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第6章 救われない心-3



 志穂が見えなくなったのを確認した咲月は、諏澤研究室に入った。

 何もない室内には大きなロッカーがあった。咲月はそのロッカーを開けた。中には両手両

足を縛ばられ、さるぐつわをした女性が四人いた。

 女性たちは怯えた表情で、咲月を見上げていた。

「どうせ死ぬんなら、人の役に立ってから死んでいく方があなたたちも幸せでしょう」

 咲月は冷めた目で女性たちを見下ろした。

 ここにいる女性たちは、咲月がボランティアでカウンセリングしていた自殺志願者だった。

当初は自殺を反対していた咲月だったが、今は違う。咲月はいっしょに自殺しようと、女性

たちをこの研究室に呼び出し監禁した。

 女性たちは何やら必死にもがいていた。

「人間、死に直面すると考えが変わるでしょう? でもね、あなたたちは感謝されて死ぬの。

だから、怖がることなんかないのよ」

 志穂に悟られてしまった今、ここに女性たちを隠しておくのは危険だ。

 後、一人。後一人だというのに。

 咲月は第四校舎に横付けしていた、シルバーのワゴン車に女性たちを運んだ。





 勝弥と陽香は聖ポリアンヌ女子大学のキャンパスで三枝という名の講師を探した。時間帯

が悪かったのか、昨日と違って学生が全く見当たらない。

 キャンパスをウロウロしていると、一人の女性がこちらに向かって歩いてきているのが見

えた。

「すいませーん!」

 勝弥は女に駆け寄り、唖然とした。

 服装はカジュアルだが、昨日の美人刑事に間違いなかった。向こうもこちらを見て唖然と

している。

「刑事さん?」

「はぁちゃん?」

「志穂さん?」

 ほぼ同時に三人が声を上げた。

「え―――っ?」

 一番驚いていたのは、勝弥だった。

「二人とも知り合い?」

 勝弥は陽香と志穂を交互に見た。

「はい。志穂さんは隣のマンションの人で、塾の講師をやってるから学校に行ってない私に

時々勉強を教えてくれるんですよ」

「塾の講師? 刑事さんじゃないんの?」

 きょとんとする勝弥を見て、志穂が失笑した。そこで騙されていたことに気付く。

「ウソじゃったんかっ?」

「私は刑事だなんて一言も言ってないわよ。君が勝手に勘違いしただけでしょう」

 いつまでも笑う志穂に、勝弥はほっぺを膨らませた。

「じゃあ、何で麻衣姉のこと聞いてきたんの? 誰だって刑事だって思うじゃろうが」

「他人のことを聞いたら君は誰でも刑事だと思うの?」

「そ、それは……」

 勝弥は言葉を詰まらせた。どうやら口でかなうタイプではないらしい。

「もう志穂さん! 東さんをいじめないで下さい」

「ごめんごめん、はぁちゃん。それより、どうしてはぁちゃんがこんな所にいるの? まさ

か、デート?」

 その言葉に、勝弥の顔がにやける。

 が。

「違います」

 陽香に秒速で否定された。勝弥の胸は電動ドリルでえぐられたように痛かった。

 デートでないことは事実なのだが。

「三枝さんっていう、この大学で心理学の講師をしている人に会いに来たんです」

「三枝……?」

「志穂さん、知ってるんですか?」

「知ってるといえば知ってるんだけど、今は会いに行かない方がいいんじゃないかなー」

「ダメだっ! 今すぐに会わんといけんのじゃけー!」

 勝弥は志穂に詰め寄った。

 志穂は嘆息すると、渋々答えてくれた。

「たぶんまだ第四校舎にいると思うけど」

「第四校舎?」

「ここをまっすぐ行くと左右に四つの校舎があるわ。左側の一番奥が第四校舎。ところで」

 志穂がちらりとこちらを見ると、陽香に耳打ちする。

「はぁちゃん、この子強いの?」

「はい。お兄ちゃんのお墨付きです」

「そう。それなら、大丈夫かしら」

 志穂がこちらに向き直る。

「ボクちゃん、何があってもはぁちゃんのそばを離れるんじゃないわよ」

「ボクちゃんじゃなあわ! オレの名前は、東勝弥だ!」

「はいはい。カッちゃん、よろしくね」

 完全に小バカにされていた。

 勝弥は頭に血を上らせながら、陽香の手を引いて第四校舎へ向かった。





 第四校舎に向かう途中で、勝弥たちは大人の色気をかもし出している女性と出会う。女子

大生とはお世辞にも言いがたい。

「すみません。あの三枝さんっていう心理学の講師やってる人を探してるんですけど」

「三枝は私ですけど」

 女性は不審な顔でこちらを見ていた。

「オレ、東勝弥って言います」

「叶陽香です」

 勝弥と陽香は名乗ると、ペコリとお辞儀した。そんな二人を見た咲月は、小さな笑い声を

もらした。どうやら警戒心は解けたようだ。

「かわいい彼女ね」

「いやー、そんな」

「私と東さんはそういう関係じゃありませんよ」

 テレる勝弥の横で、またしても陽香に秒速で否定された。日本刀で一刀両断された後、追

い討ちをかけるようにそこにカラシを塗りこまれた思いだった。しかし、落ち込んでいる場

合ではない。

「私に何の用かしら? 急用でなければ、また今度にしてほしいのだけど」

「急用なんだ。あの多喜川希美さんのこと聞きたいです!」

「多喜川さん?」

「昨日から寮に戻ってないみたいで。日記には三枝さんに相談するって書いてあって」

「失礼だけど、あなたたちは多喜川さんとどういう関係なの?」

 咲月が怪訝な顔をする。そう思われても仕方のないことだった。他人の日記を読んでしま

うという非道徳的なことをしてしまったのだから。

「オレ、八重垣麻衣の知り合いで彼女のこと探してるうちに多喜川希美さんのこと知って、

それで……」

 勝弥は素直に事情を説明した。祥子には探偵失格とまたどやされるのだろうが。

「そうだったの。ごめんなさいね、変に疑ってしまって」

「いいんです。で、その」

「ここで話すのも暑いから、カウンセリング室に行きましょう」

 勝弥たちは咲月に促されて、カウンセリング室があるという第二校舎へ向かった。




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