第35話
「皆さん、お待たせしました。【アイテム購入】でお買い物しましょうか。」
「おお。なんか悪いな、ジゼルの誕生日なのにスキル使わせて。」
「大丈夫ですよ。折角ですからみんなで楽しみましょう。」
まずはシータさん。
フローレスソード:無属性魔法武器。無属性の魔力を帯びており、それ単体だとあまり意味がないが、エンチャントをかけると効果が倍増しする。不壊機能付き。決して刃毀れすることはないが、すべての物質を貫通するという意味ではない。
形やサイズは選べるようで、シータさんは今使っているものに近いサイズのものを吟味していた。因みに魔法武器は高くてこれ一つで5千万した。半額で5千万なので通常1億する品だ。
収納リング(5トン):収納容量5トン。収納したものの時間経過はなし。自動調節機能付き。
やっぱりこれは欲しいよね。ダンジョン内でのドロップ品はベルさんに収納してもらえばいいけど、お金とか着替えとか自分で持っておきたいものあるし。最下級品なので5千万である。
スイーツボックス:マジックアイテム。ランダムでスイーツが1つ入っている。取り出した後ボックスの蓋を閉めて30分経つと別のスイーツがランダムで作られる。長期間放置してもボックス内のスイーツは傷まない。ただし収納リング等の時間経過しないタイプのものにボックスを収納するとスイーツは作られない。
スイーツ限定だから栄養面で言えば迷い人の糧の方が上だが味的には断然こちらだな。食べ盛りのシータさんにはありがたいアイテム。3千万するけど。大きさは縦20cm、横20cm、高さ15cm位の割と大きめの箱だ。
キューピッドアミュレット:霊験あらたかな恋のお守り。※洗脳、意識操作の機能はありません。
……。シータさん…。具体的な効果が書かれていないちょっと怪しげなお守りだけど1万5千ギルするんだよ。ハート形のペンダントだ。デザインが結構可愛い。
「恋のお守りっすか…可愛いっすね。」
「そうだな。探索中は服の中に仕舞うことになるだろうが、中々良いデザインだ。」
「効果あると良いですね。」
「うむ…」
霊験あらたからしいし。
「スイーツボックスはまさにシータの為にあるようなアイテムね。」
「ああ。長い目で見れば食費の節約にもなるし、色んな菓子を食えるのは嬉しい。」
次はイシュさん。
収納リング(5トン):収納容量5トン。収納したものの時間経過はなし。自動調節機能付き。
やっぱそれは買うよね。
アダマンタイトシールド:アダマンタイト製の盾。とても頑丈。
私は知らなかったが、盾士のシールドタイプの能力は本人の魔力×筋力×持ってる盾の性能で決まってくるらしい。今までも結構いい盾を使っていたが、もうワンランク上げたいとのこと。これも色んな形から選べた。250万だった。
巻き爪クリップ:巻き爪を矯正するためのクリップ。使い方説明書+カバーテープ付き。
サイズは色々選べる。今までありそうでなかった商品。少なくとも私は市場で見たことない。1個500ギルで、イシュさんは両足の親指に使うので2個購入していた。ものすごい酷い巻き爪というわけではないが、時々痛むことがあって、今まで気になりつつも放置していたらしい。
「イシュ。痛いならさっさと買っておけばよかったのに。」
「なんかこんなことでジゼルさんにスキル使わせるのも悪い気がして…」
「気にせずバンバン購入してください。」
「謙虚なのはいいけれど、悪化してからだと治すの大変だと思うわよ。」
「申し訳ないっす。」
次はベルさんだ。
状態異常防御リング:毒、昏睡、麻痺、暗闇、沈黙、難聴、暗示、洗脳、混乱、など、全ての状態異常を完全防御できる。
すごい機能だよね。状態異常は対応した薬を飲ませるか、治癒術師のスキル【キュア】で回復できるが、【キュア】が使えるベルさん自身が状態異常にかかってたらどうにもならない事態になってしまうので、こういう防御策をとってくれるのは有り難い。お値段の方は半額の半額でも1億したからオークション価格4億からってことだと思う。
共鳴のイヤリング:イヤリング型マジックアイテム。2つで1組。2人の人間が片方ずつイヤリングをつけることによって相互心話できる。
何に使うのかはよくわからないが、1組で100万ギル…高いような、安いような…
ラッキーアミュレット:霊験あらたかな幸運のお守り。
1万5千ギルだそうです。具体的なことは書かれていないから信憑性はわからないけど。銀の小さなイヤーカフ型。
魔物避けスタンド:スイッチ一つでON/OFF切り替えできる魔物避けのスタンド。ONにするとスタンドから半径10mは魔物を寄せ付けない。
ダンジョンなんかでのご休息に良さそうな気がする。小さなランプのような形をしていて、お値段は2千万ギル。
「共鳴のイヤリング…もしかしてチャレンジするのか?」
「ええ。そのつもり。」
シータさんは何に使うかわかっているらしい。
「何に使うんですか?」
「青のダンジョン関連の事よ。使うときになったら教えてあげるわ。」
青のダンジョンか~…いつ潜りに行くんだろう?ちょっと楽しみ。
「ジゼルは何を買うんだ?」
「とりあえず収納リング(5トン)は買いますけど、後はアイテムじゃなくてスキルの方を買おうかと思ってます。」
【ライト】明かりの魔術。発光する球体を発生させられる。大きさ、明るさ、効果時間は任意。150万ギル。
【エアヒート】対象の周囲の空気を温かく保つ。効果持続時間2時間。150万ギル。
【ホーリーショット】光属性の攻撃魔術。アンデットに効果がある。300万ギル。
【攻撃力UP】攻撃力をアップさせるバフ。300万ギル。
【防御力UP】防御力をアップさせるバフ。300万ギル。
【スリープ】対象に眠りの状態異常を発生させる魔術。魔術抵抗力の高い生命体には効果が薄い。400万ギル。
【ポイズン】対象に毒の状態異常を発生させる魔術。魔術抵抗力の高い生命体には効果が薄い。400万ギル。
【アンチマジック】対象にかかっているバフ、デバフ、偽装魔術、などの効果を打ち消す魔術。750万ギル。
合計7750万ギル。ちょっと奮発した。ダンジョナーの宝箱で結構収入あったから派手に使ってみた。どれもいずれ欲しいと思ってたやつだし、それなら安くなってるときに買うべき。
「中々良いお買い物が出来たわね。」
「はい。派手にお金使ってみました。お役にたてると良いのですが。」
「ジゼルちゃんはいつもすごくみんなの役に立ってるわ。でもジゼルちゃん自身が欲しいものはないの?シータみたいに欲望に走ってもいいのよ?」
「いえ…私は、皆さんと一緒のパーティーにいられるだけですごく幸せで、役にたてたらもっと幸せなんです。」
「そう…いい子ね。」
ベルさんに撫でられた。
シータさんは早速スイーツボックスに手をかけた。箱上部にその時作られたスイーツの名称が表示されるらしい。
「初回は『レアチーズケーキ』らしいな。」
箱を開けると18cmサイズの白っぽいケーキが入っている。上に渦を巻くようにベリーソースが掛けられている。
「結構大きいようだし4等分してみんなで食べるか?」
「アタシは4分の1も要らないわね。8分の1くらい欲しいけど。」
「私も8分の1くらい欲しいです。」
「自分は夕食まで内臓に休暇を与えたいので要らないっす。美味しそうなので残念っすけど。」
「イシュ…酒は程々にな。」
「すいませんっす。」
シータさんがレアチーズケーキを8等分して私とベルさんに分けてくれた。皿とフォークは野営セットで使ってるやつを出した。
冷たくてつるっと口当たり滑らかで、ほんのりまろやかだけど爽やかな酸味でさっぱりしていて、ベリーソースのちょっと甘みのある味との相性が抜群だった。
「これは美味しいわね。」
「堪りません~。」
「うんうん。素晴らしいアイテムだ。」
レアチーズケーキを堪能していたら一人の女性が突然ばーんと部屋に入ってきた。
「酷いわ!ベルちゃん!シータちゃん!」
テルマさんによく似た美しい女性だった。黒髪に蜂蜜色の瞳、黒の巻き角。顔はテルマさんと瓜二つだが髪型が違うので多分別人なのだろう。テルマさんは若女将風にしっとり長い髪を結いあげた女性だが、こちらのそっくりさんはおかっぱ頭にしている。
「お久し振り。レイラ叔母様。」
「久しぶりだな。叔母君。」
「久しぶり!じゃないわよ!なんなの!なんなの!あのクリアスキンスクロールって!!姉さんが『お肌が綺麗になっちゃって困っちゃったわ~』って!!すっかり薄化粧で自慢してきて、私もう悔しくて悔しくて!!ズルいわ!ズルいわ!ズルいわ!!」
興奮状態でキーッとなっている。
「姉さんにだけあんな素敵なものお土産にするなんて!小さな頃はいっぱい遊んでお世話してあげたのに!ベルちゃんとシータちゃんがそんな、薄情な子供だったとは思わなかったわ!!」
ベルさんとシータさんが顔を見合わせて笑った。
「ちゃんと叔母君の分もあるぞ。」
「はい、これ。クリアスキンスクロール。」
ベルさんが女性にクリアスキンスクロールを渡した。
「やっぱり!ベルちゃんとシータちゃんならそうしてくれると信じてたわっ!」
女性はコロッと態度を変えてニコニコ顔でスクロールに頬ずりした。
「これで私の悩みの種のシミが消えるのねっ。うふふ~」
女性は早速スクロールを開いていた。そして鏡を取り出して自分の顎のあたりをチェックした。
「ああ~!!消えた!消えたわ!あの憎きシミが!有難う。ベルちゃん、シータちゃん。大感謝よ!でかしたわ!……あら、そっちは新しいパーティーメンバーの子?」
女性は初めて私とイシュさんの存在に気付いたようだ。
「初めまして。ベルさんとシータさんのパーティーメンバーのジゼルです。」
「同じくイシュタルっす。イシュって呼んでほしいっす。」
「初めまして。ベルちゃんとシータちゃんの叔母のレイラよ。宜しくね。やだ、シータちゃん何食べてるの?すごく美味しそうじゃない!」
レイラさんはシータさんが食べてるレアチーズケーキに目を留めた。
「うむ。旨いぞ。叔母君も一切れ食うか?」
「勿論いただくわ。」
シータさんはレイラさんにレアチーズケーキを一切れ皿にのせて渡していた。野営セットの食器だけども。
「や~ん。おいし~。」
レイラさんはご機嫌でケーキを食べている。
「それにしてもベルちゃん遂にCランカーになったんですってね。なんでうちのシャルマンはベルちゃんと2つしか違わないのに未だにEランカーなのかしら?仕送りどころか時々お金の無心に来るのよ、あの子。」
「ただ単に叔母君が教育に失敗しただけではないのか?」
「え~…普通に育てたわよ~?」
レイラさんが頬を膨らませた。なんというか、顔はテルマさんとよく似ているが、性格は大分違いそうな感じだ。
ベルさんは苦笑した。
「Eランカーは一応『一人前』の括りに入ってるわよ。シャルマンは実力的には一応Eランカーレベルちゃんとあるし。シャルマンの問題は実力じゃなくて性格よ。飲む打つ買う全部やってるじゃない。飲むのはアタシも飲むけど。博打と女の子に弱いのは良くないところね。叔母様のお教育方針に問題があったのか、生来の気質なのかはわからないけど。」
「むぅ。姉さんの子供ばっかり優秀に育っちゃってぐやじい~!!」
「まあ、色々問題はあるけどシャルマンは根はそんなに悪い子じゃないし、気長に矯正したらどうかしら?」
「レイラ頑張る。レイラ負けない。シャルマンを真人間に育ててみせる。」
「頑張ってちょうだい。」
レイラさんはケーキをむしゃむしゃ食べたら嵐のように去って行った。
「まあ、面と向かっては言えないけれど、シャルマンが真人間じゃない理由は絶対に叔母様の影響よね。」
ベルさんが肩をすくめた。
「叔母君も悪い人ではないんだがなあ…昔から何かにつけては母殿に張り合ってるよな。」
「おまけに気まぐれで飽きっぽくて面食いなのよね。」
「個性的な方でしたね。」
私の周りにはあまりいないタイプの人だった。マイペースというか。
「面白い人ではあるのよ?」
「芸術家には変人が多いと聞くしな。」
「芸術家なんっすか?」
「『画家』のジョブで実際の職業も画家だ。まあまあ成功してるぞ。一部にコアなファンがいるからな。」
「ちょっと独特な世界観の絵を描くのよね。」
「へー。」
***
夜にはイシュさんの内臓も平常運転に戻っていた。4人でブイヤベースをつつきながらベルさんのお誕生日ワイン(白)を開けた。すご――――――く美味しかったけど私はグラス一杯でものすごいご機嫌になってしまった。
「あははは。超おいしー。お魚だいすきー。」
ベルさんはお誕生日に貰った絵本を眺めながらワインを味わっているようだ。
「あら。ふふふ。この絵本、呪いでヒキガエルに変えられた王子様が乙女の愛で呪いが解ける物語なのね。乙女がちょっとシータに似てるわ。」
「夢があっていいっすよね。自分もある日呪いが解けるように美形の王子様になれたらなー…なんて妄想する日もあるっすよ。」
「イシュはなんだかんだ言って結構自分の見た目を気にしてるよな。ボクはどんな見た目でもイシュの性格の美しさは変わらないから構わないと思うんだが。はっきり言うとどんな姿でもボクはイシュが好きだ。」
シータさんがズバーンとぶちまけた。
「え…」
イシュさんが驚いて硬直する。
来たよ!愛の告白!絵本なら絶対呪いが解けてる場面だ。
「あははは。えーい。【アンチカース】【アンチカース】【アンチカース】【アンチカース】【アンチカース】!!」
私はノリと勢いでイシュさんにアンチカースをかけまくった。
ずるんっとイシュさんのボリュームが一瞬で減った。イシュさんは光り輝く銀髪の青い瞳の白皙の美青年に変わってしまった。パッチリした青い瞳に高く形の良い鼻、やや薄い唇。綺麗な輪郭のやや中性的な美貌の青年。体型も理想的な標準体型に。
「……。」
「……。」
「……。」
「あははは。呪いだー。呪いが解けたー。王子様になったー。あははは。」
茫然としている3人と笑い転げる私。しかし3分もするとイシュさんは元のでっぷり体型に戻ってしまった。
「ジゼルちゃん!今すぐタブレットを出して!『呪い返しの呪符』を買ってちょうだい!」
「う?」
「日付変わっちゃうから早く!今なら25万ギルで買えるはずだから!」
もうふにゃふにゃしていてよくわかっていないのだが、ベルさんの指示通りにお金を吸わせて『呪い返しの呪符』を購入した。
呪符はぴらっぴらの紙切れで、何か複雑な模様が書いてある。使用方法がタブレットに表示された。呪いのかかった者(もしくは物)に呪符を張り付けて「このものにかかりし呪いを返せ【カースバック】」と唱えて魔力を流すだけらしい。
シータさんがイシュさんの額に呪符を押し付けて唱えた。
「このものにかかりし呪いを返せ【カースバック】」
黒い炎が呪符を燃やしていくのが見えた。




