第38話
青のダンジョン探索が日常化した。秋刀魚も食べた。焼いた秋刀魚に大根おろしとすだちと醤油でウマーでした。白米が進んで困った。太らないかな?
シータさんが兎に角よく食べる人なので、厨房には大量に魚の持込み。毎日いろんな魚料理を頂いている。
宝箱も1度見つけたが中身はガラクタだった。魚の骨と破損した銛が入っていた。ハズレ宝箱も初体験。やっぱり当たりの方が嬉しいけど、そう何度も幸運は続かないんだね。
今日も今日とてダンジョン探索。青のタンジョンは結構人の多いダンジョンなので、幾何かの人にすれ違う。漁師もいれば、観光旅行中の冒険者もいる。そのどちらでもなく魚が食べたいちょっと腕に自信のある一般人とか。私はエンチャントこそ使うがバフなどの使用は慎んでいる。
「兄殿!フグだ!」
「ふぐしゃぶね!」
シータさんとベルさんは生き生きと魚を狩っている。
「もう付き合ってられないにゃ。にゃーはこのパーティーを出ていくにゃ。」
曲がり角の先で声がした。他パーティーが狩りをしている場なら、割り込みはあまり褒められない。ベルさんたちと一時待機して様子を窺うことにした。
「はぁ!?今までパーティーに入れてやっていた恩を仇で返すのか?」
「このパーティーはおかしいにゃ。命の危機ならともかく、にゃーはシェリナに貢ぐために冒険者になったわけと違うにゃ。」
「このろくでなし!」
ぼかっ。がすっ。と音がする。
「あがっ!」
ちらりと覗くと猫耳の少女が屈強な男たちに私刑されている。少し離れたところに美しい白銀のプレートメイルを身にまとった金髪の美少女が佇んでいる。
「何をしているのかしら?」
ベルさんが厳しい声をかける。
見過ごせそうになかったので、私達のパーティーが出て行ったのだ。
「うちのパーティーの問題だ。よそ者はすっこんでな。」
屈強な男性に睨まれる。
「と、言われてもねえ…女の子が暴力振るわれているのを見過ごすのも寝覚めが悪いのよ。」
「なんだよ。やんのか?コラ?」
「あらら。怪我したいのね?」
索敵結果によるとどうもベルさんやシータさんやイシュさんの方が断然強そうな感じだ。屈強な男たちはさほど強くないということだろう。
男たちは4人いたが、私が魔術を使うまでもなくベルさんとシータさんとイシュさんにボコられた。私は武器はさほど強くないし、魔術だと殺してしまう可能性があるので、人質に取られないように注意しながらみんなの応援。
男たちがボコられて無残に呻いていると、白銀のプレートメイルを身にまとった金髪の美少女がベルさんとイシュさんに話しかけた。
「二人ともお強いんですね。」
「…ありがとう。」
「…どもっす。」
この美少女は少女がリンチされている時も傍観してたし、自分の仲間がボコられてるのにニコニコと話しかけてくるところから、性格はあまりよくないと思われる。シータさんの事も意図的に無視してるし。ベルさんもイシュさんもおざなりな態度になる。
「大丈夫ですか?」
リンチされていた少女に声をかけて、手を貸す。頬が真っ赤に腫れ上がり、お腹を押さえている。革鎧越しとはいえすごい勢いで蹴られていたから、打ち身は相当と思われる。
「すぐ治すわ。」
ベルさんがやってきて、少女に【ミドルヒール】をかけた。
「どう?楽になった?」
ベルさんが心配そうに尋ねる。
「大丈夫だにゃ。治癒代はいくらにゃ?にゃーはあんまりお金は持ってないんだにゃ。」
「そうねえ…千ギルでいいわ。」
治癒代に相場は存在しない。ギルドなんかの治癒術師には厳しい規定が存在するらしいが、一般の治癒術師は懐と気分で価格設定をしている。
「安いにゃ。助かるにゃ。」
少女はベルさんに千ギル渡した。
「もうギルド戻るにゃ。脱退手続きしないといけないにゃ。」
「送ってくわ。」
「待ってください!私の事も送ってください…こんなところに一人きりじゃ、心細くて。」
金髪の美少女がさも不安そうに潤んだ瞳を見せた。
「知らないわ。そちらのパーティーメンバーさんにポーションかければ、回復させられるでしょ。そんなに手ひどい怪我は負わせてないし。」
「そんな…」
そもそも帰りは転移石だから、心細い要素など何一つないんだけどね。にゃーにゃー言っている少女と銀の匙メンバーは1階層まで転移して、ダンジョンを出た。
ギルドまで戻る道すがら互いに自己紹介した。にゃーにゃー言っている少女はミーニャさん。赤茶色の髪に猫耳猫尻尾の獣人女性だ。パッチリとつり上がった瞳の色は茶色。歳は18歳らしい。ものすごい美少女でもなければ、ブサイクでもない。普通の女の子といった感じ。若さが持ち得る一種のフレッシュな可愛さはある。Eランカー。ジョブは『盗賊』で罠解除は大の得意だけど罠設置が苦手気味らしい。斥候は普通。
パーティーを抜けたい理由はパーティーの目的との不一致。先ほどの金髪美少女はシェリナさんと言うらしいが、元々はミーニャさんと幼馴染。ただ年頃になってパーティーを募集した時にシェリナさんは覚醒してしまったらしい。禁断の姫プレイに。パーティーメンバーになった男たちはチヤホヤとシェリナさんを守り、シェリナさんは『魔術師』だが碌な魔術は覚えておらず、ただ守られてるだけ。宝箱から稀少なアイテムを入手してもすべて問答無用でシェリナさんに貢がれ、パーティーメンバーの男たちは姫を守る騎士気取り。今回は観光でマリーアネットシティに来たが、シェリナさんが「真珠の首飾りが欲しい」とねだったそうだ。粒ぞろいの真珠の首飾りなんて目ん玉飛び出るほど高い。男たちは稼ぎの少ない青のダンジョンで必死に稼ぎ、それは構わないのだが、ミーニャさんにまで「財産を提出しろ」と迫ったらしい。で、馬鹿らしくなったミーニャさんがパーティー脱退を決意してボコられていたようだ。
「大変だったわね。」
ベルさんが同情している。
「…とにゃーは認識しているけど、向こうには向こうの言い分があると思うんだにゃ。話半分に聞くにゃ。」
ミーニャさんは随分公平な視点を持っているようだ。好印象。
「ええ。わかってるけど。他のパーティーメンバーの印象が悪すぎて。」
「にゃーはあいつら嫌いだから何とも言えないにゃ。」
冒険者ギルドについた。
「コリンナさん、にゃーは『シェリナ守護隊』から脱退するにゃ。手続きをお願いするにゃ。」
ミーニャさんがギルドの受付嬢のコリンナさんに手続きを要請している。
ベルさんがダンジョンでミーニャさんが不条理な理由でパーティーメンバーに暴力を振るわれているところに居合わせて、ちょっと喧嘩した旨伝えている。ギルドは基本冒険者同士の諍いには不介入だ。殺人は法で裁かれるけど。
ちょっと縁が出来たので、居酒屋に魚を運んで調理してもらい、みんなで飲み会(私はお酒じゃないけど)。
「鯛は堪らないにゃー。トロも…♡」
「お魚、好きなんですか?」
「大好きにゃ。シェリナの我儘でマリーアネットシティまで来たけど、お魚だけには大満足だにゃ。」
「私もお魚大好きなんですよー。色んなもの食べた経験ないので、これから変わるかもしれませんが、今のところお刺身が一番の大好物です。」
「わかるにゃ。青のダンジョンがもう少し稼げれば定住したいくらいだにゃ。」
ミーニャさんとは好物が一緒なだけあってすぐに打ち解けられた。
「『銀の匙』?は随分見目麗しいパーティーだにゃ?選考基準に容姿があるのかにゃ?」
「そんなものないわよ。」
ベルさんが苦笑した。
「寧ろ人格重視ね。ミーニャちゃんがこれからパーティー探すなら、お試しでアタシたちと組んでみない?丁度、盗賊のポジションは空いてるのよ。」
「にゃっ!?いいのかにゃ?なら是非お願いしたいにゃ。」
とりあえず翌日も青のダンジョンを潜るということで、8時にダンジョン前に集合ということになった。




