表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/39

第9章 涙と笑顔-2



「あのおっちゃんは?」

「………………」

 恭平も志穂も答えてはくれなかった。

「殺人者だったら見殺しにしてもいいんか? そんなんオレは認めんけーの!」

 勝弥は陽香を恭平に渡すと、志穂が止めるのを振り払って火の海と化した教会へ戻っていった。

「おっちゃん!」

「何もかも終わりだ」

 諏澤は頭蓋骨を抱きしめていた。

「罪なら別の方法で償えばえかろうが!」

 しかし、勝弥の声は届かない。

「亜沙美、お父さんも今そっちに行くよ」

 諏澤は落ちていた剣を拾うと、自分の心臓を一刺しした。

 諏澤は咲月の上に倒れた。

「何で死なにゃいけんのんのーっ!」

 勝弥は絶叫した。同時に多量の煙を吸い込み、強く咳き込んだ。

 充満していく煙の中で、勝弥は出口を見失う。


 やばい!


 死を予感した時、最初に浮かんだのは母、佐知恵の顔だった。

 死ねない。これ以上、悲しい顔は増やしたくない。

「あんたバカ?」

 誰かが勝弥の手を引っ張った。煙の向こうから顔を出したのは志穂だった。

「無鉄砲にもほどがあるわよ」

「う、うっせー!」

 一応強がりを言ってみせる。

 勝弥は志穂の手を借りて、無事教会を脱出した。炎が教会を飲み込んでいく。まさに危機一髪だ。

「勝弥くん!」

 煤だらけになった勝弥に駆け寄ってきた麻衣がいきなり抱きついてきた。

「ま、麻衣姉?」

「よかった。勝弥くんにもしものことがあったら私……」

「オレがこんなんでくたばったりするきゃーの」

 勝弥はニカっと笑ってみせた。

「勝弥くん……」

 麻衣は瞳を潤ませていた。

 勝弥はまるで映画のラストシーンを自らが演じているような錯覚に陥っていた。

 勝弥は唇を尖らせて、麻衣に顔を近づけようとした。

 が。

「多喜川さん!」

 麻衣は勝弥の腕の中からすり抜けていくと、希美の下へ歩み寄った。

「ねえ、よかったら寮を出て、私のアパートでいっしょに暮らさん? 大学からはちょっと遠くなるけど」

「八重垣さんの?」

「そう。狭いけど、きっと二人で暮らしたら楽しいと思うんよー」

「でも……」

「私たち友達でしょう、希美」

 麻衣は希美の手を取った。

「うん。八重……麻衣ちゃん!」

 希美は大きくうなずいた。

 二人はあっという間に友情を築いていた。

 一人取り残された勝弥は、かっこ悪かった。

「オレって、みじめ」

「そんなことはないよ、東」

 聞き覚えのある声に、勝弥は振り返った。

「センパイ?」

「いやー、見直したわよ。あんたがここまでやれるとはね」

「どうしてセンパイがここにおるんの?」

 勝弥は酸欠の金魚みたいにパクパクと口を動かした。

「他の行方不明者たちを調べてたら、あんたが血相変えてスクーターで走っていくもんだから、気になって後をつけてたんだよ」

「どうやって?」

 祥子はワゴンタイプの軽自動車を指差した。

「センパイ、汚ぁわ! オレはチャリで自分は車かよ」

「何言ってんの。あんた免許持ってないでしょう。それにあれはレンタカーなの。そーいえば、自転車はどうしたの?」

「そそそそそれは……」

 勝弥は大仰に慌てた。

「あーずーまー?」

 祥子が指をボキボキと鳴らした。

 勝弥は笑って誤魔化そうとした。汗が滝のように流れ落ちるのは、燃え盛る教会のせいでないことだけは確かだ。

 勝弥は教会の中で燃えている十字架に祈らずにはいられなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ