限り覚えました。何卒、我らを捨てるなどとはおっしゃらないでください。」
真剣な眼差し。遠く大陸から隣国の熊人に追われ、祖国は守ってはくれず、選択肢をなくして舞沢市に来て、メイ君やアリアちゃんに無謀にも挑んだ虎人達。今あの二人がこの地を離れている遠因になった出来事を思い出していた。そうまで言われては、これ以上突き離せないわ。ねえ、黒。あなたはどう思ってるの?でも黒は飽きたのか、それともご飯を確保できて安心したのか、興味無さそうに欠伸をしている。・・・いいわ、また明日からこれまでと同じ生活が待っているんでしょうから。
「じゃあ、解散。みんな気を付けて帰るんですよ。タイガ君たちはお仕事があるんでしょ?気を付けて行ってらっしゃい。」
私の後ろに控えていた虎人たちはホッとしたように息をつき、銘々に帰り支度を始めた。良かった、こめ兵に対する敵対心もうやむやになったみたいね。あんまりそういう感情は持たない方がいいんだから。
都さんの話をつらづら聞きながら私はここ近年の時代の流れの速さにため息をついていた。私は《わたし》の複製体だ。そのことだけは忘れない。最初の、というか思い出せる古い記憶は約5万年前、ユーラシアと後に呼ばれる大陸を彷徨っていたこと。周りには《わたし》の因子を分け与えた哺乳類が、その恩に報いるためにより集まっていたこと。人間と呼ばれる生物が今と変わらぬ醜い争いを繰り広げていたこと。それ以前は・・・どこかで眠っていたはずだけれど、それがどこなのか、どうして眠っていたのかなんかは霧に包まれたように曖昧になっている。ただ、現代の人間たちを基準にすれば、遥かに高度な科学技術と、知見、そして能力。そんなものを身につけていることは承知している。そんなことが何故わかるかといえば、《わたし》が目覚めてからこの地球に飛来したソリス達火星の民の存在があったからだろう。今から8,000年くらい前、火星で最終戦争が起こったらしい。それなりのレベルに達していた火星人たちも、醜い人?の業には逆らえなかったらしい。一つの大陸を浮遊させた移民船に乗り、ソリスと仲間たちはここ第三惑星に逃げてきた。ただ、鄭重に守られていたソリスを除いては、全員が何らかのダメージを負っていて、ほとんどの者が今で言うシベリアの地に軟着陸した亜大陸の地下で眠っている。墓標と言っていいくらいのダメージだったけど何らかの遺伝情報位は残せるだろう、と言う配慮の元だ。詳しくは解析してないけれど。ソリスはシベリアの地で、古い記憶を守って生活していた。そもそもが吸血種と言う・・・あれ、何だったっけな?何か思いだしそうな。アリアに代替わりしてから特にこうだ。思い出せそうで思い出せない。私は一人だったかしら?ん~考えても深い森に迷い込んでいくよう。とりあえず今は今回の件の事後処理ね。そういえば、5000年位前の人間の遺伝子操作技術もかなり良くない発展をしてたわね。特にナイル川流域に勃興したのと、長江中腹に出来たの。お互いにどうしようもない遺伝子を持った生物を作りあって、相手側に押し付けたり、戦争したり。第三惑星も良く永らえたものね。あの時は、て、あれ、何か思いだせそうな・・・やっぱり駄目ね。疲れてるのかしら?もうすぐアリア達も戻ってくるだろうし、明君たちだって。
そんな風な思考を続けていると、英斗君やソラ姫が語りかけてきた。
「歌音さん、ごめんなさい、遅くなって。」
「すまぬな、歌音。途中で腐れ狐に遭遇してな、時間を取られたのだよ。」
ああ、そうか。二人は仲良くなったのね。萬蔵稲荷の玉藻様かぁ。そういえば、あの子もちょっと謎なのよね。通常の進化の系統からあんなのポッとでてくるわけないし、《わたし》の因子も薄いようだし。そんな事よりも今は、ここ舞沢の治安面よね。まず横須賀に抗議かな。本国の方も脅かしてはおいたけど、あれは裏切るからなあ。北のプチンの動向も気にしなきゃダメかな?あれの飼い主だし。あれといえば、もう一匹もなんとかしないと。下手に知恵をつけた猿が一番面倒ね。
「あのう、歌音さん。」
おっといけない。考え事に気を取られて、英斗君の話をちゃんと聞いてなかったわ。
「どうしたの、英斗君。」
英斗君の方に向き直ると、そこには私の担任でもあった宮さんが、変に畏まっていた。私と明さんが舞沢に流れてきた頃からの古い知り合い。と言うか、私たちの担任の先生。最初に紹介されたのは確か聖歌さん。新任だけど、いい先生だから頼りにしてね、なんて言ってたけど、確かに今でも色々お世話になってる。
「歌音さん、宮さんが話したいことがあるって。」
「そう、判ったわ。とりあえずあなたとソラちゃんは、学校のシャワーでも借りて体を洗っておきなさい。あなた方の方はそれからね。いいですよね、宮先生?」
宮さんは幾分しどろもどろに返事する。いい人なんだけど。どうも私相手だと若干挙動不審なのよね。
「おう、歌音。いや、今は犬神さんと言った方がいいのか?聖歌はまだ帰ってこないんだな。明の奴も。」
昔、聖歌さんと私&明さんが揉めた時から付き合いは始まっている。いろいろあって私も明さんも謙信神社預かりみたいになって、姓も犬神になった。二人とも謙信神社の身内になるとは思わなかったけど、その辺は規範くんの頑張りが大きいかな?この私を惚れさせるなんて、そんな事あると思わなかった。・・・コホン、もとい。
「宮さん、犬神さんでいいわよ。今や私、謙信神社の巫女だもんね。それでどうしましたか?こめ軍の方には厳重に抗議しておいたけれど。足りませんでしたかしら?」
「いや、お疲れ様。ところでさっきの別嬪さんは何だ?ハチ公が連れてきてたの。」
「ああ、あれは外国から舞沢高校に留学を希望してきた娘さんですわ。うちの神社預かりになりますから、是非ともよしなにお願いします。後日転入関係の書類を用意しますから。あ、今回の件とは関係ありませんよ。それとあんまり生徒に色目使わないでくださいね。」
「あほかお前は。昔からそんなだもんな。まあいい。判ったから手早く頼むぞ。お前も急がしいだろうがよろしくな。」
どんな時でも、生徒であっても礼儀を忘れない、相手を気遣える本当にいい先生だわ。でもだからこそあんまり巻き込みたくないのよね。。手のかかる生徒も増やしてしまったし、今回のソリスの件も。まあそこは災難と思っていただきましょう。
その後、神社の関係者や教職員の手を借りて後始末と復旧計画の立案に励んでいると、ようやくソリスさんと英斗君が、部活棟にあるシャワールームから戻ってきた。二人ともサイズが同年代(見た目上)の子より大きいか小さいかどっちかだから、急ごしらえにはなったけど英斗くんには学校指定の奴を、ソリスさんにも、これ、小学生用じゃない!どこにあったのよ、これ。
「ありがとうございます。歌音さん。」
「まあ、苦しくはないな。さすがはメイドインジャパン。よくフィットするわ。」
ダメ、笑いが漏れちゃう。そこを何とか踏ん張って、本題に入る。
「それで二人とも、玉藻様に会ったの?あの方、良く引き下がったわね。暴れたい方だからこっちに来たら大変だったわ。」
「それが~、その~。」
何か得意げなソリスさんを横目に英斗君が告げる。
「あのー、これがこうでですね、かくかくしかじか。」
聴いてて頭が痛くなってきた。こりゃ、コース取りを間違えたら、こめ兵さんたち、帰れないわよ。一応連絡してあげようかしら。スマホで司令官さん・・・ああ、この番号か、どれどれ。
「ハローわたくし、舞沢神社の・・・」
「ぎゃあ、オーマイゴッド!シット、ジャパニーズフォックス!」
あらあら、遅かったみたい。これは荒れてるなあ。会話なんて無理ね。仕方ないここは、
「雷牙、風牙、お願いしていい?」
私の子飼いの犬神さんにお願いしよう。
「ええっ?姫様、玉藻様の所へ行けと?」
「ご勘弁ください。我らとて命は惜しいです。」
「大丈夫よ、きっと。ダメなら初手で全員あの世行きだもの。まだ理性の欠片ぐらいは残っているわ。きっと。多分。だといいな。」
「姫様ぁ。」
「では死して主命を果たして御覧に入れます。骨は拾ってくださいね。」
「あ、待って。一応連絡入れておくから、よね福のおいなりさん持っていきなさい。少々遅れるぐらいでいいわ。人命救助第一にね。相手が相手だし、もう何名か連れて行きなさい。では、行って。」
不承不承ながら出て行く犬神たち。ごめんね今立て込んでるから。
そうこうしてるうちに都さんが虎さんたちを引き連れてやってきたので、ソリスのいえ、ソラ姫か、の明日の案内をお願いする。彼女なら大丈夫でしょう。何と言っても、あれ、何だっけか。本当に物忘れが多いわね。アリアに知られたら面倒くさいわ。後は・・・神社の職員に事後を託して、ソラ姫を回収して。英斗君に帰るよう告げて、後半慌ただしかった今日にさようなら。おやすみなさい、また明日。
お話としては外伝的な性格のものなので核心にまでは触れられませんが、本編より踏み込んだところに行ってます。でも、まだ続きますね。




