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第6章 救われない心-5



「遅いのー。今度はどこまでココアを買いに行ったんじゃろうか?」

 さっきは三分も経たないうちに戻ってきたというのに。まさかココアが売り切れていて

探し回っているのではないだろうか。勝弥はそんな心配をしていた。

 志穂の言葉も気になる。しかし、咲月もいっしょだ。一人ではない。

 勝弥は無理矢理不安を取り除こうとする。

「東くんっ!」

 血相を変えた咲月が戻ってきた。その表情にただならぬことが起こったと即座に判断する。

「何かあったんですか?」

「陽香ちゃんが男の人に連れていかれたの!」

「陽香ちゃんがっ?」

「トイレから出たら黒ずくめの男が立っていていきなり陽香ちゃんを」

「その黒ずくめの男はどっちへ?」

「外よ。追いかけたんだけど、車が急発進する音が聞こえて……」

 咲月が言い終える前に、勝弥は飛び出した。

 外へ出るが、当然車の姿は見当たらない。勝弥は正門の向かった。

 おそらく犯人は麻衣たちの行方不明事件に関係しているに違いない。

 勝弥の直感がそう告げていた。

「くそーっ!」

 勝弥は毒づいた。

 門を出てしまうと行き交う車も多い。しかし、車種どころか色すらわからなければ探しよ

うがない。

 迂闊だった。咲月といれば安心だと思っていたが、咲月とて女だ。大人の男に太刀打ちで

きるはずもなかった。しかし、なぜ陽香だけが連れ去られた? 麻衣たちをさらった犯人な

らいっしょに咲月も連れて行くはずだ。いや、普通なら一人でいるところを狙うはずだ。自

分ならそうする。矛盾がある。ということは、陽香を連れ去った犯人は、麻衣たちとは無関

係なのだろうか? 犯人の意図が読めない。

「あーっ、さっぱりわからん!」

 勝弥は頭をかきむしった。

「どうしたの、ボクちゃん?」

 一台のオープンカーが勝弥の前に停まっていた。白いボンネットの先にあるHのエンブレ

ムが輝いて見えた。

 運転席にいたのは、志穂だった。

「エセ刑事?」

「人聞きが悪いわね」

「あんたずっとここにいたんか?」

「はぁちゃんを送って帰ろうと思って車を回してきたから十分ぐらい前かしら」

「だったら、ここを車が通らなかったか?」

「車どころか人一人通っていないわよ。まさか……」

 勝弥の表情から志穂は陽香の身に何かあったことを察したのだろう。車から降りた志穂は

勝弥の胸倉をつかんだ。

「黒ずくめの男が陽香ちゃんを連れてどっかに消えてしもうた」

「バカっ! あれほど言っておいたのに」

 志穂は勝弥を突き放すと、校舎の方へ走っていく。

「どこ行くんの? そんなとこに陽香ちゃんがおるわけないじゃろうが! 三枝さんが車の

急発進する音を聞いたって言っとたんじゃけー」

 苛立つ気持ちを抑えて、勝弥は志穂の後を走りながら叫ぶ。

 急に志穂の足が止まり、勝弥は志穂の背中に衝突した。

「急に止まんなや」

 志穂が一台のシルバーのワゴン車を目で追っていた。勝弥もその車に目をやる。

「三枝さん?」

 走り去っていく車の運転席にいたのは、間違いなく咲月だ。

「正門とは逆に向っとる」

「あっちは業者用の裏門がある。やられたわね」

 志穂は舌打ちすると、自分の車が置いてある正門に引き返す。

「どういうことなんか説明してくれーや」

「恭平さんがどういうつもりであんたをはぁちゃんにつけたのかは知らないけど、もうこれ

以上首を突っ込まない方がいいわよ」

 志穂は急いで車に乗り込むと、エンジンを掛ける。

「そんなんで納得できんわ!」

 勝弥は助手席に強引に乗り込む。

「何してるの?」

「首を突っ込むなって言われて『はい、そうですか』って引き下がれるわけなかろう! 

陽香ちゃんが連れ去られたのはオレのせいなんじゃし」

「自分に何かができるなんてうぬぼれないことね。後で辛い思いをするのは自分なんだから」

「うぬぼれなんかじゃなぁわ! オレは絶対陽香ちゃんを助けるんじゃ!」

「どうなっても知らないわよ」

 志穂は短く言い捨てると、車を急発進させた。

その勢いに、勝弥の体は本革シートに叩きつけられた。




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