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然るべくして犬は下僕となりぬ

犬は少々自己評価が低すぎますが、皆温かい目で見てくれてます。最強の二人はいませんが、戦力差はもう目を覆わんばかりです。

 その頃、横須賀のこめ軍基地あたりから、軍の部隊が複数、ここ舞沢の地に向かって出発していた。メイ君やアリアちゃんは今、大陸の方に出かけていて留守だけど、まだここには歌音さん達や蔵王の麓には玉藻さんもいる。そのあたりが理解できていないとは、日本にいて平和ボケでもしていたのだろう。それがどれだけ恐ろしい事か、判らなかったのだろう。今だから言えることだけど。

 さて、そんなわけで、小さな可愛い女の子を拾ったのだけれど、その子はちょっと変わった特徴があった。と言うのもその子は僕が背中に乗せて走っている間中、目を覚ました様子もないのに僕の首筋に口元を当てて、ちゅうちゅうと何か吸っているんだ。特に痛みがある訳じゃないから黙々と走っていたけれど、何ともこそばゆい。とりあえずは家に帰って布団で寝かせてあげよう。全てはそれから、な気がする。見たところ他には外国の娘かな、という外見ではある。僕、英語とか苦手なんだよな、と思うのが精一杯だった。アリアちゃんがいれば気が楽だったろうけど。だけど言葉に関しては都さんも、歌音さんもいる。婆ちゃんに相談してみよう。

 考えているうちに家に帰りついたので彼女を背負ったまま玄関に駆け込んだのであった。ここまで学校を出てから10分もかかっていない。女の子はまだ目を覚ましていないようだ。そういえば銃撃か何かされていたようだけど。体は大丈夫かな。僕は目を丸くして迎えてくれたお婆ちゃんに、さてどう説明したものか考えを巡らせていたんだ。この時までは。

 「ただいま、お婆ちゃん。」

落ちてきた女の子を背負ったまま、つまりは秋田犬オオカミのまま僕は家に帰りついてお婆ちゃんに帰宅の挨拶をした。お婆ちゃんは始め僕と女の子をまじまじと見つめていたけれど、何を察したのか僕に人型に戻り衣服を身につけるように言いつけると、まず「お帰り」と言って僕を抱きしめてくれた。それから女の子を抱え上げて、奥の間に連れて行き、布団を敷いて静かに寝かせてくれた。彼女の容姿にまず驚いたようだけど、「学校にいたら突然上空から降ってくるのが見えた。」という我ながらどうかと思う説明をニコニコしながら聞いてくれた上で、「まあ、どうしましょう。こんな可愛らしい娘。」と言って照れるのは出来れば止めてほしい。ともかくはその子奥の間で休ませてくれて、居間でお茶を飲みながら、僕は本日の顛末をお婆ちゃんに話した。するとそこに、お茶菓子を携えた歌音さんが訪ねてきた。開口一番、大変なのよ、と言ったのだけれど、奥の間で眠っている女の子を見た途端、しばらく難しい顔で更に少々考え込んで、それから言ったものである。

「ねえ、英斗くん、この子をどうしたい?」

いえですね、どうしたいも何も。僕も何が何だか、

「そうよねえ。じゃあまずは、彼女は恐らく、ヤバいとこに狙われてるわ。そいつらからこの子を守りたいと思う?直感でいいわ。君の考えを利かせてくれる?」

どういうことだろう?まずこの子がどういう人なのか、僕は知らない。空から落ちてきた不思議な女の子。背中で受け止めた小さな体。とっても軽かった・・・そういえば、ずっと何か吸ってたっけな、チュウチュウと。まだ確認してなかったけど、どうにかなっているのかな?ともかくまだ出会ってさえいないんだけど。どうしたいと言われてもなあ。別にくれるとかそういう事じゃないだろうけど。当たり前か。それでも僕は意を決して、歌音さんにはっきりと告げた。

「何かに追われているのなら、助けてあげたい。一人は寂しいものだから。」

すると歌音さんはニコッと笑って、僕ではなく奥の間にいる女の子に語り掛けた。

「だ、そうですが、どう思います?」

すると、奥の間で眠っていたはずの女の子が、起き上がって茶の間に入ってきた。何かとても大物じみた風体。いや、とても可愛いのだけれど、開いたその瞳は赤い水晶のような・・・えっ?

「いつから気付いていたのかしら。」

初めて聞く、鈴を鳴らしたような声。

「それはもう、あなたが日本の領海、神奈川県沖上空に現れた時点から。あなたくらいの存在が他者に感づかれることなく移動しようなんて、考えたわけでは無いでしょう。案の定横須賀方面からあの土下座衛門の手下が大勢、あなたを追って来たでしょう。敵うわけないのに。でもあなたが私の想定通りの方でしたら、あの程度の銃撃で落ちてくることも、そもそも当たる事なんて無かった筈なのですが。」

すると女の子は、少々機嫌を損ねたように憮然としながら答えた。

「調子が悪かったのよ。そもそも想定外が多すぎたわ。あたしの寝所にあの悪魔の手先があんなに入り込んでいた事もそうだけれど、あたしの寝所のセキュリティが機能しなかった事も・・・多分、火星(あたしの星)上から何か見つけたのでしょうね。これは置いておいて、そのタイミングであの娘があんな所にいるだなんて・・・え、あなた、何でここにいるの?あの人狼と一緒にいたんじゃ・・・いえ、違うわ。あなたはだあれ?変に物知りみたいだし、他人と言う訳じゃないわよね。あっちはもっと若かったし。だ~れ、あなた?」

起き抜けの筈なのに、次から次へと言葉を紡ぎだす、紅い瞳の女の子。そのあまりに美しい容貌に、正直僕の胸はきゅんと鳴っていた。もとい、圧倒されていた。横でにこやかに事の推移を見守っているお婆ちゃんも正直凄いけど、歌音さんも凄いというか、女の子の気勢を涼し気に受け流している。そして女の子も、これはもう目に見えるくらいのオーラが全身から立ち昇っている。こんなの、万蔵稲荷の玉藻様以来、いやそれ以上だ。何者なのだろう。

 

すると歌音さんが平然と女の子に言った。

「そもそもあなたは、トランシルバニアにいたはずですね。何故、シベリアになんて戻っていたのですか?吸血種の王よ。あそこは始まりの地。と言っても地球上での、ですけどね。それは置いておきましょう。・・・自己紹介ですね。私は先代の契約者で、名を歌音と申します。まあ、名前なんて便宜上のものですけどね。特にあなたとの関係においては。で、恐らくあなたが見たのは当代の契約者で私の娘、アリアの事だろうと思います。娘ですから、若くて当然ですわ。おほほほほ。」

何かよく解らない事を、とても危険な感情をこめて言いあってるなぁ。でも、え、吸血種?吸血って、あの?僕ずっと吸われていたんだけど。背中に乗せている間中。

 考え込んでいる僕を見て、歌音さんは頃合いと見てか、女の子との会話を中断して、僕に向き直り、女の子にこう紹介してくれた。

「この子は英斗君と言って、こめ軍の戦闘機程度に撃墜された貴女を背負って、ここまで運んでくれた男の子です。そしてこちらの女性がこの家の家主で、伊予さんと言います。何かお声を掛けてくださってもよろしいのでは?」

だからちょっと毒が見えますってば、歌音さん。かなりトンデモな事をしれっと言ってるのに気がついてますか?

 けれど女の子は僕らを見やると、お婆ちゃんの前に正座して、丁寧にお辞儀をして、それでも尊大さを隠そうともせず言ってのけた。

「ご老人、無様をさらしお恥ずかしいが、まあこんな事もある。手間をかけたな。それと、汝、お前も何者だ?あれだけ吸ってやったに、なぜ平気で生きておる。こんな事この地ではあり得ぬはず・・・あ、そうか、だから。」

え、何?僕に話しかけてくれたかと思ったら、またその涼やかな視線を逸らして考え込み始めたけど。でもそれがまた可愛いなあ。あれ、可愛いって、まだ会ったばっかりなのに。僕、どうしたんだろう?ツンツンしてる所も可愛いけれど・・・って、また僕は。ともかく僕は、この尊大で可愛らしい、紅い瞳の少女に魅入られていたようだ。

 その時、いつの間にか中座して台所に行っていたお婆ちゃんが、お茶とお菓子をお盆に乗せて現れるなり、

「まあ、難しいお話も疲れますから、甘いものでも召し上がってくださいな。」

と言って、それぞれの前にお茶とお菓子を出してくれた。

「粗茶ですが。もしかしてお紅茶の方が良かったかしら?」

女の子は毒気を抜かれたように表情を緩め、「ありがとう」と言いながらお菓子に手を伸ばし、お茶を口にした。歌音さんもそれに倣う。しばらくは双方無言で銘菓「なんじょだべ」をを賞味する。あ、これ歌音さんが持ってきてくれたヤツだ。女の子も美味しそうに(満面の笑みで)食べている。さすが道の駅売り上げ№1なだけあるなあ。じんだん饅頭も捨てがたいいけど。彼女も黙々と「なんじょだべ」をたべていたのだけれど、ふと僕の方を見て、思いだしたように、

「あたしの名前はね・・・ソリスって言うのよ。今度からあたしのことをソリス様って呼ぶ事を許してあげるわ。」

ちょっと照れたようにそう言うけれど、ソリス、って言うよりは、見つけたときの状況もあってか、

「ソリスも可愛いけど、親しみやすく、ソラちゃんじゃ、ダメかな?」

もしかして失礼かなとも思ったけれど、ついそう口にしたら、

「あなたは、ソラ、がいいのかしら。なら・・・許してあげるわ。あなたの事も英斗じゃなくて、はっちゃん、て呼ぶけど。良いわよね。反論は認めないけれど。」

ん~はっちゃんか。まあいいか。みんなそう呼ぶし。

「じゃあ、はっちゃん。はっちゃん。うん、いいわね。」

ちゃぶ台代わりの万年炬燵の横に座ったお婆ちゃんがにっこり笑ってソラちゃんに言った。

「ではうちの子をよろしくお願いします、ソリス姫。歌音様もよろしいですね。」

それまで同じようにニコニコと僕らの様子を窺っていた歌音さんが、話を振られて少し間を開けて、ソラちゃんに聞いた。

「よろしいのですか。」

「あなたが自己紹介を要求したんでしょうに。あたしは構わないわ。もう吸っちゃったしね。」

ん、吸っちゃったって、運んだ時の事か。そういえばアレ、何だったんだろう。

「ねえ、ソラちゃん、あの時何してたの?君をここまで運んでた時。」

すると、何故か驚いたように、ソラちゃんは言った。

「あなた・・・何であたしに服従しないの?あり得ないわ。確かにあたし、あなたの首筋に噛みついて。」

すると歌音さんがしれっとソラちゃんに言う事には、

「未遂だったのですね。まぁ未熟だこと。それで一つの星の亡国の姫っていうのもね。」

何故か通常以上に攻撃的な歌音さん。でも、他にも何か気になることがあるようだけど。ソラちゃんが何か反論しようと口を開きかけた時、歌音さんのスマホが突然鳴り始めた。同時にうちの玄関に設えてある有線放送(と聞いていた)から、けたたましい音声が流れてきた。

『緊急事態。全職員傾聴のこと。舞沢高校校庭にこめ軍部隊来襲。地上部隊150名規模。他戦闘ヘリ2機が舞沢市上空に接近。着陸態勢に入っています。総員、持ち場で警戒態勢の上、待機していてください。』

歌音さんはスマホで何やら話し込んでいたけれど、僕らの方を見やると、一言、

「行きますよ。用意をしてください。伊予はここ、犬の宮にて待機。私は一度、本部に戻ってから、舞沢高校に向かいます。英斗君とソリス姫は、直接向かってください。どうせあなたたちが目標ですから。ただ、けして応戦はしないこと。面倒事になりますからね。聞いた程度では5分と持ちませんから、くれぐれも先走らないように。美味しいとこ持って行っちゃダメですよ。」

いえいえ、歌音さん。何を仰ってるんですか。聞いたところ相手はこめ軍ですよ?逃げろとか隠れろとかそう言う・・・あの、ソラ様、何、指パキパキさせてるのかな?

「はっちゃん、乗せて。それから高校とやらに案内して頂戴。あたしが原因なら、直接相手してやろうじゃない。さっきのお礼もしないとね。」

「先走らないように、と言いましたよね。思ったより来るのが早かったですが、想定内です。ただ相手の最高指揮官がお馬鹿すぎてちょっと調整が面倒ですけど。だから、足止めはともかく、実力行使は論外ですよ。いいですね。」

いや、ですから普通の高校生に何、仰いますか。ここは穏便に・・・あれ、行っちゃった。僕がまごまごしていると、ソラちゃんがそばに来て言った。

「さあ、行くわよ。準備は良いわね。返事はイエスだけよ。」

横でお婆ちゃんがニコニコしながら、

「じゃあ、行ってらっしゃい。お夕飯は舞沢牛、奮発しておくからね。怪我させないようにしっかりおやり。」

わあ、楽しみだな。もう、やけくそだけど。

そして舞沢高校では、・・・考えたくもない。

要するに犬はちょっと考え足らずです。が、最高司令官はそれ以上のぼんくらです。あと2回位は続きますね。

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